死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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皆さま、新年明けましておめでとうございます。
そしてお久しぶりです。
クリスマスに間に合わなかったスケジュール調整がへたくそのウージの使いです。

今回の話は、クリスマス用に書いていたものを正月用にアレンジして書きなおしたものです。
これは投稿できてよかった……。

新年早々暗いタイトルですが、どうぞ。


第17話 New year never comes

Side アカネ

 

年が明けます。

年が明ける日というものは、一年のはじめとしてどこでもお祝いをするようです。

今、私が来ている街もそれは同じ。

広場の真ん中に人々が集まり、大きな歓声とともに新年を祝っていました。

 

『嬢ちゃんは行かないのかい?』

「行ってどうするんです。よそ者の私がいても、お互い居心地が悪いだけでしょう? それに、あの中には英雄の親族がいるのでしょう?」

 

 

 

ある村を大勢の悪魔が襲撃した事件から、だいぶ時間がたっていました。

その日は、私が仇と出会ったにもかかわらず何も出来なかった日でもあります。

あれから時間は経ったけれども、私の復讐は進んでいるとは言えない。

マケイヌが作り出す門を使用していますので、正確には周りの時間がどんどん進んでいるだけで、私自身が復讐のために過ごした時間は比べると微々たるものです。

 

ですが、周りの時間が大きく流れていることを知るたびに、なんとも言えない気持ちになるのです。

(あぁ、復讐は進んでもいないのに時間ばかりが過ぎているのだなぁ)、と。

 

以前、マケイヌに確認したことがあります。

マケイヌが作る門は復讐のために必要な時間、場所に移動するものなのではないかと。なぜ私はガトウと連合軍にしか復讐できていないにもかかわらず世間では多くの時間が過ぎているのかと。

それに対する彼の返答はこうでした。

 

『ただ敵のいる場所に行って戦いを挑めばいい、と思っているのかい? それは間違いだ。例えば思い出してみろよ、魔法世界に行ったとき図書館で紅き翼について調べただろう? 軍についての情報を知るために、クルトと取引をしただろう? 物事には必ず手順ってものがあるんだ。嬢ちゃんの復讐も同じ。俺自身すべてを把握しているわけじゃねえけど、今嬢ちゃんが歩んでいる道には全て意味があるはずなんだ。もどかしいのかもしれないが、今は待つときだって、そう思っていてくれねえか?』

 

そこまで言われては、何も言い返せません。

ですから、今ここで私が町の新年のお祝いを見ているのにも、きっと意味があるのでしょうね。

復讐に直接は関係していなくても、間接的な何かが含まれているのかもしれません。

 

 

 

そんなことを考えながら、お祝いを見ていました。

町をあげてこのイベントは行われているようで、見渡してみるといろんな人がいました。

 

親と手をつないで歩いている無邪気な子供。

新年早々から喧嘩をしている夫婦。

誰かとはぐれたのか、きょろきょろとあたりを見渡す女性。

知人と談笑するひげの長い老人。

早く帰りたい様子の男の子と、その手をぐいぐい引っ張る気の強そうな女の子。

 

「……ふふっ」

『ん? どうした?』

「あ、いえ……」

 

思わず笑みを浮かべたら、マケイヌがこっちを向きました。

いえね、ふと思い出したことがあったんです。

 

それは、昔の話。

今はもう失われた、ある村での出来事。

……私たちが生きて新年を迎えた、あの頃の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

あの日も、一人の女の子が一人の男の子の手を引っ張っていました。

 

「フリック! もうすぐ新しい年だよ!」

「うぅ……迎えに来てくれてありがとう」

 

私、そしてフリックは村のみんなが集まる時計台の方へ急いでいました。

今日は起きて新年を迎えようねと約束をしていたのですが、私が迎えに行かなければ彼はまたもや寝るところだったそうです。

全く、女の子との約束を破りかけるとはけしからん。

 

「ミィが村を出て、だいぶ経ってしまいましたねぇ……」

「できれば、こうして一緒にいたかったね」

 

彼の言葉に私は大きく頷きました。

親友の彼女がいた頃はまだ私たちは子供で、夜中まで起きていられなかったのです。

まぁ、横の彼は14になっても危ない所でしたが。

 

「それにしても、時間がたつのに相変わらず戦争は終わらないんだね……」

「そうですね、ここはこんなにも平和だっていうのに」

 

依然として、戦争は続いています。

ミィが村を出ていったのも、戦争が終わる気配のない魔法世界から旧世界へと避難するためです。あちらは、完全に戦争が無いわけでもないけれど、ここまで大きなものではないそうです。

お父様やお母様は、ミィの両親の説得を受けても、ここに残ると決めたので私も魔法世界にとどまっています。

 

「なんで、この戦争は続くのでしょう?」

「人間と亜人が違うから……なのかなぁ?」

 

この村で生活していると、本当にそうなのかと疑問ですけどね。

ただ、教えてもらったところによると確かに人間の連合側と亜人の帝国側、と分かれてはいるそうです。

でも、この村で生まれ育った私にはいがみ合う理由が分からない。

いえ、むしろこの村が特殊なだけ、なのでしょうね。悲しいことですが。

 

「でもさ、○○。この村でできるっていうことは外でも共存はできるはずだよね?」

「まぁ……そうでしょうね」

 

私は違いますが、お父様やお母様をはじめ、村人の多くが外からここへ移り住んできた人々です。

その人々が共存できているということは、決して不可能ではない。

フリックの言葉は、確かに頷けます。

しかし、ここにいる人々はそうした戦争に嫌気がさして逃げてきた人々。

みんながみんな、うまくいかないのが“世界”なのでしょう。

 

「○○……もし、外の人々に“亜人と人間が共存できる村がある”って、ここの事をもっと広めたらどうなるのかな? 僕たち一家がここに来れたのは偶然だけど、他にもここのような暮らしを求めている人はいるはずだよね?」

 

ミィの家族はその噂を元にここに来た人たちでしたね。

そして、実はフリックの家族も同様に噂を元に移り住んだ人たちです。私と違い、フリックは外での、人間しかいない生活や世界を知っています。

その彼が言うのですから、私にはとてももっともなことに聞こえました。

 

「そうですね……全員ではないでしょうけれど、いますよ。きっと」

 

私の問いに、彼はとても嬉しそうな表情で頷きました。

そのまま、指を一本立てる。

 

「なら、もう一つ質問していい?」

「どうぞ?」

 

もう一つ、いったい何を聞くのでしょうか?

首をかしげた私に、問いかけられたのは……

 

「今、何時だっけ?」

「……え?」

 

そうだ、こうしている間にも時間は少しずつ過ぎていて。

そういえば、なんだか時計台の方が騒がしくなっているような……!

こうしてはいられない!

 

「い、急ぎますよフリック!」

「あ、ちょっと待って!」

 

慌てて走っていく私たち。

私が手を引っ張って、フリックが急ぐという構図は変わりませんでしたが、少なくとも私たちは笑顔で走っていました。

 

「新年を迎えるっていうのに重い話をしたせいですよ! なんでそんな話持ち出したんですか!」

「○○だって話にのってたじゃないか! でもね、この話ができて良かったと思ってる。本当にありがとう、○○」

「……?」

 

時計台へ走る彼の笑顔は、なぜかとても印象的でした。

ただ嬉しそうではなく、まるで何かを考えていたような……

 

 

 

 

 

 

 

「そして、なんとかカウントダウンに間に合って、年が明けて。アカネ村は、それから二度と新年を迎えることができませんでした」

 

それから一年がたつ前に、アカネ村は滅ぼされた。

メガロメセンブリア軍と、紅き翼によって。

マケイヌへの話を終えた私は、また目の前の光景を眺め始めました。

 

「…………」

 

どの顔も皆、新たな年に希望を抱いて、笑っている。

でも、私たちにもう新年というものは来ない。もう二度と。

私達の村の時計は、とっくに止まってしまっているんです。

 

「…………」

 

でも、目の前の光景は、とても幸せそうで。

未来が輝いている人々が、とてもうらやましくて。

たまらず私は、そっと膝を抱くと、顔をうずめました。

 

 

 

 

 

「……いいなぁ……」

 

 

 

 

 

もう、見ていられなかった。

目の前の光景から顔をそむけて、ずっと私は嗚咽を漏らし続ける。

マケイヌが声を駆けて生きたのは、それからしばらく経った後でした。

 

『そろそろ……行こうか』

「…………」

 

返事もできずに、私はゆっくりと立ち上がる。

そして、後ろに開かれた扉へと足を進めていきました。

復讐の未来につながる扉へと、今まで見ていた街に背を向けて。

 




次回はやっと、かつて削除した「サボタージュ イズ マイライフ」です。
ついに麻帆良編に入れる……!

長らく空白期間を書かせていただきました。
これからもがんばりますので、今年もよろしくお願いいたします。

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