「ごめん、提督。私、そろそろ弓道場行かないと」
「りょ」
飛龍さんは部屋を出て行った。俺は部屋の扉に耳あてた。まだ足音が聞こえる。まだ……まだ………消えた!
直後、俺はスマホでメールを送った。数秒後、明石さんがアタッシュケースを持ってやって来た。
「提督!」
「来たか!」
「例の?」
「それ!」
直後、カーテンを閉め、窓を閉め、執務室の前の廊下の天井にカメラを設置し、パソコンを開いて監視カメラの様子を常時視察できるようにし、的を窓に掛けて、明石さんのアタッシュケースを開けた。中には拳銃が入っていた。
「………やるか」
「どうぞ!」
的に銃を構えた直後、コンコンとノックの音が聞こえた。
直後、俺は手首に仕込んだ糸を出して的を回収して引き出しにしまうと、銃をアタッシュケースにしまって投げ滑らせ、机の上にしまった(この間0.5秒)。
一方、明石さんはなんか小さいチップをカーテンに投げて付着させ、リモコンのボタンを押した。直後、カーテンは全部全開になり、明石さんは最後にパソコンを閉めた(この間0.7秒)。
「どうぞ」
提督が答えると、蒼龍が入って来た。
「失礼しまーす……って、明石もいたんだ?」
「提督が開発でご相談があると仰られて」
「ふーん……。もしかして、忙しかった?」
「「いや、全然?」」
「声を揃えて⁉︎」
蒼龍は「別に良いけど……」と呟くと、俺に聞いた。
「飛龍いる?」
「今さっき出て行ったよ」
「あー入れ違ったかー。ごめんね邪魔しちゃって」
「いや、明石さんも今来たところだから」
「浮気しちゃダメだぞ?」
「わーってるよ」
蒼龍は部屋を出て行った。
俺と明石さんは互いにホッと息をついた。
「危なかったなーおい」
「そうですね……。ていうか、提督の機転は相変わらずですね。なんですか、さっきのスパイダーマンみたいな糸」
「あれ、夕張が作った。明石さんも、カーテンの奴すごかったじゃないですか」
「そんな事ないですよ。アレくらい誰だってできます」
「いや、少なくとも俺じゃ無理ですから」
「もう、お世辞はいいですから。早く撃ちましょうよ!」
「ああ、そうでしたね」
俺は投げたアタッシュケースから拳銃を取り出し、撃った。パシュッパシュッと音がして、的に当たっては修復される。
「相変わらず上手ですね〜」
「まぁ、慣れだから。俺よりも上手い奴いるし、そいつに負けたくないんですよ」
「へぇ……そうなんですか」
「これで、ようやくまた修行できる。ありがとうございました、明石さん」
「いえいえ。また何か面白い事浮かんだら声かけて下さいね」
「うーい」
俺はそのまま拳銃の練習を続けた。
パシュッパシュッパシュッと数発撃っては、弾を装填する。意外と使いやすいなこれ。実戦でも使えるんじゃないか?まぁ、深海棲艦には効かないだろうけど。
…………ま、実戦とか考えずにのんびりと趣味の一環でやるか。
「………っと、誰か来た」
パソコンに人影が見えたので、アタッシュケースを隠して拳銃を懐にしまって、的に糸を飛ばして回収した。
そこで、コンコンとノックの音が聞こえたので、リモコンでカーテンを閉めてパソコンを閉じながら「どうぞ」と答えた。
「ていとくー!かけっこしよー!」
島風だった。こいつ、少し前までノックすることすら覚えなくてマジで大変だったんだよな。
「え、やだ」
「何でよー。遊んでよー」
「駆けっこって……俺はどっちかっつーと長距離向きだから無理」
「長距離でも良いけどなー」
「何が悲しくてキロ単位の駆けっこせにゃあかんのだ」
それはもはや駆けっこではない。
でも、島風は姉妹艦いないし、構ってあげないと可哀想だよなぁ。少しは遊んでやるか。
「駆けっこは無理だけど、遊んであげるのは良いよ」
「本当⁉︎」
「ああ。ちょっと待ってて」
俺はカーテンとは別のリモコンのボタンを押した。天井からスクリーンが降りて来て、床からコントローラの繋がれたゲームが出て来た。
「何これ………?」
「明石さんに頼んで(飛龍に内緒で)改造した」
「怒られるよ………?」
「バレなきゃいんだよ」
「提督ってビビリなのにそういうとこ強気だよね」
「うるせー」
つけたゲームはマリカー。島風は「おおー!」と目を輝かせていた。
「マリカー!」
「やったことあんの?」
「天津風ちゃんと一回だけ」
「ふーん。お前友達いるんだ」
「失礼だなぁ!いるよ!」
「俺の同期みたいにならないようにな」
「どーき?心臓?」
「ちげーよ」
俺は椅子を二つ用意して、その上に座った。すると、島風が俺の膝の上に乗って来た。
「うおっ」
「良いですよね?乗っても」
「まぁ、良いけど。お前のリボン邪魔で画面見えないんだけど」
「諦めてください!」
「図太いなー」
そのまま島風とゲームをした。
++++
二時間後くらい、島風はようやく俺の上から降りた。
「ふー!もう良いや!楽しかったー!」
「ああ。良かった」
「またね、提督!また遊んでくださいね!」
「んっ。あ、やりたかったらゲーム機持ってっても言いぞ」
「大丈夫だよ。天津風の部屋にもあるし」
「そうか。じゃあな」
島風は元気よく部屋から出ようと扉に手を掛けた。俺は伸びをしながら、今日は仕事をサボることを決めて、ソファーに座り込んだ。
その直後、「おうっ⁉︎」と島風が声を漏らして立ち止まった。で、おそるおそるといった感じでソーッと部屋から出た。
誰かいるのかな?と思ったら、飛龍さんが烈火の如く怒りを燃やして俺を睨みながら入って来た。
「………………」
「あ、飛龍さん。やります?マリカー」
「やりませんっ」
「………………」
「………………」
「あの、何で怒ってんの?」
「…………島風ちゃんと、随分仲良いんですね?」
「普通でしょ」
「膝の上にまで乗せちゃって」
「………や、だから何怒って」
「怒ってません」
………いや怒ってるだろ。俺、何かしたかな………。
「飛龍さん?」
「…………つーん」
「いや、虫除けスプレー吸い込んで鼻にくる時の効果音じゃないんだから………」
なんで怒ったんだ………?島風が俺の膝の上に乗ってたのが気に食わな………ああ、そゆことか。
俺は自分の膝を叩いた。
「飛龍さんも座りますか?」
「……………………座る」
飛龍さんは座らずに、俺の膝に頭を置いた。
「……………でて」
「は?」
「…………頭、撫でて……」
「はいはい」
膝枕したまま、飛龍さんの頭を撫でてあげた。すると、トロンと気持ち良さそうな表情になる飛龍さん。
「…………提督はさ、人と付き合った事あまりないでしょ」
「ない(即答)」
「やっぱり………。女の子は嫉妬深いんだから、あまり他の子とくっついちゃダメだよ」
「いや、でも島風は姉妹艦いないし、別に少しくらい」
「頭では理解してても、私はそういうの見るの嫌になっちゃうの」
「………………」
それは、申し訳ない事したかもなぁ。俺は引き続き飛龍さんの頭を撫でながら謝った。
「………すみませんね」
「いや、別に良いけど。提督が悪いわけじゃないし」
「そういえば、結局料理は教わってるんですか?」
「うん。提督に教わるの癪だから鳳翔さんに」
「なんで癪なの………」
「最近は、炒飯とかも覚えて来たんだよ」
初歩の初歩じゃねぇか、とか言ったらまた「デリカシーない!」とか怒られそうだな。
「それは楽しみです」
「明日食べる?」
「良いんですか?」
「良いよー。………あ、でも一つ」
「?」
「明日、実は見たい映画やるんだよね」
「? 映画?」
「それ、提督の奢りで良いなら作ってあげる」
「えー……まぁいいですけど」
「やりぃ!」
「じゃ、明日ですね」
「うん。楽しみにしてる」
俺は飛龍さんの頭を撫でて約束した。
「…………ね、提督……」
「どうかしました?」
「………私、眠くなって来ちゃった……」
「良いですよ、寝ても」
「ごめん……」
「謝らないで下さい。飛龍お嬢さん」
「こ、子供、扱い……すら、にゃあ………」
飛龍さんは目を閉じた。俺はそのまま頭を撫でながら、今日の仕事、さっさと終わらせておけば良かった、と後悔した。