俺は飛龍さんに甘えられたい。   作:LinoKa

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第2話 戦略を練ろう。

 

 

あれから、一週間経った。俺の身体が小刻みに震えていた。あれ以来、成人女性を撫でるという行為をしていない。

だからだろうか、すごく成人女性を撫でたい。あの時の手の感触が頭から離れない。なんだこれ、俺ってそんな特殊なフェチあったのか。

いや、確かに飛龍はうちに一番最初に来た空母で、最初に建造した艦娘だよ?馬鹿みたいにウブな先輩から色んな艦種のレシピ教わって、とりあえず空母からと思って建造したら出ちゃったんだもの。その分だけ割と長い期間いたわけだけど、でもだからって飛龍の頭撫でてこんな事になると思わなかった。

ああ……!撫でたい!いや、落ち着け。俺はメリットとデメリットの計算がちゃんとできる男だ。こんな所で部下に手を出して全部台無しなんて許されると思うな。

 

「…………仕事しよう」

 

それで全部忘れよう。俺はパソコンをカタカタと打って仕事を再開した。その直後、

 

「し、失礼します………」

 

飛龍さんが入って来た。直後、右手がピクッと本能的に動いたのを察したため、左手でノートパソコンを閉じた。パソコンに勢いよく右手は挟まれ、真っ赤に腫れ上がったが、我慢して聞いた。

 

「ど、どうしたんですか?」

「い、いえ、その……」

 

珍しく歯切れの悪い飛龍さんだった。普段、ハキハキとキリッとしてるのにどうしたんだろ。生理か?

 

「アレから一週間、私、頑張ってMVP取りましたよね?」

 

それは確かにそうだ。なんか知らんけど、飛龍さんは演習でも襲撃でも、驚くほど容赦無く相手を叩いて、MVPを掻っ攫っていた。………少し俺が引くほど。

 

「そうですね」

「……………」

 

飛龍さんはしばらく黙り込んだ後、自分の両頬をパァンッと叩いた。え?何してんの?と、こっちが思ってると、飛龍さんは気合の入った表情で言った。

 

「先週から、提督のナデナデが忘れられないんです」

「は、はぁ」

「ですから、その……これから、MVPを取った日だけで良いので撫でて下さい」

「は、はぁ?」

 

この人何言ってんの?バカなの?先週、禁止してきたのあんただろ。それを今更、自分が我慢できないからって都合良すぎると思わない?

 

「喜んで」

「そ、即答?」

 

こっちは本人の了承を得たらやるに決まってんじゃん。むしろこっちのご褒美だわ。じゃあなんで禁止したか聞かないのって?そんなもん知るか。

 

「ホント?良いの?」

「良いですよ。だけど、条件があります」

 

だけど、いくら本人の了承を得たからって、それは憲兵への言い訳になるだけで、他の艦娘に見られたら面倒なのは変わらない。まずはそこをキッチリしなければならない。

 

「条件?何?」

「時を場合を考えるんですよ。お互い、周りの人に知られたくないでしょ?」

「…………確かに」

 

まぁ、偉そうに言ったが、俺にも案があるわけではない。夜中に俺の部屋に来るとかだって、飛龍さんは蒼龍さんと同じ部屋だし、バレる可能性はゼロじゃない。周りの連中には、絶対にバレたくないんだよね。

 

「どうします?」

「へ?ど、どうって……」

 

本来なら、一週間様子を見て、誰がどのタイミングで来るかをメモし、1日の時間の中で確実に誰も来ない時間帯を割り出したいが、それまで俺の禁断症状が保たれるとは思えない。

24時間の内の、1分間だけを指定し、誰も来ない指定した場所に集合しても、その集合場所に行くまでに見つかる可能性もあるし、その時間付近で飛龍さんが誰かといて、途中で別れられそうな雰囲気じゃなかったら怪しまれる。

大袈裟だと思うかもしれないが、絶対バレたくない時は臆病になり過ぎて悪いことは無い。

 

「そりゃあ、私を秘書に……って、提督?」

 

そもそも鎮守府内はどこも危険だ。絶対人が来ない場所なんて無いし。と、なると鎮守府の外だが、目撃者なんて何処にいるか分からない。飛龍さんが仮に一週間連続でMVPを取ったとすると、その一週間の間、ずっと飛龍さんの頭を撫でるために、何処かで待ち合わせして飛龍さんの頭を撫でないといけない。勘のいい奴は、俺と飛龍さんが毎回、必ず一緒に鎮守府からいなくなる時間帯が出て来ると勘付く可能性もある。

 

「あの、聞いてます?提督」

 

詰んでるなぁ、これ……。でも、撫でたいなぁ。あのモフモフな頭を撫でくりまわしてやりたい。

諦められねーなやっぱ。俺は頭の中で全力で作戦を考えてると、バンッと机を叩かれた。

 

「提督!」

「うおっ!ビビったぁ……な、なんですか?」

 

こいつうるせーな。撫でて欲しいなら少しは一緒に作戦考えろよ。

 

「そんなに考えなくても、私を秘書艦にすれば良いじゃん」

「……………」

 

なんだこいつ。天才か。

 

「そっか……秘書艦ならいつでも頭を撫でられる。隣で仕事してるから、ノックの音がしても姿勢だけ正せば問題ない」

「え?あ、う、うん……」

「万が一、姿勢がすぐに戻らなくても、わざと咳したりして、俺が返事を少し遅らせれば問題ない」

 

いやでも、今日急にそんな事決めたら怪しまれ……いや、仕事手伝ってもらってたら、割と楽になった事にしよう。それで、明日からもよろしく頼むって定で行けばイケる。

 

「………そこまで考えてなかったんだけどなー……。ま、いっか」

 

と、いうことで、俺と飛龍さんの新しい日課が始まった。

早速、飛龍さんは俺の隣に椅子を持って来て座って、頭を少し差し出した。俺はその頭に、手を置いた。

 

「んっ………」

 

飛龍さんから吐息が漏れる。少しずつ手を動かして、フワフワな頭を撫でた。

 

「んぅっ………」

 

若干、顔を赤らめながらも、飛龍さんは気持ち良さそうな顔をした。

一方の俺も、飛龍さんの表情から徐々に照れが無くなっていくのと、撫でている手の感触が尋常じゃなく心地良くて、表情には出さなかったものの、心はぴょんぴょんしていた。

左手で飛龍さんの頭を撫でて、右手でキーボードを打ってると、ズンッと左の肩に体重が掛かった。

 

「おいおいおい……嘘でしょ?」

 

横を見ると、飛龍さんが俺の肩に頭を乗せて眠っていた。俺の撫ではどんな効能があるんだよ……。早速、誰かが来たら言い訳できない状況になったな。

さて、どうしようか。飛龍さんは……うん、仕事をしていた事にしよう。その途中で、疲れて寝てしまった。ここ最近?MVP連取して疲れてるのは分かりきった事だし、辻褄は合うだろう。

飛龍さんにやってもらっていた定の仕事は……書き仕事だと筆跡でバレるし、一枚も書いてなかったら不自然だから、俺の下働き的な感じにしてもらうか。書類のファイリングだな。

すでに終わった書類をファイルに入れて、飛龍さんの前に置いた。よし、後は飛龍さんの体を机に伏せさせて、眠らせれば………、

 

「いや、無理でしょ」

 

それ、俺が飛龍さんの身体に触るってことでしょ?頭ならともかく、身体に触ったりなんてしたらセクハラだよねこれ。頭でもグレーゾーンなのに。

 

「zzz………」

 

さて、どうしたもんか……。ったく、俺が頭を悩ませてるってのに、本人は呑気に寝てやがる。

 

「…………ま、いっか」

 

飛龍さんがどこで寝ようが、多分問題ないでしょ。

諦めて俺は仕事を再開しようとした、その直後だった。飛龍さんがグラッと倒れた。で、俺の膝の上に頭が落ちた。

 

「えっ」

 

ひ、膝枕してるみたいじゃねぇか……。何のための隠蔽工作だと思ってんだよ……。

いや、まぁいいか。ここで飛龍さんが寝ててくれれば、前からは机に隠れて、飛龍さんの姿は絶対見えない。

すると、ノックの音がした。

 

「失礼しまーす」

「んっ」

 

入って来てのは蒼龍さんだった。

 

「どうしました?」

「いや、飛龍が帰って来ないから。ここに来るって言ってたんだけど……」

 

このバカはなんで……いや、怪しまれないようにする為に言うのは当然か。下手な嘘をつくと、必ずどこかで辻褄が合わなくなるからな。

 

「さっき出て行きましたよ」

「そう?ありがと、またね」

 

まぁ、俺は嘘をつくけどな!蒼龍さんは軽く手を部屋から出ようとした。

その直後、

 

「やだ。私ったら寝ちゃってた……?」

 

飛龍さんが起き上がった。目をゴシゴシと擦りながら、辺りを見回すと、蒼龍さんが目に入った。

 

「…………えっ?」

「んっ……?そう、りゅう……?」

「……………」

 

俺は額に手を当てて、俯いた。

蒼龍さんの表情が、攻撃的な色に変わっていった。

 

「………提督、どういう事?」

「っ………」

 

あ、無理。終わった。そんな顔されると何も言えないじゃん。

人は怒ってる時は人の話を聞くことなんて出来ないんだから。どんな理由を言っても、悪意的に取られるのがオチだから。

 

「ねぇ、提督。飛龍とナニしてたの?」

 

いつの間にか、机の前まで移動して来ていた蒼龍さんが机に手を着いた。

 

「え、いや………」

「いや、何?」

「……………」

 

こ、怖い………。なんだよこの人の眼力。ていうか、なんで怒ってんの?

 

「あー、蒼龍」

 

状況を察したのか、隣から飛龍さんが口を挟んだ。若干、小刻みに震えていた俺の肩に手を乗せると、説明してくれた。

すると、蒼龍さんの表情は安堵した顔になった。

 

「………つまり、飛龍に変な事しようとしてたわけじゃないのね?」

「むしろ、私の方から頼んじゃって……」

「提督も、ちゃんと説明してくれれば良かったのに……」

「そうですよ。何であんなビビってたのよ」

「…………いや、怖くて。なんかすごく怒ってたし」

 

俺はほっと胸を撫で下ろした。

 

「すみません。なんか、一週間前から飛龍の様子がおかしくて、『提督……そんないきなり……迷惑かな……』とか呟いてて、もしかしたら変な事されてるのかと思って心配だったんです」

 

お前の所為かよ……。俺は飛龍さんを睨んだが、飛龍さんは目を逸らしていた。

 

「でも、ナデナデねぇ……。そんなに良いの?提督のナデナデ」

「良いんだって。蒼龍も撫でてもらえばわかるよ」

「じゃあ、良い?」

「別に良いですけど」

 

蒼龍さんはそのまま俺の前に頭を下げた。俺はその頭に手を乗せて撫でた。

 

「……………」

「気持ち良くない?」

「……普通じゃない?」

「えっ?」

「別に。普通?ていうか、飛龍に変な性癖があるだけなんじゃないの?」

「うえっ⁉︎」

 

せ、性癖………?頭撫でられたい、みたいな?

 

「ち、違うから⁉︎そんな特殊な性癖ないから!」

「いやーでもそうとしか思えなくない?ね?提督」

「いや俺に聞かれても……」

 

ていうか俺の前で性癖の話とかすんなよ……。俺、何も聞いてないからね?

 

「……………」

 

ほらぁ、飛龍さん顔真っ赤じゃん。どうしよう、これどうすれば良いんだろ。

すると、飛龍さんはガタッと立ち上がって蒼龍さんに言った。

 

「と、とにかく!私、これから提督の秘書やるけど、周りの人に本当のこと言わないでよね!」

「分かってるって。周りの人に性癖知られたくないもんねー?」

「ち、違うってばだからぁ!」

 

蒼龍さんはケタケタと笑いながら部屋を出て行った。

俺と飛龍さんの間に流れる、気まずい空気。

 

「…………」

「…………」

「………違うからね」

「何も言ってませんけど」

 

 

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