マクギリスが強くて草バエル   作:けろよん

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 火星では今まさに最終決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

 束の間の僅かばかりの停戦の時間が設けられたが、時間が来れば敵はすぐに攻めてくるはずだ。

 のんびりとしている暇は無いのだが……

 ギャラルホルンの大軍に包囲されている状況の中、マクギリスとオルガはまるでピクニックにでも行くような気軽さで基地から少し離れた自動販売機へジュースを買いに来ていた。

 マクギリスがコインを入れてジュースの一本を投げてオルガに渡し、自分の分のもう一本を手に取って一口飲んだ。

「上手いな。火星のジュースも」

 マクギリスの態度は実に堂々として落ち着いた物だ。それはいつものことなのだが、この状況にあってもそうだとは、さすがにオルガにも腑に落ちない。

「おい、こんなことをしている場合か。今がどういう状況か分かっているのか!?」

 約束の時間が来れば敵はすぐにでも攻めてくる。打てる手があるなら今のうちに全て打っておかないといけないのだ。

 それなのにまるで呑気に無関係のような態度を取るマクギリスにオルガは苛立ちを見せる。

 そんな彼にマクギリスはいつもの落ち着いた涼し気な大人の笑みを浮かべて見せる。

「分かっているとも。我々は包囲されているのだろう?」

「だったら早く穴を掘って脱出して名前を書き替えにいかねえと!」

「そんなことをする必要がどこにあるのかね?」

 マクギリスは缶を放り投げた。そして、銃を素早く抜いて撃った。

 それは缶を狙ったのでは無い。缶の転がった先で数名のヒットマンが心臓を撃ち抜かれて倒れていた。

 マクギリスはそれがまるで何でもないことのように落ち着いて銃を戻した。

「やれやれ、どこにでもネズミというのは湧くものだな」

「まさか、あんたこいつらを誘い出すために自分達を囮に!」

「ああ、彼らはただのヒットマンではない。彼らほどの優秀な暗殺者を誘い出すにはこちらもそれ相応の餌を出す必要があったのだ。リーダー二人の命で後ろを気にせずに決戦に臨めるのだ。分の悪い賭けではあるまい」

「さすがはマクギリス! 頼りになるぜ!」

「では、行こうか。本番はこれからだ」

 マクギリスは涼し気に、だがその瞳には力強い決意を称えて遠く戦場を見やった。

 

 

 戦場を白い翼を広げて白いMSが疾駆していく。マクギリスの乗るガンダムバエルだ。

 行く先には包囲をするギャラルホルンの部隊がいる。

 何も時間が来るまで待つ必要などない。戦場が近づいてマクギリスは好戦的な笑みを浮かべ、バエルの二本の黄金剣を抜いた。

 マクギリスの作戦はこうだった。

「バエル単体で特攻を仕掛けよう」

「大丈夫かよ。あんた一人で」

 オルガを始め、鉄華団には動揺が広がっていた。

 それはそうだろう。どう見ても勝ち目のない戦いに挑もうとしているのだから。

 だが、マクギリスはそんな彼らを前に動揺の色一つ見せなかった。

「問題無い。お前達は穴でも掘っていればいい」

「そういうわけにもいかないだろ!」

 バエル単体で特攻を仕掛けていくのを、オルガは白いユニコーンのようなMSに乗って見送った。

「オルガ、俺はどうすればいい?」

 隣でいつものように三日月が訊ねてくる。

「そうだな。大将がああ言っているんだ。ここはしばらく様子見と行こうぜ」

 向かっていくバエルにギャラルホルンの部隊はすっかりうろたえていた。

 うろたえる部下にジュリエッタは激を飛ばした。

「うろたえるな! 相手は逆賊マクギリスですよ!」

「でも、あの機体はバエルですよ!」

「たった一機で特攻を仕掛けるなど、何か策があるとしか思えません!」

「そんな物、あるはずがありません!」

 だが、マクギリスの行動はあまりにも不可解だ。鉄華団に動きが無いのも気になる。ジュリエッタが戦況を見極めようとしていると、隣で動く者がいた。

「ここは私自らが手本を示す時だな! 皆の物続けー! 逆賊マクギリスを討ち取るのだー!」

「おおー!」

「イオク様に続けー!」

 我らがイオク様だ。彼の部下達も後に続いていく。

「あ、ちょ、イオク様? あの馬鹿!」

 ジュリエッタが止める間もありゃしない。

 向かってくるイオク隊に、マクギリスは全く減速せずただ黄金の双剣を向けた。

「イオク・クジャン。腐った旧体制の象徴だな」

 一閃する。戦いにすらならなかった。

 ただ王者がザコを一匹蹴散らした。その程度の気安さでイオク機は撃破された。

 だが、続く者達に取って王者とはイオク様だ。

「よくもイオク様をー!」

「かかれー!」

「相手はたかが一機!」

「逆賊マクギリスを討ち取れー!」

「大義は我らにあり!」

「イオク様に勝利をー!」

「そして、それに従う者も罪深い」

 マクギリスは彼らの戯言などに耳を貸さない。

 ただ静かに双剣を構え、爆発するような勢いで踏み出した。

 戦場を黄金の剣の煌めきとバーニアの光を撒き散らしながら白いMSが疾駆する。

 誰もバエルの動きについていけなかった。

 イオク隊はただやられるのを待つだけの哀れな彫像に過ぎなかった。

 黄金の剣が最後の一機を撃破する。イオクの部下達はあっさりと全滅した。

 その光景にみんなが息を呑む。

「あの野郎、あそこまで強かったのか」

「へえ、やるね」

「おのれ、イオク様はどうでもいいが、マクギリス・ファリド!」

 ジュリエッタが悔しさに奥歯を噛んだ時、宇宙のラスタルから通信が入った。

「下がれ、ジュリエッタ」

「ラスタル様、まさかあれを使うのですか?」

 訊くまでもなく、彼の厳しい眼差しは雄弁に語っていた。

「頼りのヒットマンもやられた今、もはや手を選んではいられまい」

「分かりました」

 戦場には屈辱しかないが、尊敬する上司の邪魔をするほどジュリエッタは愚かではない。

 仕方なく部下達と一緒に後退した。広がった包囲の輪をマクギリスは戦場の中心で静かに一瞥する。

 オルガには状況がどうなっているのかよく分からなかったが、敵が後退したのならチャンスだと捉えた。

「マクギリス、包囲を突破するなら今がチャンスじゃないのか?」

「いや、あのラスタル・エリオンはそんな甘さを見せる男ではない」

「上から何か来るよ」

 三日月がいち早く気が付いた。のんびりとも言えるその口調にオルガも見上げ、その表情が凍り付いた。

 上空から降り注ぐのは自分達を何度も苦しめた白銀の槍の雨。禁忌とも言われた殺戮兵器。

「ダインスレイブだ! みんな離れろ!」

「うろたえる必要は無い!」

 撤退しようとするオルガにマクギリスは叱咤とも受け取れる強い声を飛ばした。

「まさか何か策があるのか?」

「見せようじゃないか、ギャラルホルンの祖アグニカ・カイエルの駆ったバエルの力。厄災戦を人類の勝利に導いた象徴と今なお語られる力をな!」

 バエルは静かに跳んだ。そう見えたが、その勢いは力強く、一気に上空高く迫りくるダインスレイブへと肉迫した。

 バエルはそこで静かに双剣を構え、マクギリスは地上に並ぶ者達を見下ろした。

「ギャラルホルンの兵士達よ。忘れたのなら思い出させてやろう。これが誰も逆らう気など起こさせなかった、バエルの力だ!」

 バエルの剣は迫り来たダインスレイブの一本を一刀両断に斬って捨てた。

 普通なら在りえないことだ。禁忌とも言われたダインスレイブを、それも宇宙から超速度で降り注ぐ物体を、たかが剣一本で斬り捨てるなど。

 だが、それを可能にするのがバエルなのだ。厄災戦を勝利に導いた機体なのだ。

 バエルは次々とダインスレイブを撃破していく。過去にはバエルをたった二本の剣しか武装の無い貧弱な機体だと嘲笑う者達がいた。だが、それは間違いだ。彼らは認識を改めることになる。

 バエルにはこの二本の剣があればいいのだ。シンプルだからこそそこに全てを注ぎ込むことが出来る。だからこそバエルは剣の届く間合いでは無類の強さを発揮する。

 その証拠にダインスレイブを全て撃破してもバエルの剣は刃こぼれ一つしていない。

 ギャラルホルンの兵士達はかつての伝説の再来をただ口をぽかんと開けて見上げることしか出来なかった。

「チャンスだ! 今のうちに突破するぞ!」

 その隙を見逃すオルガでは無かった。鉄華団は進撃を開始する。

「迎え撃ちなさい! 彼らを包囲の外に出してはいけません!」

 ジュリエッタが命令しても完全に戦意を挫かれたギャラルホルンの兵士達が士気を取り戻すことは無かった。

「こんな時に馬鹿がいれば……」

 悔やんでも失った物を戻すことは出来なかった。

 数の差こそ圧倒的だったが、一点突破を目指す鉄華団に、ギャラルホルンはついに逃亡を許すことになるのだった。

 

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