「結局、ここで寝ちまったな。」
「ようやく、お目覚めか。」
起きるとそこには既にメイド服に着替え終えたあずみの姿があった。
「早いんだな。」
「メイドってのは色々と準備をする必要があるからな。主たちが起きるずっと
前には行動を開始しなきゃならねぇんだよ。」
「へー、メイドっぽいこと言うんだな。」
「おらっ」
「いてっ!」
「なんで蹴られたか分かるよな?」
「……あずみは立派なメイドだったよな。」
「はぁ、まったくろくでもねぇ男だな。先行くぞ。」
「ああ、待て。俺も出る。」
女の部屋に一人残るというのもいかがなものだということで、さっさと執事服
に袖を通して準備をする海斗。
いつもの正装に身を包み、このドアを開け部屋を出れば、今日もさわやかな一
日が始ま……
「………………」
「………………」
「………………あー」
こちらを見て、ステイシーが固まっている。
しばらくの沈黙が続いた後、ステイシーが悟ったように呻きを漏らした。
状況を整理しよう。
たまたま部屋の前に通りかかったであろうステイシー。
これまたたまたま部屋から揃って出てきたあずみと海斗。
出てきた場所は言うまでもなくあずみの部屋。
そして今はまだ活動が始まる前の早朝。
そんな意味ありげな多くのヒントからは一つの誤解しか生みださない。
「ハァン、そういうことかよ。あずみ、私んとこに来させないようにしておい
て本当の目的は自分が呼び込みたいからってか?」
「はぁ!?ふざけんなっ!なんであたいが海斗に……」
「海斗?おいおい、いつからファーストネームで呼ぶような親しい関係になっ
たんだ?」
「ちっ……別に部下をどう呼ぼうがあたいの勝手だ。」
「おっ、そういうことなら……」
いきなりステイシーが海斗の腕をぐっと抱え込む。
こぼれるほどの胸のボリュームが凶悪な威力で襲いかかる。
「なっ、ステイシー!」
「上司が部下に何をしようが勝手、だろ?」
「はっ、別にあたいは構いやしねぇよ。」
あずみはそんな泥仕合には我関せずを貫くといった様子で背を向けて、仕事に
向かおうとする。
そして肩越しに海斗に一言。
「そーいや、今日の仕事は休んでいい。軽い仕事で休養とらせようと思っても
勝手に人助けして怪我増やしてくるってのは昨日で十分分かったからな。」
「そりゃぁ……」
反論のしようもなかった。
あくまでけじめの仕事ということでせめて一週間くらいは毎日働こうと思って
いたのだが、今あずみに何を言ったところで意味をなさないだろう。
「お!てことは今日は海斗独占か?」
「ステイシー、てめぇは仕事だ。」
「チッ、つれねーな。……じゃ、海斗夜を楽しみにしてるぜ。」
「は?」
ステイシーは軽くハグをして頬をこすりつけるとあずみの後を追って、メイド
の業務へと戻っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうしたもんか……」
仕事を取り上げられた海斗は九鬼邸の中をうろうろしていた。
やることがないからと部屋でじっとしていられる性分でもない。
「あ、海斗君。良かった、会えて……」
「清楚、どうしたんだ?何かあったのか?」
偶然会った清楚は何か悩みを抱えているような優れない顔をしていて、海斗は
自然とその問いを口にしていた。
「うん……実はね、この前告白してきた男の子がいたじゃない?」
「ああ、俺と付き合ってることにして煙に巻いたあれだな。」
「そう。その子がね、偶然外出中の海斗君を見かけて九鬼の執事をやってるっ
てことを知っちゃったみたいで。それで私が偉人のクローンで九鬼の管理下に
いるっていうのは皆に知られてるでしょ?」
「あー、なるほどな。」
「うん、それで海斗君の期間限定の仕事とか詳しい事情は知らないまま、今ま
までの海斗君と付き合ってるっていう話とか全部私に悪い虫が寄らないように
九鬼が用意したでまかせなんじゃないかって勘違いしちゃって……」
「真実とも微妙にリンクしてるところがなぁ。」
「……どのみち誤魔化している事実は変わらないからね。それで海斗君にこん
な相談するのもダメだって分かってるんだけど……」
「事情は分かった、元々俺も請け負ったことを途中で投げ出すつもりはない。」
現状は面倒だが単純だ。
故に打破はそう難しくない。
追っかけのそいつは九鬼の執事姿である海斗からわずかな可能性の糸をたぐり
寄せ、一筋の光を見出すような相手、執着も並大抵ではない。
そんな相手は暇さえあれば清楚の行動に目を光らせていたとしてもおかしくな
い、つまり一歩外に出れば監視の目が働いていると考えられる。
「清楚。デート、するか。」
なんと今回の話で別サイトにて投稿分が全て完了しました。
ここからはどこにも公開していない新話です。
更新頻度はこれまで通り残念な感じかもしれませんが、
あきれずお付き合いいただけると幸いです