死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~   作:ウージの使い

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お待たせいたしました。
ついに、一人目です。


第7話 一人目

Side アカネ

 

「連合側と帝国側とでの、ある大きな戦争のさ中の話です」

 

最初鎌を振りおろしたあのときは、彼をすぐに殺すことを考えていました。

しかし、途中で気が変わったのです。

ただ殺すのは、何の意味もないのではないのか、そう考えたからです。

 

あなた達が、何をしたのか。

私達が、何を失ったのか。

それを自覚させずに殺すのは、復讐にもなっていないと思ったのです。

相手だって自分がなぜ殺されるのか知りたいでしょう。私がそうだったように。

だから、私は全てを話すことにしました。

 

当然、その後は……

 

 

 

 

 

 

 

Side ガトウ

 

「ヘラス帝国とメガロメセンブリア連合の境目あたりの地域、その辺境にある村がありました。のどかな村です。戦争を憂い、戦争から逃れた人々が集まったこの村では外での戦争が嘘のように、平和な生活がありました。……あの日までは」

 

淡々と語りだしたアカネ。おそらく、その村というのはアカネがいた村だろう。

戦災孤児かという俺の考えは当たっていたということか?

しかし、なんだ? 何か、引っ掛かるものがある……。

もっとも、今の俺には、痛みをこらえた話を聞くことくらいしかできない。

だから俺は話に耳を傾けていた。

 

「あの日、メガロメセンブリア軍が村に攻め入ってきました。突然の襲撃に一部の人々が防衛にあたり、他の村人は避難しようとしました。そこへ、連合側として現れたのが……あなた達、紅き翼です」

 

やはり、戦災孤児か。

しかも俺達が直接かかわった戦闘によって……いや、ちょっと待て。

彼女は話を始める前にこういったな?

 

『ある戦争の中で家族を失い、故郷を失い、命を失って……地上に取り残された、一人の少女の物語を』

 

この少女というのがアカネを指すのなら……おかしくないか?

“命を失って”? ということは、目の前の彼女はすでに死んでいる……?

頭の中が混乱する中、彼女の話は続く。

 

「あなた達によって避難も防衛も阻まれ、村は破壊され、村のみんなは殺されました。

ひとり残らず、みんな。あなた達が、死なせた」

 

……全員、死んだ?

待てよ待てよ、それはまさか……。

 

――国境の、辺境の村。

 

――戦争から逃れようとした人々の村。

 

――俺達が介入し、全員が死んだ村。

 

――目の前の少女、“アカネ”が語る村。

 

 

なんで、もっと早くに気がつかなかったのか。

いや、気づくべきだった。

村人が全員軍に殺された、俺達がかかわった戦闘でそんなことがあったのはあの時だけだ。

アカネという名で、なぜすぐに思いだせなかったのか……!

 

「アンタの言う村ってのは、アカネ村か……!」

「はい。その通りです」

 

なんてことだ……。

アカネ村。それは、メガロメセンブリア元老院の指令によって俺達が軍と共に戦闘行為を行った村だ。

「自国の人間と帝国の人間が何やら共に活動しており、どうやら結界が張られた基地らしき場所まである」とのことだった。

スパイ活動の拠点という疑惑、特に「完全なる世界」の拠点かもしれないという考えから、戦闘好きのナギやジャックはともかく、アルやゼクトも戦いに参加していった。

 

「そして。当然、私もその時に死にました。赤い髪の少年の雷魔法で」

「な、ナギが君を!? そんなバカな!」

「事実です」

 

そんなバカな……戦闘行為は行った。確かにそうだが、それは防衛にかかわった相手にだけ、もしくは結界の破壊にだけだ。村人を殺したのはメガロメセンブリア軍であってこの少女が防衛に加わっていたとは思えない。

なら、ナギは……非戦闘者である村人すら、手にかけたということになる。

 

「死んだ私は、冥界にいました。しかし私は、“あの世”というものには逝くことができなかったのです。どうやら、村を滅ぼされ、皆を殺された未練が私を縛り付けているようで。未練を断ち切る方法は、一つ」

「……復讐、か」

「察しがいいですね。その通りですよ」

 

話を聞いていれば、当然解答の一つとして思いつく。

ましてや、俺が今瀕死の状態であるからなおさらな。

 

「そして私は冥府の番人に復讐のための力を借り受け、導かれ、今あなたの目の前にいるというわけです」

「そして、俺を殺すのかい?」

 

聞くまでもないことだ。だが、俺は思わず口にしていた。

アカネは一瞬、確かに顔を歪めた……けれど、すぐに元の表情に戻って、頷いた。

 

「……はい」

 

答えるまでに、少し間があった。

アカネの話通りなら、彼女だってある意味仕方なく殺すのだ。

決して最初から人を殺したかったわけではない。彼女の人生……いや、それ以後までも歪めてしまったのは、ほかならぬ俺たちだ。

 

なら、彼女の復讐は正当なものだ。

復讐に正当性を問うのもどうかと思うやつもいるかもしれないが、少なくとも俺達はそれだけのことをしてしまったのだ。

ただ。これだけは言っておかなくては。

 

「一つだけ、頼みがある」

「……何でしょう?」

 

命乞いなら聞きはしないと目が語っている。

安心しろ、“俺”はどうなろうと構わねーよ。ただ……

 

「……タカミチとアスナは見逃してくれ。あいつらはまだ子供だ。

いや、それ以前に……何よりあいつらはあの事件には全く関与していない」

 

俺達がアカネ村でしてしまったことは、今現在“アカネ村虐殺事件”として有名になっており、戦争への反対意識を拡大させるとともに、一部の人々によっては英雄と呼ばれるようになった俺たちに対する非難の大きな理由の一つとしても挙げられている。

だが、それにあの二人は関わっていない。

 

「そういうことなら……まぁ、考えておきます」

 

考えておく、か。

俺にできるせめてものことだ。できれば、二人には生きていてほしい……。

アスナに至っては、やっと人並みの幸せを得られそうなのだし。

 

ぐっ……そろそろ限界だな。

 

「……こう見えて、アンタに受けた傷は深くてね。ずっとズキズキしてるんだ。

俺を殺すなら……そろそろ、せめて痛くないように頼むぜ。一瞬で」

「そうですね。もう……いいでしょう」

 

アカネが鎌を振り上げる。

朝日で黒い刃がきらりと光り、鎌自体もまたどこか光を放っていた。

 

「あなたの魂、刈らせていただきます。望みどおり、一瞬で」

 

さぁ……裁きの時だ。

俺が今までやってきた罪が、この瞬間を持って少しでも償えるといいな。

まぁ……アカネに対しては、そんな簡単に償えることではないか。

 

「あなたの魂が、逝くべき場所へ導かれますように」

 

そして、それは振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

どれくらい移動したのだろう。

いつの間にかアスナちゃんは泣きやみ、静寂だけが辺りを満たしていた。

師匠は……一体、どうなったのだろう。

 

「ふぅ……」

 

考えても、答えが得られるわけじゃない。

僕は何とも言えない気持ちになって、休憩がてら足を止めた。

抱えていたアスナちゃんをおろすと、彼女はじっと僕のほうを見つめてくる。

何も言わずに、アカネの犬を抱きかかえたまま。

 

「…………」

「…………」

 

視線が痛い。

せめて何か言おうと二、三分言葉を選んでいると、先にアスナちゃんの方から、ようやく口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

『……そろそろ、かな?』

 

アスナちゃんとは全く別人の声で。

 

 

 

 

 

 

 

「だ……誰だ!? まさか、偽者!?」

 

しまった、師匠を襲ったのはアスナちゃんと入れ替わる隙を作るためか!?

だとしたらアスナちゃんが危ない……

 

『違う違う。この体は正真正銘この女の子のものだ。別に入れ替わりとかじゃないし、さらに言うならこの女の子に危害を与えるつもりもない。俺はただ、ちょっとこの子に憑いて操っているだけさ』

 

アスナちゃんとは思えない笑みを浮かべ、ソイツは喋り続ける。

いったい何者なのか、何がしたいのか分からないから油断できない。

 

「そろそろ、っていうのはどういうことだ?」

『そのうちわかるさ。強いて言うなら……誰かの未練を断つための復讐、とでも言えばいいのかな』

 

ソイツは少し考えるようなそぶりをした後、まぁわからないだろうなと呟いて僕のほうを眺めていた。手を出そうにも出せないぼくにソイツは手を振る。

 

『アンタとはまた会うことになるだろうな。

あ、ひとつ言っておこうか……彼を弔いたいなら、大変だろうが戻ることをお勧めするぜ。今ならまだじゃまな奴も来ないだろうし。じゃあな』

「ま、待てっ!」

 

僕が叫ぶのと、気を失ったアスナちゃんが倒れこむのはほとんど同時だった。

どうやら、“ソイツ”はもうアスナちゃんの体から抜けたらしい。

だけど、彼の言っていた「弔う」という言葉は……まさか。

 

「アン」

 

後ろを向くと、いつの間にか離れたところにいたアカネの犬が僕たちを見ていた。

しばらく尻尾を振っていたが、やがて踵を返しどこかへと走り去って行った。

 

「う、うぅぅぅん……」

「あ、アスナちゃん!?」

 

アスナちゃんがゆっくりと目をあける。

うつろな目でしばらく空を眺めた後、彼女は唐突に口を開いた。

 

「タカミチ……」

「な、なんだい?」

「ガトーさん、大丈夫かな……?」

 

僕は、どういえばいいのか分からない。

彼が言っていた「未練を断つための復讐」と「弔う」という言葉……。

これらが指すであろうことを、僕は彼女に告げる勇気がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

Side アカネ

 

鎌を振り下ろすとき、私は一体どんな気持ちを抱いていたのでしょう?

喜び? 怒り? 哀しみ? それとも……

 

『終わったみてえだな』

「……はい」

 

いつの間にやってきたのでしょうか、足元で犬の姿をしたマケイヌがこちらを見上げていました。

その目はどこか私をいたわっているようで……気が抜けた私は、思わず持っていた鎌を落としてしまいました。

鎌は影の中に消え、黒い衣も消える。

 

『さて、と。次の扉を開くときだな』

「次……」

 

次……ですか。いったい、私は何人手にかけないと未練を断てないのでしょうね?

ですが、もう後には引けません。

そんなことをすれば、“彼”の死が無駄になってしまいますから。

“彼”は目を閉じたまま、岩にもたれかかっています。

 

もう、起きることはありません。

 

 

 

 

 

 

 

やっと……一人。

お父様、お母様、フリック、皆……。

一歩、私はあなたたちのもとに近づきました。

 




この話で第2章は終わりです。
第3章ですが……当初はすぐ二人目に行く予定でしたが、それは第4章とします。

その前に……”彼”との話を書こうかと思うので。
では、またお会いしましょう。

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