真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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真昼の救出劇

京たちと別れた後、無事目的のアクセサリーショップにたどり着き、依頼の品

を手に入れる。

一見普通の首飾りだが、さすがは金持ちの買い物、細かいところまで丁寧な装

飾が施されている貴重な品らしい。

現に箱に入れてもズボンの後ろポケットに収まってしまうようなサイズの物。

もっともその職人技の価値を判断することなど海斗には無理な話だが。

 

 

「これで終わりか。」

 

 

これを持ち帰れば今日の仕事は終了。

なんともあっけないものである。

 

 

「ん、あれは……」

 

 

帰り道途中の大きな木がある公園。

その大木の下で上を見上げる姿には見覚えがあった。

 

 

「こんなとこで何してんだ、虎子?」

 

「オー、カイト!ヒサビサ、ゲンキシテタ?」

 

「ああ。虎子も変わらずで良かったよ。」

 

「ソウダ、カイト!イマ、モンダイハッセイチュウ!」

 

 

そう言って虎子は木のてっぺんのほうを指差す。

何事かと指先を追いかけると、高い位置の枝の先に子猫がいた。

その姿は大きな木と対照的に小さく弱い存在だった。

 

 

「なんで、あんなとこまで……」

 

「ノボッテオリラレナクナッタ、カワイソウ。」

 

 

虎子はたまたま子猫があげた鳴き声を聞いたのだという。

発見したときには既にこの状態だったそうだ。

虎子の身体能力をもってすれば、木登りであの高さまで到達することは容易な

のだが、もしも猫が怖がったり警戒したりして、足を滑らせてしまったらとい

う事態を想像すると行動に移せず、せめて落ちないようにとずっと木の下で見

守っていたらしい。

 

 

「事情は分かった。このまま放っておくわけにもいかないからな、俺が登って

助けてくる。虎子は万が一落ちたときに受け止められるように下で待っててく

れるか?」

 

「オーケー、オマカセアモーレ!」

 

 

海斗は一度子猫の場所を確認すると幹に手をかけて登り始める。

速さよりはあまり揺らさないことを心がける。

幸運なことに近づいてくるのを視認されただけで子猫が怖がるという可能性は

こと海斗に関しては心配ない。

慎重になりつつも常人とは比べ物にならない速さで頂上に近づいていく。

そして、ようやく猫と同じ高さの地点まで到達したが……

 

 

「これは思ったよりも厄介だな。」

 

 

近づいてみて初めて分かった。

子猫が乗っている枝は非常に頼りないもので、軽い小動物の体重だから許され

ているようなものだった。

海斗が子猫を救助するために先端までいけば、すぐに折れてしまうだろう。

 

 

「こっちまで来れるか?ほら、ゆっくりでいいから。」

 

 

子猫は最初は身を震わしていたが、海斗の優しい呼びかけに従い一歩一歩近づ

いてきた。

海斗の腕の届く範囲に入るまではそれを見守ることしかできない。

 

運が悪かったのは子猫が思ったよりも長時間そこにとどまっていたであろうこ

と、慎重な歩みであったのに非情にも枝は重みと振動を耐え切れずに折れてし

まった。

 

 

「まずいっ!」

 

 

しかもその落ちた方向は最悪だった。

珍しいくらい立派に育った大木の広げた枝はもはや公園の敷地をはみ出してい

る部分もある。

その公園を囲むフェンスの方向に落ちてしまった。

あれでは下で待っている虎子が100%キャッチできるとは限らない。

誤って外のほうに出てしまえばフェンスが道を阻む。

 

そんなケースを一瞬で想像した海斗は既に体を宙に投げ出していた。

どこぞのスーパーマンではないのだから猫をキャッチしてそのまま飛び去るな

んて芸当できはしない。

危険な未来ははっきりと見えていてもその衝動を止めることはできなかった。

 

 

「カイト!」

 

 

虎子の声が聞こえる。

猫はなんとか腕の中、あとは着地だけだ。

落ちた高さからすると、怪我は必至であろうがそこまで柔な体のつくりもして

いない。

受身さえきちんとこなせば日をまたぐようなダメージはないだろう。

 

しかし、不運は連続する。

落下の軌道の先は公園の外でも中でもない、ちょうどフェンスの真上だった。

こうなると受身どうこうの話ではなくなってくる。

 

それでも海斗は上手く片手で衝撃を和らげようとした。

海斗の運動神経ならばその離れ業も不可能ではないはずだった。

 

 

「っ……!」

 

 

だが海斗の思うように体は動いてくれなかった。

決してミスしないはずの腕はフェンスの一点を捉えきれずに、不安定で不十分

な軽減のまま地面に落ちた。

 

 

「カイト!ダイジョーブ!?」

 

 

受け止めようと相当近くまで寄っていた虎子が心配そうに顔を覗き込む。

 

 

「ああ、大丈夫だよな?」

 

「にゃー」

 

 

元気に返事する子猫を見て、安心する。

あのアクシデントの中でも一切猫には傷を負わせなかった。

 

 

「チガウ!ネコモダイジ。ケド、カイトモダイジ。」

 

「俺はある程度頑丈にできてるから。」

 

「ワザト、ヨケタネ。」

 

「あー……」

 

 

虎子が珍しく少し拗ねたような顔で言うので、すぐに察した。

そう、本当は虎子は海斗の落ちる地点に十分飛び込めるよう間に合っていた。

海斗はそれを知ったうえで体に負担をかけてまで軌道を修正したのだ。

 

 

「さすがにあの高さから落ちた俺の体重を女の子に支えさせるわけにはいかな

いからな。落ちたのを見てすぐに走り出してくれるような奴には尚更な。」

 

「エンリョ、ヨクナイ!」

 

「ああ、悪かったよ。ありがとな。」

 

「バツゲーム!スコシヤスム!」

 

 

いつもの調子ながらも表情から虎子が本当に心配してくれることが分かる海斗

は大人しく言うことをきいて、しばらく膝枕でじっとしているのだった。

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