死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
今後もよろしくお願いします!
Side エヴァンジェリン
「提案、だと?」
ここにきて、アカネは私に提案を持ちかけてきた。
何を言われるものか、全く想像がつかんがな。
「はい」
「……聞くだけ聞こうか」
提案といっても、要は取引か何かだろう。
問題は、「自分と同様英雄の被害者であるあなたに」……この部分だ。
確かに、私がここ、麻帆良から出られないのはナギがめちゃくちゃな魔力でかけたあのいまいましい呪いのせいでしかない。
そういう意味なら、確かに彼女の言葉は正しい。
だが、それがどうしたというのだ?
「対価の代わりに、私が“やること”の邪魔をしないでください」
淡々と、しかし意志のこもった目で私を見ながらアカネはそう切り出してきた。
なるほど、そうきたか。
先ほど、私はアカネの「ナギを殺したらどうするか?」という問いに対し、間違いなく許さないだろうと答えた。
言外にではあるが、敵対宣言をしたようなものだ。
それに、それにだ。
仮にも、私が……まぁ、なんだ、その。自分のものにしたいと思った相手だぞ?
あいつが死んだと知ったら、思うことはあれど感情的になりかねないのは否定せん。
死など、これまでに見飽きているというのにな……。
「私はさっき言ったはずだぞ? 貴様が万が一ナギを殺したら、私が貴様を襲わない保証はできんと」
「えぇ、結構。復讐なんてそんなものだとわかってはいます。人が殺されたなら、その死に悲しみを思う人がいても当然。復讐に復讐を誓う人は、この先きっと出てくるでしょう」
わかって、いるんです。
そう言うアカネの声が、どこか絞り出しているような声に聞こえた。
「ですが、私にだって理由はあるんです。たとえ恨まれようと、私は復讐をする。あなたの言う通り、彼が死んだらあなたは私の敵となるでしょう。ですが、それまでは、私の邪魔をしないでほしいんです」
「つまり、不干渉でいろ、と?」
「えぇ。そういうことです」
不干渉か……。
だがこいつにも言った通り、アカネがナギを殺せるとは限らない。
それまでなら……不干渉ぐらいならまだいいかもしれんな。
無論、こいつの言う「対価」にもよるが。
「で? 貴様の言う対価とはなんだ?」
「こちらの出す対価は……あなたの自由です」
……ん?
こいつ、何を言い出す気だ?
「あなたにかけられた登校地獄の呪い。それを解除することができます」
しばらくの沈黙。
正直、いともあっさりと言われたことだったので頭がすぐには追いつかなかった。
頭がフル回転をはじめ、ようやく言葉を咀嚼する。
そうか、よくわかった。
「解けるのか!? なら解けさあ解け今すぐ解け!!」
思わずつかみかかろうとして、またすり抜ける。
椅子に激突した私を見てアカネはくすりと笑いやがった。
そこの犬にまで笑われた気がする……。
「まずは落ち着いてください」
「落ち着いてだと!? あぁ、落ち着いているさ今の私はッ!」
「マスター、どう見ても落ち着いているようには見えません」
これまでずっと黙っていいた茶々丸にまでいさめられると、さすがに冷静になれた。
しかし、解けるのかもしれないのだぞ!? この呪いが!
「ですが、完全解放というわけにもいきません。具体的に言うなら……私たちに手を出したとたん、その解放が解ける仮の自由とでも言いましょうか」
「どういうことだ? もっと詳しく説明しろ」
アカネのはなしを要約するとこうだ。
もし取引を飲めば、私は今すぐにでもナギにかけられた呪いを解除してもらえる。
しかし、もし私がアカネの邪魔をした瞬間、解除されていた呪いは一転、また元に戻してしまうのだという。
「……なんだ、それは。ならば完全に解除されてはいないじゃないか!」
「確かにそうです。厳密には、かけられた呪いをとりあえず外しただけで、消してはいませんから。ですが、私の邪魔をしなければ状態としては解除されたのと同じですよ?」
確かに聞いただけではいい条件だ。破格といってもいい。
こいつの事を放っておくだけで私は長年の束縛から逃れることができるのだ。
私の魔力を縛っているのはこの呪いではなく学園の結界だと最近知ったが、それさえもようはこの麻帆良から出ることさえできれば無いに等しい。
私は完全に自由になれる、というわけだ。
だが、これには大きな裏がある。
もし私が、この提案を受け入れた場合。
私は自由になれる。これは間違いないだろう。
ただし、「アカネの邪魔をする」ということだけは何があっても許されない。
たとえ、たとえ――私の目の前で、ナギがアカネに殺されそうになっても、だ。
ナギがこんな小娘なんぞに殺されるわけもない……そう思う自分は確かにいる。
しかしなぜか、一方でひょっとしたらと考えてしまう私もいるのだ。
殺されたことを後で知るならまだましだ。
もし、それが自分の目の前で起こったら……。想像もしたくない。
たとえこの場で取引したとしても、私は土壇場で口約束なら破ってしまうかもしれないが。
この提案は、それすらも許してくれないのだ。
「マスター? いかがなさいましたか?」
「ぐ……ぅ……」
悔しくて、思わず歯を食いしばる。
もし麻帆良の外で呪いが復活すれば、私は戦うどころではない。
麻帆良の中にいても、今度は学園結界が邪魔をする。
今この場で倒すか? いや、相手は死者だ。それに私に勝てない奴がナギを殺せるはずもない。こんなリスクを背負う必要はどこにもない。
ならもう、どうしようもないじゃないか。私が決めるしか。
机の下で、自然と手に力が入ってしまう。
私はもう、このどちらかを選ぶしかないのだ。
何が自由だ。こいつの言った通り、仮の自由だ。見せかけの自由ではないか!
自分が自由になるのをあきらめるか、それとも……
“万が一”愛した男が殺されそうになっても、一切の手出しができなくなるか。
「ち、くしょうが……」
「ここで提案を飲んでも、それとは別に呪いを解く方法があれば、後でその方法を使って完全に自由になることは可能ですよ? そもそも、あなたが私のたった一つの要求を飲んでくれさえすればあなたは自由なのですから」
自由という言葉が、ここまで空虚に聞こえたのは初めてだった。
だが、これほどまでの呪いを解くチャンスはほぼないといってもいいだろう。
数日後に、ネギのぼーやと戦うチャンスがあっても、だ。
「……どうしますか?」
「わかった……。取引を、のむ……」
私には、こうするしかできなかった。
Side アカネ
吸血鬼、エヴァンジェリンとの取引はうまくいきました。
我ながらひどい条件だというのは理解しています。
しかし、彼女は十分脅威となります。もっとも大きな復讐の障害になりえる人物です。
だからこそ、ここで彼女の脅威を取り除いておきたかった。
もちろん、彼女が拒んだらその時は呪いを解くのを妨害するしかありませんでしたが。
取引は無事成立しましたから、結果オーライという奴でしょう。
「助かりましたよマケイヌ。“彼女”がここにいると教えてくれて」
『ま、俺が話すよりあいつから説明を受けたほうが良かったろ? せっかくだから結果を報告しとけよ』
「それもそうですね」
マケイヌに頷き、取り出したのは……一枚のカード。
そう、仮契約カード。このカードには、念話の機能も付いているのです。
《話は終わったのかしら? どうだった?》
「全てうまくいきましたよ。ミィのおかげです」
《一応機密だから、情報はどこからか話してないわよね?》
「もちろん」
念話の相手はミィ……源 しずな。
ここ、麻帆良の教員で魔法関係者です。
私はマケイヌに彼女がここにいると教えてもらった後、仮契約カードを使って彼女に連絡を取りました。
そして彼女に教えてもらったのが、エヴァンジェリンの封印について。
彼女がナギにかけられたという登校地獄。そして、彼女の魔力に制限をかけているこの学園の結界について。
ミィからの情報があったからこそ、今回の取引の土台を作ることができたのです。
《エヴァンジェリンがネギ君と戦う、という話はもうしたわよね?》
「ええ、聞かせてもらいました。あ、そうだ、あの案はどうなりましたか?」
次の満月の夜、エヴァンジェリンとネギ・スプリングフィールドが戦う。
この戦いにおけるエヴァンジェリンの目的の一つが自分の呪いを解くことだとミィに教えてもらった時、私とミィとである案を考えました。
そしてその案を、魔法関係者の会議で出してもらったのですが。
《えぇ、問題は無いわフィー。否定的な声があがるどころか、むしろとてもいい案だとすぐに会議で可決されたわ。学園長ですら反対しなかったし》
「そうですか、安心しました。本当にありがとう、ミィ」
《また何かあったら、いつでも助けになるからね。それじゃ、また……》
念話が切れて、後は静かな夜の中、私たちは歩いて行きました。
これで、心配することは無いし、当初の目的も果たせた。
一応、最後に彼らの戦いを見てから、次へ行きましょうか……。
そして迎えた、満月の夜。
私はマケイヌとともに、エヴァンジェリンとネギの戦いを観戦していました。
ネギが橋でエヴァンジェリンを捕縛結界の罠にかけたものの、それはあっさりと破られる。
どうやったのかがよくわかりませんでしたが。
その後追い詰められたネギが血を吸われそうになったのには焦りました。
呪いを解くためにネギの血が必要ということはミィから聞いていましたから、つい出ていこうとしてしまいましたよ。
幸いにも、従者らしき少女の登場のおかげで、私が姿を見せる必要はなくなりました。
死神の鎌を出せば、まず間違いなくその魔力を気づかれたでしょうからね。
本当に、危ない所でした。
戦いが拮抗する中、ネギとエヴァンジェリンが魔法をぶつけ合い……てっきりそのままエヴァンジェリンが押し切るかと思ったのですが、なんと逆に彼女の方が吹き飛ばされてしまいました。
正確には服を、ですが。あの少年、何を考えてるんですかね?
まさか、魔力の暴発?
しかし、今のは彼も全力だったでしょうから、そろそろまずい。
私としては、エヴァンジェリンが勝つのは都合が悪い。
もし、血を吸われてしまったら呪いが解ける。それでは、今回の取引が完全に意味のないものになってしまいます。
そのとき――
『ん?』
「来た……!」
遠くの方で明かりがつく。
私が望んでいた、“その時”の証が輝き始めました。
「いけない! 予定より7分27秒も停電の復旧が早い!」
「ちっ、いいかげんな仕事をしおって! まだ、呪いを、あいつの枷を解いていないのに……ッ!」
彼女達が叫ぶも、学園結界が再び始動。
魔力を封じられたエヴァンジェリンは川へとついらくしていきました。
助けたほうがいいかと思いましたが、ネギが飛びだしたので私は何もせず、ただ見ていました。
楽しそうな声が聞こえて来て、もう呪いを解くために血を吸うことは無いとわかった時点でその場から立ち去ることにしました。
「では、行きましょうか」
『あぁ。それにしても、いいタイミングだったなぁ』
彼が言っているのは、停電の復旧のことでしょう。
実を言うと、あれこそが私とミィが考えた案です。
エヴァンジェリンがもし、呪いを解くためになりふり構わずネギの血を吸おうとする可能性も考慮し、ネギが魔力切れなどで戦いが続行困難になった時点で予定より早めに停電を復旧させ、エヴァンジェリンの魔力を封じる学園結界を始動させる。
学園側はネギの安全を優先するだろうというミィの考えが見事当たったわけです。
では、行くとしましょう。
私の行く先に、あんな楽しそうな声を聞くことはない。
私がするのは、憎しみの連鎖である復讐なのですから。
取引のシーンとなると、どうしても時間がかかってしまうようです。
普段より長めにはなりましたが。
エヴァンジェリンは前の話で少しだしましたが、条件付きの解放としました。
もっとも、その条件が彼女にとっては大きな葛藤をもたらすことになるのですが。
今回の話で、第4章は終わりです。
いよいよ修学旅行編。ご想像の通り、再び復讐の回となります。
アカネの復讐が、これからどんどん進行していきます。
時間がとれれば、できるだけ更新していきたいです。
感想、ご指摘、ご意見お待ちしております。