死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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ついに20話です!
読者の皆様に感謝を。そして、これからもよろしくお願いします!


第20話 死神と吸血鬼

Side アカネ

 

まったく、昨日はとんだ邪魔が入ったものです。

しかも、その邪魔がよりによってネギ・スプリングフィールドとは。

もっとも……吸血鬼であるエヴァンジェリンにはどうやらただ私と話をする気もネギ・スプリングフィールドと会わせる気もなかったようでしたね。

偶然とはいえ、彼に会えたのはラッキーでした。

 

「あの人……まさか、私の血が目当てだったとは……」

『物好きなもんだなぁ。事情を知らないとはいえ』

 

現在、私はカフェにてのんびり待機中です。

昨日の去り際でここに来いと言われましたからね。

従者を行かせるということでしたが……従者って誰ですかね?

さすがに“彼女”ではないと思うのですが……。

 

「失礼します。マスターに招待されている方でよろしいでしょうか?」

 

考え込んだ私に、いきなり丁寧な声がかけられました。

顔をあげてみると、そこには制服姿の女の子。

いえ、その割には関節とか耳とか、なんか人のようには見えないのですが。

旧世界ならば、不自然ではないのですかね?

 

「あの……」

「あ、すいません。マスターというのは」

「失礼いたしました。マスターというのはエヴァンジェリンン・マクダウェルです。私はマスターの従者をしております絡繰 茶々丸です」

 

どうやら、彼女が私の待っていた人物らしい。

名乗られたので、私も名乗り返す。

名字が無いのには、出来ればスルーしてほしい。

 

「あぁ、それなら私のことで間違いありません、私はアカネと言います」

「アカネ様ですね。マスターの家の場所をお伝えに来たのですが……」

 

がさごそとカバンから筆記用具とルーズリーフを取り出すと、茶々丸はここからエヴァンジェリンの家への道のりを地図にして書いてくれた。

その地図というのが、なんとも丁寧なもので……。

とてもありがたいです。おかげで迷うことは無いでしょう。

 

「ありがとうございます。夜に来い、と言われましたが何時頃行けばいいですか?」

「6時以降であれば何時でもかまいません。ですが、8時ごろに来ていただければ夕食をご用意できますが……?」

 

かわいらしく首をかしげる茶々丸。

申し出はありがたいですが、あいにく私は食事をすることができない身です。

夕食が終わったころがベストでしょうか。

 

「いえ、ありがたいですがそういうわけにはいきません。9時ごろそちらに行きます」

「わかりました。マスターにも伝えておきます」

 

ぺこりと一礼した茶々丸は人ごみに紛れ、消えてしまいました。

さて、今夜はどういう話をしましょうか。

英雄の息子に会うという当初の目的は達成したようなものですし。

 

「そういえば、マケイヌ言っていましたよね。彼女にかけられた呪いを解ける、と」

『あぁ。ただ、そう簡単に解かない方がいいと思うぜ。下手にあいつを自由にしたら、あとで障害になりかねない』

 

マケイヌの言うことももっともです。

となると、一部解放を条件にてだしをさせない。そんなところでしょうかね。

話し合いができれば……ですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れて、夜。

私とマケイヌは地図に従って夜の道を歩いていました。

やがてたどりついたのは明かりがうっすらと漏れるログハウスの前でした。

道は間違っていないし、地図にも付け加えで家の外観が書いてある。

目的地はここで合っているようですね。

ドアの横にある呼び鈴を鳴らすと、さほど経たないうちに茶々丸が顔を見せました。

服装が昼の時の制服と違って、メイド服になっていたのが少し気になりましたが。

 

「ようこそいらっしゃいました、アカネ様。マスターが中でお待ちです」

「ありがとうございます。では行きましょうか、マケイヌ」

 

後ろのマケイヌに声をかけると、家の中に入って行きました。

茶々丸に案内されたそこはいたる所に人形が飾られており、実に驚きでした。

そういえば、闇の福音は人形遣いとしても有名でしたね。

 

「よく来たな。昨夜はあまり話もできずすまなかった」

「えぇ。まさか、いきなり血を吸おうと襲われるとは思っていませんでした」

 

二階から姿を見せたこの家の主は、少し着飾ってはいるもののその目は厳しい。

軽くにらみ合った後、エヴァンジェリンは力を緩めてまぁ座れと手を振りました。

ここで動かなくては話が進みませんから、おとなしく座る。

私が座ったのを見て、それではとエヴァンジェリンの方から話を切り出してきました。

 

「さっそくだが、お前は何者……いや、“何”だ? てっきり私は魔力のあるただの生徒かと思っていたんだが……」

 

怪しいものを見る目でこっちを見てきます。

さぁ、どう話したものでしょうか。

私が何者か、やはりこのことが問題なのですよね。

 

「話すことは構いませんが……あなたからも、いくつか聞かせてもらいますよ?」

「フン、やはり条件をつけるか……。内容によるな。何が聞きたい?」

 

おっと、ここでごねるかと思っていたのですが、わりとすんなり容認してもらえるようですね。

せっかくですから、話を進めるとしましょうか。

 

「まず、確認を。あなたはナギ・スプリングフィールドによってこの地から出られない呪いをかけられている。それに間違いはないですか?」

「む……なぜそれを知っている? 間違いではないが、聞きたいことがまた一つ増えたぞ」

「情報に関しては……そこの犬にでも聞いてください」

 

はぁ? という顔で彼女はこっちを見た。

いや、そんな顔をされてもですね。実際これはマケイヌに聞いた話ですから……。

夜までの間に、他にもいろいろ聞きましたよ?

例えば、彼女があの男(ナギ)に惚れていた、とか。

 

「……フン、まぁいい。聞きたいことはそれだけか?」

「まさか。今のは確認と言ったはずですよ? 私が聞きたいのはこのことです」

 

私の目的、そしてある意味私の正体にも関するこの質問。

彼女はどういう反応をするでしょうかね?

私が、聞きたいのは。

 

「私が、ナギ・スプリングフィールドを殺すために存在していると言ったら、どうします?」

 

 

 

 

 

しばらく、彼女はぽかんとした顔をしていました。

だが、その顔はやがて驚愕から疑惑へと変わっていきました。

 

「貴様、何を言っている? ナギは10年前に死んでいるはずだ。第一、おまえはなぜ」

「彼なら生きていますよ。少なくとも、6年前には」

「なん、だと?」

 

彼女の表情がまたも驚愕に変わる。

突然このような情報をポンポンと出されたら無理のないことかもしれませんね。

 

「貴様、何を言っている!」

「事実です。分身ですが、彼の意志とつながったものと戦いましたから」

 

口をパクパクさせていますが、私の質問への返答がまだです。

彼は障害となるか、それとも無害か。

できることなら、邪魔は少ないほうがいい。

 

「さて、質問の答えは?」

「貴様のことだ、どうせ私がナギにそれなりの好意を抱いていることを知っているのだろう? だから言うが、ナギが死んだら、私はお前をゆるさんだろうな。」

 

彼女から返ってきたのは、敵対宣言。

やはり、素通りというわけにはいきませんでしたが、それならそれでやれることもあります。

 

「もっとも、私は貴様がナギを殺せるとはまだ思っていない。だから今ここで敵対したりはしないさ。さて、お前にも答えてもらうぞ。改めて聞くが、お前は“何”だ?」

 

いよいよ私の番です。

いいでしょう、こちらも聞きたいことは聞けましたからね。

 

「私の名前、覚えていますか?」

「アカネ、と茶々丸から聞いているが。それがどうかしたか?」

「アカネという名と、私がナギ・スプリングフィールドを憎んでいるという事実。この二つから、何か思い当たることがありますか?」

 

アカネ、アカネと繰り返しながら考え込むエヴァンジェリン。

だが思ったより早く、彼女はハッとした顔を見せました。

 

「まさか、アカネ村事件の事を言っているのか? だが、あの時生き残りはいないと聞いているぞ?」

「その通り。あの事件で、村人は皆死にました。皆、攻めてきた連合軍と紅き翼に殺されてしまいましたから。あの燃えさかる村の中、誰も生き残れはしなかったんです」

 

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

こいつはどうやら、アカネ村事件の関係者らしい。

だが、それにしては妙だ。口ぶりはまるで、その目で村が滅ぶのを見ているような。

そう考えたとき、私はようやく一つの可能性にたどりついた。

 

「そ……そんな、バカな! ありえない!!」

「どうやら、気がついたようですね。私が言うまでもなく」

 

どうか間違っていてほしい。

だが、なぜだろう、私はこの考えが間違いだとは思えない。

しかも、そう考えれば一つつじつまが通ることがあるのだ。

首をつかもうとアカネに伸ばした手が、空をきったその理由が。

 

「お前は……まさか、死者なのか?」

 

彼女はそれに、微笑みで答えた。

残念ながら、私の考えは当たっていたということか。

皮肉気に自分を笑った私に、アカネは口を開いた。

ある意味、もっと衝撃的な言葉を。

 

「ええ。私は、アカネ村でナギ・スプリングフィールドに殺された、死者です」

 

事実は、より残酷だった。

戦争で人を殺すことに、私は何の文句もない。

だが、アカネのはなしによると、アカネ村は決してスパイの集まりなどではなかったという。それどころか、戦争から逃れた人々による平和な村だったのだと。

 

「確かに、後になってそのような話が出てきたが……連合はそれを認めていないぞ。今現在、アカネ村は帝国から平和公園として扱われているが」

「連合は、自分達の罪を認めていないというのですか……? いいえ、今私が話したことは事実です。だからこそ、私は紅き翼に復讐するために、いまだこの世にとどまっているんです」

 

黙り込んだ私を、しばらくアカネはじっと見つめていた。

今、アカネ村は魔法世界で平和公園として扱われているという。

しかし、帝国側が人間と亜人が共存した場所と認めているのに対し、連合はいまだにアカネ村事件による軍、そして紅き翼の行為は正当なものだとしている。

やがて、アカネの方が先に再び口を開いた。

 

「時に、エヴァンジェリン。私と同じく英雄の被害者であるあなたに、提案があるのですが」

 




長らくお待たせしました、20話です。
今回の最後は中途半端だなと思ったかもしれませんが、切るならこのへんかと思って切りました。
提案については、次話にて。

今回はいろいろとアカネ村のその後に関する情報、および伏線を入れています。
おかしいと思うことがあれば是非とも教えてください。質問も歓迎ですよ。

それでは、また次話にて。

感想、ご指摘、ご意見お待ちしています。

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