「ふう....これで取り敢えずは一段落って所でしょうか」
「流石は開発の天才と呼ばれる事はあるな、雪菜。私なら2日は掛かったと思うぞ」
「慣れですよ、慣れ」
「雪菜ちゃんの才能の方が大きいと思うけどね、私は。もう内部は完成したけど....」
「やはり最後の問題はISコア、か。森守技研名義のコアはもう打ち止めだぞ。最近はISコアを奪取される事件が多くなったせいで、どの国もギラギラしてるからな」
「響弥くん、ですよね....」
「今は先ず雪菜さんの機体の事ですよ、先輩。束さんが作る訳が無い以上、何処からか調達しないと」
「その必要は有りません」
OSを1日で組み上げた雪菜は、もうIS本体の開発に入ろうとしていた。OS自体は別に変わっている所は無い。と言うより、世界各国のISは第三世代兵器や他の自国の戦い方に少しだけ応用させるだけなので、基本型は同じなのだ。少し雪菜独自の要素を組み込んだだけなので、1から組み上げても1日で済んだのだ。
それよりも問題なのはISコアである。500にも足らない、正確に言えば467個しか現存しないISコアは稀少な物であり、発展途上国...即ち、ISを満足に開発できない国は開発できる国の傘下に入るものの多くとも1つの国が所持できるコアの数はやはり限られるのが必然なのだ。そんなISコアを個人で所有するなど、所属がどの国にも帰属しない--例えるのなら箒の様な、ISコアを造れる人物の身内でもない限り不可能と言っても良い。それを雪菜が所持しているのだ。
「なっ...!?純正のISコアを、どうして...」
「前に襲撃してきた、私を人質にした機体のコアでふ。操縦者に譲渡されました」
「だが....国が黙っていないぞ。流石に更識家の権力でも擁護はしきれない」
「この世界のコアネットワークには所属して居ませんでした。コアネットワークと言うより、各国が所持しているコアの数に加えてIS学園の量産機、専用機持ちと箒さんのコアで合計は468個。何度も検算しましたが、このコアは例外の1つでした」
「報告書を見た限りじゃ、透ける様に消えたって書いてあったわね。原理は知らないけど、天災が創り上げた物に説明なんて凡人の私じゃ理解は出来ないわ。...重要なのは、ソレが本当に使えるかどうかよ」
「多分使えます。以前調整して打鉄に使いましたが、滞りなく動きましたから」
「じゃあ、もう造れるのか?」
「流石に製作は森守技研に任せますよ。私がするのは立案と設計図に起こす所までですから」
「ハァ....可愛い教え子の為、一肌脱ぐよ。じゃあ設計図をくれ、今すぐ持ち帰って製作に入る」
「お願いします。お2人も、ありがとうございました」
翌日の学校に備えて、雪菜はオールした疲労もあって直ぐにベッドに潜り込んで眠りに就く。その寝顔は、とても健やかなものだった.....
◇ ◇ ◇ ◇
真っ白な空間に、雪菜は居た。最近夢の中でこういうシチュエーションが多いなぁ、と思いつつ周囲を見回す。1度左を見てから右を向き、また正面を向くと1人の男が座っていた。その正面にはお茶会を開く為の道具が並んでいた。
高級そうなティーポットに同じ薔薇の意匠が施されたティーカップ、スコーンや色とりどりのジャムにパンケーキなど、美味しそうな茶菓子が所狭しと並んでいた。
「そんな所に突っ立っていないで、座ってくれ。椅子は其処にちゃんと有るだろう?」
「え?あ、はい...」
喋りかけてきたのは男性で、椅子に座るとティーカップから紅茶を淹れてくれた。特徴的な香りは直ぐにダージリンだと判断できた為、薦めてきたミルクは丁重に断りを入れてから一口だけ口に含む。あまりの美味さに少しだけ吐息を漏らすと、男性は実に嬉しそうな声音で言った。
「その反応を見るに、口には合っていた様だ。いやはや、最近は紅茶を淹れる機会など無くてね、少し鈍っているかと思ったがまだ捨てたもんじゃない様だね、私の腕前は」
「凄く美味しいです、本当に。今まで飲んだ事のある紅茶がもう水道水に感じられるくらい、凄く」
「有り難う。是非ともスコーンやパンケーキも食べてみて欲しい。自信作なんだ」
スコーンにアプリコットのジャムを塗って食べる。ほんのり甘い生地と甘酸っぱいジャムの調和が口の中でハーモニーを奏でる。少し口の中が乾けば紅茶を口に含むと、また香りが鼻腔を抜けてスコーンを食べている。いつの間にか自分が取っていたスコーンは無くなっていると思う程だった。
たっぷりと蜂蜜が塗られたパンケーキはしっとりしていて、それでいてベタついていない。ほんの少しだけ酸味を感じるのはレモン汁を入れているからだろうか?そう思いながら食べ進める雪菜を見て、男性は口を開いた。
「こうして見ると、私の息子を思い出すよ」
「....息子さん、ですか?」
「そうだ」
流石に口に物を入れては喋れない為、少しだけ間を置いてから問い掛ける。何故か顔が見えない男性の瞳は、何を見ているのかは全く分からなかった。
「男の子の癖に、とは良く自分でも言っていたが、お茶会がとても好きでね。私が休みの日はいつもいつも庭の薔薇の咲く所でお茶会をしたものだよ。あまりに美味しそうに食べるから、此方もムキになってもっと美味しいものを作る気になってね、こういった腕前になったんだよ」
「へぇ...私は良いと思いますけどね、お茶会」
「そう言ってくれるとあの子も浮かばれる。最期の最後までお茶会を好んでいたからね」
「浮かばれる....最後まで....?まさか、もう--」
「あぁ、死んでしまったよ。自分が最も好んでいた、お茶会を開く薔薇の咲く場所でね。殺されたのは人でもあり、歴史でもあり、世界でもある。もう、解っているだろう?私の正体を」
「まだ解りませんよ。でも、予想は付きました。.....ねぇ、【
「クク、やはり解っていたじゃないか。正確に言えば私は彼の幻影、記憶だけを持った脱け殻、意識の残りカスだよ」
「そんな貴方がどうして?」
「警告....いや、確認かな」
彼が指を鳴らすと、少し冷めつつあった紅茶がまた温かくなった。喜んでもう一杯貰うと、スコーンと共にまた口に含んで飲み込む。そして彼に向き合う。
「確認とは?」
「
「おかしい....ですか?」
「ISを創ったのは言うなれば古い人間だ。力で支配し、報復されたからまた報復する。そんな憎しみの連鎖を是とする愚物が築き上げたこの世界を正すのは、築き上げた古い人間と言うのが普通だろう。それでも君は戦うのか?力を振るい、不幸を振り撒くのか?」
「.....私は」
雪菜は彼の顔を見詰めて言う。実際は顔なんて見えない。それでも瞳が有りそうな所を凝視して言うのだ。自分の戦う理由を。
「私は戦います。私の大切な人を、取り戻す為に」
「ほう?それも他人に任せていれば良いとは思わないのか?」
「思いません、絶対に。確かに私も、あの人も....そして貴方も、腐った世界の被害者です。だからこそ声高に私は叫びましょう。さっさと上から消え去れ、と。貴方達の様な古い人間は不要だと、叫び続けましょう。被害者だからこそ、被害者という立場に甘えずに進む。そして大切なモノを取り戻す。それが私の信条...戦う理由です」
其処まで言うと、彼は顔を--恐らく口を押さえて笑い始めた。1度溢れた笑いは留まる事を知らず、どんどんと大きくなっていく。だがその中に嘲笑の響きは無く、ただ面白いから笑っているのだ。
「クク、フフフフ......ハハハハハハハハハ!!」
「むぅ....何で笑うんですか!?」
「ハハハハハ!!い、いや....悪いね、とても面白かったものだから、ついね」
「面白いって....」
「あぁすまない、悪い意味の面白いではないよ。私の認識が間違っていた事が面白いんだ」
「認識ですか?私への」
「そうだよ。ククッ、もっと淑やかで空洞だと思ってはいたが、実際は淑やかだが強いではないか。....これなら、安心して託せるな」
「へ?」
「
そう言う間にも、この空間には皹が入り始めていた。恐らく、目覚めの時が来たのだろう。そして、彼とのほんの僅かの邂逅の終わりも、同時に。
「その意思のまま、私の力を使ってくれる事を祈っているよ。そして、君の想いが成就する事もね。....では、ね」
世界が変わる。彼が消える。夢が--終わる。
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「ん.....もう朝ですか。ご飯は...間に合いますね、良かった」
今まで来ていた制服は適当に洗濯機に投げ込み、クローゼットに掛けてある制服を着て食堂に向かう。いつもなら和食を選ぶのだが、今日は....
「パンケーキとスコーン、紅茶ですか.....今日は、これにしてみましょうか」
夢の中での事を再現している様な朝食を見付けたので頼んでみる。少しだけ待ってから受け取り、一口含むと彼女は呟いた。
「ん....夢の中の方が美味しかったですね.....あの時言った、今までの紅茶が水道水って、強ち間違いじゃなかったかも....」
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