死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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第11話 亡霊事件

Side アカネ

 

夜の通りは街灯の明かりが頼りで、それさえなければ真っ暗でしょう。

夜遅くの為昼間は活気があったこの通りもすっかり静かでした。

薄暗い中を私と子犬の姿に戻ったマケイヌは黙って歩いています。

マケイヌが憑いていた有力者さんは、適当なところでお帰り願いました。

 

『あ、あれ? ここはどこだ?』

 

非常に混乱していたようですがね。仕方のないことです。

私のわがままにつき合わせてすみませんでした……。

 

『……結局、俺が口をはさむこともなかったな』

「えぇ。いや、正直自分がここまでできるとは思いませんでした……マケイヌがあらかじめ指示してくれていたおかげです」

 

 

 

 

 

結局。

彼の答えは……「わかりました」から始まりました。

 

「1週間、時間をください。その間に情報を用意しておきます。また1週間後、同じ時間にここでよろしいですか?」

「ええ。……ご協力、感謝します」

 

了承の意を告げたクルトは来週にまた会うことを約束し、今日のところは帰りました。

つまり、交渉は成功したのです。

彼にとっては何番目の対価が効いたのでしょうか?

いや……交渉が成立した以上、それはもうどうでもいいことです。

 

「あぁ、そうそう」

 

もっとも、一つだけ私を驚かせたことがあったのですよ。

私を呼びとめたクルトは、私の隣にいた人物に視線を移しました。

若干厳しめの目つきで。

 

「あなた……ドルネゴス氏ではありませんね? いや、体は確かに本人のものでしょうが、雰囲気と目が違う……何者です? アカネさん、あなたもご存じで?」

「あ……」

 

まさか、マケイヌに気付くとは。

驚いたのはマケイヌも同じだったようです。しばらく目を丸くして黙っていましたが、急に笑い出しました。

 

『ふ、ははははは!! よく気づいたな! 俺は嬢ちゃんのサポートをしていてな、名前はマケイヌだ。別に何か企んでたわけじゃない、今日あんたに来てもらうためにこの男の名前と体を借りていただけだ。他意はねーよ』

「そうですか……ならばいいです。では、これで失礼させていただきます」

 

 

 

 

 

『いやあ、まさかばれるとはな』

「そうですね。ましてや、発言もしていないのに目と雰囲気だけで気付くなんて……。それだけ人を観察しているということでしょうかね?」

 

だろうな、とマケイヌは答える。

人を観察する目も、政治家にはやはり必要なのでしょう。

それを踏まえると、私も彼のお眼鏡にかなったということでしょうか?

 

『んじゃあ嬢ちゃん。一週間後と言われたが、俺たちは別に一週間が過ぎるのをのんびり待つ必要はない』

 

犬の姿をしたマケイヌの後ろに、小さな門が開く。

ええ、いつもくぐっている、あの門です。

 

「そうですね、すぐ行きましょう」

 

私はマケイヌの後に従い、門をくぐる。

果たして、一週間でどれほどの情報が得られるか。

私がこれからすることに、十分な情報であることを期待しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

Side マケイヌ

 

「あ、ぁぁぁ……」

 

道にはいつくばっているのは、一人の男。

その前に立つのは、鎌を手にした黒い影。

仮面で顔を隠してはいるが……それが誰かは言うまでもないな。

 

「た、助けてくれ! 俺が何をしたっていうんだよ!!」

「無抵抗の村人をあなたとその部下とで計62名を殺害、さらには略奪行為を働いた。それがアカネ村での、あなたの罪です。ローベルト・マイルズ。……まさか、忘れたとか言いませんよね? そんなこと言わせはしませんよ」

「ひっ……!」

 

 

 

 

 

一週間後、俺達が再びクルトと会談した時。

彼はあの事件に参加していた人間のリストをしっかりと用意してきていた。

しかも誰がどれだけ殺したかという“手柄”まで記録されていた。

 

「なにせ戦争ですからねぇ。どれだけ殺したかという手柄は各自しっかり報告していたのですよ。もちろん、戦後表向きの記録は破棄されましたが……やはり、裏にはどこかに残っているものでして」

 

探すのは大変でしたよ、と笑うクルトの手腕は確かだと思い知ったぜ。

まぁその彼でも、嬢ちゃんが何者かということまではつかめなかったようだが。

 

「アカネさん。あなた何者なんですか? この前は親戚かと予測を立てましたが……かといってそうでもない気がするのですが」

「話す必要はないでしょう? 仮に話したところで、納得してもらえるとも思いません」

 

まぁ、被害者その人だからな。

死んだ人間が目の前にいるというのは納得できないだろうし、思いつかないだろうさ。

 

 

 

 

 

そして、今。

嬢ちゃんは軍関係者への復讐を始めた。

リストによると、届け出があった手柄の人数は明らかに偏りが見えた。

2桁の、けっして多くない人数から0までいろいろいたのだ。

 

「せ、戦争だぞ! 上からの命令だ、仕方ないとは思わないか!?」

 

マイルズとかいう男は必死に嬢ちゃんに命乞いをする。

けど、そんなの通じるわけがないだろうが。

0という数字が、リストにはあったのだから。

戦争の中、戦闘でなら相手を殺すこともあっただろう。

だが、嬢ちゃんの故郷……アカネ村の場合は訳が違う。嬢ちゃんの記憶にもあったが一部の防衛陣以外はみななんの戦闘力もない無力な村人たちだ。

抵抗もできないから、一部の兵士たちは、殺せなかった……それが手柄“0”の意味だ。

だが、この男は部下の微々たる数字を除いても明らかにたくさん殺している。

つまり……。

 

「あなた達の隊だけで62名……“仕方ない”からですむ人数ではないでしょう……!!

あなたは自分の意思で人を殺した! 村のみんなを殺した! 弁解なんて要りませんよ」

「た、助け」

 

ヒュン。

 

短い、空を切る音と共に情けない懇願の声は途切れた。

後にはただ、もう何も言わない男が倒れているだけ。

 

「…………」

 

軍関係者への復讐はこれで3人目だが、決まって嬢ちゃんは復讐を終えると無口になる。

もっとも、普段だってお決してお喋りなわけでもないけどさ。

 

「次へ行きましょう、マケイヌ」

『あぁ、わかった』

 

今回嬢ちゃんが対象として選んだのは、さっきの奴のように複数の村人を殺している相手。

なにせ先ほど偏りがあるとは言ったが、全体的に言えばけっこう“0”が多いのだ。

無論、村に人数がたくさんはいなかったということもあるだろうが……それだけではないだろう。

だが次は殺していない人間が相手。

厳密には直接には……だ。なにせクルト、一人だけ議員の名前もリストに合わせて俺たちに教えたのだ。なんでも、かねてからスケープゴーストで難を逃れたというのが皆言わずともわかっていた人物なのだそうだ。

「彼のようにすぐ尻尾を出してくれれば楽なんですがねぇ」とクルトはぼやいていたな。

 

「元老院議員ですか……」

 

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

クルトとの会談から、さらに半月ほど過ぎました。

今私たちは昼間からぶらぶらと通りを歩いています。

 

『どこもかしこも話題になってるな』

「ええ。通り過ぎた人々がみんな同じような話をしてるようです」

 

話題とはいうまでもなく、私たちが起こした事件。

アカネ村事件にかかわった当時の軍のうち、特に人を殺した者。そして、さらにアカネ村への進撃命令を出したと疑惑があった元老院議員が一人、殺されていた事件。

世間では「アカネ村の亡霊」「亡霊事件」と呼ばれ大騒ぎになっています。

……亡霊というのは、あながち的外れではないのですよね。

私の存在、ばれてませんよね?

 

「とりあえず、クルトに提示した一つ目の対価は無事に提供できたようですね」

『だな。特に元老院議員が実際に一人殺されているんだ、他の議員も内心恐怖で真っ青だろうさ』

 

マケイヌによると、命令を出した議員は他にもいるだろう、とのことです。

あぶり出しはクルトが今必死にやっていることでしょう……。

そうそう、もう一つこの騒ぎを大きくした要因がありましたね。

この事件が報道されて少しした頃、当時の兵士の一人が自殺したのです。

残された遺書には「私たちは大きな過ちを犯した。復讐で殺される前に自ら命を絶つことで、せめてもの償いとさせてほしい」とあったそうです。

ちなみに、リストによると確かに参戦してはいましたが、私が殺した人たちと比べてはあまり村の人を殺していませんでした。

もっとも、0というわけでもなく。おそらくは上官による叱咤を受け、殺したということでしょうね。

 

「自殺しようとした人は他にもいたようですが、決まって命令でやむなく2,3人殺したような人ばかりです。自ら率先して殺戮を行ったような奴らは逃れようとしてばかりでしたね……」

 

みんな殺しましたが。

たいてい彼らの命乞いや言い訳を聞かされるはめになりました。

 

『目の前の無力な村人を殺そうとした時に罪悪感がわかなかったからこそ、大勢を簡単に殺せたんだろうさ。殺すときに躊躇しなかったやつらが、今さら罪悪感を感じることはできなかったんだろうよ』

「それもそうですね……」

 

マケイヌには軍を殺すだけでは未練を晴らせない、とは言われていましたが。

やはり、軍への復讐は私の未練を少しは晴らしてくれた気がします。

何といっても、直接的に殺したのはほとんどが連合軍ですから。

もちろん、紅き翼が何もしなかったわけではありませんよ? 彼らがいなければ被害はもっと少なく済んだはずなんですから。間違っても、全滅は無かった。

もう少し時間があれば、大勢での転移が時計塔の避難所で展開されたはずです。

でも、間に合わなかった。

だから、私は紅き翼に復讐する。

 

 

 

 

 

こうして、魔法世界での「軍への復讐」はひとまず幕を下ろしました。

まだ手を出していない、上の人間も残っていますが……彼らへの処断は、クルトによる洗い出しを待たなくてはなりません。

だから先に、紅き翼への復讐を続けることになりました。

 

そう、マケイヌと話していましたが……この時点で、私は想像もしていなかったのです。

今回の軍への復讐……「亡霊事件」が、もう一つ私の復讐に大きな影響を与えることになるなんて。

まさか、この事件のニュースを知って。

 

 

 

 

 

“私”のことをよく知るあの人が魔法世界へと赴いていたなんて。

 

アカネではなく、○○・フィルデオーレのことを知る者が。

 




一週間ぶりの投稿になりますね。
とりあえず、それ以上にならなくてよかったです。
次はもっと早くしたいなぁ……。

戦争での手柄云々は私の独自解釈です。
戦争について詳しいわけではないので何とも言えませんが……こういうシステムだったんじゃないかなぁ、と。
そして上層部への復讐は少し先の話となります。
具体的には魔法世界編のあたりですかね?

そして最後の方にて、協力者の参入を予告しました!
次回の話は協力者の過去がメインとなります。
この過去は完全に私のオリジナルです。
もちろん、できるだけつじつまは合うようにしたいと思っています。

では、またお会いしましょう。

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