目を覚ますと、医務室の天井だった。なんでこんなとこにいんだ俺。確か、執務室で蒼龍さんと話してて、飛龍さんに謝るためについて来てもらおうと思って………床が俺に近づいてきたのか。
「そうだ!ポルターガイストだ!みんなに知らせないと!」
「なわけないでしょ。アホか」
冷静な声が聞こえた。隣を見ると、飛龍さんが座っていた。
「倒れたのよ。廊下で」
「え?違いますよ?床の方から俺に迫ってきて……」
続けようとしたところで、声が止まった。飛龍さんは泣くのを必死に堪えてる表情だった。ギョッとして、「どうしたの?」と聞こうとした時には、飛龍さんは俺に抱き付いていた。
「っ⁉︎ひ、飛龍さん⁉︎」
「良かったぁ……!無事で、良かったよぅ………‼︎」
「無事でって……そんな大袈裟な………」
「大袈裟じゃない!」
1オクターブ高くなった飛龍さんの声に、俺は思わずビビってしまった。
「アレだけ言ったじゃん!大丈夫なの?って!それなのに結局、倒れるなんて………!ほんと、バカなんだから……‼︎」
「………悪かったよ」
「ホント、よ………!」
膝の上で泣いてる飛龍さんの頭を撫でた。まぁ、今回は俺が悪いな。まさか倒れると思ってなかったし。
「いやーでも、まさか倒れるなんて思わなかったなー。健康管理はしっかりしてたし」
「あんた殺すよホント。どの口が言ってんの?」
「え、こ、殺す……?」
マジかよこの人。普通に上司に殺害宣言とか怖過ぎる。
「あんなに無理して棒読みの返事してて健康管理はしっかりしてた?本気で言ってるなら本気で怒るよ」
「いや、俺あんま病気とかしたことないから」
「だまらっしゃい」
ひ、ひどい………。これは下手に口答えしない方が良いな。
「ま、まぁ、本当にその、悪かった」
「しっかり反省してよね」
「へいへい。……じゃあ、書類持って来てくれません?あと少しで終わるんだよね」
「…………あ?」
「冗談だから弓出さないで」
「………私、しばらくここに泊まるから。何か行動を起こす際には私に言うこと。さもないと、爆撃するから」
「瑞鶴かよお前は……」
「彼女と二人きりの時にほかの女の子の名前出さないで‼︎」
「はい、ごめんなさい」
あれ?この子、まだ怒ってんの?許してくれたんじゃないの?
「…………それって、看病してくれるって事?」
「た、端的に言えば」
「……………」
「何よその真顔」
「料理だけはしないでね」
「むかっ」
口で言ったよ。
「アレから間宮さんに教わって、すごい上手くなったんだからね⁉︎」
「美味くなってなかったらダメだよね」
「見てなさいよ!すっごい美味しいの作って来てあげるんだから!」
「え?作る気?」
そうこうしてるうちに、飛龍さんは病室から出て行ってしまった。ああ、俺は今日死ぬのか………。今までありがとう、この世の何かよ……。
大体、ここに泊まるって………医務室で泊まる気?あの人、本当たまによく分かんねぇな。しばらく布団の中に潜ってると、飛龍さんがトレーの上に皿を乗せて戻って来た。
「ただいま」
「………おかえり」
「よし、ご飯の時間よ」
「その前にペンと紙くれる?」
「? 何に使うの?」
「遺書」
「どういう意味ですか!」
だよね、そうなるよね。飛龍さんは俺のベッドの隣に椅子を設置すると、座って皿の中の料理をスプーンで掬った。
「…………はい」
「? え、何?」
「………あっ、あーん………」
「……………はっ?」
何をし出すんだこの人は。
「………何してんすか?」
「………た、食べさせてあげてるのっ」
「いや、それは分かるんだけどさ」
なんでそんなバカップルみたいな事を………。少し呆れてると、飛龍さんは涙目になって俺に聞いた。
「………私のご飯、食べれないの?」
「…………いただきます」
そのセリフは卑怯だろ。俺は仕方なく口を開けた。ふーふーっと息を吹きかけて、飛龍さんは俺の口の中にカレーを運ぶ。つーか、病人にカレーかよ。別に良いけど。
口の中にカレーが入った直後だ。
「あっづぁっ‼︎」
「へっ⁉︎」
俺の反応に驚いたのか、飛龍さんは慌てて手を引っ込めた。
「だ、大丈夫⁉︎」
「や、火傷した………」
「ご、ごめんね?今、冷やすもの持って来るっ」
またまた忙しなく部屋を出て行く飛龍さん。あの人、看病とか向かないな。まぁ、気持ちは嬉しいんだけどね。その間、暇だったのでカレーを一口食べた。舌がヒリヒリするのを除けば、普通に美味い。少し料理が上手くなっていた。
嫁度が上がってきたなぁ、なんて少し感心しながら待ってると、飛龍さんが顔を赤くして戻ってきた。
「…………おっ、お待たせ提督」
「あ、うん。すみません、わざわざ」
「ううん………」
………なんで顔赤くしてんの?キョトンとしてると、飛龍さんは持ってきた水を口に含んだ。
「え、お前が飲んでどうす……んんっ!」
ツッコミを入れようとした直後、飛龍さんに口を押し付けられた。口の中から流れて来る水。
「…………」
な、なんで口移し………?「どういうつもり?」とか「何してんの?」とか「恥ずかしいんですけど」とか色んな感情が渦巻きながら飛龍さんを見てると、飛龍さんも恥ずかしそうにしていた。あ、これ誰かに唆されたパターンだ。
「…………誰に唆されたんですか?」
「………間宮さんと蒼龍」
こいつ………。恥ずかしがるくらいならやらなきゃ良いのに………。
まぁ、とりあえず、その、何?
「………口の中に含んじゃうと暖かくなるから舌を冷やせないんだけど………」
「……………」
なんだこれ。飛龍さん顔真っ赤にしちゃってるよ。で、こういう時って大体………あ、ほらやっぱり。入り口で蒼龍さん達覗いてる。多分、普段からかわれてるんだろうなぁ。
「まぁ、落ち着いて飛龍さん。とりあえず水もらうから」
「………う、うん」
水をもらい、舌を冷やすとカレーを食べた。
すると、恥ずかしがってたと思ったら今度は期待するような目で見だした。この人本当に忙しい人だな。
「………ああ、美味いですよ」
「! ほ、ほんとに⁉︎」
「うん。比叡さんのカレーの5倍は美味いです」
「いやアレと比べられても………」
この前はのど飴入ってたし。何のつもりだよ。
「………ただ、うん。病人にカレーは少し重いんで」
「あっ、ご、ごめんね。次から、気をつける……」
「いやそんな謝らなくても。作ってくれただけでありがたいですし」
昨日、喧嘩した相手なんだぜ?どこまで良い人なんだよ。
カレーを食べ終え、俺は目を閉じた。
「じゃあ、俺寝ますね」
「う、うん……。大丈夫?寒くない?」
「寒くはないけど」
「そ、そう………」
………なんでそんな残念そうな顔してんの?ていうか、なんでそんな表情読みやすいのこの人。
「………な、何?」
「あ、ううん。寒くないなら良いの」
「………やっぱ少し寒いかも」
「!ほ、本当に⁉︎じ、じゃあ……!」
嬉しそうな顔をすると、飛龍さんは俺の布団の中に入ってきた。
「ちょっ、何してんの⁉︎」
「暖めてあげようと思って……!」
「いやいや良いから!風邪うつるから!」
「大丈夫。じゃ、おやすみ」
「……………」
言いながら、俺の股間を握って来る飛龍さん。ああ、この人それが目的か………。蒼龍さん達見てるんだけど……まぁ、良いか。
「………飛龍さん」
「? なんですかー?」
「そういうことは風邪治ってからで」
「そんなこと言って。本当は我慢してるんじゃないの?」
「いやそういうんじゃなくて。蒼龍さん達見てるし」
「………ごめん」
いつからこんなエロい娘になったのかね……。そう思いながら、とりあえず寝ることにした。