保健室に連れて行かれ、丁度出張中だったのか保険医が居ない机に座る雪菜。響弥は雪菜に引いて貰った椅子に座り、雪菜が喋り出す事を待っていた。
「....更識くん、私は貴方の専属です。そうですよね?」
「あぁ、そうだな。お前は俺の専属だ」
「なら、話して下さいよ。事情を知っているのは私以外にも居ますが、貴方はどうせ話さないでしょうから。私には話して下さいよ。私は貴方の、専属ですから」
「.......それもそうだな。多分、近い内に楯無も気付くだろうし」
そう言って響弥はズボンのポケットからスマホを取り出し、1つのアプリを起動して雪菜に見える様に机に置いた。其処には、響弥が更識としての権力を生かして収集してきた情報が几帳面に分類した上で保存されていた。響弥は『デュノア社』と分類されている所をタップし、情報を雪菜に見せる。
「これって...」
「デュノア社社長の家庭内のデータだ。その中に『シャルル・デュノア』という名前どころか子供が存在しない」
「確かに、と言っても私が社長に会ったのは片手で数えられる程の回数しか有りませんが...私は奥様以外の身内を見た事が有りません」
「奥様なんて呼ぶなよ。その話は...まぁ良い。取り敢えず問題は『シャルル』という名前の
「まさか、愛人の子供ですか?」
「大正解。でも、それでも『シャルル』は存在しない」
「どういう事ですか?」
「デュノア社社長の愛人は1人しか居ない。そしてその間に1人の子供を授かっている。名前は『
「そ、それって...」
「あぁ、国家に対する偽証罪だ」
そう、この世界に『シャルル・デュノア』は存在しない。世界で3番目の男性操縦者の本来の姿は『シャルロット・デュノア』という
今の世界のバランスは危うい。何故なら、本来なら女しか扱えないISを日本人の男性が扱っているからだ。今の世界は女を中心に動いていると言っても過言ではない。既存の現在兵器を悉く無効化し、傷1つ付ける事も儘ならない様な兵器を女しか扱えないのならそうなって当然だろう。
現在の世界の動きは大きく分けて2つだ。1つ目は『穏健派』。何にも関与せず、世界の動きを見続けると決めた殆どの国だ。2つ目は『男性操縦者抹殺派』だ。これは主に女権団、正確には『女性権利保護団体』の動きである。女性権利保護、なんて言葉は詭弁に過ぎず、要するに「ISを使えない男はISを扱える女の下に居れば良い」という思考の元に動いている。そのトップの女性の殆どはISの適性が無いのだが、今の世界の状況もある上にその考えに賛同する
「俺と一夏が大きく報道された癖にアイツの存在を全員が明確に知ったのは今日だ。あのマスコミが
「広告塔代わり、でしょうね」
「広告塔?」
「私が更識くんを、その...殺そうとしたのには理由が有ります」
「そりゃな。逆に理由が無かったら吃驚だ」
「多分デュノア社が経営不振に陥ってるのは知ってると思いますが、その状況は更識くんが思っている以上に事態は逼迫してます。こんな学生に借金取りをしてまで金を稼がせる時点でお分かりでしょうがね。ですから広告塔が必要なんです」
「...認めんのは癪だけど、デュノア社はISの量産機の世界シェアは3位じゃないのか?其処までしなくたって...」
「ラファールは所詮第二世代なんです。フランスは【イグニッション・プラン】から外されていますから、何としてでも第三世代を製造しなければ政府からの補助金も取り消されます。更識くんはコネが有るので自覚は無いかも知れませんが、IS自体の開発は勿論、武装の開発にだって少なくないお金は吹き飛ぶんです。そんなISの開発に国からの補助金が貰えなければ....」
「待つのは倒産、か」
「はい。しかもあの会社は横暴な振る舞いで有名ですから、倒産すれば警察からの捜査は当然ですし虐げられた人達の暴動も起きるでしょう。警備としてのISに守られているのは誰でも知っていますが、何よりデュノア社は『IS製造会社』としてのネームバリューに守られているのです」
「で、なんでそれでアイツが広告塔代わりになるんだ?」
「IS学園の特記事項、覚えていますか?」
「全く覚えてない」
「それで良いんですか副会長....まぁ殆どの特記事項は関係有りません。1つだけ、IS学園はあらゆる国の法から独立するという特記事項が有るんです」
「そういう事か.....軍や警察の捜査は国の法と権力によって許可される。だからその法が適応されないって事は捜査は不可能って事か」
「恐らく、ですがね」
IS学園には数多い特記事項が存在する。目的は兵器の扱いを知る事と扱える人材の育成となっているが、その実態は新型ISのテスト環境だ。どの国の法が適応されないIS学園は面倒な手続きをしてテストするよりも格段に楽な上に、他国の代表候補の腕前やデータ収集が容易なのだ。シャルルの目的は第三世代のデータ収集だろう。しかも現在学園には
「...なんて、小難しい話をしましたが、本当はそんなの良いんです」
「どうでも良いって....」
「問題は、更識くんの事ですよ」
「俺の事?」
「.....もう」
仕方無さそうな口調で雪菜は立ち上がり、響弥を正面から抱き締めた。響弥の顔が丁度柔らかい膨らみの辺りに来た上に石鹸の様な良い匂いが脳を刺激する。鼻の奥にツンと刺す様な感覚が襲ってくる。
「ちょ、舞原お前--」
「無理し過ぎなんですよ、貴方は。気付いてないと思いましたか?更識くんが必死に歯を食い縛って手を握ってるの、見てました。....こんな傷作って、本当に」
「え、ぁ....」
「私は更識くんの専属なんですから、言って下さいよ。
「俺が、お前を....?」
「貴方はそんなに大きく考えてないかも知れませんが、私は貴方に救って貰いました。ですから、貴方を助けたいんです。頼って下さいよ、私を」
「そっか...うん、そうだな。じゃあ、1つ良いか?」
「はい、喜んで」
雪菜は嬉しそうに即答で答えた。響弥は自分の左手を雪菜の前に持っていって、照れ臭そうに言った。
「俺、包帯の巻き方知らなくてさ。巻いてくれるか?」
「御安い御用ですよ」
2人は最近では稀になっていた、ゆっくりとした時間を2人きりの保健室で過ごした。