俺は飛龍さんに甘えられたい。   作:LinoKa

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第3話 お酒はほどほどに

 

 

翌日、俺が一人で仕事してると、第一艦隊が帰投した。ぶっちゃけ、指揮をさっきまで執ってたので、結果は知ってるから、報告なんて形だけなんだけどね。

 

「艦隊が帰投しました」

 

飛龍さんがピシッと敬礼した。

 

「乙。てか、毎回思うんだけどさ、敬礼やめません?」

「作戦完了です」

 

無視かよ。

 

「じゃあ、小破以上の人は入渠。他は自由にして下さい」

 

そうしれっと言うと、周りの人達は部屋を出て行った。残ってるのは飛龍さんだけである。

 

「えっと………提督」

 

声をかけてきた飛龍さんを右手で静止すると、いらない紙の裏に文字を書いて見せた。

 

『執務室の扉の裏に艦娘が聞き耳立ててる可能性あるから待って』

「……………」

 

いやないでしょ、といった表情を浮かべる飛龍さんだが、可能性はゼロじゃない。ゼロじゃないということは、危険だ。

 

「トイレ行って来ます。それまで、休憩しててください」

「あ、う、うん………」

 

飛龍さんは少しシュンっと落ち込んでソファーに向かった。俺は本当にトイレに向かった。

申し訳ないけど、俺は完全に安全な状況じゃなきゃ危ない橋は渡らない。

トイレに行って戻って来た。その間、執務室に来る影はない。

部屋の中に入ると、飛龍さんはコーヒーを読んで待っていた。

 

「お待たせしました」

「あ、やっと来た。遅いよー」

「どんだけ、楽しみにしてたんですか」

「ち、違うから!」

「はいはい。じゃあ、業務机の横に来て」

「………ソファーじゃダメなの?」

「誰か来たら、すぐに仕事に戻れるようにしないといけないんだよ」

 

納得してないような表情を浮かべながらも、飛龍さんは机の前に椅子を移動して座った。その隣に俺が座ると、飛龍さんは頭を差し出した。

 

「………今回は寝ないでくださいね」

「わ、分かってます!」

 

飛龍さんの頭を撫でた。

 

「………ちなみに、この……なんでしたっけ?イイコイイコ?」

「ナデナデ!」

「このナデナデっていつまで続けるんですか?」

「………ずっと」

「や、わけわかんないんですけど……」

「し、仕方ないじゃない!提督のナデナデ、気持ち良くて、もう提督のナデナデ無しじゃ生きられないの!」

「なにそれ、告白?」

「は?」

「冗談だからその真顔やめません?」

 

人ってそんな冷たい顔できるんだ……。気温が氷点下まで下がったかと思ったわ。

 

「提督はさ、」

「ん?」

「なんで私をたくさん使ってくれるんですか?」

「はっ?」

「だって、二航戦って一航戦や五航戦に比べて性能劣るじゃないですか。それなのに私は一応、空母で最高練度ですよ」

「んー……最初に来た空母だからじゃないですか?」

「そ、それだけ?」

「はい。だって、別の艦種はともかく、同じ艦種で後から来た人に負けたくないでしょ?」

「それは、まぁ……」

「小学生の時、俺って負けず嫌いだったから、そういう気持ちは分かるんですよ」

「へぇ……意外」

「何が?」

「小学生の時、負けず嫌いって所」

「知ってた」

 

あの時は負ける事自体がダサいと思ってたんだよ。今は、負ける事で自分のプライドを無くし、これ以上失うものが何も無くなってから本気出してるからね。

 

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

「良いの?なら、今日は休んで良いですよ」

「へ?でも、秘書艦として仕事は……」

「いいって。ていうか、あとは今回の出撃の作戦報告書で終わりだし」

「………じゃあ、せめてこの部屋にいさせてください」

「なんでよ」

「ここで休んでます」

「まぁ、良いけど」

 

まぁ、先に上がるのって何と無く気まずいよな。気持ちはわかるよ、飛龍さん。

飛龍さんはコーヒーを二人分淹れて、片方を俺の机の前に置いた。

 

「え?仕事しないんじゃ」

「ついでよ。ついで」

「あ、そう」

 

飛龍さんはソファーの上で、コーヒーを持ってくつろぎ始めた。そうそう、それで良い。俺は仕事を再開し、しばらくキーボードをカタカタと叩いた。

数分後、仕事を終えて俺は軽く伸びをした。

 

「ふぅ、完了」

「あ、終わった?」

「あ、はい」

「じゃあ、飲みに行きましょうよ」

「へっ?なんで?」

「良いじゃないですか、たまには」

「まぁ、別に良いですけど」

 

と、いうわけで飛龍さんと居酒屋に向かった。まぁ、居酒屋って言っても、普通に鳳翔さんの所なんだけどね。

 

「いらっしゃいま……あら、提督。珍しいですね」

 

鳳翔さんが挨拶してくれた。

 

「どうも」

「こんばんはー、鳳翔さん」

「あら、飛龍さんとお二人ですか?」

「はい、一応」

 

二人席に座ると、とりあえずビールを二つ注文して、俺はメニューを開いた。

 

「何食べます?提督」

「んー、軟骨揚げと塩揉みキャベツがあれば文句はない」

「じゃ、鳳翔さん!軟骨揚げ、塩もみキャベツ、タコワサ、野菜炒めで!」

「畏まりました」

 

メニューも見ずに注文する飛龍さんを見て、俺は少し関心してしまった。

 

「よく来るんですか?飲みに」

「え?な、なんでですか?」

「いや、メニュー見てないのに注文してたんで。しかも今言った料理、全部書いてあるし」

「あ、あははっ……まぁ、蒼龍とよく二人で。後は、一航戦のお二人とか」

 

ふーん、俺ってもしかしたら、あんまりどの艦娘同士が仲良いとか、あまりわかってないかもしれない。まぁ、俺も向こうにナンパしてるって思われたくなかったから、自分から話しかけたりしなかったんだけどね。

すると、ビールが二本、隼鷹に運ばれてやって来た。

 

「お、お待たせいたしました……」

「どーも。……って、隼鷹さん?何してるんですか?」

「………この前、酔っ払って店の椅子叩き壊しちまって、修理費を働いて払えって……」

 

よし、これからはもう少し俺もここに来ることにしよう。飲みに来るんじゃなくて、アル中達を止めに来る。

 

「一週間タダ働きの上、一ヶ月禁酒って言われた……」

「自業自得ですよ」

 

俺はそう言うと、ビールのグラスを持って、隼鷹に差し出した。

 

「? 提督?」

「一口だけ。鳳翔さんには内緒ですよ」

「提督〜‼︎良いとこあるなぁ‼︎」

 

隼鷹さんは上機嫌にグラスをとった。

バカ、声デケーよ。そんな大声出すと………、

 

「隼鷹さん?」

 

鳳翔さんがやって来ちゃうでしょ……。オロチよりも半端ない威圧で、隼鷹さんの動きを止めた。

 

「ほ、鳳翔さん……」

「何をしているのですか?まさか、お客様が注文されたお酒を飲もうなんて、していませんよね?」

「あ、あはは……そんなまさか………」

 

隼鷹さんは机の上にビールを置くと、逃げるように去って行った。あーあ、せっかくの機会を……。

隼鷹さんをぼんやり見てると、鳳翔さんが少し困った顔で俺に言った。

 

「提督、あまり隼鷹さんを甘やかさないでください」

「すみません。ここで借り作っとけば、何かに使えると思って」

「はい。ご注文の塩揉みキャベツ。……それと、女性と一緒に来ているときは、他の女性と話すものではありませんよ」

 

鳳翔さんはそう言い残すと、店の奥に帰った。

まさか、飛龍さんが嫉妬なんてするわけ無いだろ。そう思って、飛龍さんを見ると、少し不機嫌そうだった。

 

「………隼鷹には甘いんですね」

「いやそんなつもりはないですよ……。ていうか、別に嫉妬されるような仲じゃないですよね」

「………いや、別に嫉妬してるわけじゃないですよ。ただ、今日は私と飲みに来てるのにーって、思っただけです」

 

うーん……そういうもんなのかな。まぁ、不愉快な思いさせたなら謝っておくか。

 

「すみませんでした」

「いや別に謝らなくても……。さ、それより飲みましょう」

 

飛龍さんに言われて、俺はグラスを持ち上げた。特に意味はないが、乾杯してビールを一口飲んだ。

 

「んっ……ふぅ………」

「美味しいでしょ。ここのビール」

「すみません、俺って未だにビールの味がよくわからないんですよね。不味いとも思いませんけど」

「…………意外と子供なんですね」

「子供なのは悪いことじゃないでしょ。変に大人ぶってる方がみっともない」

「それ、暁ちゃんとかビスマルクに言ってあげて下さい」

「言っても聞かないでしょ」

「そうですけど……」

 

キャベツを食べると、さらにたこわさと野菜炒めがやって来た。

しかし、飲みってどんな話すれば良いんだろうな。世間話とか言うけど、イマイチ世間話って何なのか分からねぇんだよ。

タコワサを摘みながら話題を考えてると、飛龍さんがビールを一口煽ってから聞いて来た。

 

「提督は、好きな女性のタイプとかありますか?」

「………恋バナを異性としますか?」

「良いじゃないですか。最近、○○鎮守府の提督が大和さんと交際始めたらしいんですよ」

「○○鎮守府の?マジ?あの人が?」

 

コミュ障お仕事マシーンのあの人が?

 

「マジです。あのロボットみたいな人でさえ、恋愛するなら、うちの提督だってするでしょ?」

「それどういう意味?俺もロボットに見えんの?」

「だから、提督の好みとか知りたいなぁって」

「好み、ねぇ………」

 

あまり思い付かないけど……。

 

「じゃあまず外見から。身長は?」

「別に何でも」

「髪型」

「うーん……ボサボサじゃなければ別に」

「美人系?可愛い系?」

「面食いじゃないけど、アニメなら美人系」

「胸は?」

「男はみんなおっぱい星じ……おい、さっきから何の質問だよ」

「ふむふむ……じゃあ性格」

「無視かよ………」

 

ため息をつきながら、タコワサと再び摘んだ。

 

「性格はー……一緒にいて落ち着ける人。騒がしい人はちょっとごめんかな」

「なるほど………。ふむ、大体分かりました」

「何が?」

「今日、部屋に帰ったら蒼龍と会議ですね」

「何の会議だよ。つーか報告会の間違いでしょ」

 

この人、意外と酔いがまわるの早いのかな。ていうか、いつの間にかビール飲み干してるし。

 

「何か飲みます?」

「あー……じゃあ俺はカシオレ」

「女子ですか」

「別に良いでしょ。余り酒強くないんですよ」

「はいはい。すみませーん!カシオレと熱燗!」

 

熱燗なんて飲むのかこの人……。俺はカシスとビール以外飲んだことないのに………。

今度は逆に聞いてみるか。人が話を振る時って、大抵は自分に振ってほしい時の場合もあるんだよな。

 

「ていうか、飛龍さんの方は好きなタイプとかいるんですか?」

「多聞丸」

「タイプじゃなくてご指名かよ……。しかもこの世にいないし」

「仕方ないじゃないですか」

「ふーん……。ま、恋愛は人それぞれですからね。でも、俺は神霊の類は信じてないんで、もう少しリアリティのある回答を求めたいです」

「うーん……そう言われても、提督しか男の人と会ったことないし。後は、他の鎮守府の提督くらい?」

「それもそうですよね」

「その中でも、うちの提督って変わってますよね」

「え、そ、そう?」

「普通、艦娘が頭撫でてなんて言われたらドン引きするでしょう」

 

こいつ外でそんな話を………。まぁ、他に客いないし大丈夫だろうけど。

 

「そうか?俺は別に」

「ほら、変」

「別に変じゃないでしょ。艦娘に母親も父親もいませんから、たまに無性に甘えたくなっても仕方ない事だと思いますよ。それなら、鎮守府の最高責任者として、それに応じるのは当然だと思ってますから」

「…………」

「なんですか」

「いや、意外と優しいんだなー、と思いまして」

「別に普通ですよ」

 

少し照れたので、野菜炒めを摘まんで誤魔化した。すると、飛龍さんが俺の顔を下から覗き込んで、いたずらっぽく笑って言った。

 

「じゃ、今夜は名一杯甘えちゃおっかな」

「その様子を周りに見られて良いならどうぞ」

「…………やっぱやめておこう」

 

そんな話をしてると、鳳翔さんから新たな飲み物と軟骨揚げが運ばれて来た。

 

 

++++

 

 

翌朝。俺は目を覚ました。

 

「ってて……」

 

なんか、頭痛ぇな………。二日酔いか?そんな飲み過ぎたっけか………。

ガンガンする頭を抑えて、とりあえず上半身だけ起こした。軽く伸びをして、腰を捻ると、隣に全裸の飛龍さんが眠っていた。

 

「………………えっ?」

 

世界が、静止した。

 

 

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