死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
今回は最後に、オマケつき。
今回で京都編は終了です。
Side 刹那
あの日から、雨がずっと降っている。
私やお嬢様、そしてネギ先生と明日菜さん、エヴァンジェリンさんの五名は新田先生をはじめとする、先生方に無理を言って京都にもうニ、三日滞在することになった。
長……いや、詠春様の葬儀に、出席するためだ。
アカネと名乗った女が消えたあとのこと。
私はすぐに式神を使い、関西呪術協会に詠春様が亡くなったことを知らせた。
その後はもう大騒ぎだ。ただでさえ協会への襲撃で揺らいでいた中に長の死。騒ぎにならないわけがない。
ネギ先生たちが一緒にいたのも問題だった。関東と関西は仲が悪い。
詠春様をはじめとする一部は融和を唱えてはいたが、関東をよく思っていないものの方が多い。そもそもの話をすれば、襲撃の主犯であった天ケ崎の動機だって関東、しいては西洋魔法使いへの恨みなのだ。
私たちは除け者にされたまま、協会ではこれからのことについて話し合いがもたれた。
除け者という言い方は言いすぎかもしれない。ネギ先生達は事実よそ者なのだ。
協会の関係者と言えるのは私とお嬢様。そして私は、お嬢様の護衛に過ぎない。重鎮たちが協会のこれからを話し合っている中に、入れるはずもなかった。
唯一参加できそうなお嬢様が参加することもなかった。
「お父様が亡くなられた今、心を落ち着ける時間が必要でしょう」という建前上、お嬢様抜きで話し合いは進められたのだ。
でも、私は参加しなくてよかったと思う。
「許さへん……絶対に」
今のお嬢様は、アカネへの復讐に心を燃やしていた。
詠春様がいなくなったことに喜んだ重鎮もいる。そんな人間の前に、お嬢様がいくのは辛いなんてものではないだろう。余計に心の負担をかけるだけだ。
だからこそ、憤りを隠せなかった。
「お嬢様を次の長にすえる」という報告には。
この報告を聞いて、お嬢様は黙り込んだ。表情すら消えた。
私は心の中で半狂乱になりながら言葉をかけたが、何といったのかもう覚えていない。たいしたことも言えていなかったのだろうと今は思っている。
しばらく黙り込んだあと、お嬢様はいきなり立ち上がると重鎮たちが食事をする場へ乗り込んでいった。あれには驚いた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいお嬢様!」
「ウチな、言わなあかんことあるんよ。邪魔せんといて、せっちゃん」
その口調は、今までよりもずっと固く。
私は、お嬢様に距離すら感じてしまった。だからといって、私はお嬢様のそばから離れる気などさらさらないが。
一気に扉を開いたお嬢様に、重鎮たちは皆ぽかんとしていた。
一人が笑いながらそっと追い出そうとしたが
「邪魔や」
たった、一言。
たった一言で、その場を黙らせてしまった。
「ウチを、次の長にするゆうたな」
「え、えぇ。ワシらが話しおうた末、お嬢様にお願いしよかっちゅう話に」
「ほんまに、ええんやな?」
いったい、お嬢様を何を言い出すつもりなのか。
それは、私だけじゃない。その場にいた全員が思っていたことだと思う。
「ウチは先日、お父様を殺された。殺したんは、アカネっちゅう女の人や。なんでアカネがお父様を殺したんか、その理由はまだはっきりとはわからへんのよ」
だから、と彼女は口を開く。
「ウチを長にする言うんやったら。協会の人らには、アカネを見つけ出すために働いてもらうえ。ウチは彼女に復讐したるんや。そのために皆はんがウチを長にして支えてくれはるって言うんなら、よろこんで使わせてもらうわ」
お嬢様を長にすえたのは、おそらくお飾りにして実質重鎮で舵を取れるようにしようという思惑があったのだろう。お嬢様は今まで運営に関わっていない。だからかわりにやろう、という建前まで考えたのだろう。
だけど、重鎮たちは見誤っていた。お嬢様の、復讐への熱意を。執念を。
お嬢様は、重鎮たちの狙いをひっくり返してしまったのだ。
重鎮たちが舵をとるために与えられた長という役職を、むしろ利用すると宣言したのだ。
「お嬢様、いくらなんでもそれはいきなりやわ。まだ落ち着いたほうがええで、ほら、はよ部屋へ」
「ウチに長をさせるっちゅうんは、そういうことやで? 新しい長になるなら、まずやらなあかんのは前の長を殺した奴への報復いうんはそんなにおかしいんやろか? なぁ? せっちゃん」
こ、こっちを見んといてください……。私は切実にそう思った。
こわい。このちゃんがこわい。
あの時ほど、恐怖を感じたことはなかった。どんな敵を前にした時よりも。アカネを前にした時よりも。
「ウチは嬉しいえ。そないにウチのために働こう思うてくれるなんてなあ。ん? みんなどないしたんよ、そないな顔して? 嫌なん? ちゃうやろ? だってウチを長にしよう言うんやから」
次々に言葉を叩きつける。
重鎮たちが黙り込んだのを確認して、それまで笑顔で話し続けていたお嬢様は急に表情を消した。長にされることを聞いたあの時のように。
「嫌ならウチにおしつけんなや。ウチの気持ちは変わらへん。ウチを長にするいうんならその立場からでも復讐を成すために協会を使うで? けど、協会を巻き込むないうならそっちかてウチを巻き込むな。ウチに対して干渉しないんやったら、ウチかて協会を使おうなんて思わんよ。もう嫌なんやろ? 関東や西洋魔法使いに関わるの」
お嬢様が追う相手は、アーティファクトを使用していた。間違いなく西洋魔法使いに類する者だ。その相手が詠春様に対して「復讐」を唱えたのは、まず間違いなく魔法世界に関することだろう。
協会があのアカネという女を追うならば、関東や魔法世界と関わることは避けられない。それは協会にとって最悪の出来事の再来だ。以前魔法世界の戦争に駆り出されて戻ってこなかった同胞は数しれないのだから。
そんなことになるならばと、彼らはお嬢様を長に迎えないことに決めた。
同時に、お嬢様と私は関西からは離れ、再び麻帆良に戻ることも重ねて決定した。
葬儀の時間を迎えると、先程までの無表情なお嬢様はいなかった。
ボロボロと涙を流し、父親を喪った悲しみを嘆くお嬢様がそこにいた。
……お嬢様の涙なんて見たくなかった。でも、防ぐことはできなかった。
私がもっと強ければ。エヴァンジェリンさんの代わりに相手を止めることができれば。
最悪の事態は避けられたかもしれないというのに。
悔しい。自分の無力さがこんなにも……悔しくてたまらない……。
Side 明日菜
木乃香はずっと泣いていた。私はせめて慰めてあげたかったんだけど、なにを言えばいいかわからなかった。
何を言っても、木乃香を悲しませるだけのような気がして……。
ネギも、私と同じみたい。
もっとも、アイツはアイツで夕映ちゃんを操っていたナニカに言われたことが気になっていたようで、変なこと言っちゃいそうだから止めておいた。
でも、桜咲さんが木乃香にはついてる。二人にして任せておいたほうがいいと思う。
……木乃香のお父さんが殺された、あの後。
私はエヴァちゃんに掴みかかった。
なんで止めなかったのかと。なぜ相手に手出ししなかったのかと。
正直、あの時はなにか事情があるんだろうって心のどこかで分かってはいた。でも、私は感情的になって言わずにはいられなかったのよ。
「お前たちには話せない。話すこと自体ができないんだよ。お前達相手でも誰でもだ」
もちろん、納得なんてできなかった。
でも話は終わりだとばかりに突き放され、何も言えず。
知ってるのなら教えて欲しいと思った。でも、あの何かをこらえるような表情を見せられたらそれ以上追求できるわけないじゃない。
むしろ、エヴァちゃんってすごい魔法使いのはずなのに、その彼女にあんな表情をさせる人物が相手だということが怖かった。
だけど。
アカネ、そして夕映ちゃんの中にいたナニカ。
あの声はどこかで聞いたことがあるような気がしたんだけど……。
……何か、忘れている気がする。
とても悲しいことを。
とても懐かしいことを。
今回の事件と関わりがある、何かを忘れているようでたまらない。
だって……私は、あのアカネという人と、会ったことがある。
心のどこかで、そんな気がしてならなかった。
Side アカネ
あの日から、ずっと雨が降っています。
空もどんよりと曇っており、まるで空が泣いているようです。
『心の整理は、ついたか? しずなにはもう伝えてある。俺たちは次に向かうぜ』
犬の姿をしたマケイヌと、巫女姿の私の前に、見慣れた扉が開きました。
これで二人。私は人の命を奪いました。
全ては、愛する人たちのもとに逝くため。でも、まだその時は遠い。
雨は当分、止みそうにもありません。
次章予告
『似合ってるぜー。そのメイド服』
「貴様ァァァァァァァァ!!」
「覚えてないかな? ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグと一緒にいた、タカミチ・T・高畑だ」
「ダメ、ガトーさん。いなくなっちゃやだ……!」
「我が友人。ガトウを、詠春を殺した、アカネ……ですね?」
「これが……マケイヌの、願い?」
「この正義の使徒、高音・D・グッドマンが成敗して差し上げます!」
『偽善者が』
「あなたは眼中にありませんよ。私の憎しみは、悲しみは、あなたが生まれる前からずっと続いているんですからね」
「ナギ。あの時私たちが間違えなかったら、こうはならなかったのでしょうね」
『これが……嬢ちゃんの、未練の根幹だ』
「嘘だ……嘘だ。嘘だあああああああアアアアアアァァァァァァァッッッ!!」
次章
Ⅵ アルビレオ・イマ