目を覚ました響弥の目に映った光景は、更識邸にある自分の部屋の天井だった。上体を起こそうとしたが、2つの激しい違和感が響弥を襲った。まず1つ目は--
「.....舞原?」
自分と
「ぐおおぉぉぉぉ.....
「当たり前だろうに。内臓の殆どは損傷、四肢の骨は皹が入っていない方が少ない程だぞ」
「マジで?」
「あぁ、大真面目だ。.....全く、お前は少し目を離すととんでもない怪我をして帰ってくるな」
「ハハハ....言い返せねぇや」
「ったく、もし私が出掛けていたらどうするつもりだった?この子も重体だったが、君も君で死にかけだったんだが?」
「アンタなら助けてくれると思ってた。あと、そうそう出掛けねぇだろアンタは」
「....まぁ、そうだな」
襖を開けて現れたのは響弥の主治医、森守菫だった。内科外科、はたまた精神科など、全てのジャンルに於いて【天才】の名前を欲しいがままにした女性だった。法律や科学、更には帝王学なども響弥に叩き込んだ張本人でもある。死に体だった響弥を生き残らせたのもこの女性である。
「ぅん....更識、くん...?」
「お、舞原。起きたのか?」
「はい....って、ええぇぇ!?」
「ど、どうした?...あぁ、そういう事か」
目を覚ました雪菜が叫んだ理由を簡単に察した響弥は布団から抜け出そうとする。しかし、腹部に走る激痛に呻いてしまう。
「べ、別に出なくて大丈夫ですよ?この布団は元々更識くんのでしょうし...」
「そ、そうか....で、菫先生。どうして舞原の髪が短くなってんだ?」
「医療用ナノマシンを使ったのだが、その際に遺伝子情報を刻まなければならなかった。血液では不都合が有ったので、悪いとは思ったが髪を使わせて貰った。あと、副作用として唾液や涙に医療用ナノマシンが結構な量含まれているぞ。大怪我した時に舞原くんがコイツの患部を舐めるなり何なりすれば応急手当ぐらいになるぞ」
「な、舐め....」
「
「確かに、眠気は凄いな....ちょっくら寝とくわ」
「私もそうします....御休みなさい、更識くん...」
同じ布団で仲良く眠る2人を部屋に置いて、菫は自分の部屋に帰ってパソコンの電源を点けて絶月のデータを見る。そして、やはり異常が有った事を確信した。
「....何故、絶対防御が無くなっていた?元々の機能の切断は創造主すら出来ないハズだ」
元々がおかしいのだ。何故響弥が怪我をしているのか、何故ISの装甲の配置が変わったのか、そして
そして雪菜の容態。あの状態ではあと5分、いや、3分も生きられるか怪しい所だった。その状態の患者を抱えて航行、そしてギリギリで到着。幾らISとは言え、これは御都合主義過ぎる。
「....学園から出発した時間と辿り着いた時間、幾ら高機動型とは言っても速すぎる。そしてこの空間の乱れは何故...?」
IS学園から
「まさか....
陸上競技で例えよう。【時間】という凄まじく速い選手に響弥は雪菜を背負って挑んだとする。マトモに競えば時間が圧倒的な速さを見せ付けてゴール。この場合の響弥の敗北は雪菜の死亡を意味する。しかし、
時間の走る距離が1キロ、響弥は50メートルしか走らないとすれば結果はこれでやっとイーブンにまで漕ぎ着けたと言えるだろう。これからは雪菜の心持ち、響弥が耐えられるかどうかの問題になる。となれば、結果は1つだろう。
「
絶対防御の対象の変更だろう。そうでなければ辻褄が合わない。実際、ISの飛行には人が耐え切れるかどうかのギリギリのGが掛かる。その状態で、更に胸に大きいガラスが刺さっていたとなれば、絶対防御が働かねば生存する事は出来ない。そして響弥の大怪我。本来の絶対防御は搭乗者の身体をあらゆる負荷から守る為にあるのに関わらず搭乗者たる響弥が此処までの怪我をしたというのは、絶対防御が雪菜に働いたからだという事だ。
「....別にそれは良い。だが、何故絶月の装甲が変わった?そんな機能は...」
無い。正確には
「.....ハァ、アイツは本当に面倒を持ってくる。ったく、世話の焼ける教え子だ」
薄暗い研究室に長く灯る事の無かった無機質なパソコンの光が絶月のあらゆるデータを映し出し、菫はエナジードリンクや珈琲を飲みながら研究を始めた。たった1人の、自分が認めた教え子の為に。