死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
いよいよ新章に入ります。まずは本編をどうぞ。
第15話 雪の降るこの夜に
Side アカネ
今夜は雪が降っている。
真っ暗な夜の闇の中に、白い雪がちらほらと振っているのはたいそう趣があると私は思いますし、実際同意してくれる人も多いでしょう。
だからこそ、思う。
今、私の目の前に広がる光景はあまりに不釣り合いだと。
『嬢ちゃん、嫌なものを見せてすまねぇな……』
「構いませんよ。確かに、目にしたくなかったと言われればその通りですけどね……」
私の目の前では、村が燃えている。
白と黒だけのはずだった世界の中で、毒々しく紅い炎が村を覆い、離れているのではっきりとは見えませんが逃げる人々が見えた。
「やはり、思い出してしまいますね……」
燃える村へと向かいながら思い出すのは、私の故郷。
連合軍、そして紅き翼によって燃やしつくされたアカネ村の最後の光景は、片時も私の頭から離れてくれません。
それこそ、私を縛る未練でもあるのですから当然かもしれませんね。
そして今、この村もアカネ村と同じ運命をたどろうとしている。
「……させませんよ」
誰の差し金かは知りませんが、思い通りにさせてなるものですか。
自然と前に手を突き出し、地面から現れた
そのまま黒いローブを纏って、私は走り出しました。
後からマケイヌが、子犬の姿のままでついてくる。
「とりあえず、今あの村で何が起こっているのか説明してくれませんか?」
『……村が襲撃を受けている。それじゃ駄目か?』
マケイヌにしては珍しい。
普段なら私が聞いたことにはまずしっかり答えてくれるものですが、今回はずいぶんとぼかした回答を返してきました。
「それで納得できるとでも? この緊急事態とも呼べる光景を前にして?」
納得できるわけないでしょう!?
しかも、この光景は私にとって最も忌まわしい光景と言えます。
あなただって、さっきそう言ってたではありませんか。
『……わかったよ。嬢ちゃんの時と違って、今この村は戦争とか紛争とかでこうなってるんじゃない。この村に、ある人物がいたのが原因で悪魔が指し向けられているんだ』
「悪魔……っ!?」
それも、1体や2体というレベルではなく、大多数の悪魔が送り込まれているのだと言う。
多数の悪魔を呼んだということは、召喚した相応の実力の術者もまたたくさんいると言うことで……。
一体、あの村に誰がいたと言うんです!?
『あの村にいたのは……ある子供さ。将来有望と期待されているが……一部の人間にとっては、本来存在してはならない子だった』
「それは、どういう……」
『お喋りの時間は終わりだぞ……!』
村までの移動はもう終わり。今私たちはまさに燃えさかる村へと突入しようとしていた。建物が燃えている一方で、人の形をした石像がいくつか点在していることに気がつきました。
悪魔が周りを囲んでいることから、その石像に対する先ほどの認識が、間違っているとわかる。
人の形をした石ではない。石になった、人なのだ……と。
「オイ、アソコニモ生キ残リガイルゾ!」
他の村人たちも多くが石にされたとみていいでしょう。
そして、私も村人の生き残りと思った、ということですね。
……ですが、彼らは大きく間違っています。見当違いにもほどがある。
「オ前モ、石ニシテ――ッ!?」
「誰が、生き残りですって?」
一瞬で間合いを詰め、彼らの前に。
私の手には死神の鎌が握られており、腕をふるうだけで悪魔の首がまずは一つ、宙を舞った。
そのまま鎌をふるい続けて、まずは右の悪魔、続いて襲い掛かってきた悪魔へと鎌を振りおろしていきました。
「私が、生き残りだなんて……戯言を」
私はすでに、死んでいるというのに。
Side ネカネ
気付いたのは、ささいなことが原因だった。
久しぶりに村の近くまで戻ってきて、ネギは元気にしてるかしらと村の方を見たあの時、空にいくつかの点が見えた。
鳥にしては大きい。しかも、数がとても多かった。
胸に何か嫌なものを感じて村へと急いだ私の判断は正しかったと言えるのでしょう。
村は、燃えていた。
最初は驚きのあまり呆然とその光景を眺めるだけだったのだけれど、すぐに私が今すべきことに気がついた。
脳裏に浮かぶのは、まだまだ幼い男の子。
「ネギ! どこなの、ネギーーっ!!」
ネギが巻き込まれていたらと思うと……想像する前に、体が震えて来てすぐに頭から最悪の可能性を振り払う。
燃えている村の所々には、石にされた人々がいた。
どれもこれも皆、知っている顔ばかり。
幸か不幸か……その中に、私が探している顔は無かった。
「ネギ……」
スタンさんか誰かが、ネギは安全なところに避難させてくれたのだろうか?
だけど、今の時点では何とも言えなくて……
「マダ、イタ」
「ひっ……!?」
考えながら歩いていたからだろう、私は近くまで悪魔が来ていることに気がつかなかった。
遠くから、悪魔の姿を見たのだからちゃんと警戒しておくべきだった……!
私はここで、死ぬ? それとも、すぐ側に転がるみんなのように、石に……?
「メイレイ。ムラビト、消ス……」
「~~ッ」
あぁ、もう駄目だ。
恐怖のあまり、足が動かず目を閉じることしかできなかった。
ごめんなさい、ネギ。あなたの無事を確認することもできずにいなくなるお姉ちゃんを、どうか許して……。
「ギャアアアアアアアアアア!」
「え?」
いつまでたっても、自分に何かが起きた様子はない、それどころか突然悪魔の悲鳴が私の耳に飛び込んできた。
おそるおそる目を開いてみると……そこには、体を一刀両断された悪魔と、消えていく悪魔を眺めるローブを着た人物がいた。
彼、もしくは彼女の持つ大きな鎌が悪魔を切り裂いたことは明白だった。
悪魔が消えると、ローブの人は私の方を見た。
「あ、あの……」
「やっと生存者を見つけましたよ……。大丈夫ですか?」
声からするに、どうやら女性らしい。
仮面をつけていたので顔まではわからなかったけど、恐怖は感じなかった。
もう駄目だと思っていたところを、助けてもらったからでしょうね。
「ええ……。ありがとう、ございます」
「ここは危険ですから、すぐにここから離れてください。聞いた話だと、ある子供を狙ってるそうなので、逃げればまず狙われることは……」
途中から、彼女の声が聞こえなくなっていく。
“ある子供が狙われている”?
私の知る限り、この村で子供というのはそう多くはない。まして、狙われる危険性のある子供といえば……。
私の顔は今真っ青だろう。ローブの人も、突然言葉を止め私の方をいぶかしげに見て聞いてきた。
「あなた、どうかしましたか?」
「助けてくれてありがとうございました、ですが……私だけ逃げるわけにはいきません」
襲撃はまだ続いているようだ。
となれば、相手が目的を達成できてないと考えてよさそうだ。
お礼を言うと、私はすぐに震える体に檄を飛ばして走り始めた。
「あ、ちょっと!」
ローブの人が呼びとめようとするが、今はもうそんな余裕はない。
ネギ……お姉ちゃんが今、行くから。
だからどうか、無事でいて……!
「ネギ……!」
Side アカネ
訳が分かりません。
金髪の女性が悪魔に襲われようとしていた。
助けるために、悪魔を倒した。
そこまではいいんです。近くにいた悪魔も全て切り裂きましたから多分もうこの近くに悪魔はいないと思って逃げるよう彼女にいました。
問題はそこからです。
なぜか彼女は突然顔を真っ青にして、逃げろといったにもかかわらず燃えさかる村の奥へと走って行ってしまいました。
私、何のために助けたんでしょう……?
誓って言いますが、あなたを危険に送るためではないのですよ?
「訳が分かりませんよ……」
『そう言うなよ嬢ちゃん。人は誰しも、事情を抱えているもんだぜ?』
かっこよく言われたところで、理解できませんよ。
理解できないといえば、今回のマケイヌの態度も気にはなっているんですよね……。
突然こんな村へ連れて来て、なぜか情報をあまり出してくれませんし、どんどん深刻そうな雰囲気になってて。
これから、さらに何かが起きるとでも言うんですか?
『嬢ちゃん、さっきの女性を追いかけるぞ……』
「はい。……いや、え?」
突然何を言い出すかと思えば、さっきの女性を追いかけろと。
しかも途中まで行った時点で、そこからは別の方向へ移動するとのこと。
何がしたいんですかね、私をここに連れて来て、そんな妙な指示をしてまで。
『嬢ちゃん……』
「はい?」
私を見るマケイヌの目は……どこか不安そうでした。
それでなんとなく察します……。これから、さらに何か起こるのだと。
しかも。
『これから起こることに……我を忘れるなよ?』
私が我を忘れてしまいそうなほど……特別なものらしい。
鎌を握る手に力が入ってしまったのも、自然なことでしょう。
――再びの邂逅が、ゆっくりと近づいていました。
改めまして、お久しぶりです。
本当は昨日中に投稿したかったのですが、間に合いませんでした……orz
ゆえに、1カ月と1日ぶりの投稿となります。
言い訳させていただけるなら、なぜか異常に忙しかったんです、11月。
バイト、学園祭、世代交代による役職、その他もろもろ……
ホントに忙しかったんです。
かかとに穴があいた靴すら買い替えに行けないほど。
雨の日はひどい目にあいました……。
さて、言い訳等はここまでにして。
今回はネカネさんの登場です。
この後、彼女は無事にネギを発見し、すんでのところで身を呈してかばうという流れですね。
となれば、次回何が起こるかは、皆様すぐに想像がつくかと思います。
頑張って書きます。が、12月も何かヤバそうなので、気長に待っていただけると幸いです……。
感想、ご意見、ご指摘お待ちしております。
「おせえぞこの野郎」等の意見でも、甘んじて受け入れます。さすがにお待たせしてしまったので。