死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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第13話 死神が泣いた日

Side アカネ

 

「亡霊事件」を起こしてからも、しばらく私は魔法世界にとどまっています。

私としてはすぐに移動しても良かったのですが……。

なぜか、マケイヌが門を開いてくれません。

 

「マケイヌ……いったい、何を考えているのですか? 軍への復讐は一部にとはいえもう終わったんですよ?」

『そうなんだが……もう少し残る必要が出てきたんだよ。理由の一つは、知っての通り亡霊事件が起こったために逃げだしやがった奴の情報をまた集めなきゃならねぇ』

 

マケイヌによると、亡霊事件に際し真っ先に逃げて私の手から逃れた者がいるとのこと。

……あぁ、そう言われれば確かにいました。

正確には軍から武器を横流ししていたことが発覚して逃亡しようとしていた人間ですが。

武器の横流しがばれたのに加え、亡霊事件の発生。

その男が逃げるにはタイミングがよすぎたのでしょう。

ですから、リストに名があったやつですが手をかけることはできませんでした。

 

「そうですね……でも、彼は絶対に追い詰めて見せます。だからそれはあなたに任せるしかできませんね。頼みますよ」

 

今もなお紛争で利益を得ているであろう彼は、絶対に許さない。

 

「では、他の理由は何なのですか?」

『それは、だな……』

 

じっとマケイヌを見つめたその時、私たちのほうへ一人の女性が近づいてきた。

まさか、聞かれてしまった?

とっさに身構えた私でしたが、すぐに手の力が抜けました。

だって、その女性の目には涙が浮かんでいたから。

 

でもまさか、あんなことを口にするとは思ってもみなかったのです。

 

「フィー!」

 

フィー。

私はかつて……子供のころに、そう呼ばれていました。

とはいっても、両親をはじめ大人たちは私のことを名前で呼んでいました。

「フィー」というあだ名で私を呼んだのは、この世にたった一人だけ。

そう。

 

「……ミィ?」

 

彼女が村を出て、そして村が滅んで。

もう二度と会うこともないと思っていた、彼女だけ。

 

「ま、まさか、本当に……?」

「えぇ……私よ、ミィだよ。……久しぶりね、フィー」

 

ミィ。

私の親友しか、いない。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、大人になりましたね……」

「そういうあなたこそ、大きくなったわね。っていうのも、なんだか不思議な気分だけど」

 

いえいえ、あなたのほうが大きくなっているじゃないですか。

背も高くなってるし……その、ほら。

本当に、大きくなりましたよねっ、この子……!!

 

「あら、どうかしたの?」

「なんでも……ありません……」

 

気にしたら負けです。ええ、もう気にしませんとも。

 

現在私たちは、彼女のことを知らないマケイヌに簡単な説明をして一緒にカフェテリアに座っています。

すっかり大人になったミィはカップを手に取るそのしぐさだけで優雅さが出ています。

私の記憶にある彼女は、実に子供らしい無邪気さを持った子だったんですけどね……。

 

「本当に、変わったものです」

「まぁ、いろいろあったもの。アカネ村を出てから旧世界に戻って、学校に通いながら一人暮らしを始めて……。でもあの日、新聞を見た時は本当に驚いたわ」

 

新聞……。

まぁ、予想がつきます。

 

「アカネ村が滅んだと聞いた、あの日。私本当に悲しかったのよ? 新聞の書き方じゃあまるでスパイだけが死んだように書いてあったけど、私はそうでないことを知っていた。だから……あの日、あなたは死んだのだと……」

 

彼女の声に嗚咽が加わりだす。

一方で私は、何も言えませんでした。

私が目の前にいるから私はなんとか逃げ延びたのだと思っているのでしょうね。

でも、ごめんなさい、ミィ。

 

 

 

 

 

私はもう、死んでしまったんです。

 

 

 

 

 

「だけど、よかった。あなたとまた会えて、本当に良かった……」

 

ミィはぽろぽろと涙をこぼし始め、もう嗚咽を隠そうとしない。

やれやれ、すぐ泣くのは変わっていないのですね。

席を立った私は、そっと彼女を抱きしめました。

 

「私も、嬉しいです。二度と会えないと思っていましたから……」

 

はたから見たら微笑ましい光景だろう。

だが。

対して彼女の顔は喜びとは逆の、真っ青な顔をしていた。

それは……仕方がない、ことでしょう。

 

「フィー……? あなた、一体」

「……気づいちゃいましたか」

 

私の体から温かみが感じられないことに。

何より、この胸の鼓動がないことに。

 

「教えて、フィー。あの日、本当は何があったの? あなたに……何があったの?」

 

あなたは……何者なの?

 

その言葉に、私はしばらく口を閉ざしていた。

 

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

「あなたは……何者なの?」

 

二度と会えないと思っていた親友にやっと会えたというのに、今の私には再会への歓びがすっかりしぼんでしまっていた。

それというのも、私を抱きしめたアカネからは心臓の鼓動を感じられなかったから。

まるで、もう止まってしまっているかのように。

フィーはもう死んでしまったかのように。

 

「……やっぱり、気になりますか?」

「当然よ。さっき私はあなたが生き延びていたのだと思っていたのだけれど……そうじゃないっていうことなの?」

 

フィーの返答は、沈黙。

そしてそれゆえに、フィーがもう私とは違う存在になってしまったことが理解できた。

理解して、しまった。

 

あぁ、彼女はもう、私とは同じに見えて違うところにいるのだと。

 

「答えてよ、フィー」

「……聞いたら、幻滅しますよ。それに、私がしてきたことまで話さなければなりません……そんなの、ミィには聞かせたくない」

 

彼女が今までしてきたこと。

確証はなかったけど、一つだけ思い当たることがあった。

そもそも、私はその情報を得てここまでやっていたのだから。

 

「たとえば……亡霊事件とか?」

「ッ!?」

 

びくり、と彼女の肩がはねたのがすぐに分かった。

もともと、私は亡霊事件は“本当の”アカネ村を知る人が起こしたと思っていた。

そこで出会ったのがフィーだ。無関係とはどうしても思えなかったわ。

 

「ならもう、話すことはありません」

 

ふらりと立ち上がると、フィーは傍らの犬を連れて人ごみのほうへ歩いて行こうとした。

私に背を向けて、口を閉じて。

 

「待って!」

 

背を向けたままフィーは立ち止まる。

さっき感じた、彼女が自分と違う場所にいるあの感じ。

でも、私は彼女の横にいたい。

彼女に孤独を感じさせたくはないから。

 

「まだ、話は終わってないわよ」

「なぜ? 亡霊事件を知っているなら私が何をしたのか分かったでしょう。それだけじゃない。私は、この魔法世界の魔法使いなら決して許さないようなことまでしようとしているんですよ」

 

ゆっくり振り向いた彼女の眼には、恐れが混じっているように思えた。

馬鹿ね……だからって私が、あなたを蔑むとでも?

 

「だからどうしたの? それに、もう私には魔法が使えない」

「……え?」

 

初めて、フィーの表情が驚いた様子になった。

そう、私はもう魔法が使えない。だから、もう魔法使いじゃない。

 

「私はフィーのことをよくわかっているつもりよ? だから、あなた大それたことをしようとしているのだとしても、それにはきっと理由があるのでしょう? あなたは理由もなく悪いことをする人じゃないわ」

「そ、それは……」

「だから話して。私が去って、アカネ村事件が起こったあの日。本当は何があったのか。

あの日、あなたの身に何が起こったのか」

 

私はフィーから視線を逸らさない。

しばらく迷っていたようだったけれども、やがてフィーはためらいがちに席に戻ってくれた。座ってからも黙ったままだったけど、やがて顔を上げた。

 

「聞かなければよかったと、後悔するかもしれませんよ」

「後悔はしないわ。何であれ、私は知らなければならない。そんな気がするの」

 

それでもフィーは何かと理由をつけて話したがらなかったけど、私はその度に説得を重ねる。その甲斐あって、ついにフィーが折れた。

 

「わかりました……。話します」

 

そして、フィーは教えてくれた。

あの日、何があったのか。

 

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

まさか、ミィがここまで粘るなんて……。

正直、彼女の根気をなめていました。

その反面。ここまで私のことを思ってくれたのだと思うととても嬉しかったです。

内緒ですよ?

 

「わかりました……。話します」

 

何から話すべきか。

少し考えましたが、やはりまずはこれを言っておくべきでしょうね。

うすうすミィも気が付いているとは思いますが。

 

「私はあの日、死にました。紅き翼の魔法によって、殺されました」

 

それから、私はすべてを話した。

本当は誰にも話すつもりはなかったけれど、彼女にはすべて打ち明けた。

 

あの日――

 

私が殺されたこと。

 

お父様やお母様も殺されたこと。

 

フリックや他の村人も皆殺されたこと。

 

避難所であった時計台は結界ごと破壊され、村は焼かれ、略奪まで受けたこと。

 

私は死者の世界への扉の前で、自分が未練を残して向こうへ逝けないと言われたこと。

 

未練を断ち切るためには、メガロメセンブリア軍と紅き翼に復讐するしかないと言われたこと。

 

力を得て、これまで軍と紅き翼の一人……ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグに復讐したこと。

 

全部、話しました。

 

 

 

 

 

「そう……だったの……」

「話は、本当にこれで終わりです。どうですか? 失望しましたか?」

 

人を殺した、この私を。

自虐的に言いましたが、私はミィに拒絶されるのが内心恐ろしくてたまりませんでした。

彼女は……どう、思ったのでしょう……?

 

「……ずっと」

 

やがて、ミィは口を開きました。

 

「ずっと、一人で辛い思いをしてきたの?」

「え……? いや、なんというか」

 

一応、マケイヌいましたけど……。

あれ、そういうことじゃないですかね。

 

「決めた。フィー、ちょっと一緒に来て」

 

ミィはすぐに立ち上がると、支払いを済ませて通りを歩き始める。

ええと、どこに行くつもりでしょうか?

聞いても教えてくれず、ただ私は彼女について行った。

 

ミィは少し古ぼけた店の前につくと、やっと足を止めた。

ここは、ええと……“契約仲介屋”?

 

え? え?

 

「フィー。私と、仮契約しましょう」

「え、な、何で……?」

 

ミィは私のほうに近づくと、私を、ゆっくりと抱きしめた。

今度は、彼女のほうから。

 

「フィー、ごめんね」

「え?」

 

さっきから驚いてばかりです。

どうして、私が謝られなければならないのでしょうか?

 

「私は今まで、あなたのために何もしてあげられなかった。

でも、これからは違う。たとえフィーが死んでしまったのでとしても、私はフィーを助けたい。だから、フィーの未練を払うためなら何だってする」

 

私も、あなたの復讐に協力させて。

 

だんだんと、目に何かがこみ上げてくる思いでした。

もう死んでるのに。

涙なんて、出るはずないのに。

 

「う……うっ……」

「あなたがつらい思いをするなら、私も一緒。あなたが罪を背負うというなら、私も一緒に背負ってあげるから。だからお願い。仮契約して、協力するための力を分けて?」

 

わたしを抱きしめる彼女の腕が、さらに力を入れる。

ありえないけど、確かに私は、彼女の腕に久しぶりのぬくもりを感じていた。

 

 

 

 

 

「だって私たち、親友じゃない」

「うっ……うぅぅぅ……うぁぁぁぁぁぁぁん……!」

 

 

 

 

 

しばらく、私は彼女の腕で泣き続けた。

本当に、うれしかった。

 

私を救ってくれるという彼女の言葉が。

私と一緒に罪を背負ってくれるという彼女の覚悟が。

 

泣いたっていいじゃないですか。

 

 

 

 

 

私には、最高の親友がいる。

その後、契約仲介屋から出てきた私の手には一枚のカードが。

 

カードでは小さな鎌を手に抱いた女性が、優しい笑みを浮かべている。

 

「ミィ。○○・フィルデオーレはもう死にましたから……これからは、アカネと呼んでください」

「えぇ。それなら、私のことは、しずなと名前で呼びなさい?」

 

親友《源 しずな》は、にっこりとほほ笑んだ。

 

フィー、ミィと呼び合ったあの頃の少女たちの絆は、今も確かに残っていた。

6




えー、なんといえばいいのか……

早く早くといいながら、2週間たったこの体たらく。
今回ばかりは、もう怒られても仕方ないですね……
その分、普段よりかなり長くなったことがせめてものお詫びでしょうか。

前回はあえて協力者の名前は伏せましたが、結構皆様わかったようで……
なので、「もういいだろう」と予定より早く名前を出しました。

というわけで、協力者はしずな先生です。
本当は瀬流彦にしようかと思ったのですが、年齢合わないなと思い、こうしました。

そもそも、調べてみるとしずな先生は一話から結構思わせぶりな登場をしていたんですよね。
でも、結局魔法先生だったのかすらあいまいで……
なので私の話では「魔法先生じゃないけど魔法を知る関係者」というポジションです。

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