死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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第5話 家なき娘は復讐を胸に

その時、私は半ば無意識でした。

気がつけば何かをつかむように手を前に出していて……いえ、はぐらかすのは止めましょう。

私は……手を出しかけたのです。死神の鎌に。

なぜか? それは……言わなくても構わないでしょう。

私は……殺そうとしたのでしょうね。彼らを。

 

ですが、私が鎌をつかむことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドド!!

 

 

 

 

 

 

 

突然、魔法使い達が吹き飛ばされたからです。

まるで横から何かが殴りこんだように。しかし、一体何が起こったのでしょう?

 

「大丈夫かい? お嬢ちゃん」

「はぁ……まぁ……」

 

突然現れた、男の人。朗らかに話しかけてきましたが、どうやらこの人の仕業のようです。

スーツ姿でメガネをかけた、シブい魅力を放つオジサンです。

ダンディ系の男性が好きなタイプから見れば、ストライクど真ん中でしょうね。

 

「師匠、この人達は……」

「おそらく、追手だろうな……。ちくしょう、もうここまで追い付かれたか。

だいたい、情報が早すぎる……」

 

オジサン、そして彼の後ろから現れたオジサンを「師匠」と呼ぶこの青年の会話からして、どうやらこの人たちは追われていたようですね。

追っていたのはこの“自称”正義の魔法使い……追われる理由は知りませんが、ひょっとすると言いがかりの理由かもしれません。

先ほどの魔法使い達の言動を見るに、むしろそうだと思えるのがなんとも……。

 

「とりあえず、ここから移動しよう。話はそれからだ」

 

オジサンの言葉に従い、青年と私は彼の後に続きます。

また不審に思われてはたまらないので、今はまだ素直な女の子のふりをする。

今は……ね。

 

後ろを振り返れば、いまだ倒れ伏している7人の魔法使い。

あの時、確かに私は殺す気だった……。今から思いだすと、ぞっとしますね。

だけど、私はこれから先、人を殺さなくてはならない。復讐のために。

 

そんな泣きごと、言ってはいられないのも確かですが。

 

さて……この人たち、何か知っているでしょうか?

私が追っている人達について……。

 

 

 

 

 

 

 

Side ガトウ

 

まずいな……。もうここまで追手が来ているとは。

しかし、どうしてあいつらはこの女の子を取り囲んでいたんだ?

魔法の射手も見えたが、まさか彼女を攻撃したんじゃないだろうな?

巻き込まれたなら、彼女をこれ以上かかわらせるわけにはいかない。

 

「お嬢ちゃん、ここは危険だ。早く家に帰った方がいい」

「……ません」

 

ん? 何か言ったようだが、よく聞こえなかった。

 

「……帰る家など、ありません。それに、この森でやらねばならないこともあるんです」

「…………」

 

家がない、か。おそらく戦災孤児……または、オスティア難民か。

いずれにせよ、戦争の被害者なのだろうが……なぜ一人なのだろう。

一人でいるなら、生きることも大変で、辛かっただろうに……この少女はまっすぐな目をしていた。不安ではなく、何か確固たる目的を持っているような。

 

「そう、か」

 

ならば……せめて近くの町には送り届けてあげた方がいいかもしれないな。

とりあえず、自己紹介でもしておくか。

 

「俺はガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグだ。そこにいるのがタカミチ。あと……アスナ、こっちにおいで」

 

ガサガサ……と茂みが揺れて、ひとりの女の子が出てきた。

無気力な目をした彼女は……“黄昏の姫御子”、アスナ姫。その力はかつて兵器としても利用され、そもそも今俺達が追われているのも十中八九彼女が目的だろう。

 

「…………」

 

長いツインテールを垂らして、アスナは無言のまま俺を見た。

あー、はいはい。状況を説明しろとな。

最近、視線だけで言いたいことがわかるようになったのを喜ぶべきが、依然としてしゃべって何かを頼むことがないのを嘆くべきか……。

 

「アスナ、どうやらもう追手が迫っているらしい。んで、その追手がそこのお嬢ちゃんに攻撃しようとしたのか囲んでいたのを助けて、ここに連れてきたってわけだ。オーケー?」

「ん」

 

グッ、と親指を立てるアスナ。

そして、今度はあのお嬢ちゃんをじーっと見つめ出した。

どうやら、今度はお嬢ちゃん自身が何者か知りたいようだ。……正直、俺も気になるな。

視線の意味することが分かったのか、彼女は微笑を浮かべ口を開いた。

 

「私はアカネと言います。この子はマケイヌ」

 

指さした彼女の足元には、一匹の犬がいた。

うわー、お嬢ちゃん……。それはないわ。

不憫な名前をつけられたその犬にはなぜか同情がわく。

 

「助けてくれたことにはお礼を言います……。ですが、先ほども言った通り私にはここでやることがあるんです。だから……失礼します」

「おいおい、アカネは家がないんだろう? よければ、せめて近くの町まででも俺達と一緒に来ないかい?」

「いえ、身を守る術はありますので……では」

 

きっぱりとした口調で俺の申し出を断ると、アカネは俺達に背を向けてどこかへと去っていった。やれやれ、どうしてもというなら仕方がない、か。

 

「いいんですか? 師匠?」

「身を守る術があるってなら……まぁ、いいか? あんまりかかわるのもどうかと思ってよ。タカミチ、そっとしといてやろう。あの魔法使い達は俺達の方に来るだろうし」

 

しかし、なんだったんだろう? 俺がアスナと話している間に、わずかに見せたアカネの表情の変化は……?

 

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

ガトウがアスナと話していた時のことです。

 

<嬢ちゃん……何か理由をつけて、こいつらから離れろ>

 

マケイヌから……わざわざ念話を使って、そう言われました。

いつになく声に真剣さが混じっていたので、不思議には思いましたが「やることがある」とガトウ達から離れました。

 

そして、しばらく距離を取った後。私はもう一度マケイヌに尋ねました。

一体、何の考えがあったのかと。

マケイヌはどうしてあんなことを言ったのでしょうか?

 

『よく聞いてくれ、嬢ちゃん』

「はい、何でしょう?」

 

地面に座って木に寄りかかり、少しでもマケイヌと目線を合わせようとして……。

そして、私は真実を知らされました。

 

 

 

 

 

 

 

『あの、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグってやつ……アイツは、“紅き翼”の一人だ』

 

 

 

 

 

 

 

一瞬で思考が止まるほどの、爆弾のような真実を。

頭が真っ白になりました。

え、なに? 私を助けた優しさのあるあの人が……“紅き翼”?

私の村の、仇?

 

「それは……本当、なんですか?」

『あぁ。どうする? すぐにでも、殺しに行くのかい?』

 

殺しに……ですか。やはり重い言葉ですね。

しかし、それこそが私の復讐であり、目的です。それを忘れてはいけない。

だから泣きごとなんて言っていられません。私はもう、覚悟を決めたはずなのですから。

 

「ん?」

 

ふと耳をすませてみると、離れたところから複数の声が聞こえました。

つい最近、聞いたような声が。

 

「ヴァンデンバーグたちは近くにいるみたいだ」

「あの小娘も気になるが……まずはこっちだ」

「元老院の話じゃ、あいつらは強力な力を持つ娘を連れて逃げてるって話だぞ?」

「危険なんじゃないか?」

 

……そうだ、私を囲んだあの魔法使い達。目を覚ましたようですね……。

ガトウが「追手」と言っていたのは間違いではなかったようです。

 

『あいつらもガトウ狙いか。どうする? 嬢ちゃん』

「…………」

 

どうやら。

少し、やることが増えたようです。

 

 

 

 

 

 

 

「夜中に攻めるぞ」

「わかった、援護は頼む」

 

だいぶ暗くなった頃、彼らはこっそりと襲撃の準備をしていた。

元老院の命令によって、ガトウが連れて逃げている少女を“保護”し、ガトウ達は場合によっては殺せとまで言われている。

詳細までは知らされてはいないが、彼らにとってそれはどうでもいいこと。

“立派な魔法使い”の称号が約束されているから、名誉を得ることができれば。

それだけ、考えていた。

 

『で、俺もやっていいんだな? 嬢ちゃん』

「な、なんだ!?」

 

突然の声。

驚いた魔法使い達の目の前に現れたのは、はるかに大きな獣の影。

 

「な!?」

「悪魔か!?」

「いいえ、ケルベロスですよ」

 

狼狽する魔法使いの後ろに、いつのまにかいた黒い影。

仮面をつけ、手には大きな鎌を持ったその姿はまるで死神。

 

「そっちは任せましたよ、マケイヌ」

『了解、っと』

 

言うが早いか、獣の影はそばにいる魔法使いに向けて牙をむく。

魔法を使われて騒ぎになるより早く、次々に魔法使い達を餌食にしていく。

もっとも、手足だけで済み、出血がひどくても命は助かったのがせめてもの救いか。

 

「ひ、いいいいい!?」

 

残された魔法使いは恐怖でがむしゃらに魔法を放とうとするが、それは叶わなかった。

なぜなら、その横で大きな鎌を振り上げている影があったのだから。

 

「私を忘れてはいけませんよ?」

「ああああああっ!」

 

体を切りつけられ、残った魔法使い達も膝をつく。

痛みにあえぐ魔法使い達に、影……アカネは侮蔑を込めて見つめていた。

 

「あなた達は自分の考え方だけで、自分の為にしか考えていない。

私が言えたことでもないですが……それで人を簡単に傷つけて偉いはずがないでしょう」

 

アカネは、マケイヌから彼らが“立派な魔法使い”とか言うものを目指していることを聞いた。しかし、正義を振りかざす彼らがとてもそんな栄誉があるようなものとは思えなかった。

 

「せいぜい痛みにあえぐことですね。人を傷つけることがどういうことか、よくわかったでしょう。そして……」

 

ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグは私の相手です。

 

ローブをひるがえすと、アカネはゆっくり歩いて行く。

その後ろを、獣の姿からもとの小さな犬の姿になったマケイヌがとことこついて行く。

 

『じゃ、どうする?』

「そうですね……」

 

いよいよです。

 

「払暁奇襲で行きましょう。暗闇に紛れて逃げられることは無いでしょうし、朝だと油断しているでしょうから」

 

明朝。

夜が明けたら、私は……人の命を、奪う。

復讐のために。

 




side形式が気に入らないというご指摘をいただきました。
第2章までは都合上どうにもできませんが、第3章からなら検討しようかと思います。

よければ、皆さんの意見を聞かせてください。
お待ちしております。

もちろん、他の感想、ご指摘も大歓迎です
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