2人目の男性操縦者を捜索しない事に更なる反感を抱かれる事を怖れた女権団はIS学園に何人かの生徒を選出し、世界中を捜索する事を指示していた。
IS学園理事長である轡木重蔵が更識響弥捜索の担当に指名した教師は実力的に1組の担任と副担任である織斑千冬と山田真耶の2人。そしてその2人が選出した生徒は1組と2組の専用機持ちと楯無だった。簪が選ばれないのは確実に雪菜の安全の為だ。専用機を手に入れた事で更に貢献できる様になった雪菜を、情緒不安定な生徒を入れる事で怪我をさせる訳にはいかないという至極真っ当な判断であった。だが、その決定に異義を唱える者が1人....
「どうして私が捜索隊に入れないんですか!?実力も充分ですし、専用機だって有ります!資格は充分のハズです!」
「...何度も言っているだろう更識妹。お前は以前舞原に危害を加え、気絶させた事がある。そんな不確定分子を隊に入れる事は断じて容認出来ん」
更識簪、その本人だった。当たり前だ、響介が何処に居るのかも知れない以上、自分の
だが、それは簪にとって都合良く改変された『現実』。実際の雪菜は簪と離れる事を何とも思っていない。強いて言うなら本音と離れる方が心配になる位の、簪側からの一方的な想いだった。そもそも雪菜は記憶を封じている際の『お節介』として簪を手伝っただけであり、其処には好意も同情も憐れみも無い。ただ自分から抜け落ちた記憶を補完する為にやっただけの事だ。其処には何の想いも介在しなかった。
「私と雪菜は互いに無くてはならない関係なんです!私が行かなきゃ、雪菜の本来のポテンシャルは発揮出来ません!」
「その妄言に何の証拠がある?」
「本人を呼べば直ぐに分かります!雪菜自身が証拠です!」
「...どうしますか、織斑先生」
「....現実を思い知らせてやれ。舞原を呼ぼう」
流石にもう出発が近く、簪には構っていられない状況なのだ。故に初めはスルーしていたのだか、暴れるし大声を発するので相手をした方が仕事が捗るので相手を
「何でしょうか、織斑先生」
「あ、雪菜!」
「...簪さん?」
怪訝そうな目線を向けられているのにも気付かず、自分の世界での話を雪菜に話す。自分と雪菜は通じあっていて、互いが無くてはならないといった旨の事だ。それを全て聴いた雪菜は溜め息を1つ吐いてから言った。
「その
その一言で、周囲は凍り付いた。簪は雪菜から告げられた冷酷な言葉に、他の雪菜を除いたマトモな者は雪菜がストレートに相手を貶したからだ。貶す、と言うよりは正論を返しているだけなのだが。
「実際、私は簪さんを友達とは思っていません。知り合い程度です。私達が想い合っている?私はレズではありませんから、貴女が友達だとしても友情以上の好意を向ける事は永遠に無いです。私は簪さんが居なくても普段のポテンシャルを発揮出来ますし、更に言うなら簪さんが居ない方が集中できますので是非とも来ないで頂きたいです」
「え、あの.....雪菜....?」
「あ、そうですね。コレもお返ししますので」
「えっ.....!?」
つかつかと近寄り、簪の前に置かれている机に叩き付けられたのは簪が仕掛けていた盗聴器の全てだった。それはつまり、雪菜は盗聴器の存在に気付いておきながらも無視していた、ないしは改造して録り溜めしていた音声をループさせていたという事だ。それから予測できる事実、それは雪菜は簪の想いに気付きながらも無視していたという事である。
「気付いてないとでも思いましたか?馬鹿馬鹿しい。私の匂いではない残り香がありましたし、少しだけ物が移動しているのもバレバレでした。それに告白されてから首を絞められたんです、忘れる訳が無いでしょう。....そもそも、私は貴女からの告白を御断りしたハズです。だから首を絞めたのでしょう?」
「あ、ぁあ.....」
「もう2度と近付かないで下さい。正直、ウザいですよ」
「....そ、だ。嘘だ!お前は雪菜じゃない!偽者が、雪菜の声で喋るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「少し都合が悪くなれば私を偽者、ですか。私は元々、都合の良い夢物語に逃げる人は大嫌いです。もう一度言います、私に2度と
いきなり掴み掛かってきた簪の襟を掴み、思い切り投げて床に叩き付ける。流石は更識の一族、半狂乱になりながらも受け身を取って衝撃を逃がしていた様だった。だが雪菜から投げ掛けられた言葉が信じられず、衝撃的だった為か心神喪失状態に陥ってしまった。
「時間です、行きましょう」
「....舞原、本当に良いのか?あの状態では、もう...」
「構いません。正直、あの引っ付き方にはうんざりしてましたから」
選ばれた全員が艦に乗ると、静かに空へと飛び出した。操縦は殆どAIによって行われ、基本的に自由に過ごす事が出来る。風呂や農業用プラントも用意されているので、衛生も保てる上に新鮮な野菜を食べられるのだ。
更には並のISを凌駕する兵器と装甲の厚さ、lS学園よりも良い道具が揃った整備ドッグ。ISコアの反応を辿る事が出来るレーダーなど、篠ノ之束の技術だからこその設備が整っていた。
「【絶月】の反応は有りますか?」
「ふむ....極めて弱い反応だが、しっかりとあるな。一応其処に向けて進路は決めてある」
「それ、何時間くらいで着くんだ?」
「そうだな....もっと航行速度を上げれば3時間くらいか?最大ならもっと早いだろう」
「早いなら早いで良いんじゃない?」
「でも、少しは訓練する時間とか欲しいかな。多分戦いになるとは思うしね」
(....お兄ちゃんと、ね。まぁ無理だと思うけど)
「3時間で良いでしょう。対策も立てたいですし、ステルスで、あの人の索敵距離の中に入らない様にしましょう。それに、艦の中を完全に把握したいですしね」
「なんだよ.....どうなってんだよ、これ....」
「ッ....これは、流石のおねーさんでもキツいわね」
「惨い....ッ!!」
「子供や老人まで....許せん!」
「お兄ちゃん....」
「響弥くん....」
響弥が現在居る街の光景は、惨すぎるものだった。路上は人の血で濡れ、辺りには苦悶に歪んだ表情を浮かべた生首、身体の断面が見えている死体など、現代では到底見られない様な光景が広がっていた。そしてその中心で、横顔に笑みを浮かべながら人を殺めているその人こそが、彼女達が捜していた男だった。
「織斑先生、3機のISが...ISが、墜とされました」
「元々響弥の義手義足はISを墜とす為に造ったものだが...義眼が紅い?そんな機能は追加してはいないぞ」
「雪菜さん!と、止めなきゃ!こんなに響弥は人を...人を殺してる!」
「....恐らく、もう生存者は居ないでしょう。ですから響弥くんを追跡します。そして次の街に辿り着いたら...」
「辿り着いたら?」
「私が....あの人を墜とします」
その一言に、並々ならぬ決意がみなぎっている事は明らかだった。ひたすらに映像に映る響弥を見詰め、拳を握りながら言い放つその姿はまるで記憶を封じられる前の雪菜の様だった。