死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
Side アカネ
「世界の真実」をマケイヌに教えてもらった後。
私たちはクルト・ゲーデルと対面しました。
彼とどうやって話すつもりなのかと思っていましたが、マケイヌはある町の有力者に憑くことで、彼との面会を取り付けました。
その強引なやり口には正直びっくりです。
「私の名は、アカネと言います」
「これはどうも。クルト・ゲーデルです。以後お見知りおきを」
青年となったクルトは少年のとき以上に何を考えているかわからない表情をしていました。
腹芸、というのですか? そういう才能があった上に政治家となったことでその才能が磨かれたのでしょう。
彼と話す内容、こちらの要求と提示できる情報はマケイヌからしっかり教えてもらいました。所々何かあればサポートしてくれうということなので、私としてはほっとしています。
さて。まずは何から話すか……。
「今日は急にお呼び立てして申し訳ありません。しかし、あなたと話す必要がありました。
どうしても」
「それはそれは……。いえ、お気になさる必要はありませんよ。
しかし、私と話す必要があったとは? 気になりますねぇ」
考えた末、私はまず一枚の紙を差し出した。
それは、写真のコピー。さらに言うならば図書館で見つけた、クルトが紅き翼と写っている写真が載っていたあの本をコピーさせてもらったものだ。
「これは……」
「この写真に写った、眼鏡の少年。あなたですね?」
まずは念押し。あなたはかつて紅き翼でしたね? と言葉には出さず確認する。
もしかしたら元老院議員になるため支持を得ようとした時、このことは公開したかもしれませんけど。
「……そうです。それが何か?」
「ならば話は早いですね。アリカ姫、ご存知ですね?」
厳密には、アリカ元女王。
彼女の名を出したとたん、クルトの眉がピクピクと動いた。
顔に出さないようにしたのでしょうが……わずかに目つきは鋭くなっていますし、話に聞いた通り本当に彼はアリカ姫のことを気にしているのですね。
「……彼女のことについて、話を聞きたい、と?」
やれやれ、警戒心がありありと出ていますね。
安心してくださいよ、彼女についての話ではありませんよ。
私はそのことについて、ちゃんと知っていますから聞く必要もありません。
マケイヌに教えてもらいました。
「私が欲しいのはその情報ではないし、むしろ必要としてはいません。
ただし、私が対価として提供するものも、彼女に無関係とは言えませんが」
「…………」
迷ってる……のですかね?
まぁ、いきなり現れた女の子が何を知っているのかといぶかしんでいるところもあるのでしょう。
わかりました。ならば、次の一手を打つまでです。
正直、ここからは綱渡りのような心持なのですが……。
「あなたは、何のために今の地位を得たのですか?」
「な?」
突然何を言ったのかとめんくらった表情のクルト。
人の心など読心術を使うとかしなきゃ分からないものですし、誰にも話したことがないのならますます何を続けるつもりなのか読めないでしょうね。
今はとりあえず、私が話をすすめるときです。
「A、世界を救うため? B、英雄に続き人々の助けとなるため?」
「…………」
黙ってしまったようですが、わかっていますとも。
このどちらでもない、なんてことは。
「では……C,アリカ姫の名誉を取り戻すため?」
「くっ!?」
「そう怖い顔をしないでください。私はあなたと敵対しに来たわけじゃない」
しかし……ここまで、一人の人間のために躍起になって進めるとは。
彼と私は、どこか似ているところがあるのかもしれません。
私だって自分がみんなの元に逝くために復讐として死神の鎌をふるった……。
人のことは言えませんから。
「なら、あなたは一体私に何を求めているのです?」
「…………」
さぁ、来た。
私の要求……それを、彼に求めるときが。
この要求で知りたいことは、マケイヌは知っているのかもしれません。
でも、教えてはくれなかった。
「私の要求を伝える前に……先に話しておかなければならないことがあります。あなたが元、紅き翼なら“アカネ村事件”のことはご存知ですよね?」
アカネ村事件。この言葉に、クルトは驚いたものの、その一方でどこか納得したような表情を浮かべてこちらを見ていました。
私が何者か……少し予想がついたのでしょう。
「なるほど……つまりはあなたは、アカネ村事件の被害者、その遺族と言うわけですか」
「その点は答えを伏せさせていただきます。さて、本題といきましょうか……」
私の、要求は。
「アカネ村事件に関わった、メガロメセンブリア軍の名簿を」
Side クルト
これはこれは、とんでもないことを言い出しましたね。
「アカネ村事件にかかわったメガロメセンブリア軍の名簿」……。
十中八九、復讐のために用いる気でしょう。
それに確かに、アリカ様に恨みは無いとも言えます。
あの事件が起こったのは、ナギ達がアリカ様に出会う前のはずですからねぇ。
「ですが、なんとも無理な話ですねぇ……」
ばれたら私の首が飛んでしまいそうです。
いえ、絶対飛ぶでしょうね。故意の情報漏洩などいいスキャンダルの元です。
「無理な話と言うのはわかっていますよ。ですが、私からも差し出せる対価はある」
「対価……ですか?」
私にかなり危ない橋を渡らせようとするのです。相応の対価、程度では私は動くつもりはありませんよ?
せっかくつかんだ、アリカ様を本当に救う為の議員の座です。
早くも失うわけにはいかないのですよ。
「私から差し出せる対価は三つ。一つ目は、私の復讐による“混乱”」
「……それが私にとって、どうメリットになりえるのです?」
混乱が起こるというのはわかりますがねぇ……。
メリットとして挙げた、彼女の意図がわかりません。
彼女が得た情報を元に、復讐を行って、混乱が起きて、そして何があるというのです?
アカネ村事件が起こったときに、と話は続く。
「軍が動くということは、軍を動かした者がいるということです。指示もなしに、軍が勝手に動くということはまずあり得ません。当時は戦争のさなかなんですよ?」
「あ……」
意表を突かれる、という経験は実にひさしぶりでしたね。
あっけにとられるという経験も。彼女が言ったことは何て事のない、ちょっと考えればすぐにわかることです。
ですが、彼女が言いたいことは、つまり。
「あの事件は紅き翼を糾弾する際、真っ先に挙げられる事件です。当然、表では責任をとった、いやとらされた人物がいることでしょう。ですが……考えてみてください」
英雄すら非難されるような事件の責任を取るより、誰かを身代わりにした方が安全だとは思いませんか?
彼女の言葉は、実に的確で、それでいて無慈悲で。
実際に命じたであろう
なるほど……だから「復讐による混乱」ですか。
「アカネ村事件で“活躍”した兵士が襲われれば、必ず指示をした人間も自分が関わっていないとしつつも、身の安全をはかろうとするでしょう。そこで尻尾をつかめたら……上の席を、空けることができますよ?」
ふぅむ……アリカ様の名誉を回復するにあたり、邪魔な老害の排除と私自身がもう少し上の席に着くのは、確かに必要なことです。
だが……もちろん、それは「できたら」の話です。
あの老害共のことです、素直に尻尾を出してくれる保証はとてもありません。
「続きをどうぞ」
「二つ目。黄昏の姫御子、アスナ姫の居場所をお教えできます」
これはまた……ずいぶんなカードを切ってきましたね。
アスナ姫の居場所など、あの老害共なら目を血走らせて知りたがるでしょうに。
私にもある程度予測ならありましたが……確実性に欠けていました。
「さすがに今すぐは教えられませんがね。もちろん、そちらが私の欲しい情報をくれたら、すぐにでも教えて差し上げましょう。早めに知れば、あなたもそこへ影響力を及ぼせるよう、少しずつ手を伸ばすことができるはずです」
もちろん、そのつもりですよ。
アリカ様は……牢獄にいるとき、アスナ姫のことをたいそう気にしておられました。
ナギ達が彼女を助けはしましたが……追手はやはり差し向けられたようで。
アリカ様を救いたいと願う私としては、彼女の安否を確かめることもまたアリカ様の為にしておきたいことです。
ここまでの二つは、なかなか考えさせられるものです。
さて……最後の一つは、何ですかね?
「三つ目……」
――世界の真実を、教えて差し上げます。
「世界の、真実……?」
「ええ。この世界の最高機密であり、元老院でも知るのは上層部の中のごくわずか。
紅き翼でさえ知らなかったことでしょう。しかし、この情報は……“完全なる世界”が戦争を起こし、魔法世界全体を包み込む儀式を実行しようとした、その原因に直接かかわっている情報でもあります。この情報もまた、上に立つために知っておくとかなりのアドバンテージになるかと」
…………
話が、どんどん大きくなっていますよね。
これが本当なら、その真実とやらが何かは知りませんが……結構なものじゃないんですか?
だとしたら、せめてその情報の正確性は確認しておきたいものですね。
「その話、どれほど信憑性がありますか?」
「私個人の力では、ポンと根拠を出すことはできませんが……議員の権力を使えばある程度調べることは可能かと。少なくとも、旧世界と新世界という名称、亜人をはじめ多くの魔法世界人が旧世界に行けないこと、そしてあの儀式の意味……他にもいくつかあげられますが、これらのことに説明をつけることが可能です」
さぁ、どうしますか?
彼女の提案に、私は首を縦に振るべきか横に振るべきか。
彼女に情報を渡せば、間違いなく彼女は復讐を行うでしょう。それが前提の話ですし。
だが、アリカ様の名誉を取り戻すための大きな足掛かりになりそうなのも確かで。
私は。
誰かのために、誰かを犠牲にするかという選択を突きつけられていた。
私の、答えは……
実に久しぶりの更新です。
リアルが忙しくなってろくにパソコンできませんでした。
しかし宿題終わってない。
誰か助けて。
あと3日で、私は全てを終わらせねばならんのですよ。
遅れた理由としてもう一つ、クルトとの取引をどう進めようかと頭を悩ませたのもあります。
アカネが提示した3つの対価、そしてアカネの要求。
ほんとに、考えた末でのこれです。
そして最後に、報告を一つ。
協力者の件ですが、誰にするかが確定しました。
おそらく、この空白期間編で出せるかと思います。
感想、ご意見、ご指摘お待ちしております。