真剣で私たちに恋しなさい!S   作:黒亜

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おまじない

「これはやっちまったな……」

 

 

虎子の膝でしばらく休ませてもらってさあ帰ろうという時にそれに気づいた。

ズボンの後ろポケットに入っていたブツは箱ごと潰れていた。

あの落下の衝撃で起こった悲劇だということは言うまでもない。

淡い期待で中を取り出してみるも予想通り繊細なつくりの首飾りは装飾などが

ばらばらの状態だった。

 

 

「ドウカシタ、カイト?」

 

「いや、ちょっとな……」

 

 

海斗は朝の自分を思い出してみる。

拍子抜けの仕事を与えられ、随分と楽をさせてくれると思った。

―“おつかいってことか?小学生みたいなこと言うな。”

……本当に無駄な発言をしている、これでは小学生のレベルに達していないも

同然ではないか。

 

―“こんな簡単なことも満足にできねぇのか”

あずみのそんな声が聞こえる気がする。

今朝から機嫌がよろしくないようなので危険性は十分すぎる。

 

 

「うわ、寒気がしてきた……」

 

「ソレ、アクセサリー?」

 

 

いつの間にやら右肩からひょいと覗き込んでいた虎子が問いかける。

少しばかり手が出やすいメイドがいる背景などは知らずとも、このネックレス

の無残な状況を見れば少なからず海斗が落胆しているのは明らかだ。

これ以上虎子に色々と心配をかけるのは心苦しい。

 

 

「ああ、別に大したもんじゃ……」

 

「ワタシ、ナオセルヨ?」

 

「え?」

 

「コーイウノトクイ!」

 

 

そして虎子はよく分からないが専門的なキットを取り出す。

すると器用にばらばらになったパーツを選別して、元の形に戻していく。

まるで現物を見ていたかのように、迷いなく進めていく。

 

 

「虎子、すごいんだな。」

 

「ヨクタノマレテ、ツクッタリスルネ。」

 

 

口を動かしながらもその手はみるみるうちに首飾りを修復していく。

この一芸で食っていけるんじゃないかというほどの見事な手際だった。

 

 

「デキタヨー!」

 

「うわ……凄い完璧だな。」

 

 

本当に店頭に並べられていても遜色ない出来だ。

それどころか細かい装飾にも磨きがかけられて一層輝いて見えるくらいだ。

 

 

「ツカエナイノハ、カエチャッタヨー。」

 

「ああ、ありがとな。」

 

 

どうやらばらばらになっただけで繋いで修復可能な部分だけでなく、パーツ自

体が砕けて使い物にならなくなった箇所は虎子の手持ちの部品と交換までして

くれたようだ。

予備の部品も揃えてるということは日頃から修理も請け負っているのだろう。

 

 

「ソレデコレ、モッタイナイカラツクッタヨ!」

 

 

虎子が見せてくれたのは綺麗なブレスレットだった。

よく見るとさっき壊れて使わなかった部品のほうを逆に新しいアクセサリーと

してリサイクルしてしまったらしい。

おおよそ余った、それも廃棄すべきパーツから作られたのだとは言われないと

分からない……いや言われても信じがたい。

 

 

「カイトニプレゼントダヨー!」

 

「へ?俺にか?」

 

「ウン、キョウノオレイト……ワタシノキモチッ!」

 

「そんなお礼なんて別に……」

 

 

そこで虎子が見たことのないような顔をしているのに気付いた。

さっきの言葉もいつもとは違って振り絞るようだったし、お礼の後にも気にな

ることを言っていた。

顔も若干赤らめて、伏し目がちになっていれば、それらの意味することは誰に

でも分かりそうなものだが、そこは流石の海斗。

ただ海斗もそんな虎子のただならぬ姿を見て、プレゼントを断るなんて選択肢

は頭から消え去っていた。

 

 

「首飾り直してもらっといて、こっちがお礼しなくちゃいけないくらいなのに

もらっちまうのも変な話だが……ありがとな、大切にするよ。」

 

「マッテ、コレモツケル。」

 

 

虎子はブレスレットを持った海斗の手を握るように手の上で何やら作業を進め

ていく。

 

 

「コレデカンセイ、ワタシトオソロイ!」

 

「あ」

 

 

ブレスレットには虎子の頭の被り物から取ったと思われるお揃いの羽根飾りが

組み込まれていた。

このアクセサリーには絆とか信頼とか色々な物がこめられている、一目見ただ

けでそれが分かるようだ。

物に魂をこめるとはこういうことなんだろう。

そんな想いの結晶を海斗は腕にはめて、しっかりとその存在を確かめた。

 

 

「うん、サイズもぴったりだな。」

 

「カミノゴカゴガアリマスヨウニ!」

 

 

―ちゅっ

そんな優しい音とともに柔らかな感触を手の甲に感じた。

見れば虎子が一礼するように頭を垂れて、一瞬の口づけを済ませた後だった。

 

 

「HAHAHA!」

 

「笑ってる場合か、何やってんだ。」

 

「オマジナイ、アクセサリーニキス!カミガヤドル!」

 

「いや……」

 

 

アクセサリーというか、完全に手の甲だったのだが。

まあ行動自体に儀式的意味があるなら別にいいのか。

ん?それならブレスレットをつける前でも良かったような……まあいい。

 

 

「じゃあ、お返しってわけじゃないけど……」

 

「?ナニナニ?」

 

「手出してくれ。」

 

「OKOK!」

 

「俺はこれくらいしか知らないからな。」

 

 

虎子の差し出した手に海斗が手を重ね合わせる。

そして、優しく上から握りこんだ。

 

 

「アタタカイ……」

 

「虎子にも加護があるように、な。」

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