死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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それでは第2章、始まります。


Ⅱ ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ
第4話 扉をくぐれば森の中


Side アカネ

 

扉をくぐると、そこは森の中でした。

辺り一面、木々が生い茂り、人の姿、どころか生物すら見当たりません。

一体ここはどこなのですかね?

 

「困ったなぁ……」

 

こんな森の中に放り出されても、これからどうすればいいのやら。

案内人、ホントに来るのでしょうか?

 

あと、気がついたのですが私の服装がいつのまにか変わっていました。

死神の黒い衣は消え、白いワンピースという普通の女の子の服装です。

ち、ちょっとカワイイ……。

 

「アン、アン」

「……犬、ですか? こんなところに」

 

そんなとき、ひょっこり姿を見せたのは黒い犬でした。

私を見つけると、尻尾を振って私の方に近づいてきました。

私、動物わりと好きなんですよね。

 

「よしよし、おいで……」

『よう、やっと見つけたぜ。その格好も似合ってるな』

 

あれ、今の声は?

確か、あの彫刻の声ですよね。見渡す限り、どこにも彫刻なんてないんですが。

空耳ですかね?

 

『ここだ、ここ』

「まさか……」

『おうよ。今はこの犬の姿になってる。さすがに彫刻がついてくるわけにもいかんだろ。

もっとも、この体は作りものにすぎないんだけどな』

 

わざわざ体を作ってここにいるということですが……犬ですか。

犬に話しかけられるというのは、なんだか不思議な気分なのですがね。

ヘッヘッと舌を出し、尻尾を振っているその姿は一見しただけではどこからどう見てもただの犬です。

 

『まぁ、ケルベロスって犬だし?』

 

そういうものなんですかね?

あ、そうでした。聞かなきゃいけないことがありましたね。

 

「そういえば、あなたは……何と呼べばいいのですか?」

 

私はこれから“アカネ”と名乗ることにしましたが……

案内人となるこの人(いや、今は犬ですね)の名前を知らなかったのです。

しばらく長い付き合いになるでしょうから、やはり知っておかないと。

 

『あー、そうだな。一応ケルベロス、ってのが正しい気もするがまぁ俺はしょせん端末だからな。俺だけの名前を決めたっていいだろ。好きに呼んでくれて構わねーよ』

 

そうですか、それじゃあどんな呼び方がいいのでしょう。

うーん……ケルベロスとは言いますが、犬ですし……。

そうですね……じゃあ……

 

 

 

 

「……マケイヌで」

『うおおいっ!? そりゃねえだろう!?』

 

うん、決定です。

 

 

 

 

 

 

 

Side マケイヌ

 

マジかよ……↑公式に「マケイヌ」で決まっちまったよ俺の名前。

せめてこう……ポチとかコロとか、そんなのならまだ良かったんだが、マケイヌって。

まぁ、せっかく嬢ちゃんからもらった名前だ。嬢ちゃんの案内人を務める間は、それでいこうか。どこかふに落ちない部分もあるが。

 

「わがまま言わないでください」

『言ってねぇよぉ……』

 

思いはしたが。

いいじゃないか、思うぐらいはさ。もうマケイヌでいいから。

……さて、こんなことよりも今は嬢ちゃんのことだ。

 

「マケイヌ、さっきのあの黒いローブはどこにいったんですか? 確かに服装が変わるとは言っていましたが……私は、死神の鎌(デスサイズ)を得て死神になったのでしょう?」

『厳密には違うな。嬢ちゃん自身が死神になったらずっとあの姿のままさ。嬢ちゃんは死神になったんじゃなく、その力を借りているにすぎない。確かに死神の力を借りて戦闘力を得てはいるが……所詮は借りものさ』

 

嬢ちゃんの未練がなくなったときには、嬢ちゃんは死神の力を持つことなく逝くことになる。復讐さえ終われば、嬢ちゃんには必要のない力だから。

 

それからも、俺はここに来るためにくぐった扉のことも合わせ、説明を続ける。

扉をくぐった先の時間、場所、服装は嬢ちゃんの復讐、またはそれに関連する目的に合わせて変化する。

どう応じて変化しているかってのはちゃんと俺が理解しているからな。

 

あとは、死神の鎌の出し方も教えとかないと。

嬢ちゃんの「黒いローブはどこ?」の答えでもあるしな。

 

『んで、死神の鎌についてだが……嬢ちゃん、手を地面にかざしてみな』

「は、はい。こうですか……うわっ!?」

 

手のひらを下に向け、手を前に出した時……突然スッと紅の柄が地面から嬢ちゃんの手の方へ伸びてきた。言うまでもなく、死神の鎌の柄だが……突然伸びてきたので嬢ちゃんはびっくりしたみたいだ。

 

いやしかし、胸に手をあててはぁはぁ言うのはさすがにびっくりしすぎだと思うぜ?

そもそも嬢ちゃん、死んでるから胸の鼓動ないんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

び、びっくりした……。不意打ちにもほどがあります。

心臓に悪い……と言うのは死んでいるのでいささか不適切な表現かもしれませんが。

あくまで比喩的表現ですよ、比喩的な。

さて、地面から急に伸びてきた見覚えのあるこの紅の柄。

……これをつかんで、引き抜けということですかね?

 

『死神の鎌を持つと、前みたいに黒い衣が嬢ちゃんの身に纏わりつく。

さぁ、その柄をつかんで引っ張るだけだ』

 

つかんだ柄はどこか冷たい感触がして、しっとりと手になじんでいます。

そのまま絵の先が円を描くように回転させて持ち上げると、黒い刃が柄に引きずられるようにして地面からその姿を見せました。

確かに重量は感じますが、そこまで重いとも感じません。

そして、マケイヌの言うとおり死神の鎌を持った瞬間黒い影が私の身を覆い、黒いローブへと変わりました。少しボロボロな雰囲気のある、死神の衣に。

 

「なるほど、これなら常にあんな大きな鎌を持ち歩く必要はなく、戦いのときにはどこでも出せると言うわけですか。マケイヌ、戻すときにはどうすればいいのですか?」

『あ、ただ地面に落とすだけでいいぞ』

 

言われたとおり、手を放すと鎌はとぷん、とまるで水の中へ沈むように地面の中、というか影の中へと消えました。

うわ、本当に便利……。

ちなみに、戦いではたき落され時にも沈んでしまうのかな?と思ってマケイヌに聞いてみたところ、基本的に今のような現象は起きますが、またすぐに手元に出すことができるそうです。

しかし裏を返せば、空中戦はあまりお勧めできないということですね。

もっとも、私浮いたりできるのか知りませんが。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ今のは!」

「お前何者だ!? さては悪魔か!」

 

 

 

 

 

 

 

「?」

 

突然、声がしたかと思うとローブ姿の人間が私を取り囲んでいました。

ローブ姿……先ほどの「悪魔」発言と言い、十中八九魔法使いですね。

数は一人、二人……七人、ですか。

誰もかれもが杖などを構え、私をいまいましげに睨んでいます。

……しかし、なぜそんな目で見られるのか、身に覚えがないのですが。

 

<あいつらは……嬢ちゃんのことを警戒してんのさ>

 

念話……マケイヌですか。

しかし、警戒しているとは? どういうことでしょう?

 

<あいつらはある人物を追ってる、“自称”正義の魔法使い共さ。相手を追ってるところで突然、人がいないはずの森で女の子が黒い衣を纏ったり元の服装に戻ったり、なんてのを見たらそりゃあ警戒はする>

 

なるほど、道理です。

しかし、マケイヌの言った“自称”と言うのが引っ掛かりますね……。

 

<バカなんだよ。元老院っていうお偉いさんの言うことに振り回され、正義のためなら何をしても許されるなんて考えてる勝手なやつら>

 

そ、それはどういう……

マケイヌに返事を求めるより先に、事態は動きました。

 

「炎の精霊16柱、集い来りて敵を討て!」

 

この詠唱は「魔法の射手」!?

え、え? いきなり攻撃ってどういうことですか?

と、とりあえず鎌をもう一度……

 

<その心配はいらんよ、嬢ちゃん。わかっているだろうが、今の嬢ちゃんは体があり他人に見えるとはいえれっきとした死者だ。つまり、自分から触れようとしない限り……>

「魔法の射手!」

 

突然のマケイヌの言葉に、出しかけた手を止める私。

そして、何本もの魔法の矢が私のほうに飛んできて……

 

 

 

 

 

 

 

<魔法とか攻撃とかは、嬢ちゃんをすり抜けてしまうのさ>

 

 

 

 

 

 

 

言葉の通り、全部私の体をすり抜けました。

当たっているのは感じるけれど、感じるだけで痛くはない……。実に不思議な気分です。

 

「ば、バカな!?」

「無傷だと!?」

 

慌てだし、ますます私への疑念をむき出しにする“自称”正義の魔法使い達。

ようやく、マケイヌの言った意味がわかりましたよ。

 

この人たちは、突然現れた私という存在に驚いていた。

それだけならまだいいんです。当然の反応ですし。

ですが、その後。彼らは私に向かっていきなり攻撃を放ってきました。いくら突然黒い衣を纏ったりしたからとはいえ、普通は私が何者かまず確認すべきだと思いませんか?

 

そうでないから良かったものの、私が身を守ることは出来なかったら?

 

そんなこと、彼らは考えもしなかった。

「怪しい、だから攻撃する」……彼らの感覚でしか物事を判断していないから。

 

「このバケモノめ……」

「魔族? それとも真祖の吸血鬼か!?」

 

あぁ、もう……うるさい。私が人間、もしくは幽霊という考えはナシですか。

なんか、急に私を殺した魔法使いを思い出しました。

笑いながら魔法を放った、あの赤毛の少年。

 

魔法……昔お母様が使うのを見たときにはあんなに憧れたのに、今となってはそれは価値のないものに、それどころか嫌悪感すら感じさせるものになってしまいました。

お母様は生活の用途で使って見せましたが、彼は人殺しに使った。

いえ、お母様だって、おそらく村を守るときには迎撃に使ったでしょう。

 

魔法には人を傷つけ、時には殺す裏の顔もある。

その裏の顔が、今の私にはあまりに大きくはっきりと見えてしまうのです。

 

「くそ、こいつは危険に違いない。どうする?」

「ええい、とっとと終わらせるぞ!」

 

とっとと、終わらせる?

 

魔法使い達は、私へと再び杖を向けていました。

彼らの中では完全に、私は害悪であるようです。

少なくとも、私には彼らへの敵対心なんて最初は全くと言っていいほどなかったのに。

 

あなた達は

 

なんの確認もしようとせず、

 

自分の考えだけで、

 

相手を攻撃することに何も思わないのですか……?

 

彼らがあの少年と重なって見えた私は、

気がつけば何かをつかむように手を前に出していて……。

 


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