「よく集まってくれたな、皆。一応全員とは面識が有るが、話しておこう。私は森守菫、響弥の先生でもあり、雪菜の恩人だ。宜しく頼む」
雪菜が保健室に運ばれた直後1組と2組の専用機持ち、生徒会、そして千冬が保健室に呼ばれていた。そして今は菫がある提案をする為に此処に全員を呼んだのだ。
「今回集めたのは他でもない、
菫の問い掛けに、シャルロットが自分の理解している範囲での説明を菫にする。その話を聴く菫は横槍を入れず、眼を閉じてひたすらシャルロットの説明に聞き入っていた。シャルロットの「以上です」という声を聴いてたっぷり10秒後に眼を開けて話し出す。
「.....大体の理由は理解した、まぁこればかりは仕方がない。どんなに工夫を凝らして情報を隠しても、何処からか漏れてしまうものだからな。その女子生徒にも問題は有るが....それより、君達には知って貰おうと思う。マナー違反だが、どうして此処まで雪菜は傷付いているのか、どうして雪菜は響弥の専属になったのか。....そして、雪菜の過去を」
口調こそいつも通りの菫だが、雰囲気はとても重い。それもそうだ、これは菫が珍しく悩みに悩み抜いて出した結論なのだから。自分の教え子の1人、その教え子の友達に知って欲しかった事を、菫は言おうとしているのだ。
「....これは他言無用で頼むぞ」
「当然です。友達の過去をそうホイホイと話す程、人間終わってませんから」
「有り難う、楯無。さて、話そうか。....あの子は、デュノア社の狗として育った。それまでは、恐らくだが幸せだったのだろう」
「デュノア社....」
「そう、デュノア社だ。メイル、何か知ってたりするのか?」
「まさか....『選別』の.....」
「そうか、前にニュースになったか。そう、雪菜はその『選別』の被害者だった。それは地獄の日々だったらしい。中世に行われた人間狩りの様に森に放たれ、隣で顔見知りの子が死んだ事もあったらしい。マトモな食事など貰えず、更には人を殺した事も有ると言っていたよ。そしてあの子の【舞原雪菜】という名前、これは
「え....?」
「そのリアクション、本人から聴かされた響弥も同じリアクションをしたらしいぞ織斑。本名は自分達の『道具』を縛る要らない呪縛だからな、当たり前と言えば当たり前だよ。人間狩りから生き残り、戦場で人の命を喰らってやっと名前を貰えたと、そう言っていたよ」
「そんな雪菜がどうして響弥と....」
「布仏姉、お前は借金取り騒動を覚えているか?」
「えぇ、響弥くんが解決した騒動ですよね?」
「雪菜はその借金取り本人だ」
「それは~一応きょうくんから聴いたよ~」
「生徒会メンバーは聴いてたのか。まぁ良い。デュノア社は経営不振で、少しでも多く金を欲した。だから雪菜が金を貸し、それを凄まじい利子を付けて返させていたらしい。その時の雪菜は滅多に笑わず、自分の開発した装備すら金を貰って売っていたと聴く」
「そんな、雪菜さん.....」
「ショックを受けるのはまだ早いぞ、オルコット。雪菜は1度響弥を殺そうとしている。まぁ色々あって、全く問題は無かったらしいがな。それで響弥は雪菜に助けて欲しいか否かを聴き、それで今に至るという訳だ」
「さしずめ響弥は絶望の暗闇の中に差し込んだ一筋の光って所だったのか?森守先生」
「その通りだ。だからこそ喪ったショックは大きい。私の予想だが、その雪菜がいつもの口調を崩してまで叫んだという事。これは雪菜が雪菜自身を保つ為の行動だったと思う」
「どういう事ですか?森守保険医」
「簡単な事だよ、織斑先生。貴女を大罪人と言った事も、その一環だ。先ず女子生徒に言った専用機云々だが、これは福音と戦っていて援護に回れなかった君達を正当化する為だ。そして次の女尊男卑の事だが、これは『男性だからこそ弱い』とか『男性は女性の足元に及ばない』といった世間の風説は無意識に全ての人に刷り込まれている。それらを否定して、その響弥達を悪く言う者の思い込み全てを否定した。人殺しの授業関係の事に関しては、戦場に身を置いていた雪菜だからこその本心だろう。確実に、な。そして織斑先生、貴女を大罪人を卑下した事だが、これは全ての原因を否定したかったのだろう。貴女が原因で女尊男卑の風潮が加速したとしても過言ではない。それがなければ響弥は悪く言われなかった。そんな雪菜の願望やエゴが入り交じった言葉だと私は思うよ」
「....森守先生、なんでそんなに人の心が解るんですか...?」
一通りの自分の見解を述べた所で一夏は疑問を溢す。その言葉を聞いた菫はフッと嘲笑にも似た笑いをして答えた。
「私は一応篠ノ乃束がISを開発するまで【天才】と呼ばれてたんだよ。全てが私の分野だが、元々の専門が心理学だったからね。それなりには解るんだよ。...結局、誰1人救えやしない知識だがな」
開発、整備、外科、内科、政治学、脳神経外科、他にも色々こなせる菫の専門は心理学だった。故に今回は保険医兼カウンセラーとしてIS学園に来たのだ。其処まで言った所で、菫は漸く本題に入る。
「私が現役時代に造り上げた、究極的な機械が有る。その機械を使えば鬱病患者は1発で活発になり、サイコパスに使えば真っ当な人間になって社会に復帰する。そんな機械が」
「でも、そんな機械聞き覚えがありませんわよ?」
「それは当然だオルコット。何故なら、私は試験運用だけしてソレを発表を...ひいては、名前すら付けていないのだからな」
「な、何故ですの!?」
「余りにも残酷だからだ。ISの技術を応用したお陰で危険性は皆無になった。だが、ソレを施すのは余りにも残酷なんだ...!」
「それは、どういった機械なのですか?」
「ある一定の脳細胞の働きを停止させる。要するに、
記憶の封印、それはとても残酷な事だろう。思い出したい記憶すら封印し、自分の都合の悪い記憶を封じ、現実から目を反らす。それでいて、
「私はそれを雪菜に使い、響弥の記憶全てを封印したいと考えている」
「なっ....」
「驚くのも当然だ、シャルロット。しかし、君達には...いや、IS学園生徒と教員には
「ふ....ざけるな!!アンタは取り返しの付かない事をしようとしてんだぞ!雪菜さんの大切な人の記憶を封印して、もしもその封印が壊れたら雪菜さんはッ!!」
「解っているんだよそんな事はッ!!」
菫の胸ぐらを掴んだ一夏。だが次の瞬間には床に転がされていた。響弥にすら勝てないのだ、その響弥の師匠である菫に勝てる訳がない。
「はっきり言おう、私は君が大嫌いだ!一々理想論しか語れない護られてきたクソガキが、胸糞悪いんだよ!ならお前はどうしろと言うんだ!?このまま精神を磨り減らして壊れていく雪菜の事を指くわえて見てろとでも言うのか!!響弥がいつ帰ってくるのかは誰にも分からない!明日かも知れないし、1年後、数年後、もしかしたら帰ってこないかも知れない!緩やかに、それでも確かに壊れていく雪菜を、お前はどう救おうと言うんだ!?それに--」
其処で菫は一旦言葉を切り表情はとても悲痛な面持ちになると、吐き捨てる様に、自分の無力を嘆く雪菜の声と同じ声音で言った。
「--自分の教え子の記憶を、誰が好き好んで封じるものか....!!」
教師だけではない、教え導く職に就く者ならそうだろう。自分が教えた愛しい子供にも等しいその子の記憶を好んで消す者が居るだろうか?否、断じて否!そんな者ならそんな職には就かないだろう。
「.....話は終わりだ。雪菜を壊したくないなら頼むぞ。恐らく学園に行くのは3日くらい後だと思う。織斑先生、宜しく頼みますね」
「.....あぁ。皆、教室に戻るぞ」
保健室の扉が開けられ、最後に出ていった誰かがドアを閉める音がやけに大きく聞こえる。菫は独りで機械をセッティングし、雪菜の記憶を封じる為の準備を終える。後はボタンを押せば雪菜は一時的にでも救われる。そう思って菫はボタンを押そうとするが、全く指が動かない。
思い出すのは響弥と雪菜が仲睦まじくしていた時を見守っていた記憶。その記憶の雪菜の表情は笑顔だが、今眠る雪菜の表情は自責の苦痛に満ちている様に見える。菫は自分の頬に涙が流れている事にも気付かず、ボタンを押す。
「恨むなら私を恨め、呪うなら私を呪え。....悪いな、雪菜」
その言葉と同時に機械が作動する低い音が聴こえてくる。その低い音は菫にとって、慟哭に震える人の呻き声の様にも聴こえていた....
洗脳系の事をされるのは響弥だと思ってた人、素直に名乗りでなさい、怒らないから(教師的な感じ)
はい、実際は雪菜でした。この菫の選択が吉と出るか凶と出るか...