死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
修学旅行編、ついに進みます。
Side ネギ
呪術協会への襲撃から一夜明けた、翌日。
僕は朝からわくわくすることになった。
長さんが、紅き翼が昔使っていた別荘へ連れて行ってくれるんだって!
うわぁ、楽しみだなぁ。ひょっとしたら父さんの手がかりが何か残っているかもしれない。
昨日はあの、フェイトとかいう銀髪の少年にリョウメンスクナノカミといろいろ大変なことも多かった。
でも、今日はエヴァンジェリンさんもいるし安心だろう。
あぁ、楽しみだなぁ。
「ム。ぼーや、なんだそのデレデレと緩みまくった顔は」
「あ、いやすみません」
いけないいけない、すっかり頬が緩んでたみたい。
でも、もともと京都に行きたかったのは父さんの手がかりが手に入るかもしれないからであって……。
昨日まで大変だった分、楽しみがあっていいと思うんだ。
「フン、平和ボケしてるんじゃないだろうな……? ぼーや、昨日は私の手にかかればなんてことないでくのぼうが相手だったからまだいいがな、私ですらどうしようもない奴が来たらどうする気だ?」
「いやいや、何を言ってるんですか」
真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリンさんよりも強い相手なんて、想像もつかない。
僕の魔法が全く通用しなかったあの鬼神を、一度の魔法で粉々に砕いてしまった人だ。
あの魔法は凄かったなぁ……。麻帆良に戻ったら、魔法の修行をしてくれないかなぁ……。
「エヴァンジェリンさんに勝てる人が襲ってくるなんて、そんな」
「私に勝てなくても、私がどうしようもない奴はいるんだ……。それにここは京都。奴がここにいつ来ても、おかしくは無い……」
彼女が険しい顔をする理由が、僕には全く分からなかった。
あんなに強いエヴァンジェリンさんが、一体何を心配することがあるのかと。
そう、思っていたんだ。
Side アカネ
マケイヌにたしなめられ、フェイトを刈ることなく迎えた翌日。
私の視線の先には、近衛詠春に連れられてどこかへ向かう
ネギはずいぶんと楽しそうですが……?
「ええと、確か紅き翼がかつて使っていた別荘に向かっているんでしたっけ?」
首をかしげるも、答えは返ってこない。
そう、今この場にマケイヌはいません。
ある程度の情報をくれた後、『んじゃあ、また後でな』とどこかへ行ってしまったのです。
まぁ……何をするつもりなのかは、大方わかってはいるんですが。
とりあえず今は、目の前のことに集中です。
「大方、あの少年は父親のことで頭がいっぱいなのでしょうね……」
おそらく、彼は私たちのことは知らないのだろう。
もし知っていたら、あそこまで父親を気に入っていられるものだろうか?
そうだというならそれはそれで非常に許せないが。
「さて、この後の段取りは……」
だらんと下げた私の左手には、一枚のカードがあった。
Side 詠春
「「「わーーーーっ♪」」」
ネギ君、そして木乃香とその友達の皆さんはかつて使っていた別荘の中に入ると感嘆の声をあげた。
まぁ、あれだけ大きな本棚にぎっしり本が詰まってますからねぇ。
話によると特に本が好きらしい宮崎さんは口を開けてポカーンとしていますし、その横にいる綾瀬さんは写真でも撮りたいのでしょうか、携帯電話の画面を見ては本棚を見てはの繰り返しです。
相当興味深いのでしょうね、二人だけでなく他の皆さんも別荘のあちこちを眺めています。
もちろん、ネギ君の父親がいた、という面でも興味深いのでしょう。
「おい、いいのかアレ」
「いいのか、といいますと?」
まったく……と首を振りながら私の横に来たのはエヴァンジェリン。
思えば、彼女もずいぶん丸くなったものです。これもナギのおかげといえばそうなのでしょうね……。
もっとも、ここに来る途中、ネギ君に話していたことが気になりますが。
『私に勝てなくても、私がどうしようもない奴はいる』
『ここは京都。奴がいつここに来ても、おかしくはない』
一体、彼女は何を警戒しているのでしょう……。
「おい、聞いているのか?」
「ん? あぁ、失礼しました。考え事をしていたもので」
「まったく……。それよりだ、あいつらを止めなくてもいいのか?」
エヴァンジェリンが指さす先には、何人かが本を開いてあーだこーだと話をしていた。
さすがに内容はわからないでしょうか、あまり見せるのも良くないかもしれませんね。
手荒に扱われても困りますし。
「お嬢さん方! 人のものですから、あまり触らないようにお願いしますよ!」
こう言っておけば大丈夫でしょう。そうだ、ネギ君とも話をしておかなくては。
少しこちらへ来ていただきましょうか……。
「このか、ネギ君。あと……明日菜さん。こちらへ来ていただけますか?」
「は、はい……?」
三人に来てもらうと、ある机の方を手で示す。
その上に飾ってあるのは、一枚の写真。
「サウザンドマスターとその戦友たちです。右の黒い服を着ているのが、私ですね」
……若い頃の写真を見ていると、どうにも年をとったなあと実感してしまいますね。
あの頃の様に体が動かないというのも、先日嫌というほど思い知らされましたし。
ネギ君は、目を輝かせて食い入るように写真を見ています。
ナギの姿を写真でとは言え見ることができて嬉しいのでしょう。
一方で……明日菜さんは、何か見覚えがあるようです。
いえ、あるといえばあるのですが……
彼女はそれを覚えていないはず。もしかして、思い出しかけているのでしょうか?
ですが、私から言うことではありません。まだはっきり思い出したわけではないようですし、話すべきなら高畑君が話してくれるでしょう。
その時まで、私は何も言いますまい。
……悲しいことまで、思い出してしまうでしょうから。
「失礼するです、長さん」
その時、後ろから声をかけられました。
振り返ってみると……このかの友人の一人が。確か、綾瀬さんでしたか?
私を見上げていました。突然どうしたのでしょう?
「一人巫女さんが来てるです。長さんに用だとか……」
「あぁ、わかりました。すぐに行きます。……ネギ君、ちょっと失礼します」
「あ、いえお構いなく」
巫女ということは、協会のものでしょうね。一体何の用事でしょうか?
綾瀬さんに案内され、玄関の方に行くとまだ若い巫女が一人立っていました。
そういえば、顔に見覚えがありますね。
「どうかしましたか?」
「言伝を預かっております。急で失礼いたしますが、どこか部屋をお借りできませんか?」
「では、こちらへ……」
ここにはネギ君……つまり、関東の人間がいる。
関西呪術協会としては、関東に聞かせたくない話がたくさんあるから、別室でというのは当然と言えば当然だろう。
おそらく先日の件に関係しているでしょうが、まさかまた不穏な動きがあるのか……?
「どうぞ」
戸をあけると、電気をつける。
その部屋は私がかつて使っていた部屋。この部屋には、私の昔の刀や本、そしてたまにゆっくり仕事をするための道具が置いてある。
さて、では話を聞くとしましょう。
「それで……言伝というのは?」
「…………」
Side ネギ
長さんが行った後も、僕は父さんの写真をずっと見つめていた。
でも、明日菜さんが「他のところも調べるわよ」ってむりやり僕を引っ張りだして……。
しかたなく他の部屋を調べようかと思ったら、長さんを案内してきたのだろう、夕映さんが戻ってきました。
「あ、ネギ先生」
こちらに気がつくと、夕映さんは僕達の方に近づいてきた。
そうだ、何があったんだろう?
「夕映さん、巫女さんが来たのって……」
「関西の人だというのはわかるのですが。内容まではちょっと……」
それもそうか。かといって、盗み聞きするわけにもいかないし。
僕が関わることでもないから特に気にしないでおこう。
「ゆえー」
あ、今度は宮崎さんが来た。
「どこいってたの?」
「あぁ、玄関の方に巫女さんが来まして。長さんを呼んでほしいということだったので、案内してきたです」
「そ、そーなんだ……」
頷きつつも、どこか首をかしげている。
あれ? なにかおかしなことでもあったのかな?
「どうかしたの? のどかさん」
「あ、いえ……。少し気になっただけです」
ぽつりぽつりと話しだしたのは一つの疑念。
そう、ここは僕の父さんが隠れ家として使っていた場所。
長さんは父さんの仲間だったから知っていておかしくはないけど、関西呪術協会はどうか?
「なんで、関西の人がここを知っていたのかな?」
気になる。
よし、長さんの所に行って話を少し聞かせてもらおう。
関東と仲が悪い関西に、長さんがここを教えたとは、考えにくい……。
「どこ行くです?」
「ちょっと、話を聞かせてもらおうと思って」
僕の言葉に、夕映さんは大きく目を見開いた。
しかし、ふーっと息を吐くと、僕を止めた。
『まさか、おっとりした嬢ちゃんが、余計なことに気がついちゃうとはなあ』
僕達の、知らない声で。
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あぁ、このままどんどん更新できればいいなあ……