シロナは、マキナが居を構えていると言われている「ポケリゾート」を訪ねる事を決断した。
ご自慢の真紅の翼を広げ、綺麗に滑空飛行をこなすボーマンダの上で、シロナは食い入るようにして前方にある島を見下ろす。
並んでいる五つの小島が、それぞれ異なる用途で使われているという事は、シロナの目から見ても一目瞭然だった。ある島は大きな一本の木がど真ん中に生えており、ある島は湧き出る温泉でポケモンたちが気持ち良さそうに湯浴みをしていたりする。
そして、マキナの家だと思われる邸宅が立つ島には、広大なきのみ畑が広がっており、どことなく上機嫌なドレディアたちが意気揚々ときのみを収穫している。時たまマキナからシロナ宛に送られてくるヤチェのみやヒメリのみは、この島で収穫しているのだろう。
プスプスと白煙をあげるカットロトムが、死にそうな表情で雑草を刈り続けている事に気付かなかったシロナには、ポケリゾートがとても平和な島に感じられた。
「まるでアローラという地を象徴しているかのような場所ね。あたしもこんな所で暮らしてみたいわ」
などと、能天気な感想を思わず溢してしまうシンオウチャンピオンだが、物見遊山でこの南国に来たわけではない事を思い出し、目的の
「今日はマキナの公式戦は無いって協会は言っていたし、家に居てくれたら良いのだけど……」
普通、知人の自宅を訪問するならば、なんらかの形で前もってアポイントメントを取るのが常識ではあるが、常人のそれと比較して、どこかズレた節のあるシロナはそれを怠っていた。
「立派なお屋敷ね………あら?家の前に何かいるわ」
ここからだと遠くてよくわからないので、シロナは首にかけていた双眼鏡を手に取り、倍率を最大にして覗き込む。
『猛犬注意。かみつきます』
と書かれた、プラカードをぶら下げた『サザンドラ』が、我が物顔で昼寝をしていた。
「……あれを犬と呼んでも良いのかしら?」
当然、呼んで良いわけがない。ただ、迂闊に近づくべきではないと言う点では、ある意味共通していると言えよう。よく見ると、サザンドラの三つある頭の
「あの家に近づいたら、文字通り命懸けで攻撃してきそうね……」
動くもの全てを破壊し尽くす暴虐さを秘めていると言われるサザンドラを、番犬ならぬ番竜として扱うマキナは、来客を消し炭にする趣味でもあるのかと、シロナは彼の正気を疑わずにはいられなかった。
目的地が目前にまで来ていると言うのに、まるで近づける気がしないシロナはジレンマに陥っていた。他の島にいるかもしれないと思った彼女は、ボーマンダに高度を上げてもらい、上空からポケリゾートを一望する。
ひとつだけ、何やら様子がおかしい島があることにシロナは気付く。一本の大樹が生えた島だ。
その島にいるポケモンが、何やら一点へと集まっていくのだ。そして、その集合地点にはお目当の人物……マキナが立っている。
マキナのすぐ側でグレイシアが『おすわり』の姿勢でマキナを見上げている。グレイシアは飼い主にも負けず劣らず、クールな表情を保っているが、その尻尾ははち切れんばかりにブンブンと揺れている。
マキナが右手を右へ、左へと動かす度に、それに釣られるようにしてグレイシアの顔も右に、左にと動いている。
最大倍率にした双眼鏡で、マキナの右手を観察すると、何かが握られているようだ。
「あれは……ポケマメかしら?」
シロナは思わず吹き出してしまう。ポケモンを「数字だ」と言い切った男が、グレイシアと仲睦まじくふざけあっているのだ。これをどうして笑わずにいられようか。
どうしてもあの時見た「仮面の裏側」を想起してしまい、形容しがたい感情がシロナの全身をくすぐる。
高高度でホバリングをしていたボーマンダに指示を出し、一気にマキナの元へと近づいて行く。
マキナはよく自分の電話に応じてくれる上、長時間に渡って通話に付き合ってくれるので、マキナとはそれなりに会話を交わしているなずなのだが、いざその姿を前にして言葉を交わすとなると、妙に緊張してしまう自分がいる事に、シロナは不思議で仕方がなかった。
……恐らく、その感情の由縁がいかなるものであるか解を導き出せないのは、シロナ自身だけであろう。
肉眼でもマキナの姿がはっきりと見えるくらいの距離にまで差し掛かった時、シロナはようやく
シロナが一度も見たことのないくらい険しい表情で、マキナがこちらに向かって何かを叫んでいるのだ。
あのマキナが、強い、強い怒りを露わにしているのだ。
「………!!この島には、指一本たりとも触れられると思うな!!消え失せろ!!」
「………………ふぇ?」
何だかよく分からないが、マキナがヤバイ。
シロナがそう気付くも、時既に遅し。
「グレイシア、れいとうビーム!!
キュウコン、ふぶき!!
サーナイト、ムーンフォース!!
カイリュー、りゅうせいぐん!!」
「えっ……ちょっ………きゃああああぁぁぁあああああ!!!???」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
天気がとても良い。こんな日はグレイシアと戯れ合うのが一番である。
久々のオフを手にした俺は、育成&厳選も一旦は中断し、完全な休息を設ける事にした。昼前時なので、アロフォーネはぐっすりと眠っている。
オーキド博士に提出するレポートも書き終え(執筆時間五分くらい)、特にこれと言ってやる事のない俺は、愛犬(?)のグレイシアと共にのびのびリゾートに足を運んでいた。
サーナイトやカイリューが、地に落ちたポケマメを真面目に回収しているのを尻目に、グレイシアとスキンシップを取っていた。
グレイシアは現在、俺の目の前でちょこんとおすわりをしている。この姿だけでもご飯三杯くらいはいけるが、グレイシアの愛くるしさはもっと別の場所にある。
現在、ポケマメの中でも最も質の高いニジマメが一粒、俺の手中にある。それをグレイシアにチラつかせて見ましょう。
不思議そうな顔で頭を
が、さすがはクールビューティーのグレイシア。すぐさま俺からプイッと顔を背け、おすましの表情になる。『別に欲しくなんてないんだからね。勘違いしないでよ』みたいな顔をしている。でもめっちゃ尻尾振ってる。
俺が少し手を右に動かすと、グレイシアは『あっ!!』って顔で俺の右手を目で追う。で、俺と目が合うと、またしても『べ、別に欲しくなんてないんだからっ!!』って表情で、また顔をプイって背ける。
ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
おすましグレイシアが可愛いすぎて生きるのが辛いよぉおおおおおああああああ!!!!!!
グレイシアのしたたかさに負けた俺は、思わずニジマメをグレイシアに与えてしまう。こんなん見せられたら氷四倍勢ですらグレイシアちゃんに惚れてしまいますよ。ブイズの可愛さはガチ。はっきりわかんだね。
若干怒ってるグレイシアは、俺からニジマメをひったくる際、尻尾で俺の顔面をビンタしてきたが、我々の業界ではご褒美なのであまり気にしない事にした。
因みに、もし今のがアイアンテールだったら、確実に首がイカれて全身不随になるので気をつけましょう。ポケモンの技を、人間が受けるのは絶対にいけない。
ポケモンの技を、人間が受けるのは絶対にいけない。
拗ねてしまったグレイシアの機嫌を直そうとしていると、近くでポケマメを集めていたサーナイトが強い『テレパシー』を送ってくる。何を伝えたいのかはまるで分からないが、何か伝えたい事があるということは分かるので、とても賢く優秀なポケモンである。あとかわいい。
テレパシーを送ってきたサーナイトがいる背後を、何事かと振り返ってみると、のびのびリゾートにいる全てのポケモンが、血相を変えて俺の元へと駆け寄って来ている事に気付いた。これが自分のポケモンじゃなかったら一生トラウマになりそうな光景だな……
突然の事に俺が惚けていると、グレイシアが上空に向かって吠え始めた。なんだ、また
そう、このポケリゾートはその性質上、ドデカバシやドデカバシのような野生の鳥ポケモンを呼び込みやすい。ゲームでも、のびのびリゾートには野生のポケモンが来て、自分のポケモンとして居つく事がある。
しかし、人様の島のポケマメを勝手に食い散らした挙句、「気に入ったからここに住んでやるよ」的な顔で居座ろうとする、盗人猛々しいにも程がある輩を、器の小ささに定評があるこの俺が看過するはずもなく、例外なく制裁を加えている。
ただし、ラプラスだけは可愛いので手厚く保護しています。ナマコブシ?ソフトボール投げの要領で、海めがけてボスゴドラに投げさせてます。たまに特性の「とびだすなかみ」が発動して上空で爆散する。きたねぇ花火だ。
のびのびリゾートにも野生ポケモンはしょっちゅう来るのだが、俺の家があるすくすくリゾートには、きのみ畑があるせいで連日連夜ひこうタイプのポケモンが押しかけてくるのだ。その度に、ペリッパーとカットロトムのタッグによる『必中かみなり』をお見舞いされていると言うのに……性懲りもなくまた来やがったようだ。
だが、何故わざわざポケモンたちは俺のところに集まってきたのだろうか?いつもならば、カイリューが暴風とかでクソ適当に追い払っているのに、何だか様子がおかしい。
グレイシアの視線の先を辿ってみると、やはり不法進入者はいた。しかし、いつもの如く群れを成しておらず、単体で………
あの鳥なんか縮尺がおかしくないですかね?というか、その辺にいるような、貧弱な鳥ポケが出せるとは思えないようなスピードで接近してくるんですけど………って、ちょっと待てや。
あれボーマンダやんけ。
「アイエエエエエエエ!?ナンデ!?ボーマンダナンデ!?」
はああああああああ!?600族ドラゴンさんがなんでこんな所を飛んでるんですかねぇ!?というかなんでこっちに向かってくるんですかねぇ!?このままだと焼け野原不可避やんけ!!
「冗談じゃねぇぞ!!ORASでメガ獲得して復権したからって調子乗ってんじゃねぇぞバーカ!!うんこ!!氷四倍!!こちとら鬼のようなローン返済に苦しんでるってのに、焼け野原にされてたまるかボケェ!!この島には、指一本たりとも触れられると思うな!!消え失せろ!!
グレイシア、れいとうビーム!!
キュウコン、ふぶき!!
サーナイト、ムーンフォース!!
カイリュー、りゅうせいぐん!!」
『ひかえめ』な性格のポケモンたちから、高威力のタイプ一致技が放たれる。もはやカオスとしか言いようがない無慈悲な洗礼が、迫り来るボーマンダを急襲する。
ブハハハハハハ!!環境トップメタだろうがなんだろうが、数の暴力を前にしたらラブカスも同然なんだよ!!ブハハハハハハ!!死ぬが良い!!
オーバーキル以外の何物でもない四面楚歌が、愚かなボーマンダを蹂躙する。グッバイ、マンダ。くにへかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう…
「きゃああああぁぁぁあああああ!!!???」
え、女の人の悲鳴?
俺は慌ててボロ雑巾のように変わり果ててしまったボーマンダに視線を戻す。ボーマンダのすぐ側には、人間のような何かも一緒に下降しているではないか。
自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。俺は頭より先に体を動かしていた。
悲鳴の主の落下地点へと滑り込み、間一髪と言ったところで抱き留める。全くと言っていいほど落下の衝撃が加わらなかったのは、サーナイトが念力的な何かで緩和してくれたのだろうか。
俺の腕の中には、確かな体温と体重が感じられ、当人の物と思われる荒い息づかいが聞こえる。大事には至らなかったようだ。
生きている。
それが確認できた俺は、安堵を覚えると共に、全身から力が抜けていくような感覚を覚えた。が、今の状態で力を抜くわけにはいかない。
対象を抱き抱えている己の胸元に視線を落とすと、枝毛の一つもない艶やかな金髪が、アローラ特有の快い日差しを美しく反射している。
乱れた呼吸とともに、その漆黒の衣装を纏った華奢な肩が上下している。その金糸のような金髪が揺れる度に、女性だけが放つ事ができる、心地良いリンスの香りが漂う。
後にも先にもないであろう災禍を
「けほっ、けほっ……うぅ……どうしてこんな目に…………」
「何やってるんですかシロナさん」
完全に蛇足ではありますが作者のイメージしているアロフォーネの容姿についてチョコっとだけ触れておきたいと思います。イメージを壊したくない方は読み飛ばしていただいて結構です。
アロフォーネは限りなく白に近い金髪で、クラシカルロリィタで身を纏ったフランス人形です。作者のイメージは
【挿絵表示】
こんな感じの子を、三頭身くらいにして、身代わり人形よりちょっと大きいかくらいの大きさにデフォルメしたものをイメージしております。アロフォーネの周りにはアンティークぽい椅子や、グランドピアノ、古ぼけた柱時計、中世の西洋甲冑のような物が浮遊している感じです。で、基本的に一番強度がありそうな西洋甲冑の後ろでビクビクしているイメージです。読者様の中に、画才溢れる潜在的マツリカちゃん的な方がいましたら、ぜひ素敵絵にしていただきたいですね(露骨な催促)
ぜひ素敵絵にしていただきたいですね(露骨な催促)
今回短くて申し訳ございませんでした。次話はバトル描写があるので今日は早く寝ますね……(ゆとり世代の権化)