死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
Side のどか
今日は身体測定とかで、授業はあまりなく楽な一日でしたー。
でも、一方で妙な噂を聞いちゃいました。
“桜通りの吸血鬼”
なんでも、最近桜通りに吸血鬼が出るんだとか……。
真っ黒なボロ布に身を纏った、吸血鬼。
こ、怖くない~。怖くない、ですよ?
でも、今日まき絵さんが保健室に運ばれたらしくて……おまけに、桜通りで寝ていたって。
ネギ先生は貧血みたいだって言ってたけど、だったら噂は関係ない……よね?
「じゃあ先帰っててねのどかー」
「はーい」
吸血鬼についてあれこれ話しながら帰ってたけど、今日は途中でパルやゆえとはお別れです。なんでも、二人は今日やることがあるとかでアスナさん達と別の道へ歩いて行きました。
……つまり、私はこれから一人で帰ります。
「……あ」
鼻歌を歌いながら歩いていたけど、いつものルートを通っている途中で足を止めました。
そういえば、このルートでは通ることになるんです。
「桜通り……」
よりによって、噂で聞いたその日に通ることになるなんて……。
しかも、一人の時に。
風が強くなってきたのを感じて、さすがにちょっと急ぐことにする。
暗くなってきているし、吸血鬼ではなくても危険な人に襲われる、ということは避けたいです。だから、早く帰ろうと思いました。
「こ……こわくない~。怖くないかも~」
せめて自分を元気づけようと、口に出してみたけれど風で桜が揺れた音に思わず飛び上がっちゃいました。やっぱり、怖いものは怖いです。
こうなったら、もう早くこの桜通りを通り抜けるしかない。
そう思うと自然と足が急ぎ足になっていた。
「……あれ?」
少し進んだところで、私はここにいるのが私一人ではないことに気がついた。
桜の木にもたれかかるように背を預けて……ぼんやりと、空を見上げている女の子に気がついたんです。
あ、しかも私とおんなじ制服だ……
学校同じなんだ。でも、こんな子いたかな……?
「……こんな時間に、どうかしましたか?」
「ふえ!? あ、えーと……今、帰る途中で……」
「……そうですか」
でも、綺麗な人だなぁ……。
年齢は私と同じくらいみたいだけど、私と全然違う。
それに、なんというか、雰囲気が大人びている。私は逆に人見知りだから、堂々とした雰囲気も持っているような彼女がうらやましい。
そんなことを思っていると、ますます風が強くなっていった。
風に揺られた桜が辺りに花びらをまき散らす。
目の前の女の子はゆっくりと手を出し、一枚の花弁をその手に受け止める。
「……そろそろ、私の待ち人が来たようですね」
「え?」
彼女の目線が少し上を向き、つられて私もそっちを見た。
そこにいたのは、電灯の上に立つ怪しい人影。黒いローブ……って、もしかしてあれがみんなが言っていた“桜通りの吸血鬼”!!
ど、どうしよ~
「……フン、27番宮崎のどかか……。悪いが、今夜は隣のそいつと約束があったのでな。しばらく眠っていてもらうぞ……!」
ひっ……!
や、やだ、こっちに来る!
びゅん、と音を立てて向かってくるのを見て、私の精神力は限界に達してしまった。
に、逃げなきゃいけないのに……。
……きゅう。
Side アカネ
「なんだ、勝手に気絶してしまったか。つまらん」
私が言われたとおり桜通りで待っていた時、通りかかった女の子。
害をなすならと警戒していましたが、彼女が現れてすぐに気絶してしまいました。
かわいそうではありますが……今は、目の前の方に集中するとしましょう。
「ふん、今のうちに逃げださなかったとは感心だな。この場所での噂はここの生徒なら既に聞いているかと思うが?」
いや、知りませんが何か。
第一、 私としても逃げる理由がありません。
「噂ですか……あいにく、そういうのは聞いていなくて」
「興味が無かったというわけか……? まあいい。いずれにせよ、お前の血を飲ませてもらうことに、かわりは無いんだからなッ!」
そう叫ぶやいなや、エヴァンジェリンは私の方に向かってものすごい速さで飛んできました。なるほど、本来ならこのまま彼女に、血を飲まれるというわけなのでしょう。
その速度といい、力といい、さすがは吸血鬼。
ですが残念。
私は、死者なのですよ。
飛んできたエヴァンジェリンが、私の首をつかもうと手を伸ばし……
その手は、何をつかむこともなく空をきった。
あれ? という顔を浮かべたエヴァンジェリンは次の瞬間、
「へぶらぁぁっ!?」
みごとなまでに、後ろにあった木に激突した。
「つくづく、この身は便利だと感じますね……」
死者である私の体は、私が意識しない限り原則として何もかもすり抜けてしまいます。
かつてガトウと会った森で魔法が私の体をすり抜けましたし、今回も同じこと。
吸血鬼は私の体をすり抜けてしまい、触ることができなかったのです。
「な……なんだ、お前はっ!?」
頭を抱えながら立ちあがった彼女は、私に指をつきつけました。
若干涙目なのが、まぁ、なんとも……。
しかし、“闇の福音”ともなれば、それ相応の魔力と魔法障壁がありそうですが……なぜか、その力をあまり感じません。
マケイヌが言っていた呪いとやらと、何か関係があるのでしょうか?
「今、お前何をした! まるで幻のようだったが……」
「いえ、別に何も。それより、私はあなたに話があってここに来たんですよ。“闇の福音”」
英雄の息子に会わせてもらうという目的もありましたが……状況を見るに、どうやらそれは無理そうです。
ブラフだった、というわけですか。
「話……? まぁ、私にも聞きたいことはできた。私の正体を知っているようだしな。だが! あんな恥をかかせられたんだ、今この場を見逃すと思うな!」
恥?
あぁ、さっき木に激突したあれですか。
正直、私から見るとただの自滅に感じるんですが……。
ですが、相手はそうも思っていないようで、魔法薬のようなものを取り出しました。
彼女の体から、私に殺気が向けられる。
「いくぞ、小娘……!」
彼女が飛んで蹴りを放つのをかわし、私も臨戦態勢になる。
気は進みませんが、死神の鎌をここで出すか……?
そう考えていた時でした。
「待てーっ! 僕の生徒に何をしてるんだ!」
通りの向こうから、10歳ぐらいの子供が杖を手にこちらへむかってきました。
誰ですかこの子。しかも、「僕の生徒」って私のことですか……?
あぁ、そう言えばそこに女生徒が一人、気絶して転がっていましたね。
おそらく、彼女がその生徒。それで、私もこの子の友達かと勘違いされたのでしょう。
それにしてもこの子、どこかで見たような気がします。
「ラス・テル・マ・スキル……」
「気付いたか……」
少年が
攻撃こそ通らなかったが彼の魔力が大きかったのでしょう、その勢いでエヴァンジェリンは後退し、その隙に少年が気絶した生徒を抱えました。
さて、私はどうしましょうかね。
「あ、あなたは……」
少年はその時ようやく、エヴァンジェリンの顔を見て声をあげました。どうやら彼も彼女のことを知っていたみたいですね。
もっとも、話を聞いているとどうやら生徒として、でしたが。
エヴァンジェリンはなおもじっと眺めている私の事を思い出したようで、こちらをちらりと見ると、続いて少年に言いました。
「さすがは奴の息子だけあるな……ネギ・スプリングフィールド先生!」
……あぁ、そうですか。
わざわざ“私に聞こえるほど”大きな声で言った彼女の口元はにやりと笑っていました。
ひょっとしたらとは思っていましたが……なるほど、そうですか。
彼が、あの男の息子。
私を殺した、英雄の息子。
先ほどの口ぶりからして、彼もまた“正義”側の魔法使いのような気がします。
父親にあこがれていたりするんですかね? 私に言わせれば「ふざけるな」ですが。
「僕と同じ魔法使いなのに、あなたはいったい何をしてるんですか!」
「この世には……いい魔法使いと、悪い魔法使いがいるんだよ。ネギ先生!」
再び魔法薬を取り出すと、投げつけて魔法を放つ。
今度は氷の武装解除ですか。
ネギがひるんだすきに、エヴァンジェリンは私の方を向く。
「邪魔が入ったからな、お前との話はまた今度だ! 明日の夜、私の家に来い! 場所が分からなかったら、昼に従者をこの前のカフェに行かせるから、そこで聞け」
今日はここまで、のようですね。
正直英雄の息子とは私も確認したいことがありますが……彼女は彼女で、彼に用があるようです。
ならば、ここは引くことにしましょうか。
話はまた、明日にできるわけですし。
その場を離れると、エヴァンジェリンも宙に浮かび移動を始めたようです。
少年は私の方にも目をやりましたが、他の生徒が来たらしく、気絶した子を任せてエヴァンジェリンが去った方へと走って行きました。
……英雄の息子、ネギ・スプリングフィールド。
あなたとは、また会うことになるでしょう。
その時あなたが、私のことをどう思うのかは、考えるまでもないのでしょうね。
4
今回のタイトルを決めた時、頭にリオレイア亜種と希少種が浮かんだのはモンハンのしすぎかな?
今回はついにアカネがネギとエンカウント。
といっても、まだ話もろくにしていないうえに、ネギはアカネの顔をあまりよく見ていません。
おまけに、原作では実はあまり話が進んでいないんですよね。
次回は、1回目のエヴァンジェリン対ネギの戦いには介入せず、その翌日の話です。
アカネとエヴァンジェリンとの対話、ということになりますね。
感想、ご指摘、ご意見お待ちしております。