「ねぇ響介、入っても良い?」
「あぁ、良いぜ」
艦の中にある響介の部屋に尋ねて来たのはシャルロットだった。何だかんだ、記憶を喪ってから落ち着いて話すのは初めてだったりする2人だ。どうしたものか、そう考える響介より先にシャルロットは話を切り出した。
「響介は僕を恨んでる?」
「もしかしなくても、俺の手足と眼の事か?あと家族も」
「...うん」
きっと恨んでいて当然、そんな反応だった。だが、シャルロットは甘く見ていた。赤羽響介の楽天ぶりを。
「恨んじゃいねーよ」
「え?」
「全部菫先生から聴いたけど、実際お前は関与してない訳だろ。お前がもっと高圧的で嫌なヤツなら恨んだかも知れねーけど、雪菜がお前を嫌ってない訳だしな。そんなヤツを恨む程、心は狭くねーよ」
「でも、僕の家族は君に取り返しの付かない事をして...」
「取り返しが付かないのがどうした?お前の家族が俺にした【間違い】は決して俺にとって【不正解】じゃなかった。世間は【間違い】と【不正解】をイコールで繋ぐけど、実際はそうじゃない。【間違い】は正解に転ぶ事もある。次に生かせる。だけど【不正解】はどう転んでも正解にはならねーんだ。もしお前の家が穏便に退去を頼み続けてたら、俺は
「.....凄いね、響介は」
「あん?」
「僕ならそんな簡単に踏ん切りを付けられないから。僕と響介の立場が反対だったら、僕は絶対に許せなくて酷い態度を取り続けると思うんだ。でも響介はそんな事なくて、僕にも皆と同じように接してくれる。それが凄いなって」
響介は右手をシャルロットの額に当てると、思い切り指で弾いた。ただのデコピンなのだが、右手は義手、即ち金属だ。スカンッ!と心地好い音を出してデコピンは直撃し、シャルロットは仰け反った。
「う.....結構痛い...」
「これで相子だろ」
「相子?」
「お前はウダウダ考えすぎなんだよ。当事者の俺が許してんだから、気にする事なんて無いのによ」
「そんな簡単に割り切れるものじゃないんだよ」
「なら無理矢理割り切れ。俺はそんなに謝られても実感が無いんだから、謝った所でって話だろ?」
「その実感が湧かないのも、大元は僕の家族が――」
「あーもう!何だ?その理論で行くと俺の不幸は全部お前の家族のせいか!?アホか!んな訳無いに決まってんだろ!」
「確かにそうだけど...」
「....それに、お前はもうデュノアの人間じゃねーだろ。お前はシャルロット・メイルだろうが。そんなお前が謝った所で、デュノア家のやった事の謝罪にはならねー。だから意味は無い、これで良いだろ」
「響介がそれで良いなら、僕はそれで」
「変に引け目を感じて、そんな態度になるのは仕方無い。だけどな、俺は感謝してるんだぜ?」
「感謝?そんな事をする要素が何処にあるの?」
本気で疑問に思うシャルロットの隣で響介は虚空に向けて手を伸ばす。そしてゆっくりと何かを掴む様な動作をしながら言った。
「人は、痛みを感じるとどんな大切なモノでも手放す。でも、俺の
「......そうなんだ」
「俺は雪菜から聴いたけど、お前の機体の名前の由来知ってるか?」
「由来?.....ううん、知らないよ」
「自分で考えてみな。【エクレール】、その名前の意味をな」
響介はこれで話は終わりだ、と言わんばかりに布団に潜り込む。IS学園に帰ってきて少し経ったとは言え、響介の身体的な疲労は未だに回復したとは言えない状態なのだ。訓練は雪菜の監視下で2時間まで、そして夜更かしは禁止という制約の元で生活しているのだ。
シャルロットは響介を一瞬見ると、部屋から出ていく。響介への引け目は無くなったが、自分の機体の名の由来についての疑問を持って。【