IS ~義肢義眼の喪失者~   作:たぴぃ

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帰還不能地点 -ポイント・オブ・ノーリターン-

 雪菜との再会を果たした響介は夏蓮の専用機である【結月】の反応を辿り、更衣室に辿り着いた。其処には【亡国機業(ファントム・タスク)】幹部が1人、オータムが一夏と対峙していた。

 今回の任務は敵が単独である場合、響介がコアを奪取又は破壊する事。故に2人以上にならなければ夏蓮の仕事は無いのだが、確実に夏蓮の仕事は増えるだろう。もし【亡国機業】からの増援が無くとも、【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】はテロ組織であり、IS学園の専用機持ちが響介を撃墜しに来るのは目に見えている。

 

 「フン....大して変わっていないな。駆け引きが出来ず、愚かな程に真っ直ぐだ」

 

 会話を聴けば、第二回モンド・グロッソの時に一夏を拐ったのは【亡国機業】だとオータムは明かしていた。響介はオータムを幹部にするのは間違いだな、そう思いつつ一夏とオータムの戦闘を見続ける。

 蜘蛛を彷彿とさせる8本の装甲脚を用いて巧みに戦うオータムは頭は悪いが流石にテロ組織の幹部を名乗るだけはある。

 響介自身は白式が第二次形態移行(セカンド・シフト)した事は知らないが、明らかに形状が変わったウィング・スラスターと左手に新設されている武装【雪羅】が見えるので第二次形態移行している事を確信する。

 飛び方や間合いの管理も響介が灼けた記憶の中で覚えている時より格段に上手い。だが、まだ経験が圧倒的に足りない。恐らく殺し合いの中に身を置いてきたオータムの技術は付け焼き刃に騙される程薄い内容ではない。

 8本の装甲脚と2本の自分の腕、合計で10本の腕が一夏を襲う。近付けば装甲脚に内蔵されている格闘用ブレードが、遠ざかれば装甲脚にある実弾発射口から実弾が容赦なく放たれる。

 天井にぶつかって止まり、左手の【雪羅】をクローモードで発動させる一夏。雪片弐型を呼び出すより、本体の内蔵火器である【雪羅】をクローモードにした方が早いからである。当たれば大ダメージを負う【零落白夜】の爪を余裕で回避するオータム。そして完全にISを展開すると雨あられの如く実弾を一夏に向けて放つ。

 

 「クソッ」

 (馬鹿が....そんな事を言えば対応に困っている事が相手にバレるぞ。それにお前にはその爪があるじゃねーか。雪片に固執し過ぎなんだよ)

 

 一転攻勢に出た一夏だったが、簡単に雪片弐型を抑え込まれて身動きが出来なくなった一夏。そしてオータムが持つ四本足の機械を胸に取り付けられる。しかし一夏はやっとなけなしの冷静さを少し取り戻した様で、雪片弐型を離して後ろに逃げる。

 よっぽど戦いが楽しいのかオータムは笑いながら一夏にエネルギーネットを発射する。一夏はそれがエネルギー系統の攻撃だといち早く察知すると、左手の【雪羅】をクローモードで起動させるが、パンッと小気味良い音を立てて広がった網にがんじがらめにされてしまった。

 

 「ハハハ、バーカ!蜘蛛の糸を甘く見るからそうなるんだよ!」

 

 そしてオータムは先程持っていた四本足の機械を一夏の胸に取り付け、固定して少しすると電流が流れる音に似た音が響く。

 

 『お兄ちゃん、アレ剥離剤(リムーバー)だよ』

 『剥離剤(リムーバー)?』

 『うん、ISを無理矢理引っぺがす道具だよ。ただISは引き剥がせるけと、1回対抗されれば耐性が付いてもう2度と効かなくなるけどね』

 『ふむ....あの機体(白式)に其処までの価値は無いと思うがね』

 『なんで?』

 『以前、私が夏蓮達に連れていかれた際、奴はかなりの傷を負っていた。だがもう跡形もなく治っているという事は、恐らく生体同調機能が付与されたか今までロックされていた機能が解放されたかのどちらかだろう。それならばあの機体には--』

 『生体ロックが掛かってる?』

 『そういうことだ』

 

 此処までの話を要約すると、白式は一夏以外には動かせないという事だ。説明も終わり、どちらも理解しきった所で一夏がロッカーに叩き付けられる。そしてニヤリと笑ったオータムが一夏を殺そうとする。その瞬間、2つの人影が現れた。

 

 「じゃあなぁ、ガキ。お前は用無しだから、もう殺してやるよ」

 「それは無理な話だな。私がお前を殺すからね」

 「それは困るわ。だって一夏くん、私のお気に入りだから」

 

 場にそぐわぬ芝居がかった声と楽しげな声が響く。1人は分かる通り赤羽響介、そしてもう1人はIS学園最強の座に2年生ながら座る女性--更識楯無だった。

 

 「テメェら、何処から入って来やがった!」

 「貴方...何故こんな場所に!?危ないから早く逃げて!」

 「テメェら、私の話を聴けよ!此処は最高レベルで全システムをロックしてんだぞ、どうやって入った!?」

 

 的外れな警告をする楯無に、怒鳴り散らすオータム。響介は笑い、大仰に両手を広げて言った。

 

 「この程度で最高レベル?ハッ、笑わせてくれるな。【亡国機業(ファントム・タスク)】も墜ちたものだ。そしてIS学園の最強が相手の腕前すら測れないとは、この学園のレベルも高々その程度という事か」

 

 その一言でキレたオータムは8本の装甲脚を響介に向け、惨たらしく殺そうと格闘用ブレードで斬り裂こうとしてくる。

 

 「見られたからには殺す!私を馬鹿にした奴は惨たらしく殺す!死ねや!!」

 「『絶ち斬られた月は地に堕ち、傲慢なる地の民に災禍をもたらさん』」

 「なんだよその文章はァ!?辞世の句かぁ!?」

 「この程度の教養も無いとは、よっぽど【亡国機業】は人材不足と見える。同情するな」

 「ッ.....!!そ、そのくらい知ってるんだよぉぉぉ!!」

 

 一気に響介を殺さんと迫る装甲脚に恐れなど抱かず、響介は薬莢の装填数が20発ずつに増えた義足と義手の薬莢を激発させる。世界が遅く見える。身体を捩らせ、全ての装甲脚を紙一重で回避すると響介は2発消費していつも以上の威力を持たせた正拳でオータムを吹き飛ばし、一言。

 

 「私だってそんな言葉知らないよ。何故なら、この言葉は私のオリジナルで今産み出したものなのだから」

 「なっ.....テメッ、出鱈目言いやがって...!」

 「この程度の嘘も見破れないだけでなく、生身の男に吹き飛ばされるのか。....拍子抜けだな」

 「待ちなさい、男って貴方、まさか....」

 「....夏蓮、足止めを--」

 「会長、大丈夫か!?」

 「チッ...夏蓮、お前は中国とイギリスとドイツの専用機持ちを頼む。私は....いや、俺はこの馬鹿と織斑一夏と生徒会長をやる」

 「....無理はしないでね、いざとなれば其処の馬鹿のコアだけ奪取すれば良いから。....行くよ、【結月(ゆづき)】」

 

 夏蓮はブレードを展開、鈴とセシリアとラウラを響介から反対方向へと連れていった。響介は残ったオータムと一夏と楯無に相対し、ISを展開する。

 

 「さて、殺るぞ。来い、【絶月・災禍】」

 「【絶月】....やっぱり貴方は響弥くん...!」

 「そんな奴は死んだ。此処に居るのは赤羽響介だッ!!」

 「私を、無視すんな!」

 

 一夏はISをオータムに奪われている為、ISを展開する事は出来ない。それを利用しようとオータムは一夏を人質にしようとするが、楯無のIS【霧纏いの淑女(ミステリアス・レイディ)】の持つ大型ランス【蒼流旋】を操り、全ての装甲脚を地面に叩き落とす。

 響介は2本の短槍【リンドヴルム】と【オルトヴルム】を抜き、無造作に右手に握る【オルトヴルム】を投げる。しかもただ投げるだけでなく、薬莢を1発消費して投げた。弾丸と同等以上の速度で飛来する槍に対応しきれないオータムは腰にマトモに喰らってしまう。

 

 「一夏くん、貴方は願っていなさい。自分の力を取り戻す為の願いを」

 

 響介は嫌な予感を感じる。まとわりつく様な湿度、更に温い気温。これは()()()()()()湿()()()()()()()()()。そう直感した響介は【絶月】が纏うマントを広げ、身を守るようにした。その直後に響介を襲うのは熱感と衝撃。これが水を操るIS【霧纏いの淑女】の技の1つ【清き熱情(クリア・パッション)】だ。

 灼けた記憶の中で印象に残っていた技だったのでどうにな対処は出来たものの、もう覚えている武装も無ければ掘り起こしても出てくる記憶も無い。もう完全初見である。

 

 「おおおぉ!!来い、【白式】ッ!!」

 

 響介は覚えていないが、今一夏がとったポーズはISを展開し慣れていない一夏がしていたポーズだ。一夏の叫びに呼応する様に【白式】のコアは光り輝き、眩い光が収まった時にはもう一夏の身体に頼もしい白銀の鎧が装着されていた。

 

 「響弥くん!...いえ、響介くん!何故貴方がテロ組織の側に居るの!?雪菜ちゃんは貴方を想って--」

 「--記憶を封印する事を選んだ、か?ハッ、笑わせる。俺の存在が都合悪かったなら、もう跡形もなく記憶を壊せば良かったな。ヤツは殺され掛けていたぞ、出来損ないの妹にな」

 「簪ちゃんは....出来損ないなんかじゃないわ!」

 「良い姉妹愛だな、お涙頂戴の素晴らしい茶番だ。だが....他人の専属を奪おうとした挙げ句、断られたから殺す様では出来損ないと言わざるを得ないと思うが」

 

 蒼流旋を左手の【ジークリンデ】で受け流し、壁を破壊して楯無を外に連れ出す。それと同時にムキになったオータムは2人を追い掛けてくるが、響介はそれを視界の端で捉えつつ楯無の問答に答える。

 

 「貴方は本気で簪ちゃんを出来損ないと思っているの!?」

 「そうだな。何をしても俺達の二の次、それで後ろを振り替えればヤツは恨めしそうな表情で俺達を見てきた。それが堪らなく無様で、とても愉快だったよ」

 「嘘!!響介くんはいつでもあの子の事を想ってた!それなのに、そんな事を思ってたハズが無い!」

 「対暗部の長の癖して、よくもそんなお前から見たイメージを吐けるなぁ!物事には表と裏が有るって事、知ってるだろ!?」

 「それでも表を信じたいじゃない!裏の醜い面を知ってるからこそ、人の明るい綺麗な面を信じなきゃ擦り切れる!!」

 「そんな綺麗事を、よくも語れる!!」

 「そんな綺麗事を語れない人にはなりたくないわ!!」

 

 ジークリンデと蒼流旋をぶつけ、後ろへ飛ぶ響介と楯無。そしてその下から、王の如き威厳を持つ蜘蛛の機体が響介に装甲脚を向ける。

 

 「【メイデンハーツ】ッ!!」

 

 オルトヴルムとリンドヴルムは普通の槍ではない。普通の槍とは違い、穂先の根本の部分にはハルバードの様な両刃の斧状のブレードが着いている。故に刺突と斬撃をこなせるのだ。それを連結させたメイデンハーツは両刃槍と呼ばれ、響介が振るう事で三国志の武将の様な活躍を見せるのだ。

 舞うように斬撃を放ち、どんどんと斬り飛ばされていく装甲脚。オータムは焦り、更に疑問を抱く。

 

 (何でだ!?どうしてこんな滑らかに装甲脚が斬れるんだよ!!これじゃあまるで--)

 「俺がまるで零落白夜を使っている様だ。そう思ってるな?教える気は更々無いが」

 

 そのオータムの考えは当たってはいない。しかし、全くの的外れという訳でもないのだ。雪菜が開発し、実用化まで漕ぎ着けた『擬似零落白夜のシールド』である腕部搭載型の小さな盾【ヤタノカガミ】。これが殺傷用に変わったに過ぎないのだ。

 一夏の白式が、防御がロクに出来ず射撃武装が無いという事を学び、第二次形態移行(セカンド・シフト)した際に【雪羅】を生成したのと同じ事だ。言ってしまえば第二次形態移行前の【絶月】には決め手が義手か義足しか無かったのだ。それでは圧倒的に『殺傷能力』が足りない。響介の願いもあり、第二次形態移行した事によりIS本体装甲と同じ材質の義手と義足、義眼も進化したのだ。義手は鋭く、『打ち抜く』のではなく『貫く』為の義手になった。義足は『蹴って衝撃を与える』だけでなく『蹴って斬る』事が出来る様になった。そして義眼は前の義眼よりも正確に早く、僅かな殺意でも乗っていれば予測線を引ける様になり、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは、越えてはならない境界線を越えられるという事に他ならない。

 

 「クソが、墜ちやがれェェェ!!」

 「いい加減学べよ雑魚がァァァ!!」

 

 メイデンハーツを分割してリンドヴルムを逆手で持ち、オータムの胸部に突き刺す。紫電が走り、仰け反るオータムにオルトヴルムを横薙ぎに振るう。そしてオータムは完全に体勢を崩してしまう。慌てて修正しようにも間に合わない。そして響介は楯無が見ている前で--

 

 「ガブッ.....バケ、モノ...が....」

 

 --オータムの腹部を、手刀で貫いた。




 ...長い。長い(確信)
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