死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

23 / 28
遅ればせながら、更新です。


第23話 関西呪術協会の夜

Side ネギ

 

学園長に頼まれて、僕は関西呪術協会に東からの親書を渡すことになった。

修学旅行は電車からいろいろとハプニングが多くてちゃんと仕事が達成できるかと心配になったけど、とりあえず関西呪術協会の本山につくことができた。

ものすごくおっきいのと、ここがこのかさんの実家だということはびっくりしたけど。

 

「ここでお待ちください」

 

通されたのは巫女さんがたくさんいるひときわ大きな部屋。

どこか神々しい雰囲気のある部屋で、奥には階段がある。おそらく、長さんの部屋につながっているのだろう。

はしゃぐハルナさん達には僕がここへ秘密の任務で来ていることを伝えた。

もちろん、協会がどうのということは話してないけど、アスナさんに指摘されたように行っちゃまずかったかもしれない……。

 

「まもなく長がいらっしゃいます」

「あっ、はい!」

 

急に話しかけてきた巫女さんに思わず勢いで返事をする。

みんなが用意された座布団に座った頃、階段から一人の男性が降りてきた。

少し顔が痩せこけており、眼鏡をかけた男性だ。

あれ、ここがこのかさんの実家っていうことは、長ってもしかして……

 

「お待たせしました。ようこそ明日菜君、木乃香のクラスメイトのみなさん、そして担任のネギ先生」

「お父様~♪」

「ははは、これこれ、このか」

 

降りてきた男性にこのかさんが勢いよく飛びつく。

そうか、このかさんのお父さんが西の長だったんだー。……お父さん、か。

なんか様子がおかしい明日菜さんが少し気になったけど、僕も僕の仕事をしないと。

 

「あ、あの……」

 

そう思った僕は長さんに近づくと荷物から学園長に渡された親書を取り出し、手渡す。

長さんは僕が差し出した親書を丁寧に受け取ってくれった。

 

「これを……東の長、近衛近右衛門から西の長への親書です。お受け取りください」

「確かに受け取りました、ネギ君」

 

中身を取り出し、読む間僕は返答を待つ。

なぜか苦笑していたけれど……何が書いてあったんだろう?

気になったけど、聞けない。

しばらく読んでいたけど、長さんはやがて顔をあげて僕を見た。

 

「いいでしょう……私たちも仲違の解消に尽力するとお伝えください。任務ごくろう! ネギ・スプリングフィールド君!」

 

よし、これで任務達成……やったー!

あとは、このかさんや刹那さんはともかく、のどかさん達をどうするかが問題なんだけど……やっぱりホテルに連れて帰らないとまずいよね?

でも、僕が帰るわけにもいかないし、言って帰ってくれるとも思えないし……。

 

「いえ、大丈夫ですよ代わりを用意させますから。今夜はお嬢さん方にはここに泊まっていただきましょう。……浦川さん、皆さんを部屋へご案内してください」

「かしこまりました」

 

側にいた巫女さんの一人が長さんの言葉を受けて立ちあがった。

彼女が立ち上がったのを受け、明日菜さんやほかのみんなも立ち上がる。

僕達が部屋へ案内される前に長さんがみんなに聞こえるように少し大きな声で呼びかけた。

 

「今宵は宴を催します。支度ができたら呼びますので、それまでは部屋でゆっくりくつろいでおいてください!」

「それではご案内いたします。……ほら、あなたも付いてきなさい」

「は、はい!」

 

僕達に一礼した浦川さんに声をかけられ、隣に座っていた巫女さんが慌てて立ち上がる。

見習いなのかな? 若い巫女さんがあたふたする様子が少しおかしかった。

でも、この人どこかで見たことあるような……どこだっけ?

ともかく、長さんの好意で生徒の皆さんをホテルに連れて帰らなくて済んだし、親書も渡せた。

今日はゆっくり休もう。

 

 

 

 

 

 

 

Side マケイヌ

 

この浦川って巫女に憑いたのはラッキーだったかもしれない。

なにせ長直々に子供教師が連れてきた面々を部屋に連れていくよう言われたのだ。他にも人を連れていく程度の雑用を任せられるだろう巫女はあの場にたくさんいたのに、だ。

この人物がそこそこ立場ある人間だって言うのが言外に分かったし、嬢ちゃんの障害になりそうな奴がいないかこの場で見ることができる。

 

「こちらになります」

「おおっ、広い!」

 

部屋に連れていくなり、女の子の一人が部屋でごろごろし始める。やっぱ子供だな。

移動中見た感じじゃあ、やっぱりあの剣士の子が一番厄介か?

他の奴はあまり戦闘力が高いとは感じられない。

さて、こちらは問題ない。むしろ問題になりそうだったのは……

 

「…………」

 

こっちだよ、一方で嬢ちゃんときたらなぁ。

紅き翼の一人であった青山、いや近衛詠春……ここの長だが、奴が姿を見せた瞬間、殺気が出かけたからな。俺がとっさに念話で諌めなかったら鎌すら出したかもしれない。

まったく、余計なところでひやりとさせやがって……

 

「それでは、失礼いたします。御用があればお呼びください」

 

大した用じゃなけりゃ呼ぶんじゃねーぞ。忙しいんだから。

ふすまを閉めて歩きだすと後ろからついてくる嬢ちゃんに呟く。念のため、聞かれても問題ないよう盗聴防止の結界を張る。これで他にはたわいのない会話と聞こえるはずだ。

 

『嬢ちゃん、気がはやるのはわかるが、あんな大勢の前でなぁ……』

「すみません、つい……」

 

止めてくれてありがとうございましたと謝られる。

気持ちは理解できるんだが、だからといって焦っては意味がない。

 

「ですが、いつならいいと言うのですか?」

 

少々、いや、わりと不満げな様子の嬢ちゃん。

もどかしいんだろうな。復讐の相手が、手の届く場所にいるというのに。

だが、何事もタイミングというものがある。

 

『あせるな。“その時”は必ず来る。全ての騒ぎがひと段落して気が抜けた、その時だ』

 

大きな出来事をくぐりぬけると、たいていの人間は気が緩むものだ。いつまでも緊張感を保つのは難しいし、ひと段落するとどうしても力を抜きたくなる。

あと、今回の相手は協会の長という立場。だから、あんまり人目につく場所で復讐を行うことはできない。早い段階から騒ぎになってしまうしリスクが高すぎる。

そういうところ、嬢ちゃんはわかってくれるかね?

 

「むぅ……そういうことなら、まだ納得できます」

 

説明すると、案外あっさりと理解してくれた。

ここでごねられてもどうしようもなかったから、理解が早いのは助かるな。

と、ここで巫女の控室に到着する。ここでおしゃべりは終わりだな。

ここからは念話で連絡を取る。

 

<んじゃ……そういうことで>

<わかりました……。“その時”が来たら、必ず教えてくださいよ?>

 

ハハハ。

嬢ちゃんのもどかしさが、手に取るようにわかるぜ。

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

夜も遅くなり、私達を含む大勢の巫女が部屋でくつろいでいました。

宴の準備は大変でしたよ……調理班に組み込まれずに済んだのは助かりましたが、それでも配膳など仕事はたくさんありました。

そんな中、マケイヌは浦川さんの立場上いろんなところに指示を飛ばしていましたが……大した手腕でした。

当然、しんどかったようですけどね。

そんな時、スッ、とふすまが開く。そこにいたのは白髪で小柄な少年でした。

 

「あら、誰?」

「リ・シュタル・ヴィシュ・タル・ヴァンゲイト」

 

誰が来たのかと巫女の一人が近づきましたが、それに対し少年は片腕をあげて何か呟く。

あまりはっきりとは聞こえませんでした。なぜなら、すぐに頭にマケイヌからの念話が響いたから。

 

<影で転移して外に出ろ! 早く!>

「……石の息吹」

 

呪文が唱えられるより早く、私たちは外に転移しました。

気配を遮断して様子をうかがったところ、どうやら逃げ損なった他の巫女たちはみな石にされてしまったようです。

後でのぞいてみたところ何が何だか分からないという彼女たちの表情が見えましたが、おそらくろくに事態など理解できていないでしょうね。

 

「あれ? 二人いなくなっているような……気のせいかな?」

 

少年が去り際残した、この一言にはひやりとしたものです。

しかし、一瞬のことでしたから彼も気のせいと断じてどこかへ転移してしまいました。

考えてもらちが明かないと思ったのかもしれません。

とりあえず、マケイヌに説明を要求しましょう。

 

「い、今のはいったい……?」

『どうやらここが襲撃されたらしい。実は、長の娘を狙う一派がいてな』

 

なんでも、娘の強い魔力を狙っているとのこと。

相手はどうやら四人。さっきの少年が娘の方に向かったとマケイヌから教えてもらいましたが、後の三人についてはわかりません。

死神の能力として気配を察知する能力が付与されているので、多少の襲撃なら撃退できるでしょう。

 

「これから、どうします?」

『どうする、って言ってもな……』

 

あごに手をあて、浦川さん(マケイヌ) は少し考えた後に私に話を振りました。

 

『嬢ちゃんはどうしたい? ちなみに、ひとつ教えておくと、さっきの少年だけどな』

 

一瞬間を開けた後、マケイヌはじっと私の目を見つめて教えてくれました。

あの少年の、正体を。

 

『あの大戦を裏で先導した組織……完全なる世界の一員なんだよ』

 

この場に、静寂が流れます。

あの大戦の引き金を引いた組織。大戦が無かったら私はアカネ村でミィをはじめとした多くの人々に会うことは無かったかもしれません。

しかし、その結果多くの人が命を落とした。私を含めて。

それが、事実です。

 

「マケイヌ」

『おう』

 

鎌を取り出し、黒いローブをまといました。

大戦さえなければ、村は、攻められることも滅ぶこともなかった……。

 

「行きましょう。あの少年を、刈ります」

 




皆さま、長らくお待たせいたしました。
時間空いた割には、話あまり進んでませんね……。

お気に入り登録が前よりかなり増えていてびっくりしました。ありがとうございます。
そして、評価。
前回あとがきで評価について述べたところかなりの評価をいただけて、本当に感謝しております。
評価してくださった皆さん、ありがとうございました。

次回はこのかをめぐる攻防、のあたりでしょうか。
もっとも、さすがにここでフェイトは退場しません。
もっと先で役割もありますし。

では、次回またお会いしましょう。

感想、ご指摘、ご意見お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。