死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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第14話 手の中の重み

Side アカネ

 

ミィ……いえ、しずなと再会してから2、3年ほどたちました。

今、私たちがいるところは……まさに、紛争の真っただ中。

正直、嫌悪感で吐きそうです。

死んでいる身なので吐くものがないことが、せめてもの救いでしょうか。

 

『嬢ちゃん、やっと見つけたな』

「えぇ……。これで、やっと一段落です」

 

私たちがここへ来たのは、亡霊事件で殺し損ねた、軍関係者最後の一人を殺すため。

アンドリュー・ヴェルト。軍から武器を横流ししていたのが発覚して、亡霊事件が起こったのに後押しされ逃亡した男です。

 

しかも彼は、いまだに武器商人として金を得ているのだとか。

……そのために、わざわざ紛争まで扇動して武器を売りさばいている。

 

「……本当に、殺し損ねたところが悔やまれますね」

 

亡霊事件の時に殺しておけば、ここで多くの人が犠牲になることはなかっただろうに。

そう考えていながら、一方で私は自分をせせら笑っていました。

 

 

 

いつの間に、人を殺すことへの抵抗が薄くなっていたんでしょうね?

「殺し損ねたことが悔やまれる」だなんて。

 

 

 

『嬢ちゃん、どうやらあっちの方にいるみたいだぜ』

「わかりました。向かいましょう」

 

マケイヌには気付かれないよう、自分への自虐心をそっと心にしまう。

自虐できるだけ、まだマシです。もし殺人に何のためらいもなくなってしまったら……。

復讐を終えても、果たしてみんなのところへ逝けるでしょうか。

 

 

 

 

 

向かった先では、魔法がぶつかり合い爆発があちこちで起きている。

ヴェルトによって大量の武器が流れていますから、戦火は余計ひどかった。

 

「…………」

 

見渡せば、死体の山。

中には子供もいました……やりきれない気持ちというのは、こういう気持ちをいうのでしょうね。

でも、私がこの紛争を止めることはない。私には、できない。

 

「私にできるのは、結局復讐だけなのですね……」

 

途中で襲い掛かってくる人間たちは、私を襲ってきますが傷つけることはできなかった。

どんなに魔法を放っても、武器を使っても素通りするだけ。

だって、生者は死者に届かない。

 

『嬢ちゃん、死神の鎌を出してローブを着とけ。顔を隠しとかないと後々面倒だ』

「わかりました、マケイヌ」

 

右手を地面にかざし、突き出してきた紅の柄をつかんで引き抜く。

現れた巨大な鎌と共に私の体は黒いローブに包まれました。

そして言われたとおり、顔を隠すため仮面をつける。

確かにいきなりあらわれた少女が攻撃をすり抜けていくというのは……異常な風景でしょうからね。

 

「……ん?」

 

鎌を携え、走っていくそのさなか。

私は、ある光景を目にして、思わず足を止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

Side ??

 

私は今、絶望の淵に立っていた。

 

「起きて……ねぇ、起きてっ!!」

 

どれだけ呼んでも、返事はない。

どれだけ彼の体をゆすっても……もう、応えてくれることはない。

 

「う……うぁ……」

 

持っていた銃が、手からこぼれ落ちた。

今までに多くの命を奪ってきたその重さが、いまさらながらに強く感じられた。

味方だって、大勢死んだはずなのに、こんな気持ちにはならなかった。

認めざるを得ない。私は、どこかでたかをくくっていたのだ。

 

 

 

大切な人間は、そう簡単に死ぬことはないなどと、絵空事を。

 

 

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

ふと見れば、ポケットから鈍い光が。

慌ててポケットから中身……仮契約カードを取り出すが、カードは鈍い光と共に残酷な事実を改めて私に突き付けた。

カードは、鈍い光と共に、背景の一部を失っていた。

かつてはもっと凝った装飾が私の姿の背景にあったはずなのに……今のカードには、ただ銃を構える私の姿しか残っていなかった。

 

「これ……カードが、死んだ?」

 

それが意味するのはただ一つ。

契約主である彼がもう……この世にいない、ということ。

もう、助かる見込みはなくなってしまったのだということを、目に見えて私に伝えていた。

 

「…………」

 

とりあえず、彼の遺体を動かそう。

こんな戦場の中では、巻き込まれてすぐに砕け散りかねない。

そうはしたくなかった。ちゃんと、埋葬してあげたかった……。

 

ドカァァァン!

 

「!?」

「ちっ、はずしたか」

 

突然、目の前の地面が爆発した。

慌てて振り向くとそこには残虐な笑みを浮かべた、スキンヘッドの男がいた。

私が彼の死に呆然としている間に、いつの間にか近づいて来ていたのだ。

 

「フン、なんでこんなところにガキがいるんだか……。ん?」

 

男の視線がある一点……私がつけていた、腕章に注がれる。

そこには、私と彼が所属していたNGOの紋章がついていた。

 

「あぁ、てめぇNGOか……どうやら、そこでくたばっている小僧も同じみたいだな。

両方とも、俺の敵とみていいようだ」

 

だったら殺していいよなぁ? と男は腕を振り上げる。

このままじゃ、殺される!

恐怖にかられた私は、慌てて銃を拾い上げた。

拾い上げると同時に、撃鉄を起こし、構える。あとは引き金を引くだけ――

 

「――ッ!?」

 

あとは引き金を引くだけ。

なのにその一瞬、私は引き金を引くことができなかった。

今まではあっさりとできていた、人さし指を動かすだけの簡単な行為。

にもかかわらず、今回ばかりは引き金がえらく重く感じられたのだ。

あぁ、そうか。私は、怖くなってしまったのだ。

目の前で大切な人が死んで。私は、人に死をもたらしかねないこの行為に、恐怖を感じてしまったのだ。

だから、引き金を引くことを、ためらってしまった。

 

「おらああっ!」

「きゃあああああああああっ!?」

 

不意を突かれたものの、男は私が引き金を引きそこなったその一瞬を見逃さなかった。

すぐに距離を詰め、震える私の腹にきつい一撃をくわえたのだ。

 

「がはっ……」

 

鈍い痛みが私を襲うと同時に、呼吸さえ苦しくなる。

これは……マズイ……!

 

「いやあ、危ないところだったぜ……。なんで俺を撃たなかったのかは知らねえが、ここは戦場だぜ? 殺さなきゃ殺される。それを……教えてやるよッ!!」

 

再び振り上げられる男の手。

さっきと違い、今の私は腹の痛みで苦しくてとても体を動かせなかった。

私、死ぬのか……。

迫りくる死に、私はきつく目をつむった。

――そして。

 

 

 

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

男の(・・)悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

え?

今、何が起こったんだ? どうして、私ではなく、男が悲鳴を上げる?

 

「お、俺の、腕がぁ……」

 

男の右腕は切断され、血が吹き出ていた。

そして……私と男の間には、巨大な鎌を構えた、黒いローブの人物がいた。

仮面をしていたので、顔もわからない。

 

「……単刀直入に聞きます」

 

仮面の下からの声が女性の声だったことに、私は驚いた。

男の方も驚いたようで、悔しそうな顔がわずかに驚きに傾いた。

 

「……アンドリュー・ヴェルトはどこです?」

「なっ!? てめぇ、どうしてアンドリュー様のことをっ!?」

 

今度は、男の左足から血が吹き出る。

再び悲鳴をあげた男は、痛みで地面に倒れ伏していた。

 

「早く手当てしてもらわないと手遅れになりますよ? さぁ、答えてください」

「わ、わかったわかった……あの方は、ここから先にいったところの洞窟の中だ! 頼む、命だけは……」

 

先ほどとは打って変わって、情けない声で命乞いをする男。

欲しい情報が手に入ったのか、ローブの人はうっとうしそうに鎌を持っていないほうの手を払った。

 

「そうですか。では、早くどこかに逃げなさい……助かればいいですね」

「ひ、ヒィィィッ!」

 

男は右手を拾い上げると、よたよたとどこかへ逃げていった。

私たちがそうしていたように、どこかに魔法薬が隠してあるのだろう。

そんなことを考えていると、今度は彼女は私の方を向いた。

 

「さて、今度はあなたですが……一つ聞きましょう」

「な、なんですか……?」

 

さっきの腹の痛みがまだ残っていて、銃を拾い上げることはできそうもない。

いや、できたところで、今の私が目の前の人物にかなうとは到底思えなかった。

 

「先ほどですが……なぜ、撃たなかったのです?」

「そ、それは……」

 

ためらったけれど、私は答えた。

自分を導いてくれた人が目の前で死んで、人を殺すことに恐怖したのだと。

銃の引き金を引くことが恐ろしくなったのだと。

 

「そうですか……」

 

しばらく黙っていたローブの人は、ゆっくりと私に歩み寄った。

そして

 

 

パシィィィィン!!

 

 

力いっぱい、私の頬をひっぱたいた。

 

 

「え……え?」

 

じんじんと熱を持つ頬を手で押さえ、私はまた倒れて彼女を見上げていた。

仮面で顔は隠されたままだったけれども、私はその人が仮面の下で起こっているということがすぐに分かった。

 

「何を言っているのですか、あなたはっっ! 今あなたがどんなところにいるのか、忘れたわけではないでしょう! 怖くなった? ならば銃など持たず、逃げなさい! いえ、そもそもそんな覚悟ならここに来るなッ! 戦いになんか手を出すな!! 一度武器を手に取るのなら、それ相応の覚悟を持ちなさい!! 決して、その覚悟がゆらぐことがないほどのものを!!」

 

“本当の重さ”を知らなかった私に、その言葉は深く刺さった。

それに、彼女の声は、どこか泣いているようにも聞こえた。

まるで、彼女自身、争いで何かを失ったように……。

 

「……とりあえず。あなたは、もうここにいても意味がないでしょう。その青年の遺体と共に、ここから去りなさい。私は行かなければならないところがあるので」

 

私に言葉をかけると、ローブの人はすぐにどこかへ走り去ってしまった。

私は、ゆっくりと立ち上がると落ちていた銃を拾い上げた。

 

「…………」

 

私は、もう一度引き金を引く理由を考え直した方がいいのだろう。

そして、二度とさっきのようなことがないよう、覚悟と決意を持つべきだ。

この機会を与えてくれたことを、私は彼女に感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

「や、やめ―――っ!?」

 

ほどなくして、私はヴェルトを見つけ出しました。

そこから後は、これまでと同じ。

彼が何をしてきたのかを吐き捨て、命乞いする彼に鎌を振りおろしました。

 

「……あなたが起こした争いで、あの子は命を落としかけたんですよ? いえ、そもそもあんな子供が争いに関わるなんて……」

『あぁ、さっきの女の子か? それにしても、まさか嬢ちゃんがあんな説教かますなんてな……』

 

しょうがないじゃないですか。

あの子は、私と同じ道を歩みかけていたのですから。

いえ、それ以前に、殺されそうだったのですが……。

いずれにせよ、彼女にはしっかり知ってもらいたかった。彼女が手にした物の重みを。

そこで命を落としても、意味がないのですし。

 

『さて、これで亡霊事件はしっかり終えたわけだ。ならば、行こうか?』

「ええ。お願いします」

 

次の、舞台へと。

 




今回は閑話のようなものですね。

中盤で一人称となった少女が誰かは、まぁ皆さま御想像の通りです。
えぇ、のちに学園で銃を駆使する彼女です。

今回、アカネが説教しました。
ただ、これがのちに彼女のあの割り切った態度の引き金になるかなと思ったり。

そして、これにて空白期編は終了となります。
次回はかつて削除した「ネギ・スプリングフィールド」の章へと入るのですが
まだ「サボタージュ イズ マイライフ」は更新しません。
というのも、せっかく空白期書いたのなら書きたい場面がありまして……。
まぁ、このタイミングですから、ピンとくる方は多いかと。

では、またお会いしましょう。

感想、ご意見、ご指摘お待ちしております。

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