……私です、すみません。
「あれれ、海斗クン?こんなところで会うなんて奇遇だねん。」
目の前に立っていたのは私服姿の燕だった。
「わざわざこんな場所まで散歩…………ってわけでもなさそうねん。」
燕は俺の隣にいるお洒落万全フル装備といった感じの清楚を見やると、またニ
ヤニヤと悪戯っ子のような悪い表情を浮かべる。
「なになにー、海斗クン?学園のアイドルつかまえて、デートだなんて。まさ
かこの計画のために九鬼での執事を承諾したとか~?」
「んなわけ、あるか。……これはただ、護衛っていう仕事で……」
そう言いかけて、口をつぐんだ。
つい燕のいじりに反応して、真っ当な返しをしようとしてしまったが、今回の
目的は完全なデートと誤解されることだ。
ここで自分から「デートではなく仕事で一緒にいるだけだ」などと言っては、
身もふたもない。
「ふーん、仕事ならなんで海斗クンは執事服じゃなくて、普通の格好で出てき
てるのかなぁ?私、分からないから教えてほしいんだけど?」
「あ、あぁ、そうだったな。」
助かった。
このときばかりは燕の追い討ちをかけるいたずらっぽい性格と、すぐにおかし
な点に気付く鋭さに感謝するしかなかった。
そうか、考えたら燕は例の事情を一切知らないのだ。
清楚にしつこく告白してくる男子がいたこと。
それの抑制のために清楚とフェイクの関係で付き合っていること。
だからこそ相手のフォローも気づかいも期待できない。
先ほどこそ意図せず、上手くごまかしがきいたものの……。
燕にも悟られないよう、黙ってやり過ごすくらいの気概でいかなければ……。
燕に偽の関係ということが今ばれてしまうようなら、その時点でゲームオーバ
ー、全ての計画が無駄になるということだ。
ただでさえ鋭い燕相手だ、言葉も慎重に選ばなければならない。
「まぁ、そうだな。デートってやつだ。」
ここはひとまず肯定。
しっかりと明言しておかないと、噂になってもただ出かけていただけなんてオ
チになりかねない。
「へぇー…………、海斗クンって案外そーいうとこ堂々としてんだね。浮気と
かあんまり罪悪感ない感じ?」
「は?」
いきなり燕が浮気なんて言葉を使うから、周りの注目を集めてしまう。
というか、燕と清楚が一か所に集合しているだけで街中の男どもの目を集めて
いるような気がする。
なにせ今を時めく納豆小町と正当派文学少女系クローンだからな。
いや、そうじゃなくて……
「おいおい、浮気も何も燕とは何も別に彼氏彼女の関係ってわけじゃないだろ?」
「ふーん、そんなこと言っちゃうんだ。冷たいなー。」
今は清楚との関係を強調することが最優先だ。
多少、そっけない言い方になってしまったかもしれないが、そんなのは後から
フォローすればいいだけのこt……
「私のファーストキス、奪ったくせに。」
瞬間、世界が凍てついた。
とても後付けのフォローでは補いきれない、いや取り返しのつかないような一
撃を見舞われた気がする。
「えぇっ!?それってどういう……」
「どういうこと!?」
「うわぁっ!」
清楚が事態に追いつけないまま、真意を確かめようと口を開いたそのとき、か
ぶせるように放たれた同じ言葉。
どこから出てきたのか、そこには動揺を隠しきれていない京、クリス、由紀江
の三人の姿があった。
「ありゃりゃ、予定外のお魚までわんさか網にかかっちゃった。」
「正妻である私をさしおいて……キスだとぉぉっ!」
「海斗、一体どういうことなんだ!?自分に説明してくれ。」
「かかか、海斗さん……えとえと……」
一気に人が増えて、相当場が混乱している。
ここは事態を収束させるためにもきちんと説明をしたほうがいい。
「おい、誤解を招く言い方するなよ燕。あれは不意打ち気味にそっちから……」
「…………海斗クン?」
「う…………」
ぐすっと鼻を鳴らしながら、悲しそうな瞳でこちらを見てくる。
不安そうに首をかしげる様子を見ては、もう選択肢などなかった。
「……ああ。俺からキスしたな。」
「「「えぇーーっ!?」」」
「ふふっ、だから海斗クンって大好き。」
「はぁ……」
一転して笑顔を見せる燕、さっきの泣きなんて当然演技だったのだろう。
しかし、恋愛小説でも読んだことがある。
女の子のはじめては男とは段違いに、大きな意味があるものだと。
そのファーストキスの相手に、俺はいきなり意味も分からず奪われただけだな
どと言われたら、きっと悲しんでしまう。
どんなに上手く隠せる人間でもだ。
抱え込んでしまうからこそこちらが気づいてやらなきゃならない。
同じ轍は二度と踏まない。
「YOYO!海斗ー、まゆっちみたいないい娘放っておいて、キスたぁどうい
う了見だぁ!」
「海斗、自分たちにどういうことか説明してもらうぞ!」
あちらを立てれば、こちらが立たぬ。
……ままならない世の中だ。
皆さん、感想いつもありがとうございます!
読ませていただいてるんですが、返す時間が取れていないだけなんです。
私、感想読んでます!(二回言いました