死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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おひさしぶりです。
やはり間が空いてしまいました……。

それはそうと、金曜ドラマで「ウロボロス」が始まりましたね。ドラマ化してびっくりしました。
というのも、原作ではドラマと違い、副題は「警察ヲ裁クハ我ニアリ」といってですね。

この作品の副題、「英雄達を裁くは少女」は、ここから頂いたのです。

さて、今回のタイトルは「二人目」
もう、話の内容はお分かりですね?


第27話 二人目

Side しずな

 

今頃、あの中では彼女の戦いが始まっているのだろう。

そう思いながら、森の中に”あった”建物の方を見る。今、目の前にはあったはずの建物がまるで何もなかったかのように消え、空き地になっている。もちろん、実際はそんなことないのだが。

ちらりと私の手にあるものに視線を動かした。それは小さな鎌。

 

私のアーティファクト、「裂き分かつ鎌」。鎌といっても、アカネがもっているようなあんな大きなものではない。見た目や大きさは植物を刈り取るのに使う、あの鎌だ。

 

だけどこの鎌が刈り取るのは植物なんかではない、空間なのだ。

先ほど、私は近衛詠春がいる建物を刈り取った。それにより建物とこことでは空間が断絶され、相互不干渉状態になっている。次元をずらした、といいかえることもできるだろう。

 

「さて、と」

 

あまり外にいるわけにはいかない。

私は魔法先生ではないとはいえ、魔法関係者ではある。

魔法先生の瀬流彦先生もいるし、関西呪術協会も遠くはない。へたに感づかれていないとは思うが、安心できるなんてことはない。

 

とにかく、私の仕事は終わった。

あとは、彼女の行いがうまくいくことを、祈るだけ。

 

…………。

 

嫌なものね。

人の死を願うのは。

 

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

部屋に鳴り響く、金属音。

刀と鎌はお互いの主張を叫ぶかのように高く、大きな音を鳴らす。

だけど、その間隔もだんだんと大きくなってきていました。

 

「まだ、わかりませんか?」

「おおおぉぉ!」

 

すでに彼の体からは、いたるところから血が流れています。だけど、詠春は諦める様子を見せません。動きは少しずつではあるが鈍くなっているし、この前の騒動で疲労だってあるはずです。

なのに、彼は未だ刀をおろさない。

 

「斬魔剣・二の太刀ィ!」

「ふん!」

 

刀を避けて、逆に刃を振るう。

最初だったら鎌で防ぐのが精一杯だったのでしょうが、今の私には反撃までする余裕があった。

彼ほどの使い手なら、だんだん通用しなくなっていったのがわかったはずです。

……正直、もう見ていられなかった。

 

「……なんで」

 

そこまで鍛え上げられた剣術を持っていて、なんで。

 

「……なんで! あなたは、その刀を振る相手を変えてしまったのですか!!」

 

私の叫びに、手は止めないものの詠春が驚いた顔を見せました。

感情を顕にした私の言葉に、何かあると理解したのでしょう。

 

「どういう、ことでしょう?」

「神鳴流、というそうですね。その剣術」

 

あれは、メガロメセンブリアの図書館で紅き翼について調べた時。

詠春について知ったのは、「人を守り魔を滅するという“神鳴流”の剣士」ということ。

 

そう、彼が扱う神鳴流とは本来、魔を祓うためのもの。

決して、戦場に用いるための剣では、なかったはずなのです。

 

「人を守り魔を滅する、ですか。だけど、あなたは」

 

その刀を、守るための人に向けた。

戦場でその刀を振るった。

 

「なぜあなたは、その力を戦争に持ち込んだのですか! 人を守る剣を、人に向けて! 関西呪術協会での騒動だって、もとをただせばあなたが魔法世界の戦争で刀を振るったからではないのですか!?」

 

関西呪術協会で起きた騒動の裏については、マケイヌから聞いています。

魔法世界で剣士として活動した彼のせいで本来関係のない関西呪術協会まで戦争に駆り出されたこと、関西の長になったうえ関東魔法協会を優先して肝心の関西側の話をほとんど聞き入れなかったこと。

 

彼は何も答えない。

ただ、刀を振るうだけです。

 

「……もう、終わりにしましょう」

 

彼がふるう刀に合わせ、私も勢いよく鎌を振り下ろしました。

今までより一層甲高い金属音。そして、彼の刀が折れる。

 

私の刃が彼の体を切り裂き、詠春は床に倒れました。

あとはこのまま、彼の命を刈り取るだけ。

 

 

 

だというのに、私はふと手を止めてしまった。

 

 

 

なぜだろう。

 

頭には釈然としないものが残っていましたが、とりあえず私のことを話すことにしました。私の手が止まったのはまだ言わなくてはいけないことがあるからだと、そう思いながら。

 

「“アカネ”の名に、聞き覚えはありますか?」

「アカネ、ですか?」

 

ガトウの時とは違い、さらなる時間が流れているのは事実です。

ですが、時間が経てば忘れるようなことだとは言わせません。

私たちの命を奪ったことを、そんな軽い出来事にさせられてたまるか。

 

「紅き翼と、アカネ。覚えがあるはずです」

「まさか、大戦時の、アカネ村のことですか」

 

その顔に浮かぶのは、驚愕と苦しみ。

どうやら、思い出したようですね。

 

「ええ。私はあの村で暮らしていました。そしてあなたたちがやってきたあの日、村のみんなと同様、命を落としました」

「ではまさか、今のあなたは……!」

「えぇ、死者です。あの世に逝けず、復讐でしか未練を断てないむなしい存在です」

 

私の言葉を聞くと、彼は視線を落とし黙り込みました。

 

なぜだろう。

話し終えたのに、まだ何か心残りがある。

 

考えに考え……頭に浮かんだのは、ひとりの少女。

初めて詠春を見たとき、「お父様~」と駆け寄る女の子がいた。おそらく、娘だ。

 

気がつきました、私のためらいの正体に。

彼を殺すことにためらいがあるわけじゃない、でも、あの子に何も残せずに父親を奪うのは、なぜか申し訳ない気がしたのです。

 

何を罪悪感など感じているのでしょうね?

英雄を殺し、そしてまた新たに一人殺そうとしている、この私が。

 

「なにか」

 

だから口が開いたのも、きっと仕方がないことだったのだ。

 

「なにか、娘さんに言い残すことはありますか?」

 

私の申し出に、詠春は驚いた顔をしていました。まさか自分を殺そうとした相手がそんな事を言うとは思っていなかったのでしょう。

しばらく考えていたようですが、顔だけ上げて私の方を見ました。

 

「……どうか元気で、と。そして、私のことは身から出た錆だ、と」

 

娘には、あまり背負わせたくないのでしょうね。

 

「そしてアカネさん。ひとつだけ、お願いしたいことがあります」

「うかがいましょう」

 

詠春は傷ついた体にも関わらず姿勢を正すと、頭を下げて土下座してきました。

 

「あの村で、戦いに関係のない人々の命を多く奪ってしまいました。直接殺したわけではありませんが、その責任を逃れることはできません。詫びる言葉もありません」

 

ですが、と彼は続けました。

「どうか、木乃香は……娘は殺さないでください。私はもう、逃げることも抵抗することもできません。私の命を奪っても、娘の命は、どうか」

 

娘に、罪はありません。

 

彼の言葉には娘を想う気持ちが込められているのが、よく分かりました。

もちろん、言われなくともそのつもりはありません。遺言を預かりましたし。

子に罪はない。私だって、わかっています。

 

「約束します」

「ありがとう、ございます」

 

詠春は目を閉じ、私はぎゅっと握り締めた鎌を振り上げた。

彼はもうこっちを見ていない。だけど。どこかおだやかな顔をしていました。もう、未練はないとでも言うように。

……いえ、娘を心配していましたし、協会だってあります。何かしら思うことはあるでしょう。

 

「あなたの魂が、逝くべき場所へ導かれますように」

 

それでも、私は――

 

 

 

 

 

 

 

しずなに連絡して、アーティファクトは解除してもらいました。

彼女をあまり近くに長時間いさせるわけにもいきませんし。

空間がもとに戻されたあと、扉からは次々に人が入ってきました。そのほとんどが、同じ年頃の女の子。一人混ざっている子供は英雄の息子ですね。

 

一人気絶しているようでしたが、おそらく彼女にマケイヌが憑いていたのでしょう。彼はアーティファクトが解除された時点で去っています。そういう段取りでしたから。

 

もっとも、本当は私も去っている予定だったんですけどね。

ですがあえて、残りました。姿だけ隠して。

 

「お父様! お父様ァァ……!」

 

父親のもとへ泣きながらかけよる娘さんを、私は正視することができませんでした。目をそらしたまま、彼女の泣き声を聞くだけです。

 

「うっ、うっ……うあああああん……ひぐっ、えぐっ、お父様……返事してぇや、お父様……ううぅ……」

 

父親の体を泣きながらゆする娘さん。ですが返ってくる言葉はありません。彼はもう、二度と目を覚まさないのですから。

 

「あなたに、遺言を預かっています」

 

姿を見せた私に、一気に視線が集中します。特にエヴァンジェリンの視線は苦悶と怒りに満ちていました。現時点で唯一、彼女だけが全てを悟ったのでしょう。

 

「どうか元気で、と。それから、彼の死は身から出た錆だ、とも」

 

その言葉に、娘さんからの視線が厳しくなった。

 

「どういうことなん」

「言葉通りです。未練を晴らすために、私は詠春に復讐をした。私が、憎いですか?」

「当然やっ!! なんでや、なんでお父様を殺したんや! お父様には、なんの、罪もあらへんのに……」

 

“彼らのせいで、私は殺された。村のみんなも殺された、何もかも失った”

 

その事実をぶちまけるのも、激情を叩きつけるのも簡単なことです。ですが、私はそうしませんでした。ただ、一言遺言を繰り返すだけ。

 

「身から出た錆だ。そう、詠春は自分で言っていましたよ」

「復讐、したる……ウチは、絶対忘れへん。今日のことを、アンタのことを! 絶対に、絶対に復讐したる!!」

 

怒りに顔を歪ませて、泣き叫ぶ詠春の娘。

その後ろに、いなかったはずの女の子がもうひとり見えました。彼女と同じように怒りと悲しみを目に宿した、泣き叫ぶ女の子。

その女の子を、私はよく知っていました。見間違えるはずのない顔でした。

 

「そうですか。あなたの言葉は、理解できます」

 

あぁ、そうか。

 

 

 

 

 

彼女の後ろにいたのは、私だ。

 

 

 

 

 

彼女は、私なんです。

大切な人を殺されて、絶望と苦しみに苛まれながら復讐を誓った私と同じなんです。

私と同じく、復讐を胸に宿した彼女をじっと見つめました。

 

「私の名前は、アカネといいます。私に復讐をするというのなら、覚えておいてください」

 

謝りはしない。

彼女の父親を殺したのも、私の復讐なのですから。

 

「ま、待て!」

 

ようやく我にかえった他の女の子には返事をせず、私は転移でその場を後にしました。

 




この作品において、木乃香は言わば「もう一人のアカネ」です。
父親を殺された彼女は、これから復讐のためアカネを追い始めます。ネギに協力するのは原作通りですが、それでも考えなどが変わってきます。

この作品でもっとも原作乖離するキャラは近衛木乃香である、とも言えるでしょう。
もうあのほんわかこのちゃんはいません。ご了承を。

次回にエピローグを入れて修学旅行編は終了です。




そして、次回ですが。
焦らすようで申し訳ありませんが、学園祭編の予告(セリフオンリー)で入れようと思っています。
ある程度の流れは決まっていますので。

ではまた次話でお会いしましょう。


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