マクギリスが強くて草バエル   作:けろよん

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「待て! あれは」

 現れる不吉の影に直進するオルガはストップを掛けた。マクギリスと三日月も前進を止めた。

 たった一体の敵なら特攻する道もあっただろう。だが、影は次々と現れる。

 白い翼を広げたその巨大な姿を誰も忘れるはずがない。

 現れたのはかつて三日月を苦しめたMAハシュマルだった。たった一機でも圧倒的な強さを見せつけた死の天使だった。その大軍勢だった。

 宇宙空間にその美しくも異様の姿を現した1000機のハシュマル軍を前にさすがのオルガも絶句するしかなかった。マクギリスと三日月は静かに戦況を見つめている。

 ラスタルから通信が入った。

「驚いたかね? 我々が量産したのはダインスレイブだけでは無かったのだよ」

「ラスタル・エリオン。お前はどこまで禁忌に手を汚すつもりだ」

 いつもは冷静なマクギリスも言葉に棘が出るのを隠せなかった。

 明確な敵意をぶつけられても、ラスタルは眉一つ動かさなかった。

「私は勝つための手段は選ばない。この世で最も罪なことは何だと思う?」

「…………」

 誰も言葉を返さない。この場で罪を犯していない人間などいない。ラスタルは自慢げに話を続けた。

「それは敗北するということだ。敗北は多くの兵士達の犠牲を無意味とし、残された者達にも深い悲しみを与えてしまう。私は司令官として喜んでこの手を汚すこともしよう。だが、この私にも慈悲はある」

「何だ?」

「降伏したまえ」

「お前が私達を見逃すとは思えないが」

「それは当然だ。私は楽な死を選ばせてやろうと言っているのだ。誰も苦しみたくはないだろう?」

 その大胆な提案にマクギリスは笑いを見せた。ラスタルは怪訝に眉根を寄せた。

「何がおかしい?」

「お前が卑怯な奴で良かったと思ったのだ。おかげで心置きなくこちらもバエルの真の力を使うことが出来る」

「はったりだな。そんな物があるならもっと早く使っていたはずだ。火星に逃げる必要も無かったはずだ」

「そうだな。私もまさか使う機会が来るとは思っていなかった。もっと早くにこの状況になっていればな。では、教えてやろうか! バエルはMAを操ることが出来るのだ!」

「は?」

「MAをっ!! 操ることが出来るのだあああああああ!!」

「何だとおおおおおお!!」

 さすがのラスタルも驚きを隠せなかった。びっくりして目を見開く彼を、マクギリスは勝利者の流し目で見送った。

 バエルは戦場を駆ける。宇宙空間の闇を貫く千のビームを次々と避け、千の天使から射出されるプルーマの大軍を神速の剣技で切り伏せて、数多の爆発の炎を背にハシュマルの大軍の中に突っ込んでいく。

「愚かな。八つ裂きにしろ!!」

 ラスタルが命令するまでもなく、MAはすでに動いている。ガンダムを敵と定め次々と振るわれる腕とワイヤーブレードをバエルはたった二本の剣で全て弾き返し戦場を駆け巡る。

「忘れたのか? このバエルがかつての厄災戦を終わらせた機体であることを!」

 アグニカに出来たことがマクギリスに出来ないわけもない。そこにあるのはかつての伝説の再現以上のことだ。次々と繰り出されるビームをバエルは次々と避けていく。もう何機目かも分からないプルーマを斬り捨てる。

 もしMAに感情があったのならば感じるのは恐怖だろうか怒りだろうか。今となってはどうでもいいことだ。

 戦場を一通り駆け巡ったバエルは満足したかのように1000機のハシュマルの集まる中心で静止した。それは諦めたからでは無い。準備が終了したからだ。

 バエルは1000機のハシュマルの全てをロックオンしていた。これから始まるのは王者の裁きだ。マクギリスは吠える。

「見せてやろう! バエルの力の真髄を! バエルの威光の前に従うがいい! MA操りこうせえええええん!!」

 バエルから発射される怪光線が1000機のハシュマル軍団を照らし出す。ハシュマルは全てバエルの支配下に入った。

 言葉を失うラスタルに掛ける慈悲など無い。

「さあ、今こそ逆賊ラスタルを討つのだあああ!」

 バエルの号令の元、ハシュマル軍団がアリアンロッド艦隊に襲い掛かる。悪夢のようなその光景にアリアンロッド艦隊は大混乱に陥った。

 白い天使達と黒いプルーマの群れが次々と船を撃破していく。

 その景色をオルガと三日月は遠くから見つめていた。

「オルガ、俺はどうしたらいい?」

「俺達の目的は一つだ。生き残ることだ!」

「了解」

 崩れゆくアリアンロッド艦隊の戦線をもう誰も維持することなど出来なかった。

 旗艦にも直撃を食らい、爆発の炎が吹き上がる船からラスタルは脱出することを決めた。

「おのれ、マクギリスめ! この場の勝利はお前にくれてやろう! だが、ここだけだ! 地球に帰ってお前を貶める悪い話をあること無いこと吹聴してやる! お前の望む未来など来させはしないぞ!」

 だが、彼は脱出することは出来なかった。その前に立ちはだかる者がいたのだ。ガエリオだ。

「ガエリオ、何をしている! 早くマクギリスを倒しにいかないかあああ!!」

 柄にもなく怒鳴り散らすラスタルをガエリオは静かな視線で見つめ返す。その瞳は静かだが確かな炎が宿っている。

「アリアンロッドは正義の艦隊です。私は正義を守る騎士としてあなたを逃がすわけにはいかない!」

 ガエリオは銃を構える。

「お前もヒットマンかああああああ!!」

 ラスタルも銃を抜こうとするが、ガエリオが引き金を弾く方が早かった。ラスタルの体は撃ち抜かれ、吹き上がる炎の中へと消えていった。

 ガエリオは銃をホルスターに収め、宇宙を見上げた。

「マクギリス、決着はまた今度付けるとしよう」

 戦いの終わっていく戦場を一瞥し、ガエリオはすぐにその場を後にした。

 

 

 宇宙に太陽のような赤い炎が燃える。

 マクギリスは禁忌の力を後世に残すことを選ばなかった。戦いが終わって1000機のハシュマルは次々と自爆していく。

 マクギリスは眩しく宇宙を見つめた。

「これから改革が始まる。このバエルの元で!」

 黄金の剣を振り上げる。光が照らし出すその威風堂々とした白いMSの姿はかつての伝説が再び始まることを予感させた。 

 こうして歴史にその真実を知られることはなかった一つの事件は収束した。


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