死神より哀を込めて ~英雄達を裁くは少女~ 作:ウージの使い
Side アカネ
ふむ。
本を読んだおかげで大分紅き翼について情報を得ることが出来ました。
次に会うことになるのは……マケイヌの案内次第なので、なんとも言えませんね。
居場所が分かっている以上、おそらくまずは青山詠春だと私は思います。
「ん……?」
本をぱらぱらめくっていた手をふと、止めました。
というのも、気になる写真を見つけたからです。
写っていたのはガトウ、青山詠春、アルビレオ・イマと……
「彼は……」
『タカミチ、だな。タカミチ・T・高畑』
そう、ガトウの横に男の子が写っていたのです。
まだ幼いですが……確かに、あの青年でしょうね。
そして、もう一人写っていました。むしろ彼の存在が、私の手を止めた。
「それじゃ、彼は誰ですか?」
もう一人……男の子が写っている。
年はタカミチと同じくらいでしょうから、今ではもう青年になっているでしょう。
タカミチと同様、ネクタイをしていますがなんともまぁ憎たらしい顔……。
なんというのでしょうか、こう、エリート感ただようというか。
眼鏡が妙に似合っています。
『……こいつかぁ。こいつもタカミチと同じく、戦災孤児だったとこを拾われた紅き翼の身内だ。ま、子供だしタカミチと同様嬢ちゃんの村の件には関わっていないだろうさ』
戦災孤児……そして紅き翼の身内……。
とはいえ、あの日のことに関わっていないのなら、別に気にする必要もないですね。
『さて、調べ物も済んだし。今日はこの辺でいいか』
「これから……どうするんですか?」
調べ物だけが、目的……?
いえ、とてもそうには思えませんね……。
マケイヌ、あなたはいったい何を考えているのですか?
『今度は人に会うよ。くしくも、さっき嬢ちゃんが気にした奴だ』
「というと……」
あの、少年ですか?
ちなみに彼の名前はクルト・ゲーデルと言うそうです。
今の時代だともう青年になっているでしょうが、彼に会って何をするのでしょうか?
復讐の相手ではないというのは、ほかならぬあなたがさっき言ったではないですか。
『彼と会う前に。嬢ちゃんには、伝えておかなくてはならないな』
「伝えておくことが?」
なんでも、彼と話をするうえで、先に私に伝えておきたいそうです。
うーん……予備知識と言うやつですか? それとも、あらかじめ話のポイントを伝えておくということですか……?
マケイヌは私が知らないことについて、いろいろと知っていそうですし。
Side マケイヌ
夜、俺たちは人がいない町のはずれにいた。
そこは展望台のようになっていて、夜空や雲の海がよく見える。
夜とはいえ街灯の明かりがあって決して真っ暗ではないのだ。
『じゃあ嬢ちゃん。何から聞きたい?』
「何と言われても、あなたが何を話すつもりなのかすらわからないんですが……」
まぁそうだな。うん。決して説明するの忘れたわけじゃない。
それじゃあどこから話すかな……。
『本で紅き翼の情報について調べていた時、戦争の裏で糸を引いていた奴らについても書いてあったよな?』
「えぇ……確か、“完全なる世界”とか」
そう。
その秘密結社がそもそもの始まりだったんだ。
あいつらが戦争を起こさなかったら、果たして嬢ちゃんはどうなったんだろうか?
そもそも、アカネ村自体戦争から逃れてできた村だから……少なくともアカネ村で嬢ちゃんが過ごすことは無く、だいぶ違った未来があったんだろうな。
だが、少なくとも……嬢ちゃんが復讐を迫られることは無かっただろう。
『ここで一つ質問だ。奴らの目的は、何だった?』
「目的?」
『そう、目的。目的もなしに戦争を起こすか?』
嬢ちゃんはハッとして考えだす。
自らの人生を大きく変えた、その根本的な原因を。
だが……決して自力で思いつくことはまずないだろうな。
彼女は知らない。
思いつく、思いつかない以前に……その発想の根本となる「真実」を。
だから今。俺は話しておくべきなのだろう。
「世界を、滅ぼすため……?」
『違う。世界を“作りなおす”ためだ。文字どおりな』
いや、それすらも正確ではないな。
奴らは、世界を救おうとした。世界が滅ぶ前に、多くの生命が幻想に還る前に。
まぁそのために戦争を起こし、多くの命が失われたのは皮肉な話だよな。
「作りなおすって、どういうことですか?」
『厳密には、新たな世界に魔法世界の全てを封じ……生かそうとしたのさ。
その新たな世界こそが、“完全なる世界”。一人ひとりにありえたかもしれない最も幸せな世界を提供する術式だ』
「生かすって、わざわざそのような術式を発動させなければならないほど世界が危機にひんした理由があるんですか? 彼らによるものではなく?」
『ある。嬢ちゃん、不思議に思ったことは無いか? この魔法世界は“新世界”とも呼ばれ、旧世界と新世界、そう言い分けられている』
旧と新。つまり、もともと旧世界があったところに、新しくこの魔法世界が出来たということになる。だからこそのこの言い分け方。
造られた世界……新世界。だがそれゆえに、一足先に滅びを迎えようとしていたんだ。
『今から話すのはこの世界の最高機密。知ってる奴なんかほんの一握りだ。
なぁ、嬢ちゃん……』
これからあんたに。
世界の真実を、教えてやる。
俺の話に、嬢ちゃんは衝撃のあまり言葉を失っていた。
多くはここでは語るまい。この後、嬢ちゃんが世界の真実を知った、その1週間後への扉を俺は開いた。
彼に会うために。
Side クルト
私が紅き翼の一員として彼らと共にいたのは……まだ私が少年の時だった。
戦災孤児として拾われ、その後も彼らと共に旅をし、そして……
あの女性と、出会った。
出会ったといってもかたや王女、かたやただの子供。
私のことなど、あくまで紅き翼の一員の子供……その程度の認識であったのでしょう。
しかしそれでも、彼女は私を見てくれました。
あの方は……アリカ様は、すばらしい人だった。
外見の話ではありません。あの方の心の強さが、生き方が私には輝いて見えたのです。
アリカ様は世界を救うために、大切なたくさんのものを犠牲にしてきた。
実の父もその一つだ。
完全なる世界の傀儡となっていた元王の父からアリカ様はクーデターという形でその座を奪った。
いえ……奪わざるを得なかった。
完全なる世界からウェスペルタティアを取り戻そうと、苦渋の決断だったことでしょう。
アスナ姫の封印を決断した時もそう。
完全なる世界による儀式発動を防ぐため……アリカ様は姫御子の封印を決断した。
その代償に王都を中心とした半径50キロが魔法の使えない、不毛の大地になるとわかっていても。
私は今でも覚えていますよ。
ガトウさんが艦内で「よろしいのですね?」と聞いたあの時。
欄干を震えるほど握り締め、血が出るほど唇を噛んで「よろしいハズが……ないッ」と悔しそうに言っていたことを。
罠ではないかという私の言葉に、そうとわかってはいたでしょうけどもためらいなく指示を出したあの後ろ姿を。
事実、その後アリカ様は「災厄の女王」として捕らえられてしまったのだから。
アリカ様は民を、世界を救おうとあんなに必死だったというのに。
なぜだっ!
なぜ、アリカ様が責められなければならなかったっ!?
確かに「死の首輪法」などで非難はあったでしょう。
だが、それは全て世界を救うために発生したものにすぎない!
処刑が宣告されたアリカ様は……結果的には、ナギによって救われました。
ですが……それまで、アリカ様は2年間絶望の淵に追いやられたままだった。
救われたといっても、公には処刑されたことになっている。
ナギ達は処刑されたと見せかけてケラベラスからアリカ様を奪還するという方法をとったから。
タカミチはこうするしかなかったと言った。こうしなければ元の木阿弥だと。
だが、私は納得できなかった。
これじゃあアリカ様の名誉も、メガロメセンブリア元老院の虚偽と不正も、正されることがないじゃないですか!!
あれから、私は紅き翼とたもとを分かつことを決意した。
……彼らのやり方では、世界は救えない。アリカ様の行動が報われない。
そして……元老院の不正を白日の下に晒すため、あえてその中に入っていくことにしました。つまりは政治の道に進んだということです。
やはり大きな組織の、有力者をつぶすには内側からが手っ取り早いですからねぇ。
そして……後援者を得て、末席ではありますが元老院の席にようやく手が届いた頃。
“彼女”はやってきた。
最初は突然呼び出され、何事かと思いましたよ。
しかし町の有力者の名前で呼び出されてはせっかく得た地位が揺らぎかねないので断るわけにもいかず。
とある料亭で、初めて私たちは顔を合わせることになったというわけです。
「クルト・ゲーデルさん。はじめまして」
私を呼び出した人物の横に控える少女が、私の名前を呼んだとき直感した。
今回私に用があったのは、有力者などではなくこの少女の方なのだ、と。
「私の名は、アカネと言います」
彼女がいったい何の話で私を呼んだのか。
そもそも彼女は何者なのか。
意志の宿ったその目を見て、私はその目から思わずアリカ様を思い出していました。
さぁ……。
一体、何が飛び出るやら。
最後のあたり、ちょっとクルトに語らせすぎたかな?
しかし彼にもいろいろと思うことはあったと思うので、まんざらいいすぎでもないかと。
今回、アカネに「世界の真実」について教えました。
反論があるかも知れませんが、知っておいた方がいいと思ったので……。
また、アンケートのご協力ありがとうございました。
全員同様の意見だったので、意見通り「原作キャラ」でいこうと思います。
誰にするかはまだ候補どまりなのでまだ何とも言えませんが……。
感想、ご指摘、ご意見お待ちしております。