死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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はじましての方も、お久しぶりの方もこんにちは。

一年ぶりの更新になります。

今もなお、数少なくとも読んでくださる方がいらっしゃるのは大変ありがたいことです。
せめてものお返しになればと。

それでは、最新話をどうぞ。


第26話 刀届かず

Side 詠春

 

突然の、本部からの使者。

なぜナギの隠れ家であったここに彼女が来れたのか、それを考えきれなかった私は頭がよほど回っていませんでした。

いえ、そもそも刀を握ることしか能のない私では、それ以前の問題だったのでしょう。

自分が関西の長をしていることも含め。

 

「……お願いします」

 

私が事態に気がつけたのは、彼女が発した言葉を聞き、周りの空間が変質してようやくだった。

窓からの光は入ってこなくなり、外からの音も全く聞こえなくなった。

 

「異空間への転移……? いや、それとも空間の隔離か……?」

「さて、どうでしょう。話す必要もありません」

 

もはや周りを囲むのは、黒いカーテンのような結界。

そしてこの異常な状態を何ら気にすることはなく、私を只見据える巫女姿の少女。

おそらく、先ほどの言葉から推察するに彼女の従者によるアーティファクトの効果ですかね、この状態は……。

 

「何がねらいですか?」

 

関西の手の者か、それとも関東からの者か。

お義父さんから親書が来たばかりですから、さすがに関東とは考えにくいですが……。でもそれだと、なぜここを知っているのかという最初の疑問に戻ってしまう。

 

「私の狙い、ですか」

 

なんのことはありません、と彼女は言う。

そのまま彼女が伸ばした手へと、突然影から紅い柄が突き出した。

この寒気は……殺気か!?

 

「私の名は、アカネといいます」

 

柄を引き抜くと、姿を見せたのは巨大な鎌。それと同時に、巫女姿だったアカネに黒い影が一気にまとわりつき、やがて黒いローブに身を纏う姿に変わる。

黒いローブに、大鎌とは……。まるで死神ではないですか。

 

「あなたの魂……刈らせていただきます」

「やはり……こうなりますかっ!?」

 

幸いなのは、ここが私がよく使う部屋だったということ。

飛びかかってきたアカネが迫る中……私は、傍らにあった刀に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

突然様子が変わった、夕映さん。

いつもなら浮かべないようなニヤニヤとした笑みを浮かべて、ぼくの行く先を塞いでいました。

そこへ突然、空間がねじれるような変な感触が。

こ、これは……魔法!?

 

「せ、せんせー……」

「下がってください、のどかさん。今の綾瀬さんは、何かおかしいです」

「ゆ、ゆえ……。どうしちゃったの……?」

 

のどかさんが怯えるのも無理はない。

それほどまでに、今の夕映さんは異様だった。

 

「おい、なにがあった!」

 

異変に気づいたのだろう、マスターをはじめとして桜咲さんなどが慌ててこちらへと駆け寄ってきた。

そして、目の前の夕映さんの様子に気づくと、皆戦闘態勢になる。桜咲さんに至ってはすでに剣を抜いていた。

 

「貴様、綾瀬ではないな? 綾瀬にとりついた何者か、だろう。もしやまだ関西呪術協会の過激派が!?」

 

魔法を唱えようにも、体は夕映さんの体だ。僕は迂闊に呪文を唱えることができなかった。攻撃しても、夕映さんを傷つけるだけだったら……。

 

だが、一方で相手は桜咲さんの問いに笑いながら答えた。

 

『くくっ……俺は関西となんて関係ねえよ。といっても、俺が言って信用するのかねえ』

 

たしかに、僕たちとしては相手が名乗ったところでそれを信用しきることはできない。できない。けど、このままじゃ何も進まない。

 

「とりあえず、夕映さんを解放してください!」

 

僕の叫びに、相手は嘲るように笑って返事にした。

 

『は? いやおまえもうちょっとましなこと言えよ。いきなり解放してくださいって言われてはいどうぞって返すわけないだろ。……まったく、温室育ちのガキか、所詮は』

 

温室、育ち?

呆然とする僕の前にマスターが魔力をまき散らしながら立つ。さすがにマスターでも簡単に手出しはできないようだが、それでも何かしら考えがあるのだろう、殺意を隠していない。

 

「ぼーやは下がっていろ。キサマ、綾瀬を人質にとったつもりだろうが、わたしをなめるな? キサマを綾瀬の体から引きずり出すことくらい」

 

『そうだな、確かにお前はなめてかかれる相手じゃない。だからよ、何もしていないと思うか? お前に枷をはめていないとでも思ったのか?』

 

マスターに、枷?

さっきから相手が言っていることがよくわからない。だけど、マスターにとってはそうではなかったらしい。

 

 

 

 

 

あのマスターが、顔色を青くした。

 

 

 

 

 

「まさか……来ているのか? 奴が?」

 

『おうよ。んで、俺はあの時一緒にいた犬っころな。マケイヌだ、よろしく』

 

夕映さんの顔で、なおもニヤニヤした笑みを浮かべ続ける。手をヒラヒラと振る、そんな余裕な態度とは反対に、綾瀬さんの中にいるナニカを知っている様子のマスターは歯噛みしながらその場で震えていた。

相手は一体、何者なんだろう?

 

「奴がいるということは……狙いは、詠春かっ。くそっ、ならばこの結界は」

 

『結界っていうのもまた違うけどな。これはアーティファクト“裂き分かつ鎌”の能力でな、今は空間を一部分断してるのさ』

 

空間系のアーティファクト!?

見たところ、綾瀬さんが何か持っている様子はない。だとすると、アーティファクトと使ったのは別の誰か。

空間系なら、きっと中にアーティファクトの使用者がいるはずだ。マスターのいう“奴”なのか、それとも、まさか

 

『お? 言っておくが、この空間を解除するのはお前らじゃ無理だ。アーティファクト使ったのは外にいるやつだからよ』

 

だから別に、これ以上知り合いを疑う必要はねぇぞ?

 

僕の心を見透かしたような言葉に、安堵よりも薄ら寒いものがこみ上げた。

ここで、今まで黙っていたカモ君が、肩からマスターにむけて声をかける。

 

「えぇい、エヴァンジェリンの姉さん! アンタ、やつのことを知ってるんですかい? 狙いがあの長だってんなら、まずはあいつを抑えて、長のとこへ行くためのカードに」

「できん」

 

カモ君の提案を、マスターはあっさりと一蹴した。

正直、僕としては悪くない作戦だと思った。悔しいけど、僕じゃ夕映さんを傷つけずに相手を取り押さえることはできそうにもない。だけど、一番手練マスターなら、そう思っていたんだ。

 

だけどマスターは動かない。

悔しそうに歯を食いしばったまま、動かない。

 

「な、なぜだ!」

「叫ぶな、桜咲。私はな、こいつらに手出しができないんだよ。したくても、できないんだ」

 

夕映さんの顔は、余裕を崩さずに笑っている。どうやらマスターの言うことは本当らしい。でも、だからって何もせずにはいられない!

このままじゃ、長さんが危ない!

 

「だからといって、黙ってられるかぁぁ!!」

 

ついに耐えかねたのだろう。

桜咲さんが刀を抜き、夕映さんの方へと駆け出してしまった。あ、というまもなく、僕は止めることもできず。

 

あっという間に距離をつめた桜咲さんは夕映さんに刀を振り下ろす。

だめだ、このままじゃ夕映さんが。

まわりにいたのどかさん達の中には顔を覆ってしまった人もいる。

そして、マスターは

 

 

 

 

 

「そいつから離れろ、桜咲ぃぃぃ!」

 

 

 

 

 

全力で、叫んでいた。

 

しかしもう、桜咲さんの刀は止まらない。

すごい速さで振り下ろされた、彼女の刀は

 

『あー。さすがに、この体に怪我させたくはないからなぁ』

 

実につまらなそうな声を出した夕映さんが出した、左手であっさりと止められた。

しかも、よりによって人差し指と中指に挟まれるという状態で。

指二本であっさり自分の攻撃が止められたためだろう、桜咲さんは驚愕に顔をこわばらせて、次の行動に移れなかった。

 

いや、たとえそうでなかったとしても、次の行動に移れたのか僕にはわからない。

なぜなら、気がついたときには、桜咲さんは宙を舞っていた。

 

「か、は……?」

 

僕たちの正面には、大きく吹き飛ばされ床に叩きつけられた桜崎さん。

そして、さっきとは逆の右手を握り締めて突き出していた夕映さんがいた。

 

『言っとくが。エヴァンジェリンが動けない以上、お前らが俺に勝てるとか思ってねえよな?』

 

夕映さんの顔に張り付く笑み。

それは余裕と強者の自信にあふれていた。

 

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

部屋の中では、金属と金属がぶつかりあう甲高い音が響き続けている。

 

私が振り下ろした鎌を詠春が防ぐ。

瞬く間もなく攻撃に転ずる刀を、今度は私の鎌が払う。

 

今までなら、私が防御行動を取る必要はありませんでした。

しかし、今回の相手、近衛詠春が相手だとそういうわけにはいかないのです。

 

「斬魔剣・二の太刀!!」

「くっ」

 

斬魔剣・二の太刀。

私のような霊体を斬ることができる、神鳴流の技。

マケイヌから聞いたり調べたことによると、霊や悪魔など形なきモノを斬る技なのだそうです。

 

さすがに英雄と呼ばれただけのことはある。

私のような付け焼刃の技術ではなく、修練による太刀筋。

私は剣術に詳しいわけではありません。でも、私にだってわかる。

 

だからこそ、許せない。

 

「二の太刀を防ぎますか……」

「狙いはいいです。あなたの剣術だって強い」

 

だけど。

 

生者は、死者に届かない。

 




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