その瞳に映る未来を   作:キイカ

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動き出す事件

 

 

 謎の黒いミノタウロスとモンスターの集団を討伐した彼ら九人は、大きな被害を被ることもなく安全階層(セーフティポイント)迷宮の楽園(アンダーリゾート)に到着した。

 十八階層の連絡路から出て、森を進んでいた彼女らに、天井を覆い尽くす青水晶群とその中心に塊で生えた白水晶が木々が生い茂る隙間から美しい光りを落としていた。

 十八階層は白水晶が時間の経過によって光量を変えることで、『朝』『昼』『夜』を演出している。

 上を眩しそうに片手で光りを遮りながら見上げたリヴェリアは、現在の時間を光量で判断した。

 

「どうやら今は『昼』みたいだな」

 

「いつ来ても綺麗ですね、この階層は」

 

 隣にいるアイズに頬を緩ませて話しかけるレフィーヤを、彼女はそうだねと一言返し天井()を見上げて目を細めた。

 先頭をフィン、隣にティオネ、その後ろにリヴェリアがおり、アイズとレフィーヤは横並びで歩いている。

 二人の後ろにはリンとミスカが前者は目を輝かせながら、後者はあまり顔には出ていないが、隣に少女を見て少しだけ口角を上げている。

 最後尾には、ティオナとトーヤ。

 二人は周りの森を眺めていた。

 

「ここいらの森ってなんかこう、癒されるんだよな~。静かだし、落ち着ける」

 

「そうだね~。他の安全階層(セーフティポイント)じゃあんまり見かけない光景だもんね。私もこの雰囲気は好きだなぁ」

 

 至る所に木々が乱立し、その周りには茂みが幾つも存在する。木からは果実なども垂れ下がっており、茂みには小さな木の実が育っていた。

 青々と枝を伸ばし葉を広げ、辺りに日陰を作り出し、モンスターもいない今の場所は、小川の流れる音が聞こえるほど非常に静かで、一時でも激しいモンスターとの戦いを忘れさせてくれる。

 穏やかな空気に包まれ、二人も自然と張っていた気が抜けていく。

 地上ではあまり見られない光景であり、二人ともこういった自然の森に思い出があるのか、とても感慨深げに見回している。

 とはいえ彼らも何度もここには訪れている。しかし、そのたびにそういった懐かしい感覚に囚われるのだ。

 何度見ても見飽きることのない風景というものだろう。

 

「はぁ~」

 

「あ~、どうせなら水浴びしたいな~」

 

「それは後にしとけ。まずは借金返済だろ?」

 

「そうだね~。楽しみ~!」

 

 深呼吸している彼を横目に綺麗な川を見て、この階層にあるそれなりの大きさの泉を想起していた。

 彼女らが遠征などで来るたびに訪れては、そこの澄んだ透明な水の溜まり場で汚れを落としたりするのだ。

 今回はメンバーがメンバーなため、道中をかなりの速度で駆け抜けてきた彼女らは、途中の安い魔石のモンスター共は魔石ごと粉砕していた。

 その勢いを見て恐れおののきあまり近寄ってこないときもあり、比較的汚れは少ないのだが、美味しそうな料理を前に涎が出るのと同じ原理か、綺麗な小川を見てそう彼女は思ってしまった。

 とはいえ宿を取る予定があると前の方の会話が聞こえてきたので、そのときでいいかと彼女は考えていた。

 

「このまま十九階層に行くのかなー?」

 

「手持ちを売ってからじゃねぇか?邪魔になるだろうし」

 

 金を稼ぐためにこの階層にある街で宿を取り、潜っては高いドロップアイテムや魔石以外を売る、を繰り返す。それが効率のよい方法だ。

 そのためには今は手に入ったドロップアイテムを売るのが先だろうと彼は言った。

 確かに少ししてからフィンがその旨で自身らに告げてきた。

 彼に従い十八階層の入り口から、この安全階層(セーフティポイント)にある『リヴィラの街』にやってきた。

 

「ここに来るのも久しぶりな気がするなー」

 

「そうだっけか。まあ、俺もここまで来ることは少ないな」

 

 ようこそと書かれた門をくぐり、前の方でエルフの少女が書かれていた数字の意味を聞いて青ざめるのを耳が拾った。

 門には三百三十四と書かれているのだが、それはこの街を作り直したした回数である。つまり、過去に三百三十三回壊滅している。

 他の階層よりかは安全とはいえ、ダンジョンの中。何が起きるか分からないここでは、異常事態(イレギュラー)が発生するたびに街を放棄して地上に帰還しているのだ。

 そして、ほとぼりが冷めたらまた帰ってきて街を作り直す。

 そうして今まで数々の冒険者たちに愛されてきたのだ。

 

「ここのやつらも懲りねぇよな~。そのおかげでドロップアイテムを売ったり出来るから、とやかく言えねぇが」

 

「確かにねー。でもここは景色綺麗だし、壊れることを除けばわりと良いところだよね!」

 

「いや壊れるところ除いちゃいかんだろ……」

 

 壊滅しては再建を繰り返すこの街は、世界の人々から呆れやら皮肉から『世界で最も美しいならず者達の街(ローグ・タウン)』とも呼ばれていたりする。

 そんな街に少なからず助けられている彼らに、細かいことを言う権利はなく、言う気もないが、さすがにしぶとすぎるのではと心の中で思っていた。

 例に違わず呆れた目でトーヤは街を見ているが、確かに景色は良い。

 良いのだが、だからといって彼女が言ったような壊れることは見逃せはしないだろう。

 いきなり崩壊が訪れる街など長居は御免である。

 脳天気な彼女の言葉をやれやれと突っ込んで、ふと、街の様子が違うことに気付いた。

 彼よりも早く先頭にいたフィンたちも気付いていたようで、辺りを見回しながら様子を見ている。

 

「いつもより街の人が少ないな。なにかあったのか?」

 

「適当な店に入って聞いてみようか」

 

 普段とは異なりやや人気が少ないことを不思議に思った二人。常なら喧しい騒ぎ声が聞こえてくるはずだが、門から入ってしばらく歩いてもあまり聞こえてこない。

 近場にあった道具屋に二人とティオネが、魔石やドロップアイテムも持って入っていく。大所帯だったため、残りの面子は外で待機しているのだ。

 

「どうやら()()があったようだ」

 

「街中で?そらまた珍しいことだな」

 

「そうだね。場所はヴィリーの宿。ここで宿を取ると考えている以上、無関心でも無関係でもいられないな」

 

 話を聞き終えたらしい三人が帰ってきて、非常に簡単に外にいたメンバーに説明した。

 起きた出来事に全員がピクリと反応する。

 冒険者が行き交うこの街で殺人事件など、思ってもいなかったのだ。

 冒険者同士のいざこざはあれど、それが街中で殺しにまで発展することはあまりないのだ。地上であればギルドに罰せられることもあり、ダンジョン内ではないこともないのだが。

 今後の予定の関係上、見過ごすことは出来なかったため、彼らは事件が起きた宿に向かった。

 

 事件現場の宿の近辺は野次馬が群がり大変混雑していた。なんとか中が見えないかとレフィーヤがジャンプを繰り返しているが、疲れた顔を見せたことから結果は芳しくなかったようだ。

 

「僕が見に行ってくる。リヴェリアたちは待っててくれ」

 

「ちょっ、団長!?」

 

 小柄なフィンがその体格を生かして、人の合間を縫って宿の方へと進んでいった。

 それをティオネが驚きながらも追従しようとするが、人壁に阻まれうまく通ることが出来ない。

 最初の内は()()()()()声と口調で通してもらおうとしていた彼女だったが……

 

「ちょっとどきなさいよあんたたち!団長が通れないだろうが!」

 

 最終的に本性?ともいうべき性格が現れ気迫で道を作った。

 ちょうど人波を抜けた後だったらしいフィンが、膝立ちで空笑いしているのがティオネを除いた彼女らには見えた。

 

「うん。平常運転だねー」

 

「さすがティオネさん……」

 

「すごい……」

 

「あれは見習っちゃいけないすごさだな」

 

「あそこまで行くともう怖いものなしですね」

 

 実姉の暴走ぶりをいつも通りと評す妹。

 引き気味の笑顔で言葉だけの賞賛を漏らすエルフの少女。

 純粋にそう思ってしまっている天然剣姫。

 それを穏やかに修正する魔導士の青年。

 別の意味で賞賛している紫紺髪の少女は、隣で見てない振りをしている少年を横目で見つめた。

 それには気付いていないが、先ほどの力業は見習いたくないなと内心思っていた。

 

「……とりあえずついていくとしよう。ちょうど良く道も出来た……出来てしまったからな」

 

 両目を瞑り嘆息していたリヴェリアが、先で待っているフィンとティオネの後を追うべく、残っていた者を引き連れ歩き出す。

 何とも言えぬ表情をしていた六名も、何も言わずに後ろを着いていった。

 宿の中は洞窟内とは思えぬほど天井は高く、所々に魔石灯もあり、それなりの明るさも保たれている。床にはモンスターのドロップアイテムで作られたと思われる絨毯が敷かれ、灯りの間には等間隔で三振りの短刀が並べられていた。

 

「なかなか良いところなんだがなぁ……」

 

「この臭いはねぇ……」

 

「嗅ぎ慣れたくないものです……」

 

 なかなか上質な宿だと感じられ、その分漂ってくる酷い異臭に顔をしかめる後ろの四人。

 鼻を容赦なく襲うのは、鉄臭い血の臭い。

 そう、これは、人間……()()()()()の臭い。

 先頭から入っていき、アイズが中に入ったところで後ろのレフィーヤに強い語調で入室を止める。

 それを驚いた顔で立ち止まる彼女の横をすり抜け、トーヤたちも中を拝見した。

 

「んぐぇ……ひっでぇ有り様だな」

 

「ぐろ……」

 

「うぷ……」

 

「ミスカ……」

 

 部屋の中を見てすぐそれは視界に入った。

 放射状に吹き飛んだ血飛沫。それを浴びて血にまみれた被害者の荷物と思われる物。

 なにより酷いのは、頭部の顎から上がない被害者の体。なにかで砕かれたのか、脳漿をぶちまけ紅い華を咲かせてしまっていた。付近に転がる目玉は、血走った血管を残して光りを失っていた。

 トーヤは思わず鼻を抑え、喉元に上がってきた胃酸を押さえ込む。胸焼けが残るが、嘔吐なんてすればもっと酷いことになる。

 ティオナも眉間に皺を寄せ引いている。普段の快活な表情はなりを潜めてしまった。

 ミスカは抑えきれない吐き気にえずき、顔を青白くしながら咄嗟に口を押さえた。あまり人の死体に慣れていない彼女には、大分刺激が強すぎたようだ。

 そんな彼女の背中を、リンが優しくさすりながら移動させる。二人揃って一度部屋から出ていった。

 二人の後を追ってトーヤも部屋から出た。あの部屋にいたら、耐えようにも吐き出してしまいそうだったからだ。

 中からはフィンと誰か男性の声が聞こえる。一瞬口論になりかけたようだが、特にはなにもなかったようだ。

 

「はぁ……さすがに慣れんなぁ。大丈夫か、ミスカ」

 

「……すぅ、はぁ。えぇ、なんとか。もう少しいたら危なかったです」

 

 忘れようにも脳裏に焼き付いてしまった過激な光景に、募る吐き気と犯人の残忍さで口をへの字に曲げる。

 少し離れたところで深呼吸していたミスカも、なんとか落ち着いたようで顔色が幾分か良くなっていた。

 隣にいるリンは安心したように見えるが、彼も先ほどの光景が蘇るのか時折小さく呻いている。

 

「きついなら無理すんなよ?外で待っててもいいからな」

 

「い、いえ。最低でもここで待ってますよ。もしかしたらこういった事態にも、慣れないといけないかもしれませんから」

 

「そんな事態に慣れるほど事が起きては欲しくないんだがな」

 

 無理しているように見える二人の後輩を気遣い、外へ出ることを勧めたが、きっぱりと断られてしまった。

 その理由に苦笑にもならない笑いを浮かべたが、頬は引きつっていた。

 中に戻るとまた凄惨な現場をみないといけなくなるので、三人は恩恵の力にやって強化された聴覚を頼りに中の会話を聞いていた。

 その中で被害者の所属が【ガネーシャ・ファミリア】であり、Lv.4の第二級冒険者ということが分かったようだ。

 年最大の団員数で、有力な派閥でもあり、驚きの隠せない三人。

 そこから考えられるのは……

 

「やったやつは俺たちと同等かLv.5(それ)以上……」

 

「……笑えない冗談ですね」

 

「冗談だったらどんだけ気が楽だろうな……」

 

 トーヤは自身と同レベルか格上。ミスカとリンに至っては確実に差があるのが分かってしまう。

 その後の中の会話から、被害者であるハシャーナという男の弔い合戦をするというのが分かった。

 戦闘も避けられないであろうことに、後輩二人が顔を強ばらせる。

 

「まあ、俺が守ってやっから安心しとけ。何度でも助けてやるから」

 

「そう言いながらトーヤさんも汗酷いですよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 大胆な発言で二人の力を抜かせたが、当人も冷や汗が止まっていないのを指摘されてしまった。

 苦笑いを浮かべた彼にリンが感謝の言葉を呟き、それをミスカも見習って同じように言葉をかけた。

 部屋からフィンたちが出てきて、説明しようとした彼が三人の顔を見て、言わずとも理解していることを察した。

 

「トーヤ。君はボールスに集めさせた街の人々を視てもらってもいいかい?中に犯人がいるならそれでけりがつけれるかもしれない」

 

「りょーかい。リンとミスカ(こいつら)は護衛ってことで?」

 

「ああ。そういうことだ。三人とも任せたよ」

 

 用件を伝えるとフィンは待っていたリヴェリアと共に宿から出ていった。

 それなりに大役を承った彼は、すぐに行動を開始した。

 まずは、部屋内にいたボールス──この街の実質上の頂点──とその仲間たちの未来を視ることにした。

 

「ちょいとお邪魔するぜ。団長からお仕事を仰せつかったから、未来を視させてもらうぞ」

 

「おお、いたのか【未来視】。無実だろうが一応頼むぜ」

 

 部屋にはまだ残っていたため、その場でスキルを発動する。

 

「……ふぅん」

 

 計四人の未来を視たトーヤ。

 彼の瞳が視たのは、フィンが集めると言っていた場所らしい、この街の中心地、水晶広場にて、モンスターが暴れる未来。

 そのモンスターにも見覚えがある。つい先日祭りでエンカウントした花の怪物だ。

 かなりの数がいるのが視え、仲間たちが戦っているところまで分かった。

 

「とりあえず武器は持っとかないといけないみたいだな。んで、お前らは無実だよ。ただ、厄介なことには巻き込まれるぜ?用心しときな」

 

「お前に言われると本当に起きるだろうから最悪だぜ……こんちくしょう」

 

 うなだれたボールスに警告をして、トーヤはリンとミスカを連れて宿を出て、先ほど視えた広場に向かう。

 後ろを歩く後輩二人は気を張っており、あらゆる事態に反応できるよう備えていた。

 そんな彼らを頼もしく思いつつ、自身も周囲を警戒する。

 そんな中。

 

「……っ!?」

 

「どうしました!?」

 

「い、いや。なんか誰かに見られていた気がするんだが……その、ものすごく気持ちの悪い視線だった気がする……」

 

 不意に立ち止まり一瞬身震いをするトーヤ。

 彼の様子にすぐさまミスカは自身の武器であるサーベルを抜き辺りを確認する。

 リンも大剣に手をかけ目を細くして警戒する。

 周りには誰かいるわけでもなく、ともすればいないことに不審感を覚えないでもないが、しばらくしても何者かに襲われることはなかった。

 

「誰もいませんし、来ませんね」

 

「うーむ、俺の勘違いかもしれんな。すまん」

 

 とうに収まった震えを間違いと流して彼は歩き出す。その後を二人も追ったが、先ほどの彼の反応が嘘なわけがあるとは思っていなかった。

 また帯剣したミスカだが、いつでも抜けるように一段階警戒レベルをあげ、リンもすぐに大剣が取れるように意識していた。

 その後は謎の視線に脅かされることはなく、広場につき、まだ集まりきってはいなかったが、すでにいた人の未来を視始めた。

 

 人気がない街の路地裏。二つの人影が話していた。

 

「バレてるじゃない。なにしてるのよ」

 

「五月蠅いな。()()が見つからなかったから殺しただけだ。この程度で一々騒がれても困る」

 

「沸点低いわね。まあ、私はお目当ての人が発見出来たからいいけどね」

 

「ならさっさと連れてこい。お前はそいつを捕まえるために来たんだろう」

 

「捕まえる為じゃないわ。私が来たのは──

 

 黒いローブ──声からして女──の人物は僅かに見える口元を酷く歪めて笑った。

 

──彼に想いを伝えて一緒にいてもらうためよ♪」

 

「……結局は連れてくるんだろう。違いが分からん」

 

「お堅いわねぇ。貴方、スタイル良いんだからもっと攻めればいいのに」

 

「必要性がない。私は目的のために動く。それだけでいい」

 

「はいはい。利害は一致してるからちゃんと手伝いますよ、私も」

 

 話を終えた二つの影は二手に分かれて姿を消した。

 




 最後の会話の片方はたぶん察してるとおりあの人です。
 それと投稿周期の連絡です。
 来週からバイトを始めるため投稿が遅れると思います。
 ゆっくりと進めていきますのでよろしくです。
 それでは。
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