「これからどうする?」
宇宙へ向かうシャトルの中でオルガが訊ねる。鉄華団の全員とMS全機をも収納できるこの大型のシャトルはマクギリスが手配をしておいた物だ。彼の用意周到な準備の良さにオルガは舌を巻くしかなかった。
マクギリスはどこまでを計算しているのだろうか。彼の涼し気な横顔からは誰も想像することなど出来なかった。
彼は語る。これからの展望を。力強いリーダーとしての風格を持って。
「宇宙に出てラスタルを討つ。我らの勝利はアリアンロッド艦隊の壊滅を置いて他にない」
「でもよ。俺達は奴らから逃げてきたんだぜ。今の戦力で勝てると思うか?」
「フッ、まあ見ていろ」
とマクギリスが言うのでオルガは状況を見ていることにした。
シャトルが大気圏を超えて宇宙に出るとすでにダインスレイブを構えた敵の部隊が待ち構えていた。
喉元に武器を突きつけられている感覚にオルガは慌てるが、マクギリスの態度は落ち着いたものだった。
「おい、どうするんだ? やばいんじゃないか?」
「フッ」
「おい、マクギリ、うおっ」
戦場で突如として爆発の炎が上がってオルガは慌ててジャンプした。だが、撃たれたのは自分達では無かった。
「フッ、計算通りだな」
「何?」
オルガは外を見る。見覚えのある戦艦がダインスレイブ隊と交戦を開始していた。
通信が入る。モニターに現れたのは名瀬のスーツを着た懐かしいアジーの顔だった。
「加勢に来たよ、鉄華団」
ダインスレイブ隊と交戦を行っているのはタービンズの部隊だった。予期せぬ横からの攻撃にダインスレイブ隊は次々と落とされていく。
オルガは腑に落ちない物を感じていた。アジーに向かって訊ねる。
「なぜだ? 俺達はあんた達とは手を切ったのに。それに親父に迷惑を掛けちまうだろう」
親父とラスタルは裏で繋がっている。その関係はお互いに利益を得ようとしながらも、いつでも相手の弱みを握って優位に立とうと探りを入れ合っている。
この戦いへの介入が迷惑を掛けることは明らかだった。だが、アジーは問題無いと笑い飛ばす。
「私らがアリアンロッドと事を構えた。そんな事実が宇宙のどこに存在するって言うんだい?」
「え?」
戸惑うオルガに今度はマクギリスが補足する。
「ここにはマスコミが存在しない。ラスタルが禁忌を犯したことを知られることも無ければ、誰かが戦闘に介入したということもまた知られることはない。知られなければその事実は無いのと同じだ。テイワズもそんな情報は無いと突っぱねることだろう」
「さすがはマクギリス。相手の策を逆手に取ったのか。俺はあんたが恐ろしいぜ!」
「だが、それも奴を逃がせば水泡に帰す。お互いに相手を殲滅することが最善手なのは同じなのだ。あてにしているぞ、鉄華団」
マクギリスの読み通り、ラスタルはテイワズにこの問題に干渉させることは選ばなかった。
余計な情報を相手に与える必要など無いしネズミが一匹増えただけの事で慌てる必要もまた無かった。
ラスタルは非情とも言える冷静さで状況を判断出来る男だった。ゴミが増えたのならそこも掃除すればいいだけのことだ。
だが、アリアンロッド艦隊の圧倒的な優勢だと思われた宇宙の戦闘だったが、その戦局は徐々に鉄華団が押してきていた。
「ガンダムか」
その目覚ましい活躍がラスタルの視界の前の宇宙でもチラチラとちらついている。中でもやはりバエルは目障りな存在だった。
「モビルスーツ隊を全機発進させろ。宇宙ネズミどもを踏みつぶせ。ガエリオは何をやっている?」
「ガエリオ様ならもう出撃されました」
司令官の言葉に部下が答える。ラスタルはにんまりと微笑んだ。
「血気盛んなことだ。よほどライバルと雌雄を決したかったと見える」
ガエリオが出たのなら何の問題も無いだろう。ラスタルは落ち着いて闇の中の戦局を見定めることにした。
復讐に燃えるガエリオは強かった。その鬼神の如き強さはバエルとバルバトスを同時に相手にしても全く引けを取らなかった。
だが、キマリスヴィタールはオルガには全く執着を見せなかった。ガエリオは決着を焦りすぎたのだ。そこを見逃すマクギリスでは無かった。
キマリスヴィタールが面倒な邪魔者の排除に一瞬の隙を見せた瞬間に、バエルは接近して黄金の双剣を走らせた。バエルの高機動とマクギリスの腕があったからこそ実現出来た素早い動き、圧倒的な剣の斬撃だった。
「おのれ、マクギリス! このままでは終わらんぞ!」
キマリスヴィタールの残骸は宇宙の闇へと消えていった。戦いの終わりにマクギリスは小さく息を吐いた。
「君達がいてくれて助かったよ」
「オルガが上手くかき回してくれた」
「そうか。何か照れるな」
「後はラスタルを討つのみ!」
「あれを沈めればオルガの望みが叶うの?」
「ああ、俺達みんなの望みがな! 行くぜ!」
三機のモビルスーツが向かう。
圧倒的な凶器が迫ってきていてもラスタルの不敵な笑みは崩れなかった。
「マクギリス、あの小僧がここまでやるとはな。この私に切り札を使わせるまでに成長するとはつくづく罪な男だ」
ほくそ笑む彼は宇宙の闇を見つめる。その深淵なる空間に白い翼を持つ巨大な影が姿を現し始めていた。