「全員集まったみたいだね。トーヤ、怪しい人物はいたかい?」
「今のところは見つかってませんな。さすがに人が多すぎて視るのが追い付きませんよ」
街の中心である水晶広場に、現状いた人々を集めたフィンたち。集まった人でごった返す広場を見渡しながら、フィンは先程からスキルを駆使して一人ずつ確認しているトーヤに声をかけた。
反応は芳しくはなく、犯人を見つけることはできてきなかった。
彼が今視ている未来は、どれも『先日の祭りで現れた花の怪物に襲われる』というもの。
それ以外が視えることはなく、無駄な時間が過ぎていることに焦りを覚え始めていた。
「トーヤ、焦るなよ。確かに殺人鬼が潜伏しているのは由々しき事態だが、早まって間違えたり、見逃しては元も子もないぞ」
それを見透かしたようにリヴェリアが冷静な言葉を投げかける。
的確にミスしたときのリスクを伝えられ、ハッとした彼は軽く頭を振り小声で感謝する。
また助けられてしまった、と、彼は苦い顔をしたがそれもすぐに真剣な顔に戻し、落ち着いた様子で一人一人視ていった。
それを集められた人の群れの中から観察している者が一人。
(……あれがあの女から聞かされていたやつか。なんでも未来を視るスキルだとか言っていたか)
焦りも驚きもなく、ただ
流れに逆らわずにこの場に集められてしまったため、鬱屈とした時間が過ぎていた。
(未来なんてものがどれだけ役に立つのか知らないが、あんなひ弱な男、片手でも潰せるだろう)
溜め息がこぼれるのを耐え、億劫そうに周囲を一瞥し、再度視線を前方に戻す。
その先には、大方自身が起こした騒動を解決しようと奮闘しているらしい、冒険者の姿が見えた。
(ふん。ここでくすぶっているくらいなら、纏めて殺してしまった方が早いだろうか)
ドス黒い思考を広げ、周りの人間を血の海に沈める未来を想像する。
それ自体には何の意味もないし、感動もないが、仕事が速く終わるならそれでいいと思っていた。
(あいつも準備が出来たならさっさと始めて欲しいんだが。このままでは私の方が早く……)
もう一人の連れがまだ支度を終えていないことに苛立っていると、周りがざわめき始めた。
何が起きたか分かっていなかったが、視界に誰かの後を追いかける二人の少女の姿が入った。
それを何気なく見つめ、そのまま彼女らが向かった方向を確認し、歩き出す。
怪訝そうにこちらを見てくる者には威圧して押し進む。
そのままその人物は水晶の向こうに姿を消した。
「ダメだ……。粗方視たが、見つからん。たぶん抜けはないはずだ。もし誰かが動いていたりしたら可能性はあるかもしれないが、今のところは誰も怪しい奴はいなかった」
アイズたちが誰かを追いかける前、トーヤはほぼ全員の未来を視終え、しかし収穫はなかったことを伝えた。
事前にフィンに言われ、広場にいる犯人と思われる性別の女性を重点的に見ていたが、不審な人物すらいなかった。
それにはさすがのフィンも驚いたが、すぐさま思考に浸りだした。
その姿をちらりと見てからトーヤは、疲れたとばかり目を瞑りがっくりと頭を垂れた。
スキルは目を通じて使っていたため、疲労は目に溜まる。
何人もの未来を視るのはあまりやらないため、今回のことは少し堪えたようだ。
「んがぁ……これ以上いたら目が持たんかった……」
「お疲れ様です。しばらくは休んでいても良いのでは?私とリンが周りを警戒してますから」
「私も私も!」
「はは、こりゃあ頼もしいな。こればっかりは厳しいから休ませてもらうわ」
しょぼしょぼする目を抑えながら呟いた彼の言葉に、ミスカが反応し労いつつ彼の周りを固める。
道中に感じた悪寒から、ミスカとリンは警戒心を高めており、今のこの状況も敵だとしたら好機だと思い、辺りに視線を回す。
どこから話を聞いていたかは分からないが、ティオナも参加してくる。
大分脳天気な物言いだが、トーヤは素直に感謝した。
しばらく目を瞑っていると、フィンがなにか言ったらしくボールスたちがざわめいていた。
その後、男性陣の歓声と女性陣の罵声が響いた。
「なんだ?なにがあったんだ?」
うっすらと瞼を上げた彼は、なぜか興奮している男共と酷く不機嫌な顔を浮かべている女たちを視界に収め、困惑の色を浮かべた。
それに答えたのは、ティオナ。
「なんかねー、冒険者たちの身体チェックしよーって話になったみたいでね。それでボールスが女は服を脱げーって言ったの。で、このありさま」
「何言ってるんですかねあの男」
「そういうことか。まあ、男の考えそうなことだな」
ことの顛末を掻い摘まんで説明し、それにミスカがかなり憤慨した様子で言葉を繋いだ。
リンは苦い顔をしていたが、ミスカに睨まれ視線を別の方に逸らしていた。
トーヤは苦笑いしながら仕方ないと流しているが、ティオナは何故だか不満そうだ。
「……トーヤはやっぱりそーいうの気になる?」
「んん?まあ、気にならないと言ったら嘘になるが、別にこんな状況で見たいと思うほど馬鹿でもないぞ」
「……じゃ、じゃあさ。む、むむむ、胸は──」
空気を読んだミスカがあらぬ方を見ているリンに体当たりをして、少し距離を離れる。
唐突な衝撃に彼は驚いていたが、直後に視界に入ったトーヤたちを見てすぐに理解し、押されるがまま移動した。
二人の後輩に感謝しつつ、むくれた顔で聞いたティオナだが、彼の返答が思いの外ましだったので安堵した。
しかし、女体に興味があると分かれば次に気になるのはやはり好みだ。
それも聞こうとしたのだが、急に女性陣の黄色い声が聞こえてきて、広場が騒がしくなった。
「な、なにごと?ってあれ?アイズとレフィーヤどこに行くの?」
視界の端に映った二人の姿に不思議そうに声を上げる。
トーヤも同じように薄く開いた目で彼女と同じ方向を見ている。
聞きそびれてしまったことを後悔しつつも、答えによっては立ち直れなくなる可能性もあったので、何とも言えない気持ちだった。
気を取り直して二人を追いかけようと走り出す直前、自身の姉が暴走しているのが視界に入ってきた。
「ちょ、ティオネも暴れてるし!あっちは予想が付くから放っておきたいけど……あぁもう!」
「おぉ~、頑張れ~」
原因が分かっている姉のことに、正直なところ行かなくても良いような気がしていたが、制御できる者が他にいないことを察し、方向転換してそちらに向かっていった。
その後ろ姿をトーヤはひらひらと手を振りながら見送り、かなり騒々しくなってきた広場を見渡して溜息を付いた。
「この中から見つけだすのは骨が折れるぞぉ……」
「そんなに肩を落とさないでください。最悪一人ずつ調べればなんとかなります」
「おっとリンか。それはさすがに手間がかかりすぎるな」
ぼそりと呟いた独り言は、そのまま宙に消えると彼は思っていた。だが、いつの間にか戻ってきていたリンに返され、内心驚きつつ言葉を返していた。
ミスカも隣でそうなった時の未来を想像したのか面倒くさいような、それでいて酷く苦々しい顔をしていた。
「あぁそうだ。ティオナがアイズたちがーって言ってたが、なんのことだ?」
「確かアイズさんとレフィーヤがどこかに行ってしまったそうです」
「その二人なら何かあっても大丈夫そうだな」
そうですね、と後輩二人が同意したところで、突如地面が揺れた。
唐突に起きたそれは、自然現象だと思われたが次いで現れた
水晶広場に集う彼らのもとに姿を現したのは──いつかの祭りで遭遇した、トーヤが視ていた花の化け物だった。
その数は前回と比べて桁違いに増えており、明らかに規模が変わっていた。
「おいおい!なんだってこんなときに現れるんだ!?タイミングってもんが悪すぎるだろう!」
「トーヤ!これが視えてた未来なのか!?」
「そうですよ!まんま起きちゃってますよ!」
「そうか!ティオナとティオネ、リンとミスカは彼らを守れ!リヴェリアとトーヤは出来るだけ大規模な魔法を!相手は魔力に反応するらしいから集めてくれ!ボールスは五人一組で小隊を作らせて、それなら一匹は抑えられる!」
「わかったー!」
「分かりました!」
「了解です」
「はい!」
「わかった」
「はいよー!」
「お、おう」
モンスターの出現を確認し、すぐさまフィンが各員に指示を出した。
指示通りにティオナたちは花の怪物を討伐しに飛び出し、リヴェリアとトーヤも詠唱を開始する。
フィンも微かに聞こえてきた悲鳴に反応し、その元へと飛び出していった。
「【昔日に浮かぶ満月。漆黒を体現する夜。】」
先に詠唱を始めたトーヤを追うように、リヴェリアも詠唱を開始し──
「トーヤ!下がれ!」
「【一筋のぉ!?ぐぅっ!?」
「トーヤ!?」
ようとしたところで、不意を突いて襲ってきた怪物の突起物にトーヤが吹き飛ばされた。
寸前の警告に従い、移動する間もない速さだった。
追いかけようとするリヴェリアを、花の怪物が立ちふさがる。
戦闘の中心地からトーヤのみが弾き出されてしまった。
「……!?トーヤさん!」
「どこへまで飛ばされたの!」
「おい!リン!ミスカ!」
吹き飛ばされた恩師にすぐにリンたちも気付き、目の前の怪物を切り裂いてすぐさま追い掛ける。
こちらも制止の声は届かず、戦線から離脱していってしまった。
今すぐにでも二人を呼び戻したいところだったリヴェリアだが、これ以上この場から頭数が減るのは不味いと思い、苦虫を噛み潰したような顔で詠唱を開始した。
ティオナも察してはいたようだが、ちらと見たリヴェリアの顔で歯痒い思いを残しつつ自身を律していた。
リヴェリアの詠唱が開始した頃、トーヤは街のはずれに位置する森と隣接した場所に吹き飛ばされていた。
着地に成功し、吹き飛ばされた割には怪我もなくその場に立つ。
「ちっくしょう。いきなり襲われるとは思わなかったな、早く向こうに戻らないと……!?」
焦り気味に森を出ようとした彼の前に、二体の怪物が立ちはだかった。
「なっ……赤いミノタウロスだと!?」
『オォォォォォォッッッッ!!!!』
『ブァァァァァッッッッ!!!!』
本来ならばこの階層に棲息しているはずがない目の前の猛牛、さらに明らかに普通ではない姿にトーヤは目を見張る。
鼻息は荒く隆起したその体の筋肉は、まるで
手に持っているのはこの階層にくる前に見た黒い
片や大振りな鉄の剣を、片や彼を軽く潰せてしまうほどの大槌を持っていた。
明らかに異質な雰囲気を放つそれらに、彼も思わず後ずさりしてしまう。
視線がぶつかる三者の空気は重く、しかしどちらかが動けば一瞬で壊れそうな程張り詰めていた。
(くそっ!なんだってここで亜種とやらないといけないんだ!)
先の戦闘でアイズが一度仕留めきれなかったのを知っている彼は、自身の攻撃では容易に倒すことが出来ないのを確信していた。
先程の咆哮で周りのモンスターが寄ってくる可能性もありえる。
この場で耐えるのが得策かと思ったが、それまで持たせられるか、それ以上に援軍が来たとしてこれを仕留められるのか。
数瞬の間に頭を回し、今自身か取るべき最善策を考える。
(今の状況だと、来るのはたぶん
左手に握る杖に力が入る。
圧倒的不利な状況で、額からは冷や汗が流れ落ちる。
魔法を放つには時間がいる。しかし、その時間を稼げるかは自分次第。
援軍を待つにも来たところで倒せる保証はない。
何より、来たのが自身の後輩たちなら、返って危険にさらしてしまう。
これから下す決断が自身はおろか、最悪の場合後輩を巻き込んでしまうことに彼へ躊躇していた。
(やるしかない。なんとかして、こいつらの攻撃を耐えれれば……!)
覚悟を決め脚に力を込める。
杖を強き握り、決心の果ての行動を開始する。
「【押し寄せる戦火。襲いかかる凶撃。】」
込めた力のままに敵に背を向けずに後方へ飛ぶ。それと共に平行詠唱を開始する。
足下に純白の魔法円が現れ、魔力が回り始める。
トーヤが後ろに下がると同時に正面のミノタウロス二体も動き始める。
追いかけるように、獲物を逃がさぬようその手の凶器を掲げ迫っていく。
幾ら力を込めて後ろに飛ぼうと、全ての力が正面に向いている赤き猛牛たちの方が早く追いついてしまう。
追いつかれる度、身体を引き裂かんとする鉄剣を、己の身を叩き潰さんとする大槌を紙一重で回避する。
凶悪な風圧が着物を裂き、そのまま肌すらも傷つけていく。
薄く斬られた肌からは血が零れ、激しく動く度に空を舞った。
捕まったら終わりの追いかけっこを繰り返すこと幾ばくか。
「【取り戻すことの出来ない命を守るために──】」
残り一小節。
限界よりも先に一旦の安全が見えてくる。それも長くは続かないが、来るであろう彼らを待つことは出来るだろう。
最後の詠唱を始めようとしたところで、追いかけていたミノタウロス二体が動きを止めた。
それに驚きつつも距離をとって足を止める。
突然の停止に疑問を残しつつ、残りを歌い上げようと口を開いたところで──
『シュゥゥゥゥゥゥ』
──猛牛たちは、
(どういうことだ?ミノタウロスが息を吸うだなんて意味があるのか?覚えのない行動だが……)
深く息を吸い込んでいる猛牛を困惑した様子で見ていたトーヤ。
しかし、モンスターの肌の色、上の階層で出会ったミノタウロスの謎の砲声とキラーアントの出現。
それらを合わせた結果、彼の思考は一つの可能性を導き出した。
(……まさかっ!?)
その可能性を思い付いてしまった彼はすぐに最後の詠唱を始める。
しかし、運悪く相手の方が先に準備を終えてしまった。
息を吸えるだけ吸った猛牛の身体は幾分か大きくなったように見え、その身体からは彼が予想していたとおり強く熱が発せられていた。
離れた彼にも届くほどの熱量を、溜め込んでいるということ。
そして、次にくるのは放出だ。
「!【強大なる敵の攻撃を防ぎたまえ!】」
放たれた二体分の凄まじい熱量のブレスを前に、トーヤは完全に背を向けて退避を図る。
あまりの広範囲に横に飛ぼうが避けきれないのだ。
余裕があったはずの距離は、たった一瞬でその距離を埋められてしまった。
放たれる寸前で詠唱を始めたものの、魔法名を紡ぐよりも先に炎は彼を飲み込もうとしていた。
最後の一言が先か、灼熱の地獄が先か。
勝ったのは──
「【
──彼の一言だった。
ようやく完成した魔法は彼の半径五メートルを囲い、迫っていた炎を遮断した。
寸での所にまで近づいていた炎も、魔力に溶けて消えた。
「あ、危なかった……とりあえずこれで難は凌げたが、これじゃあ長くは持たせられないな」
予想外の炎ブレスは、
しばらくしているうちに今度は
なにかが引っかかったトーヤに、炎が消え視界が明けると同時に──
「……っ!?薙刀!?」
──彼の聖域を割らんと凶刃が振られた。
範囲はそれなりだが、階層主の攻撃も耐えれるほどの彼の結界が、たったの一撃で軋みだした。
炎に続き晴れた煙の中から現れたのは、
「やっほー。初めまして、トーヤさん。んん、いや──三笠、灯夜さん。って言った方がいい?」
黒いローブを着た女だった。
お久しぶりですね(白目)
半ば失踪していましたが、無事(?)戻ってきました。
学園祭で小説を書くので、リハビリがてらまたこちらの続きを書いていこうと思います。
まあ、単純に久し振りに読んだダンまちの小説で再燃したのもありますけどね。
ティオナが可愛い。
ラストの方はお察しの通りオリジナルです。
ちなみに実は苦手な部類のキャラだったり。
そこら辺はおいおい分かるでしょう。
それではまた次回、出来るだけ早く出せるよう頑張ります。