真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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死に神という名

晴れた真昼間だというのに薄暗く冷たい。

その裏路地で海斗とあずみは眼前の非日常と対峙していた。

 

 

「俺なら無傷でやれる。」

 

「ちっ、あたいのことは止めといて自分はいいってか。大した自信だな。」

 

「……………………」

 

「なんだなんだ、一丁前に女を守ろうっていうのか?ただ残念だが、その心配

をする必要はない。俺の鎌は一太刀でお前ら二人を葬り去れるからな。」

 

 

普通なら何を馬鹿げたことをと笑うこともできるものだが、常識を超えたサイ

ズの鎌に常夜の住人となれば冗談では済ませられない。

 

 

「お前の思い通りにはさせねぇよ。」

 

「戯言を…………死ねぇ!!」

 

 

鎌は空を切り裂くようにしてその大きさゆえ回り込むような軌道で迫る。

なるほど確かにこれならば、後方のあずみにも危険が及ぶ。

しかし近づく脅威は刃を届かせる前に鈍色の欠片となって砕け散った。

 

 

「んなっ……!?」

 

「言ったろ、無傷で終わらせるって。」

 

 

いきなり重さを失いバランスを崩した大男は尻餅をついて倒れる。

 

 

「確かにそれだけでかい得物を軽々振るえるのには感心するが、俺にしてみれ

ばただ当てやすい的ってだけだ。」

 

(こいつ…………。)

 

 

あずみは今の一瞬の戦闘で感じたレベルの高さに驚いていた。

 

 

(攻撃範囲の広い強力な武器である鎌に絶対についてまわる弱点が柄の部分だ。

どれだけ強力でもそこを折られちまえば武器として機能しなくなる。あれだけ

得物が大きけりゃ尚更そこがネックになってくるのは明白だ。)

 

 

そうリーチの利点を考えればどうにも削れない短所。

だから当然のように相手は大鎌の柄の部分を改造し強化していた。

折れにくく頑丈なつくりにすれば、今度は重量の面で問題が発生するのだが、

それは常識はずれの大男の力で強引にカバーしたのだ。

 

 

(だから王道に持ち手を破壊しにいくんじゃなく、刃を狙った。一瞬で相手の

柄がガードを高められてんのを見抜き、攻撃対象の変更。口で言やぁ、簡単だ

が優れた観察眼と咄嗟の判断能力、それにいくら楽なほうの選択肢とはいえ骨

をも断ちかねない刃をぶっ壊すなんて馬鹿みたいな力が必要だ。)

 

 

ちらりと横目で海斗の顔をうかがう。

以前戦ったときのようなやる気のないものではなく、守る者の瞳だった。

 

 

(仕事に対しても不真面目なくせに、こんな時だけ……)

 

「ん?どうかしたか?なんか睨んでるが……」

 

「いや、都合が良い奴だと思ってな。」

 

「は?」

 

 

あずみはなんとなく理解していた。

これが流川海斗という男なのだと。

ふざけているのかやる気がないのか、いつもどこか手を抜いているように見せ

て、誰かのために、人を守るために本気になる。

初めて対峙したときからそういう男だった。

 

 

「お前らふざけてんじゃねーぞ!」

 

「そんな体勢で言ってもだせぇけどな。」

 

「煽るようなこと言うなよ……」

 

「くそが……!“死神”の怖さが分かってないようだな……」

 

 

熱くなり怒りをあらわにする大男にやれやれと首を振る。

 

 

「お前はどうやらその名を勘違いしてるな。」

 

「なに……?」

 

「大層な鎌を携えて命を刈り取る恐怖の対象となる“死神”なんかじゃない。

感情もなくただ近づいてきた者に殺戮を繰り返すだけの人形、そいつ自身が死

んでいるのと同じだと揶揄された哀れな名だよ、“死に神”はな。」

 

「てめぇ、俺様を侮辱してんのか!」

 

「別に。事実を伝えたまでだ。」

 

「この野郎、調子に乗りやがって……!」

 

「やめておけ。」

 

 

そこに奥から新たな声が響く。

止めに入ったその男、特別身長が高いわけでも筋肉が鎧のようについているわ

けでもない、下手をすれば海斗たちと同じくらいの年齢にも見える。

けれど、纏う雰囲気は他の誰よりもさらに異常だった。

 

 

(なんだ、こいつ目の前にいるってのに気配がほとんど感じられねぇ……)

 

「お前がどうしてここまで来てんだ。」

 

「いつまでも帰ってこないからだ。それより面白い客がいるじゃないか。」

 

「あ?こいつらを知ってんのか?」

 

「正確にはそちらの男のほうだけだが。見たところ武器も破壊されて、お前は

去る立場なんじゃないのか?」

 

「だが、あいつがなめた口を……!」

 

「はぁ。お前の目の前にいる男は流川、かつて常夜最強と言われた本物の“死

に神”だ。」

 

 

大男だけでなく周りの者たち全員が驚く。

海斗本人の顔までは知らずともそれほど“死に神”という名は常夜の世界に知

れ渡っているのだ。

そして、海斗につけられていたという物騒な二つ名にあずみも内心同じように

驚いていた。

 

 

「なっ、こいつが……あの伝説の男なのか!?」

 

「おい」

 

 

騒ぐ周りの野郎を無視して海斗が現れた男に声をかける。

他の奴とは違う、どうやら自分を知っている者。

 

 

「お前は何者だ。」

 

「これはこれは、こうして“死に神”のあなたと対峙できるとは。ほんと感無

量だよ。」

 

「誰だって聞いてるんだ。」

 

 

男は何も答えず、不敵に笑う。

 

 

「少し遊んでくれるか、死に神?」




かつてこんな遅い時間の投稿はなかった
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