死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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お待たせいたしました。
皆さま展開は想像していると思いますが、どうぞ。

なお、ナギについては自己解釈を加えております。


第16話 私は絶対に許さない

Side マケイヌ

 

これから何が起こるのか、俺は知っている。

といっても、全部知っているわけでもない。俺にわかるのは、ここ……村から少し離れたところにあるこの丘に奴が来るということだけだ。

 

「マケイヌ」

『なんだ? 嬢ちゃん』

 

俺が丘から村を眺めているのに対し、嬢ちゃんは背を向けている。

俺がそうするように言ったからだけどな。

 

「いつまで後ろを向いていればいいのですか? 今日はあなたの考えがさっぱりわかりませんよ……」

 

わからなくていいから。

もうすぐ、いやでもその現実と対面することになる。

下手に早くから教えておいたところで、かえって嬢ちゃんがわれを忘れて暴走する可能性は高いんだ。

無駄なデメリットを発生させる必要はない。それに、こうして嬢ちゃんに自分で考えさせておけば、もしかしたらと思い当たるだろう。

 

『もう少し待ってくれ。嫌でもわかる』

「……まぁ、いいですが。さっきから爆音とか聞こえるので本当に気になるんですよ……」

 

それもそうだ。

嬢ちゃんには見せていないが、今、俺の目の前では……

 

 

 

あの男が子供をかばい、悪魔を吹き飛ばしたところだった。

 

 

 

その後も男は一騎当千の活躍を見せ、次々に悪魔を倒していった。

一瞬、その魔力に違和感を感じたものの心当たりはあったから……あまり気にはならない。

 

全ての悪魔を倒した男は、子供に何か言って自分が持っていた杖を渡した。

なるほど、自分は残れないからせめて杖を……ってわけか。

子供思いだねぇ。

 

だが、所詮は身内だからか。

人を救うことができるその力をどう使うべきか……気づくのが、あまりに遅すぎたんじゃねえか?

……俺がここでどう思ってもたいした意味はない。

彼と対峙すべきは、俺じゃないから。

男はゆっくりと宙に浮かぶと、こちらへむかって飛んでくる。

そろそろ、だな。

 

『嬢ちゃん。もう、いいぜ……』

「まったく、一体何が……」

 

ぶつくさと振り向いた嬢ちゃんの言葉が、止まった。

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

この丘に着いた時、マケイヌに指示されたことは『しばらくあっち向いてろ』。

言われたとおりの方向を向いて待っていると、背後からは爆音とか聞こえて来て本当に何を考えているのかと思いました。

後で気付きましたけど私が向かされていたのは、村と正反対の方向だったんですよね。

 

でも、ちゃんと理由はありました。

 

「あ……」

『…………』

 

ようやくマケイヌから許可が出て、振り返った私の目に飛び込んできたのは。

 

 

 

こちらへと飛んでくる、一人の男の姿でした。

 

 

 

忘れるものか。

忘れられる、わけが無い。

私が全てを失った、あの日。サイモンさんもろとも魔法を放ち、私を殺した男。

私の故郷を壊滅へと導いた、“英雄”。

 

「ナギ……スプリングフィールドォォォ!!」

 

私が最も憎む男が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

今、私とナギは無言で向かい合っている。

私の手には巨大な鎌が握られていますが、彼の手には何もない。

私を殺した時に持っていた、あの大きな杖はどうしたのでしょうか?

 

「……一つ聞くぜ」

「……どうぞ」

 

やっとかわされた会話。

でも、私たちの間に流れる緊迫した空気は変わりません。

 

「村を悪魔たちに襲わせたのは……お前か?」

 

何を言うかと思えば、ずいぶん見当はずれなことを……。

もっとも、彼としては自分が飛んだ先に見知らぬ私がいたのですから、不審に思ったとしてもしょうがないのかもしれません。

 

「いいえ、違いますよ……。何で私が村を襲わせなきゃいけないんですか」

 

あなた達ではあるまいし。

その言葉は彼にも聞こえたようですが、どうやらこの時点では何の事だか理解できなかったようです。

それがまた、腹立たしい。

 

「そうか……じゃあいいんだ。それ以上特に用はねえよ」

「そう言われましてもねぇ……」

 

自然と手に力がこもる。

死神の鎌から私に流れてくる魔力を身にまとうと、私は宙を駆けた。

 

「私には、あなたに用があるんですよ!」

 

勢いよく近づくと、鎌を振り下ろす。

彼の命を刈ろうとした刃は……すんでのところで避けられてしまいました。

チッ。

やはり英雄と呼ばれただけの実力はあります。うまく不意をつけたと思ったのですが、私の思い上がりだったようです。

 

「おいてめぇ、村を襲ってないなら、何で俺に襲い掛かってくるんだよ!?」

「言ったでしょう、私はあなたに用があるのだと! あの村には別に何も思うことはありませんが、あなた()への恨みはたくさんあるんですよ……!」

 

たくさん、たくさん。

両親を殺された恨み。

フリックを殺された恨み。

村のみんなを殺され、村を滅ぼされた恨み。

 

そして、私自身が殺された恨み。

 

あなたが笑って唱えた魔法が、どれだけの人々の人生を消し去ったのかわかっているのですか? いえ、そもそも、そのことを理解しているのですか?

あの日、私たちに向かって魔法を放つ意味を本当に分かっていたのですか――?

 

「アカネ村のみんなの恨み、悲しみを……私は背負っているんですよぉっ!」

 

半ば悲鳴のような絶叫とともに、私は鎌を振り上げる。

一方で、相手も呪文を唱えていました。

杖は持っていませんが、他にも魔法発動体を隠し持っていたのでしょうか。

指輪型の魔法発動体とか、あるらしいですからね。

 

「来たれ、虚空の雷、薙ぎ払え! 『雷の斧』!」

 

それは偶然か必然か。

唱えられた呪文は、よりによって私を殺した魔法のものでした。

ですが。

それはもう、過去のことで。

 

轟く雷は、私の体をすり抜けた。

 

「なっ!?」

「生者は死者に届かない。あなたの魔法は、今や私には届かないんです」

 

魔法による煙が晴れたとき、私はすでにナギの目の前に迫っていました。

死神の鎌を振り上げたまま。

今度こそ、避けられない!

 

「くら」

「う、おおおおおおおおおっ!」

 

「くらえ」と鎌を振りおろそうとした私でしたが、またもや私は驚嘆する羽目になりました。確かに、今の一撃は避けようが無かった。

だから、彼は……あろうことか、鎌自体を殴って、軌道をそらしたのです。

 

「はぁっ!?」

「へ、生きてる人間をなめんじゃねえよ……」

 

どこか声が小さく感じましたが、そんなことはどうでもいい。

私に攻撃が効かないなら、武器に攻撃する。そんな裏技ともいえるようなやり方で彼は私の攻撃を防いで見せたのです。

 

「くっ……」

「なぁ……お前、さっき言ったよな? アカネ村、って」

 

……おや?

私が叫んだあの一言に、彼は気がついていたようです。

とりあえず攻撃の手を緩めた私に、ナギはなおも話しかけてきました。

 

「あの時、生き残りがいたのか……?」

「あなた達が殺しておいて何を言っているんですか。いいえ、生き残りなんていませんよ。まさか、淡い期待でも抱きましたか?」

 

私がここに来たことで、生き残りが復讐に来たとでも? あの村の全員を殺してはいなかったのだと?

そう言ってやると、ナギはだよな……と落ち込んだ声で答えました。

 

「だいたい、さっきも言ったでしょう。生者は死者に届かない、と。あなたが生者だというのなら、死者が誰を指すのかはわかりきったことでしょう」

 

この場で戦っているのは二人。

片方が違うのなら、答えはもう一人の方。実にシンプルなことです。

 

「お前の顔、見たことがあるんだ。やっぱり、お前は……」

「ええ。あなたに“殺された”人間です。私は死ぬときに死ねなかった、この世に縛り付けられた存在なんです。あなた達に村を滅ぼされた未練に縛られて」

 

だから、私はあなたに復讐する。

私が愛したみんなの元へ逝くために。そして、彼らの無念を晴らすために。

目の前にいるのが自分が殺した相手だと知って、ただでさえ暗くなっていたナギは、今度こそ己の罪を目の前にたたきつけられた、そんな顔をしていた。

比喩表現ですが、まんざら間違いとも言えませんね。事実その通りですから。

 

「さて、おしゃべりはここまでにしましょうか」

「そう、だな」

 

お互い頷いて、そこからは鎌と拳の応酬がくりかえされる。

鎌で切ろうとするたびに拳で軌道をそらされて、気をつけていても鎌に攻撃されてしまう。

彼の拳にこもったこの気持ちは、いったい何なのだろう?

ですが、ついにその応酬も終わりを迎えました。

 

「しまっ」

「これで、終わりです」

 

鎌を振りおろそうとすれば、拳が来る。

だから、私はあえてその拳を誘った上で回避してみせた。もう、身を守る術は無い。

そして……

 

「はぁぁぁっ!」

 

彼の右腕を、私の鎌が刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

体から離れた右腕は宙を舞い、そして切断された根元からゆっくりと薄くなり、粒子となって消えていきました。

……って、ううん?

あれ、人間の体って、切られたら消えるものでしたっけ?

 

「あー、さすがに限界か……」

 

その声に振り返ってみれば、ナギ自身も、切り口からゆっくりと粒子になり始めていました。粒子になった部分は浮かびあがり、そして消えていく。

 

「な、な……」

 

いったい、何が起きているんです……?

おそらく私の顔は、唖然とした表情になっていたのでしょう。消えていく中でナギがその理由を教えてくれました。

 

「まぁ、いろいろ事情があってな……俺自身の体は、ある場所から動くことができなかったんだわこれが。それで……あいつからなんとか主導権とり返して、その隙に万が一の保険として用意していたものを使ったんだ」

 

あいつとか主導権とか、話に一部分からないものがありますが……それはまぁおいときましょう。本筋はここからのようですし。

 

「保険?」

「あぁ。もしも俺の体が使えなくなったときの為に……分身体を作っておいたんだよ。仲間にこの分身体を作るのがうまいやつがいてな、そいつがアドバイスしてくれたんだよ。意思も俺自身の意思がつながった分身だからな、用意しておいて正解だったぜ」

 

ということはつまり。

目の前にいるナギは、意志こそ本体とつながっていますが、その体は作られた分身体だったということですか。

そして今、その分身体は役目を終えて消えていこうとしていると。

理解しました、理解しましたが……。

 

「それじゃあ、今私がここであなたを殺そうとしても……」

 

消えるのは分身体であって、本体は残ったまま。

だから……彼はまだ生きている。私の復讐は、まだ果たされない。

 

「そういうことだ」

「そんな……私は、あなた達に復讐するためにここにいるのに! 前に進めたと、思ったのに……」

 

どうやら。

今回の復讐は……失敗に終わるようです。

 

「お前が、俺に復讐する理由はよくわかった。だから……」

 

消えていくその刹那、彼はにやりと笑って見せました。

私に向かって、半ば挑戦的に。

 

「俺を、殺しに来い。それで全てが終わるんだろ?」

「……ええ」

 

その言葉を最後に、彼は完全に消えてしまいました。

後に残ったのは、暗闇と静寂だけ。

 

ええ、わかりましたよ。

あなたが何を言おうと、あなたが何を思おうと、私の復讐が終わるわけじゃない。

あなたの罪は、永遠に消えない。私は絶対に、あなたを許さない。

 

……だから。

 

「わかっていますよ……。いつか、必ず」

 

あなたを、殺してやりますよ。英雄(ナギ)

 




結論として、あの日ネギを救ったのはナギの”分身体”というのが私の解釈です。
もう一つ考えていたのは、”アリカ”という解釈です。
これだと、最終話にアリカが出てこなかったのもアカネにナギとして殺されたから、という解釈もできるんですよね。

しかし、原作での解釈ではないよなと思い、分身体としました。
アルが学園祭で使ったような分身体を想像していただければ。

これで悪魔襲撃事件は終わりです。
次回はどうするかちょっと考え中です。

感想、ご意見、ご指摘お待ちしております。

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