死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
Side マケイヌ
俺たちは、関西呪術協会の本部から少し離れたところにある湖に向かって移動していた。
そこに封印されているのが、リョウメンスクナノカミ。二つの顔、四本の腕を持つ巨大な鬼神だ。
そいつがクーデターを仕掛けた奴らの狙いなんだが……スクナ自体は、はっきり言ってどうでもいい。
問題はスクナ復活に動くメンバーに紛れた一人だ。
移動しながら、ちらりと嬢ちゃんの顔を見る。
「…………」
無表情で嬢ちゃんは鎌を握りしめている。
メンバーに紛れた少年、フェイト・アーウェルンクスを刈るために。
くそっ、あの少年について話しすぎたな……。
さっき嬢ちゃんは、「あの少年を刈る」、そう言った。
だが、はっきり言うならば。
俺は、嬢ちゃんの発言に異を唱えるべきだったんだ。
おそらく、嬢ちゃんは復讐の対象である紅き翼の一人、近衛詠春が手に届くところにいたがために興奮しているのだろう。
俺が嬢ちゃんに復讐をするのは待てと言ったことも、きっと嬢ちゃんがフェイトを刈ろうと動いた一つのきっかけになってしまった気がする。
いや、実際にそうなんだろうな。
俺は嬢ちゃんにフェイトについて話してしまったことを後悔し始めていた。
そもそもフェイトのことを話したのは、巫女が集まっていた部屋から急に脱出した理由を説明するため、そしてこれからのことについてどうするか聞くためだ。
フェイトの攻撃から逃げたのは、単純に石にされるとこの後の行動に支障が出るから。
この体はもとは人間の体だから、石になると動けん。それは困る。
だからあの部屋から脱出して、嬢ちゃんにフェイトのことを説明した。
俺としては、戦争のきっかけとなった組織の一員であるフェイトと話はしたほうがいいかな、とは思っていた。
でもそれは、甘い見通しだったようだ。
嬢ちゃんはフェイトを刈る、つまり彼を復讐の対象とみなすといった。
けど、それは歓迎すべきことじゃない。
嬢ちゃんがフェイトを殺しても、
これは、嬢ちゃんがいったい何の未練に縛られているのか、それに関係している。
村が英雄によって滅ぼされた
しかし、実際は嬢ちゃんだけ。
いや、本当はもう一人いたんだ。
アカネ村事件を引き起こすきっかけとなったもう一人の存在であり、アカネ村が燃えていく光景を、未練として他の村人よりも強く嬢ちゃんの心を縛ることになってしまった人物が。
何より、嬢ちゃんと同じくらいの未練と、それ以上の後悔を抱えた人物が。
あいつのことは、まだ嬢ちゃんに話していない。
でも、いつかは話さなければならないだろう。いつか、きっと。
それまで俺は、嬢ちゃんを支え続けなければならない。
“頼むよ……。どうか彼女を、○○を……救ってあげてくれ……”
わかってるよ。
まずはフェイトとの戦いをほどほどのところまでやらせよう。
さすがに今更止めるわけにはいかないからな。
その後、英雄への復讐。今回は手助けも期待できるし、そこまで心配することはないだろう。
これからも、俺は嬢ちゃんの復讐を手助けしていく。
いつか、嬢ちゃんが未練から解放されるように。
それが、あいつとの契約なのだから。
Side アカネ
先へ行く途中で、突然大きな光の柱が空へと伸びていきました。
目的地から伸びたのだということはわかるのですが……いったい何が起こったんでしょう。
「マケイヌ、あれは!?」
『長の娘をさらった奴らが、その魔力を使って封印を解こうとしてるんだ!』
「封印って……」
なんでも、あそこには強力な鬼神が封印されているんだとか。
その鬼神を復活させ、関東魔法協会に攻撃を仕掛けるのが奴らの目的のようです。
しかし、それになぜ「完全なる世界」の一員が関与しているのでしょうか?
考えている間に、目的地に到着しました。
大きな石を中心に光の柱は伸びているようで、その前には祭壇に寝かせられた一人の少女。
彼女には見覚えがあります。
私が大勢の巫女に紛れて初めて詠春の姿を見た時、彼に抱きついていた少女。
なるほど、つまり長、近衛詠春の娘だというわけです。
さらにそのそばに二人の人物が。
一人は知らない女性です。祭壇の前でひたすら何かを唱えているようです。
彼女が唱えているのはおそらく封印を解くための呪文か何かでしょう。
そしてもう一人が、白い髪の少年。
先ほど、私たちや巫女がいた部屋を襲撃した少年ですね、先ほど見たばかりですからよく覚えていました。
つまり、彼が……フェイト・アーウェルンクス。
戦争を引き起こした組織、「完全なる世界」の一員……。
「…………」
持っていた死神をより強く握りしめて。
私は、彼に向って飛び出しながら鎌を振り上げました。
「な、なんやぁ!?」
「む……」
私に気付いた女性が叫び声をあげましたが、気にせずにフェイトにむかって鎌を振り下ろす。
しかし、予想以上に障壁が固くて弾き返されました。
ダメージがまったく通らなかったわけではありませんが、さほど効いていないようなので届いていないのと同じです。
「千草さんは封印を早く解いてください」
「た、頼んだで新入り!」
私の迎撃はフェイトが担当し、千草と呼ばれた女性が封印を解くのに専念するようですね。
もともと彼は襲撃があった際にガードする役割だったようですが。
私を儀式の妨害に来たのだと誤解したようですが、私の狙いはフェイト・アーウェルンクス。むしろ好都合です。
「……邪魔はさせないよ」
「もともと、私の狙いはあなたですよ!!」
速い。
一瞬で私の懐に潜り込んで攻撃を仕掛けてきましたが、ここでも突き出された拳が私の体をすり抜けました。
手ごたえがないのに驚いた彼にすかさず下がっていた鎌を振り上げて攻撃したのですが、ギリギリ反応されてよけられます。
「ちょこまかと……!」
「危ないね。君はいったい何者だい?」
攻防が進まない状況から、逆に彼は私のことを警戒しだしました。
強いですから、ここまで攻められたことがなかったのかもしれません。
彼の問いには、フェイントで彼のガードと逆から鎌で切りつけることで答えてあげました。
「おっと」
「私ですか? 私はあなたたちが起こした戦争で、たくさんのものを失った死者ですよ、完全なる世界!」
死神の鎌に魔力を込め、切りつける。
腕で受け流されましたが、それと引き換えに彼の右ひじから先が宙に舞いました。
片手を失ったというのに彼は悲鳴を上げず、ただ驚いたような顔をしただけ。
その表情に、正直薄気味悪いものを感じました。
まるで、彼が人形のようで……。
「出し惜しみしている場合じゃなさそうだね……。ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」
「始動キー……!」
彼が唱えた、魔法の始動キー。
そう、彼は今まで私と魔法抜きで戦っていたことに今更気が付いたのです。
死者である私に魔法は効きませんから、このまま無視して……
<嬢ちゃん、奴の魔法は石化だ! 嬢ちゃんに害はないかもしれんが、鎌を石化されると厄介だ!>
「小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ。時を奪う毒の吐息を」
石化!
突然マケイヌから念話がありましたが、そういえば巫女たちは彼に石化されたんでした。
そして、ナギ・スプリングフィールドと戦ったとき鎌に攻撃を当てられたことを考えると、石化の魔法が影響を及ぼさないとは言えません。
つまり。
「石の息吹!!」
「くっ……ううっ!」
その場を慌てて下がるしか、私に選択肢はない!
トップスピードで宙を飛び、下がった私がいた場所を魔法の煙が覆いました。
石化されたら確かに、危ないところです。
私の戦闘スタイルはこの鎌に頼るほかありませんし。
「避けたか……おや?」
ここで、フェイトが別の方向から飛んでくる何かに気づきました。
杖にまたがった少年が水上をそれなりのスピードで飛んで近づいてきています。
彼は……
「ネギ・スプリングフィールド……」
「やれやれ、彼も来たか……」
紙を取り出し、何か唱えると突然羽の生えた悪魔(?)が召喚されました。
剣を持ち、額に何か紙のような貼られた悪魔は
「ルビカンテ、あの子を止めて」
フェイトの指示にうなずき、そのままネギに向かって飛んでいきました。
一方で私には、マケイヌから念話が。
<嬢ちゃん、この辺で撤退しろ!>
「え!? しかし……」
<今ネギに嬢ちゃんの存在を知られたら後で警戒されることになる! それじゃあ詠春に復讐するとき困るのは嬢ちゃんだぞ!>
フェイトにダメージを与えることはできたし、まだやれる。
私はそう思っていたのですが、マケイヌはそれを許しません。
<嬢ちゃん、嬢ちゃんが復讐すべきはあくまで紅き翼、つまり次は近衛詠春だ! 根本的なところを勘違いするな!!>
「……わかりました」
行けると思ったのですが、私はおとなしくマケイヌの言葉に従ってこの場は退散することにしました。
考えてみれば、マケイヌの言う通り。
私が鎌をふるうべき相手は、他にいるんです。
フェイトは今戦わずとも復讐を続けるうちまた出会うだろう……。
なぜか、そんな気がしました。
最近更新や感想への返信ができず、誠に申し訳ありませんでした。
フェイトとの戦いをどう書くかでかなり悩み、結果としてもここまで遅くなりました。
お待たせしてすみません。
また、今回の話にはこれからの話につながる部分も含んでいます。
アカネの未練、そして復讐にかかわる大事な部分です。
この辺は学園祭編ではっきりしたことを書けると思います。
感想、ご指摘、ご意見お待ちしております。