今回からどこにも公開していない新編です。
外には太陽が出ている、絶好のなんとか日和だ。
今日ばかりは仕事も休めと言われてしまったので、私服姿でいる。
執事服で出歩くのは流石に目立ちすぎる。
ラフな格好で外に繰り出すのはいつぶりだろうか。
九鬼での執事生活も残すところ、今日を含めあと二日。
業務的には残すところあと一日の今日は……
「海斗君、ほら行こ?」
綺麗に着飾った清楚が隣にいた。
あまりにデートっぽい格好である。
確かにデートに誘ったのは事実だし、先刻海斗の口からもはっきりと告げられ
たことではある。
しかし話の流れ上、あくまで演技、カモフラージュの延長線上の今日のデート
ではある。
それにしては出発前に少々海斗を待たせてしまうほどの本気のお洒落だった。
「最初はどこ行くの?」
「ん?それ俺が決めるのか?」
「もう、デートは男の子がリードするって決まってるんだよ。」
「あー、そうなのか……」
数々の恋愛小説も読んできた彼女には聞くまでもないことであった。
もっとも今日の清楚は文学少女らしからぬアクティブさも有しているのだが。
ただ今日の元々の目的は嘘を嘘だとばれないように新たな真実の噂で上書きし
ようというもの。
周りへいかにそれっぽく振る舞うかが重要だ。
「じゃあ、リードしてやる。」
「え、わっ!?」
一人分くらいの距離を空けて歩いていた清楚を引き寄せて、ほとんど密着した
状態で手をいわゆる貝殻つなぎの形で握った。
「もう……海斗君、いきなりこんな……」
いきなりのことに抵抗するでもなく、ただただ顔を赤らめる清楚。
あれだけ煽っておいて、実行に移されるとたちまちこんな反応になってしまう
のは、いかにも清楚らしい気がした。
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「おい、手をつないだぞ!」
「はいはーい、クリス不用意に飛び出さない。」
海斗たちの後方、建物の陰に隠れるように三つの影。
京、クリス、由紀江の三人だった。
「そんなこと気にしている場合か、それに自分たちの気配は完全に消されてい
るのだろう!」
「そりゃそういう前提のお話だけど、見落としてることが二つ。一つはその気
配がちゃんと消えるかの実験段階に私たちがいること。一つは相手が海斗だっ
てこと。」
「しかしだなぁ……っ!ほら見ろ、今だって全然気づいてないじゃないか!」
「そりゃ海斗だって、こんな人通りの多いところでいちいち気配なんて探って
ないでしょ。殺気とかならすぐ気づくと思うけど。」
「むぅ……そういうものか?」
「ほら、まゆっちを見習いなよ。そういうとこわきまえて静かに……」
「あうあう……」
「なんか固まっているようだが……」
「ちょっと色々衝撃的すぎたのかも……」
………
……
…
「気配を消す薬?」
一子、京、クリス、由紀江の四人は同じように“?”を頭に浮かべて、聞き返
していた。
「そうだよ、まだ研究段階なんだけどね。計算上ではほぼ完成品さ、あとはテ
ストを行って確かめるだけってこと。」
そう得意げに語っているのはクッキー3だ。
急遽秘密基地に重大発表があるからと召集されたかと思えば、また誰もが想像
していないような用件だった。
「気配を消せるって……本当だとしたら凄いものなんじゃないか?」
「武術を極めたり、力を求めたり、実力者になればなるほど誰もが重きをおく
ものだからね。」
「凄いじゃない、クッキー!」
「まぁ、僕の頭脳にかかればこんなもの朝飯前さ。勿論、副作用なんかはない
から安心してよ。」
「武士娘としては試せるっていうんなら、確かに興味がわくね。」
「はいはーい、アタシやるわ。」
「更なる力の発展が望めるかもしれないなら、やってみたいと思います。」
「自分もこれに関しては賛成だぞ!」
「じゃあ、クッキー早く薬をちょうだい!」
皆の視線が一斉にクッキー3を捉える。
クッキー3はその顔をしっかり見まわすと……
「悪いね、この薬は三人用なんだ。」
…
……
………
「そんなんで街に出たら、偶然こんな現場に出くわしちゃうんだから。」
というわけで、ジャンケンで見事に敗北した一子を除く三人が当初の目的など
放り出して、海斗の尾行という別任務に切り替わっていた。
「確か、大和さんが言っていましたよね。葉桜先輩と海斗さんがカップルを演
じてるっていう話。」
「ああ……しかし、あれはなんだ?フェイクの関係であんなデートみたいなこ
とをする必要があるのか!?」
「まぁ、冷静に考えてフェイクの説得力が薄れてきたから、一応ここらで新し
い情報を流しとこうとかいう魂胆でしょ、しょーもない。」
「なんだ、京は随分と落ち着いてるじゃないか。」
「そりゃあ、海斗の正妻ですから……。」
ポッと顔を赤らめて、両手を頬に添える京。
こういう事態に対する逞しさは流石、片想いには慣れた京というところか。
「え、あれって……」
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「じゃあ、これからどこ行こ……」
「あれれ、海斗クン?」
「……………………」
晴天の中には似合わぬ嵐の予感がした。
デートが無事終わったためしがない