死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
中途半端なタイミングで言うのも何ですが、本当にありがとうございます!
今回はすべて協力者視点での物語です!
Side ???
大人になるということは、それだけの多くの経験をするということ。
しかし、それは同時に多くの経験の中で記憶を薄れさせていくことにもなる。
実際、子供のころの記憶というものは皆あやふやだろう。
子供のころ好きだったものは? 日々を何して過ごしていた?
子供のころの記憶はもう限られたものしか思い出せない。
あやふやになってしまう思い出の中には忘れたくないものもあるというのに。
私にも、いくつか大切な思い出がある。
だけど私の場合、一番心にとどめておきたいのはある一人の親友のことだ。
彼女のことを忘れるわけにはいかない。
今、彼女は私の心の中にしかいないのだから。
幸いなことに、彼女との記憶は今もなお鮮明に覚えている。
それはきっと、今の私に強い影響を残しているからなのでしょうね。
私は旧世界で生まれ、その後もほとんどを旧世界で過ごしたが一時期魔法世界で生活していた時がある。
というのも親が本国により魔法世界へと招聘されたのだ。もっとも、両親が言うには「魔法世界なんて行くんじゃなかった、すぐにそう後悔した」のだとか。
なぜなら……住み始めてしばらくすると、戦争が始まったから。
最初こそ首都にとどまってはいたけど、両親は自分たちが招聘されたのが、この戦争での戦力としてだと気付いたそうだ。
このままでは、自分たちは戦争に駆り出される。娘……つまりは私を残して。
危機感を抱いた両親は悩み、話し合った末……“逃亡”という選択肢を選ぶことにした。
無謀に思えるかもしれない。実際、ゲートは連合の目が厳しくその時点では使うことができなかった。
だが、両親にはあるあてがあった。
旧世界からの仲間から、ある辺境に戦争から逃れた人々で構成された村があるという情報をもらったの。ガセネタかもしれない、不確かな情報。
でも、両親はその村を目指すことに決めたのよ。
それが、“アカネ村”だった。
そこで私は、一生忘れられない親友と出会ったの。
村を探すのは大変だと思われた。
だけど父の仲間が、買い出しに来ていたアカネ村の人間とコンタクトをとることに成功したの。
アカネ村には大掛かりな転移魔法陣があって、時間はかかるけどそれを使えば人をどこかへ送ったり、逆に迎えたりすることができたらしい。
管理してたのは確か、物静かなお爺さんだった気がする。
滅多に人前に出る人じゃなかったし、何せ昔のことだからはっきりとは思いだせないわ。
案内されてたどりついた村は、戦争が起こってる同じ世界にあるとはまるで思えなかった。
首都と比べて緊張にあふれていなかったのが、ずいぶん心地よかったのを覚えている。
私が親友と初めて出会ったのは村にたどりついて数日後、交流会として開かれたフィルデオーレ家での夕食会だったわ。
同じ年代の女の子ということもあって、私たちが仲良くなるのに時間はかからなかった。
会ってすぐにあれほど仲良くなれたのは、今思い出してみると後にも先にも彼女だけだったわね……。
「フィー!! あーそぼー!」
「うん、今行くよ、ミィ!」
彼女がフィーで、私がミィ。
あだ名をつけたのはいいがえらく単純なものだった。
まぁ、そこは深く考えずに呼びやすさを追求した結果ね。
彼女の家に出かけては、遊びに誘うのが当時の私の日課。
たまにフリックという、彼女の幼馴染が一緒だった時もある。
子供っぽくはしゃぐ私だったけど、一方で彼女は少しだけ大人びたところもあって。
私は彼女の跡をいつも追いかけていた。
今も、私は知らず知らずのうちに彼女を追いかけているのかしら。
幸せに続くかに見えたアカネ村での日々は、ある日突然転機を迎えた。
「やはり……気持ちは変わりませんか? フィルデオーレさん!」
その日、両親は私を連れて彼女の家……フィルデオーレさんの家に向かった。
当然私は彼女と遊んでいたのだが、親たちが話す声があまりに大きかったものだからつい気になって二人でそっと様子を覗いてみた。
私達の両親は深刻な顔をして何か話しこんでいるようだった。
「この世界は危険だ。ここに来る前の仲間のつてで、古いゲートポートを使って旧世界へ行くことができるんです。村のみんなも、その方が安全でしょう……!」
「申し出はとてもありがたいです。ですが、旧世界というのは“亜人”が存在しない世界だと聞いています。私のような人間はともかく、彼らをそこへ連れ出すことはとてもできません。差別などで彼らがよりつらい境遇に置かれるくらいなら、ここにいたほうが幾分かはよいと思うのです」
私の父が何かを説得していたが、当時の私は何の事だかよくわからなかった。
会話……というか説得はまだ続く。
「……しかし」
「あなた達だけで行っても、私たちは決してあなた達を非難することはありません。ここよりも安全と感じられるのなら、あなた達がここを去ることにどうして文句が言えましょう? 私たちにはあなた達を責める理由も、引きとめる理由もないのです」
それからは目の回るような忙しさで。
泣きじゃくってここに残ると騒いでは親に説得を受け。
なおもここに残ると泣いてごねる私を引きずるようにして両親が村を後にしたのはそれから一週間後のことだったわ。
結局、村を出たのは私達だけだった。
フィルデオーレ一家は門のところまで見送りに来てくれて……フィーは悲しそうにこっちを見ていた。
その顔をとても見ていられなくって……私は、顔を隠すように母にしがみついていた。
旧世界に戻って数年。
麻帆良という学園都市で学園生活を送っていた私は魔法世界の新聞を読むのを毎日の日課としていた。
私が平和に過ごしている一方で……今だ続いていた戦争のことが、そしてフィーや村のことが気になっていたからよ。
だけど私は、ある日の新聞を見て思わず持っていたコーヒーカップを落としてしまった。
パリンという甲高い音を立ててカップは割れ、カーペットにはコーヒーによるシミが広がっていた。
「ちょ、ちょっとどうしたの!?」
音を聞いて、ルームメイト……彼女もまた魔法生徒なのだが……が慌てて寝室から飛び出してきた。でも、私は返事ができなかった。
書いてある記事が、言葉が、私の全ての思考を真っ黒に塗りつぶしていた。
“紅き翼また活躍! スパイの集合地と思われるアカネ村を殲滅!!”
アカネ村ヲ……センメツ?
ルームメイトの言葉など耳に入らず、私は記事を読み進めた。
人間と亜人が混じるアカネ村をスパイの集合地としてメガロメセンブリア軍および紅き翼が殲滅したという。
生存者は……“0”。
緊急時の避難所として私も知っていた時計台も破壊され、そこにいた全員が死亡と書いてあった。
おそらく上の人間が情報を統制したのでしょうね。
何も知らない人が読んだら、スパイ活動をしていたものばかりが集まった村だから、戦争犯罪者たちばかりが死んだと思うだろう。
だけど、私はあの村が大人も子供も平和に過ごしていた村だということを知っている。
そう――それはつまり。
フィーが、死んだ。
私の親友は、殺されてしまった。
「あ、あぁぁ……あぁァァァァァ…………!」
「ちょ、ちょっと! しっかりして!? だ、誰かぁ!!」
真っ青になってがたがた震えだした私は、その場に崩れ落ちてしまった。
慌ててルームメイトが人を呼びに行ったけど、私はもう何も考えられなかったの。
『ミィ……また、会おうね……』
『うん……絶対、また会いに行くから……フィー』
村を出るときにした、約束。
それはもう、果たされることがないのか。
そう考えると、悲しくって、辛くって。
呼ばれてきたのだろう誰かの足音が聞こえたけど、私の意識はそこで消えていった。
彼女の死は、さらに大きな影響を私に残していた。
紅き翼が出たということは、ニュースで見るような超上級の魔法が村に落とされたのだろう。村に巨大な雷が落ち、村が……そしてフィーが吹き飛ばされるという悪夢をその日から毎晩のように見ることになった。
悪夢に叫び、はね起きてはがたがたと震える。
授業を担当する先生が皆欠席をすすめるほど私は憔悴していたらしいわね。
そして……それは大きなトラウマにまで発展した。
「うっ……げほっ!?」
「む、無茶はしなくていい!」
私も魔法生徒として、夜の学園の警備に出ていたのだが……。
警備に復帰できるぐらいに悪夢から回復した頃にとんでもないことが判明した。
フィーを殺そうしたのであろう“魔法”を使おうとした途端……一気にひどい吐き気と頭痛に襲われたのだ。
呪文を詠唱しようとするたびに、吐き気と頭痛が止まらなくなる。
記憶処理をしてはどうかという案が出たが……それは絶対に許さなかったわ。
そんなことをするくらいならと、私は魔法生徒から抜けることを宣言した。
親にそのことを報告すると、彼らは事情をわかってくれて温かい言葉をかけてくれた。
両親の助けがなければ、私は今まともに生活することすらできなかったかもしれない。
大学を出て、仕事について。
幸い魔法を使わずとも魔法を知っているということで就職が優遇されたのはラッキーだったわね。事務などの仕事も必要とされていたから、私はすぐに引き受けた。
そんなある日、学園生活からずっと残っている日課の新聞を読んでいると私の目にもう二度と目にしないであろうと思っていた文字が飛び込んできた。
“アカネ村の亡霊!? 関係者死亡これで5人目”
アカネ村。
今はもうないあの村だが、あの事件に関わった人間が次々に殺されているという。
それはまるで、復讐。
生存者はいないはずなのに、いったい誰が!?
村を出たのは私たちだけのはずなのに。
幸い、長期休暇が明後日からだったから私はすぐにイギリスへのチケットを準備して、魔法世界へと向かった。
もう二度と来ることもないと思っていた魔法世界で、私は通称「亡霊事件」について、何か手掛かりがないかと通りを歩き続けた。
もっとも、そんな簡単に手掛かりなど見つかるはずもないわけで。
「ほんと、私何をやってるのかしら……」
ベンチに座ってぼんやりと呟く。
空を眺めていると周りが楽しく会話している声がよく聞こえた。
だから、まさか。
「何を考えているのですか……軍への復讐は一部にとはいえ、一応終わったのですよ?」
この声が聞こえたとき、私は思わずそちらを向いた。
内容も内容だったが、何よりその声は聞きおぼえがあって。
いつかまた聞けたらと思っていた声で。
視線の先には、一人の少女が子犬とにらみ合っていた。
その少女の横顔は……最後に見たときより成長しているとはいえ、明らかに彼女の面影を残していた。
「あ……あ……」
ふらふらとした足取りで、少女に近寄る。
私は。
私は、二度と会えないと思っていた親友に、実に数年ぶりに話しかけた。
「フィー!」
今回、協力者の背景やアカネとのつながりを書きました。
あえて誰かは明言していませんが、いくつかヒントをいれているので協力者がいったい誰だかわかる人もいると思います。
そこで、一つお願いです。
感想やコメントにおいて協力者と思われる人物の名前を出すのは
作中ではっきりと出るまで控えていただけないでしょうか?
どうしてもあってるか知りたい! もしくは言わずにはいられない! という方は
私宛のメッセージにてどうぞ。
確かこの「ハーメルン」にはそういう機能があったと思うので。
希望があれば、この返信にて合ってるかどうかお伝えいたします。
そして毎度ながら更新が週一程度ですみません。
前回「早くしたい」といいながらも、結局1日繰り上げられた程度。
次こそは……!
感想、ご意見、ご指摘お待ちしております。