騎士道とは護ることと見つけたり   作:三門市屈指のニート

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内藤 春人 ①

 夏の長期休暇で暇をしていた俺は出かけることにした。一人暮らしをしている涼しいアパートからボーダー本部に向かって歩いていると、俺の直感が警戒区域で何かがあると囁いている。米屋に誘われてこの後本部でランク戦をする予定だが、時間までまだ余裕はある。少し寄り道をしても間に合うだろう。

 

 

 

 

「ふう…お嬢さん怪我はないかな?」

 

  窮地に陥った後輩女子の前に颯爽と登場し、煌めく両刃の孤月を抜き放ち、トリオン兵モールモッドを斬り倒す俺…今最高に騎士をしている!

 

 助けた茶野隊、隊長の真ちゃんは微妙そうな表情でこちらを見ている。おや?

 

「劣勢かと思って助太刀したが、邪魔をしてしまったかな?済まないね」

 

「えっ、いや…内藤先輩何してるんですか?」

 

 と言ってる間に藤沢君が駆けつけて来たようだ。真ちゃんは未だ微妙そうな表情でこちらを見たまま黙っている。

 

「あぁ、藤沢君か。済まない。どうやら助太刀したつもりが横取りする形になってしまったみたいだな」

 

 ここは市街地からそう離れていないからてっきりトリオン兵に押し込まれたのかと思って駆けつけたんだが、そうピンチというわけでもなかったのだろうか? いや、気にしないでおこう。悪いことをした訳ではない。だが、埋め合わせに今度何か奢るとするか。

 

「いや、それは別にいいんですけど真は男…」

 

「いやいや、皆まで言わずともいいさ!済まなかったね!今回の件はいつか埋め合わせさせてくれ!では、俺は予定があるのでコレで失礼するよ。それじゃあまた本部で会おう」

 

 後輩のピンチを颯爽と救い、話もそこそこに去る…なかなかカッコいいのではないだろうか…ふふふ。

 

 

 何故俺は騎士に憧れるのか。その始まりはとても単純で『俺もこんなカッコいい男になりたい』だった。今思えば、映画の中の登場人物に憧れ、その真似を始めるなんて子供らしく微笑ましいことだろう。テレビのヒーローに憧れるようなもので、よくあることだ。しかし、この歳になっても俺は俺自身が騎士であることを望んでいる。

 

 あの時、大規模侵攻で家族を守れなかったのは俺が弱かったからだ。あの、映画に出てくるような強くてカッコいい騎士なら家族だけでなく、その周りの人も守り、救えたはずだと、俺は思ってしまったのだ。

  ならば俺はあの、映画の中の騎士のように強くてカッコいい、皆を守れる騎士にならなければならないのだ。断じて厨二病などという若者が罹る一時の流行り病ではない。

 

 

 

 

「内藤先輩って…基本いい人なんだけど…たまに変だよなぁ。な?真」

 

「あ、あぁ。そうだな…うん。変な人だ」

 

 

 

 

 

 

「米屋!待たせたか?」

 

「いいや?緑川とランク戦終わったばっかだしな待ってないぜ」

 

 道中アクシデントが発生したが、約束の時間には間に合ったようだ。しかし、本当にコイツは闘うのが好きだな。

 

「今日は俺とランク戦する予定だったっていうのに先に緑川君とやってたのか?なんとも槍バカなことで」

 

「うるせーよ騎士バカ!んなことより、さっさとバトろうぜ」

 

「ふっ、良いだろう、早くブースに入るんだな、我が剣の錆にしてくれよう」

 

「ハッ!言ってろ!今回はお前の鉄壁を抜いてやるからな!」

 

「あー!内藤先輩じゃん!オレともランク戦やってよね!」

 

「邪魔すんじゃねーよ!春人は先に俺とやるんだよ!」

 

 近くにいたらしい緑川君が寄ってきた。緑川君の乱反射(ピンボール)のキレはなかなかのだからな……

 

「うん、そうだな。米屋の次にやるか。君と闘うのは中々良い修練になるしな」

 

「よっしゃ、よねやん先輩の次ね!」

 

 無邪気な笑みを浮かべながら観戦席の方へと向かう緑川君を見送る。

 

「待たせたな。ヤるぞ」

 

 振り返りながら米屋に告げ、個人戦ブースに俺は向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ちぇーやっぱお前の守りかてーな。鋼さんとはまた違ったレイガストの使い方するし」

 

「騎士たるもの守勢に秀でずしてどうする、という事だな。そういうお前の幻踊孤月も相変わらず防ぎ辛い」

 

「内藤先輩カウンターばっか狙うからズルいんだよなー距離潰してもレイガストで弾き飛ばされるし!」

 

「緑川君の攻撃には鋭さはあっても重さが足りないからな」

 

 それに、乱反射の移動先がなんとなくわかってしまうから更に防ぎ易い、とは言わないでおく。

 

「うーん…もうちょっと考えないとダメかな?」

 

「まぁ、今日付き合って貰った礼って訳じゃないが飲み物でも奢るよ。米屋も来るだろ?」

 

「いいねー付き合うぜ」

 

 文句を垂れる緑川君を宥めつつ、3人で食堂に向かい、2人にはジュースを、俺は軽食を摂る。

 

「今日この後防衛任務なんだっけ?」

 

 ジュースを飲みながら聞いてきた米屋に答える。

 

「あぁ。那須隊と合同で任務に当たる予定だ」

 

「ならオレらはもう一回バトるか」

 

「いいね!内藤先輩に取られた分のポイント取り返しちゃうもんね!」

 

 緑川と米屋はまたランク戦をするようだ。挨拶もそこそこにワイワイ騒ぎながら個人戦ブースに向かって去っていった。俺としてももう少しやりたかったが仕方ない。さて、俺も防衛任務に向かうとしよう。

 

 任務開始前に那須隊の隊室に寄って隊長の玲ちゃんに挨拶しておく。担当区域に関しての割り当ても相談しなければならないからな。

 

「よろしくね、内藤くん」

 

「こちらこそ、今日はよろしく頼む」

 

「小夜ちゃんのことで負担かけると思うけどごめんね」

 

 那須隊オペレーターの小夜子ちゃんは男が苦手らしいからな、オペレート出来ないのは仕方がない。今も隊室の奥に引きこもって姿を見せないぐらいだからな……

 

「わかっている。マップさえちゃんと出してくれれば文句はないよ。連絡は玲ちゃんか友子ちゃん経由で伝えてくれればいい」

 

「伝えるのはいいんだけどアンタ、呼び方なんとかならない訳?」

 

 

 




拙作では、茶野真くんちゃんは男装女子という設定を拾って行きます。

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