IS ~義肢義眼の喪失者~   作:たぴぃ

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 これから最新話には●⬅のマークを付けたいと思います。これでちょっとは見やすくなりますかね?


意志、遺志 

 『確認します。所定のポイントに到着した事を此方が確認でき次第、私がスリーカウントで合図を出すのでハッター、ウォック、アリス、チェシャ猫は2人1組で急浮上して襲撃して下さい。その隙にクイーンは単独になりますが突入し、放送を開始して下さい。クイーンには私ではなくラビットが指示を出しますので、そちらに従って下さい。宜しいですか?』

 「「「「「了解」」」」」

 

 超高度電波塔【ヘルメス・レター】襲撃作戦当日、響介達は海底にて最後のブリーフィングを終わらせていた。ペアは響介とウォック、アリス(ジェミニ)と夏蓮だ。

 所定の位置は【ヘルメス・レター】の北と南で、量産機を配備している中国は東西に防衛部隊を展開させている。その為、出来るだけ派手に攻撃をして引き付ける必要がある為にこの組み合わせになったのだ。アリスと響介の機体には単体特化の武装しか搭載しておらず、派手さに欠ける為である。

 

 『さて、そろそろ時間だよ、ハッター』

 「そうだな。....前の軍事基地の時みたいな突っ走りは止めてくれよ?」

 『ハハハ!期待せずに待っときな!』

 「はいはい、期待せずに待っとくよ」

 『全員、所定の位置に待機した事を確認しました。カウントを始めます。3....2....1....任務開始(ミッション・スタート)

 

 バシャンッ!!と派手な水の音を立てて飛び出した2人。先ずはウォックが【ディキトゥス】の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を塔に当てない様にしてぶちかます。一気に放たれた数十本の火線は彗星の様な尾を引き、展開されているIS部隊の近くに着弾する。流石に其処までされれば気付く、と言わんばかりに東と南のIS部隊が近付いてくる。

 響介は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、中国の量産機部隊の戦闘に肉薄すると、左腕の【ジークリンデ】を一閃する。流石は国が正式に派遣した部隊、殆ど目に捉えられずとも反射的に機体を急停止、後退させて致命的な一撃はどうにか避けていた。

 

 「チッ、小癪な.....オオッ!!」

 

 身体に染み着いた動きで正拳を放つ。それは灼けた記憶の中ではもう覚えていないが、菫や楯無が見ればその技の名前を言ってのけただろう。更識流戦闘術壱ノ型の基本にして最大威力の正拳突き--【凰穿華】だ。

 合計3基あるスラスターの内2基にエネルギーを充填し、一気に放つのではなく1基ずつ解放する。世界でも使いこなせる者は少ないと言われる技能、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を成功させて量産機4体の内1機を海に墜とす。

 暫くはパイロットの救出で動かないだろうが、念の為にもう1機を墜とすと響介はウォックの方を見る。其処には--

 

 「なっ....!?」

 

 アメリカの機体である【震える牙(ファング・クエイク)】はまだ予想出来ていた。しかしもう1機、その隣にISが浮いていた。響介は知る由も無いが、既に凍結処理を施され、2度と大空を翔ぶ事は出来ないとされていた機体が、其処には居た。

 

 「銀の(シルバリオ).....福音(ゴスペル).....!!」

 

 中距離戦闘と機動力に特化したアメリカとイスラエルの共同開発により生み出された、軍用のIS。無理矢理とは言っても第二次形態移行(セカンド・シフト)は果たしており、パイロット本人の技量も有って強さは世界でもトップクラスである。それがこの場所に居たのだ。パイロットはナターシャ・ファイルス、要するに響介がこの組織に拐われる原因とも言える人物でもある。

 

 「喰らえ....ッ!!」

 「荷電粒子砲!?増援ってより、元から其処に居たのね!」

 「墜ちろ!!」

 「お断りよ!」

 

 上から身体を回転させつつ踵落としを放つ。遠心力とスラスターの推進力で相当に威力が上がったこの踵落としをナターシャは受け流し、【銀の福音】の特徴でもある瞬時加速と同等クラスの急加速をして近付き、高密度圧縮エネルギー弾をばら蒔く。後ろに下がって避けると、【凶星】が生成する余剰エネルギーを利用して【ジークリンデ】から斬撃を発射する。

 

 「その動き方、距離の取り方....貴方、まさか--」

 

 流石は軍人、高速機動下の中でも動き方を見ただけで誰か判断出来るらしい。ナターシャは響介と戦っていた時は気を失っていたハズだが、コアとの親和性の高さからその時の記憶を持っているのだろう。コアについて考えても不毛だと知っている響介は背中から【リンドヴルム】と【オルトヴルム】を抜き、構える。

 

 「貴方、もう1人の男性操縦者じゃないの!?何故貴方がそんなテロ組織に身を置いているの!?」

 「....世界の真実から目を反らしておいて、何をぬけぬけと!!」

 

 その返答はナターシャの予想が正しい事を裏付ける、愚かな返事だ。だが、響介にとってはどうでも良かった。それほどに我慢ならなかったのだ。ナターシャの様に力を持った者が、力無き者を踏みにじるのを見てきた響介にとって。

 

 『どうも皆さん、私達はテロ組織【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】と申します。突然ですが、全世界のチャンネルは私達が占拠させて貰いました』

 

 剣を交える最中、唐突に入ってくる通信。クイーンが【ヘルメス・コード】内部に侵入し、全世界に放映しているのだ。これで残るは防衛と退却のみだが、目の前の強敵がそう簡単に帰してくれる訳がない。響介はどう仕掛けるか思案する。

 

 『皆さん、ISが本当に理想的な力だと本当にお思いですか?女だけしか扱えず、不要な選民意識を与えるだけの欠陥兵器が。かつてヨーロッパ諸国やアメリカは奴隷制度を導入していました。それがどれだけ愚かで、自分達が信じる【神】の教えに反するか、それに気付いたのは約100年後でした』

 

 言い終えた瞬間に下に急加速、ナターシャの真下に到達した瞬間に真上に加速する。当然の如く避けたナターシャはまたエネルギー弾を撒き散らすが、【リンドヴルム】を左手で回して全て打ち消し、右手の【オルトヴルム】を突き出す。まさか正面から堂々と全てを打ち消して来るとは思わなかったのか、左腕を軽く斬られるナターシャ。SEを無効化する刃は装甲を斬り裂き、守られているハズの柔肌に紅い1本線を刻む。

 

 『考えてみれば、元々篠ノ之束は宇宙に進出する気は無かったと思うのが妥当でしょう。かつて学会で発表し、批判されたとなっていますが、何の実績も後ろ楯も無い娘が言えば夢物語にしか聴こえないのも当たり前です。その後に起きた【白騎士事件】だって、目を反らさずに事実を見ればマッチポンプでしょう。隕石やデブリを破壊するだけなら、別にあんな荷電粒子砲や近接ブレードは要りません。明らかに最強の欠陥兵器を産み出す事が目的だったとしか思えません!』

 

 本国から通信を受けたのか、隊のメンバーを見捨てて【ヘルメス・レター】の入り口を向かおうとする中国のISに向けて振り向き様に荷電粒子砲を2発発射する。圧倒的な速さの弾丸を避けられたのは1機だけで、もう1機はコアごとパイロットが消滅した。響介は避けたISに接近し、義手の薬莢を激発させて手刀を加速させて胸を貫く。コアはしっかりと拡張領域(バススロット)に収納し、物言わぬ骸となった死体を海へと還す。

 

 『そしてIS神話の切っ掛けとなった【白騎士事件】!皆さん思い出してみて下さい。ミサイル全機を撃墜した後の白騎士に対して下した国の命令は「白騎士の撃滅」でした。近接ブレードならまだしも、荷電粒子砲を使って死傷者が0名!?そんなの有り得る訳がありません!!いくら尾翼を撃ったとして、海面は戦闘機が沈む海です!そんなの、生きて帰れる訳が無いのは自明の理です!.....ですが、それを何故私達一般人が知らないのか、何故そんな事を隠すのか!その答えはただ1つです』

 

 ウォックと合流する。機体には少なくない損傷が見られ、相手の【ファング・クエイク】は目立った損傷は無い。だが、相手は徒手空拳をベースにした高機動機体。それに良く鈍重な【ディキトゥス】で応戦出来たと、響介は思った。

 

 『世界が!ひいては今現在甘い汁を吸って肥え太る世界の害悪、女性権利保護団体が!最高にして最強最悪の大量破壊兵器を使う事を望んだからです!そう、即ち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです!!

 ISの操縦者は全員同じ、腐った思想を持っています。その中で、突然変異的に出現した男性操縦者の2人。1人は織斑一夏。かの最強ブリュンヒルデの弟という理由だけで専用機を受け取り、自分が望まぬ環境と言って努力をしない人間。もう1人は更識響弥。織斑一夏とそのお友達の勝手な行動で、いまでは何処に居るのかも判りません。そしてこの2人は、IS学園に入学しなければ研究施設に行って貰うと脅しを受けていました!横暴すぎる態度、更には更識響弥が行方不明になった時も世間には一切公表をせず、捜索は形だけの1日のみ。あまりにも酷くはないでしょうか!?』

 

 ナターシャともう1人の表情は何とも言えないものになっていた。クイーンの演説は全てに於いて真実だ。虚言は何も入っていない、誇張も無い100%の真実だからこそだ。

 

 「何故貴方が!?貴方はあの仲間達と過ごしていたんじゃなかったの!?どうして....こんな、惨い世界に...!」

 「.....知るかよ」

 『この動画をご覧ください!軍の、国が選んだISを持つ者が、ホームレスの男の子を蹴飛ばしています。それだけでなく、なけなしのお金まで奪い取り、勝手に使う始末。こんな事の為にISは造られたのです!人を差別し、500個にも満たないコアのせいで世界が振り回される。私達は、そんな下らない事の為に生きているのではありません!!...ですから、私達はISを使ってISを破壊します。毒を以て毒を制す、その精神で行動しています。さぁ、ISに虐、苦汁を舐めてきた皆さん!立ち上がり、叫びましょう!その声が枯れても文字で、手がもがれても口や足で文字を書いて、訴えて下さい!私達【御伽の国の破壊者】は、その意志を代弁して世界に鉄槌を下しましょう』

 

 演説は終了し、作戦は撤退だけとなった。残されたのは撤退のみだが、目の前の第一線級の操縦者相手ではそれすら厳しい。だが、帰らねばならないと響介は【リンドヴルム】と【オルトヴルム】を合体させ【メイデンハーツ】にする。

 

 「....貴方を墜とすわ。そして、IS学園に引き摺ってでも連れていく!!」

 「やってみろ、口だけの偽善者がッ!!」

 『まぁ私はアンタの事なんて知らねぇが....取り敢えず、仕事は終わらせて貰うぜ』

 『さてさてハッター、生きて帰るよ』

 

 相性的な問題を考慮し、響介は【震える牙】へと突進する。アメリカ国家代表イーリス・コーリングは類稀な格闘センスに身を任せ、手刀でメイデンハーツの穂先を叩き落とす。

 それを読んでいた響介は拡張領域から【ドラグ・ファング】を呼び出し、全方位から攻撃を仕掛ける。イーリスは瞬時加速を使ってファングの包囲網から逃れ、響介の懐へと入り込む。

 

 『フンッ!!』

 「流石は安定性と稼働効率を求めた格闘型....インファイトはお手のものって事かよ!!」

 

 流石に即座にメイデンハーツを分解するのは骨が折れる為、ファングを2基スラスターとして使って後ろに急加速する。メイデンハーツでは相性が悪いと察した響介はリンドヴルムとオルトヴルムの2槍に戻し、ファングも拡張領域へと還す。

 

 『イーリス、スイッチよ!!』

 『はいよ!!』

 

 相手を入れ換えたイーリスとナターシャに響介は此処で初めて危惧を覚える。幾ら何でも近接特化のイーリスと中~遠距離特化のウォックでは相性が悪すぎる。先程もそれで押されていたのに、ある程度消費したこの状態では勝ち目は無い。

 その焦りを掴んでいるイーリスは常にウォックとイーリスが戦う場所を塞ぐ様に立ち回り、常にエネルギー弾をばら蒔く。打ち消しつつ近付いてもイーリスは軍人、対人格闘には慣れている為片手間に墜せる程甘くはない。

 

 「其処を、退けッ!!」

 「行かせない!!貴方はそんな血みどろの場所に居て良い人間じゃないのよッ!!」

 「知るか.....そもそも此処に居て、真実を知る事になった原因は誰だと思ってる!!」

 

 薬莢の残弾数なんて関係無い、そう言わんばかりの乱打。パンッという小気味良い音が断続的に鳴り響き、超速の拳と蹴打がナターシャの身体を捉え、SEを減らし続けていく。

 その背後で見えたのは、黒煙を上げながら墜ちていくディキトゥスの姿だった。仲間を喪う訳にはいかない、その一心で義足の薬莢を5発纏めて激発させて海中へと向かう。

 

 「ウォーーーーックッ!!」

 

 墜ちたディキトゥスのスラスターはボロボロで、もう帰艦する事は不可能に近いと遠目からでも解る。それでも、と響介はウォックの手を握り、自分の単一仕様能力を発動させようとするが、ウォックは手でそれを制して個人秘匿通信(プライベート・チャンネル)で響介に語り掛ける。

 

 『止めな、ハッター。多分あのアメリカの2人はアンタの事はバラさないにせよ、単一仕様能力は使用者特有の脳波が放たれるらしいからね...全世界に正体がバレるのは、アンタも良いものじゃないって解ってるだろ?』

 「だからって....だからってお前を見捨てる理由には--」

 『煩いよ、響介。アタシ達はテロリストだ。殺しをするんだ、殺されもする。覚悟は決めてただろう?....アンタはさっさと此処から脱出しな。他のメンバーも連れて、艦に戻れ。コアを持ってね』

 

 ウォックはコアから限界までエネルギーを装甲に充填し、背中のスラスターを応急的に使用可能まで持っていく。そしてコアを響介に持たせ、自分は戦闘空域へと飛び立っていった。その横顔に、笑みを湛えて。

 残された響介は、出来るだけ平静を装って通信を入れる。

 

 「....マッドハッターから全機へ。【ディキトゥス】のパイロットであるジャバウォックはその身を呈して足止めする事を選択した。その志を無駄にしない為、艦に帰艦しろ!!」

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 「ったく、アタシも死に時みたいだし、こんな役割(足止め)が天命だったって事かね?」

 

 彼女が思い浮かべるのは、血の繋がらない家族の事だった。ウサギの縫いぐるみに隠された正体不明の父親、自分の妹が好き過ぎる、慈愛に満ちた母親。馬鹿な自分に物を教えてくれる姉、そんな自分を慕ってくれる妹。そして....誰よりも強く、誰よりも臆病な弟。

 その全員を想えば、死にたくないという想いが過るが、圧し殺して突進する。何度もエネルギー弾に被弾しても、自分のドミナント能力を活かして怯まずに突き進む。

 

 『クッ....離しなさい!!』

 『止まれよ!!いい加減に....!!』

 (そうは、いかないねぇ)

 

 他の全員は気付いているのだろうか、そう思う。自分達『ドミナント』は自らの人を越えた能力を使う度に身体を傷付け、寿命を縮めていく事実を。現に彼女の身体は度重なる能力の使用で内臓がボロボロで、戦い続ければ半年も生きれない程だった。

 だが、他のメンバーがそれに気付いた所で使う事を止める訳が無い事に気付くと笑みが溢れる。アメリカの2人から殴られ、撃たれる。感覚は痛みに塗り潰され、視界も明滅する中で笑うのだ、彼女は。コアが無いという事は、絶対防御が起動していないという事実が分かっているのに、だ。

 

 「冥土の土産にしちゃ、随分と綺麗な景色を用意してくれたじゃないか。神様ってのも、たまには粋な事をするね」

 

 またこの【ヘルメス・レター】を使って世界が箝口令を敷くのは許せない。そう思った彼女はアメリカのパイロット2人を壁に叩き付け、視界のホロウィンドウをタッチする。『Do you suicide?(自爆しますか?)』という、禁断のホロウィンドウを。

 

 「じゃあね、皆。....皆が望む世界を、創ってくれ」

 

 その後、残ったのは巨大なクレーターとズタボロのIS3機だけであり、【ヘルメス・レター】を造った人造島は衛星から見ても何一つ残らなかったそうだ。

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 「アアアアァァァァ!!!離してよお兄ちゃん!!」

 「馬鹿を言うな、此処でお前を離せばウォックの遺志を無駄にする事になるんだぞ!」

 「五月蝿い!私はウォックの仇を討ちに行くんだ!」

 「仇って...もうあの空域には何も--」

 「--離せェェ!!」

 

 激情に呑まれた夏蓮は響介の制止と手を振り切り、ウォックが散った空域で暴れ続けた。その数時間後、夏蓮の反応はその空域からは跡形も無く消えていたという....

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