これだけ経って、閑話ってホント・・・。
あとめっちゃキンクリしてます。
閑話 ちび虚と出逢う朱鷺
上級のでっかいやつと戦っていたわたしは、突然あんぐりと口を大きく開ける様にして現れた孔に落っこちてしまいました。
更木隊長(呼ぶことは大分慣れてきました)他数名の隊士はなんとか逃れたようで、現在この場ではわたし以外の気配がありません。ちょっとほっとしています。なぜかって、ほら、あんな野獣どもとこんなだだっ広い荒野の真ん中に放り込まれたくありませんし。ぜったい、話しも聞かずにずんどこ歩いては虚とかち合ってまたかち合う獣道コースに決まっていますって。
話せる部類のパチンコ玉と虹睫毛の二人か内一人ならまだマシかもしれないですね。やちる副隊長はやまじーのお茶を戴く際なら間違いなく彼女単品ですからご一緒したいですが、それ以外ではもれなく更木隊長が付いてくるのでお断りです。更木隊長は獣道コースオンリーというか、彼本体が獣なので論外です。
━━射場、 阿散井、帰ってきて。
かつての常識人に思いを馳せたわたしは、ひとまず現実から目を背くことをやめました。
改めて周囲を見渡してみますが、一面の砂漠地帯です。現世の写真で見たことのあるトットリサキュとかいうやつですね。
この風景と、わたしが未だに死覇装姿でいることから、わたしは以前資料で知った虚圈に居るのではないかと予想しました。
「やばぁーい!」
そして絶叫しました。
あわてて、わたしは腰の斬魄刀の有無を確認します。ありました。胸を撫で下ろします。
あいっかわらず特殊な形状にもならず目立った能力も無い、始解したのか判断できない浅打仕様の外観ですが、これでも唯一の命綱。
眼帯は・・・まだそのままでもいいのでしょうか。霊圧って、ヘタに漏らしているとわらわらと虚が集ってくるんですよね。更木隊長や十一番隊の皆さんからは「探す手間が省けて良い」と、脳みそが筋肉で構成されていることを示唆する意見を頂きましたが。
わたしは、左目に装着された無骨な眼帯をひと撫でしながら考えをまとめます。
結論、装着したままに慎重に行動することに決めました。しかし、ご覧の通り遮蔽物の一切が存在しない真っ白な世界で慎重もなにもありません。ものの数刻で、わたしは自分以外のモノと遭遇してしまいました。
「ぷひっ、ぷ、ぷひ~!」
それは、とっても愛らしいナリのうりぼうでした。
「キッシャーッッ!」
それは、とっても殺意マシマシのカマキリでした。
二匹ともまごう事なき虚ですが、子供ですら抱えて持ち去れそうなミニサイズです。霊圧も、雀の涙ほどです。
小さいからだで頑張って威張っている様子になんだか癒されてしまいます。
「ああ、そんなに警戒しないでください。どうしました? 迷子ですか。よしよし」
わたしは中腰になって手近に居たうりぼうを抱き抱え、あやします。あ、カマキリが鎌をもっと振り上げて怒ってしまいました。
直後、必死さを感じさせる金切り声を上げて、うりぼうがわたしの腕から抜け出し、カマキリの側へと立ちます。キッとわたしの方を睨み、我が身を盾にせんとする気迫を感じました。
見たところ、二匹はお友だち同士のようですね。特にうりぼうが友だち思いのようです・・・。
「って、あれ? カマキリ怪我しているじゃありませんか!」
カマキリの脇腹を注視すれば、爪で裂かれたろう傷が真一文字に走っています。傷の大きさから察するに、恐らく彼らと同等の個体から受けたものでしょう。
突然疼いたらしい傷の痛みに、カマキリがそれを庇うしぐさをすると、うりぼうが目敏く行動を起こし、甲斐甲斐しく傷を舐めてやっていました。
その時のうりぼうがあんまりにも悲壮感に溢れていたせいか、わたしは思わず身を乗り出していました。
「診せてください。治す術があります」
「ぷ?! ぷひ~」
「シャ、ッシャ」
言葉が通じるか疑問でしたが、杞憂だったようです。
わたしの言葉を受け取ってくれたうりぼうが、嫌がるカマキリに必死に説得を試みています。ですが、カマキリは断固として拒否を続けました。わたしを警戒し続けているようです。死神と虚という関係上当然ですが、少し残念な気持ちになりますね・・・。
せめてもの気持ちに、常に持っている包帯を適当な長さに切って、少し離れて彼らの目の届く場所へ置き、わたしは彼らから離れることにしました。
◇ ◇ ◇
宛もなく歩き続けて、どれくらい経ったでしょうか。わたしは未だに迷子のままです。
幸いなことに、途中で虚に遭遇することはありませんでしたが、不思議ですね。一体くらい居てもおかしくはない筈なのですが・・・。
それはともかく、探索を続けたい気持ちでしたが、わたしが落ちた孔を目安に救助隊が来てくださっていた場合を考えて、最初の場所へ戻ることにしました。
「誰かいらっしゃいませんか~?」
虚空に呼び掛けても、当然のことながら返事はありません。わたしは未だに迷子のままです。
なんということでしょう。このままわたしは干からびて、かば焼きのように平べったくなったとかげのように成ってしまうのでしょうか。
「いやだぁ・・・わたしは、死にたくないぃ」
死ぬなら老衰、それも家族に看取られながらって決めているんです! こんな、骨も見つけてもらえなさそうな場所でお陀仏なんでまっぴらですからー!
「ぷひっ、ぷひ━━━━!!!」
「・・・おや?」
お先の真っ暗さ加減に打ちひしがれていると、ふと、耳になにやらつんざくような音が届きます。音の方向を向いてみましたが、地平線が広がるばかり。しかし、その方向へ瞬歩で進んでみると、大きなクレーターが存在していました。中心に、大小の影が動いていることが確認できます。
「うりぼうとカマキリ━━━━とアレ大虚っ! それもアジューカスですか?!」
最悪です。わたしは今この瞬間の間の悪さを呪いました。
大虚━━━━メノスグランデ、メノスと略称で呼ぶのが一般的です。まあ、普通は滅多にお目にかかれない大物の類いですね。隊士のほとんどは教本の挿し絵でしか姿を知ることはないでしょう。
ギリアン、アジューカス、ヴァストローデ。順に強さの値がヤバくなっていきます。 特にヴァストローデ。こいつに至っては、なんと、護挺十三隊の隊長格を凌駕する戦闘力を持つとのこと。こんなのが現れたらトンズラすること事態成功確率が低いです。死力尽くさなきゃです。ギリアンはいわゆるしたっぱ。で、今目に映っているアジューカスですが・・・。
「でっかいクワガタですかね・・・」
一対の、外側に曲線を描いた突起。全体に甲殻らしき進化を遂げたらしい鋼皮に覆われているため、いつか林で見た昆虫を思いだし、わたしは呟きます。
クワガタのアジューカスはうりぼうとカマキリを見下ろしています。大顎を打ち鳴らして、相手を脅えさせて楽しんでいることが見てとれます。性格の悪い虚のようですね。彼もしくは彼女の大きさですが、恐らくわたしより数倍の大きさです。昆虫であれば幹に足を引っ掻ける用途でしかない鉤爪は、ヘタな獣を凌駕する凶器として十二分に機能する程の大きさ。カマキリがつけられた傷跡はこれが原因でしょうか。
絶体絶命なうりぼうとカマキリですが、相変わらず相手を威嚇し続けたり、そんな彼の盾になり続けたりといった様子でした。それを歯牙にもかけず、クワガタは鼻で笑うように言いました。
「そろそろ、追いかけっこも飽きたなぁ。
食前の運動も済ませたことだし、もうお前ら俺に食われちまえよ」
クワガタの言葉に反発するように、うりぼうは必死に前へ出ますが、足蹴にされて転がってしまいます。カマキリは傷が響いていたのか、もはや立ち上がることができていません。
「ぷぃ、ぷ~。・・・ぷゅう、ぷひ~!」
悲壮に暮れたうりぼうの鳴き声が、わたしの鼓膜を震わせます。・・・不意に、先刻にうりぼうが見せた泣き顔が脳裏に浮かびました。
そ、そんなのを見せられたら・・・放ってはおけないじゃないですか!
「やあああっ!」
わたしは、腰に差した斬魄刀を抜き放ち、肩に担ぐような大上段に構えてクレーターの上空へ飛び上がると、重力に身を任せて落下。わざと発した掛け声はうまく機能してくれて、クワガタの注意をこちらへと反らします。しかし、クワガタの反応は鈍いもので、わたしは容易に彼の大顎を切り落とすことができました。着地後、うりぼうとカマキリを背にしてクワガタへ向き直ります。
始めてしまったからには、相手が体勢を立て直さないうちにさっさとヤってしまうのが吉です。
わたしは現時点で自分の最強だと信奉する一心君直伝の技を叩き込むべく、ふたたび大上段に構えます。斬魄刀の特性上、際限なく霊圧が上昇し続けるわたしにはぴったりだという理由で一心君が立場に関係なく教えてくださいました。・・・その後、立場が逆転したじゃないかというツッコミは無しの方向で!
霊圧を、斬魄刀の刀身へ集めます。圧縮し、圧縮し、圧縮━━━━! そして、クワガタがようやくこちらへ向ける殺気を色濃くした瞬間を見極め、気合一閃!
「月牙ァ、天衝ォォ━━━━!!!」
過去例外なく虚を斬滅した鮮やかなブルーは、これまで通りにわたしに仇なす敵を呑み込んでいきました。
月牙天衝の衝撃で吹っ飛んだ砂埃が晴れて、周囲一帯の霊圧を探査。わたし、うりぼう、カマキリ以外の反応がないことを確認しました。そして直ぐに背後へ振り向き、カマキリへ駆け寄ります。カマキリは嫌がりましたが、おかまいなしです。即行で回道を浴びせてやりました。
「ぷひ~。ぷひ~っ」
「こ、こぉら。くすぐったいですってば」
「ぷーひっ!」
みるみる内に塞がっていくカマキリの裂傷にうりぼうは驚くと同時に喜びを露にして、わたしにしきりに鼻を押し付けてきます。「ありがとう」と、そう言ってくれているような気がして、不思議と悪い気分ではありませんでした。
やがて状態が安定して、安らかに寝息をたてているカマキリに、わたしはもう心配はいらないと判断して回道を中断しました。
わたしはうりぼうの頭を撫で、寝ているカマキリの面倒を見てあげてほしいと頼み、彼を地面に下ろします。今まで隙あらば無理に撫で回そうとしていたので疑問に思ったのでしょう。不思議そうにこちらを見上げています。
そろそろ、お暇しなくてはいけません。わたしが最初に降り立った付近から、別の死神の霊圧を感じ始めたのです。
「わたしはもう行きます。お節介だと思いますが、達者で暮らしてくださいね」
「ぷひ!」
うりぼうの返事を最後に、わたしは瞬歩で迎えの場所まで移動しました。一言二言隊士との問答を終えた後、門を潜ります。潜りきる直前、ふと、うりぼうの声が聞こえた気がして後ろを振り向きました。
「どうしました?」
「いいえ、いいえ。
━━行きましょう」
隊士の問い掛けに、わたしは先を促すことで返しました。
思えばなんとも奇妙な出会いをしたものです。短い間でしたが、彼らのことを気に入っていたことをわたしは自覚しました。死神と虚の関係を思えば異端な思考であることは百も承知です。ですが・・・願わくば、互いに刃を交えることになりませんよう━━。
本編の2話は、藍染サマがもしかすると明かしてくれるかもしれない身の上話が出てきたら出来上がると思われ