その瞳に映る未来を   作:キイカ

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寝坊助と少女

「夜は打ち上げやるからなー!遅れんようになー!」

 

 声を張り上げる主神の声を背に、遠征から帰ってきたロキ・ファミリアの面々は、これから手に入れた『魔石』や『ドロップアイテム』などの換金、また消費した道具や武器の調達、整備などをしに出掛けるのだ。

 遠征から帰る度、これを派閥の団員をほぼ総出で行っている。

 のだが……

 

「団長~、トーヤがいないっす~」

 

「相変わらず遠征の次の日は起きるのが遅いな。起きろとはいつも言ってるんだけどねぇ」

 

 早速出発、といく前にヒューマンの少年──ラウルが同期がいないことを報告する。

 それを聞きまたかと頭を抱える団長だが、言葉通り毎度のように寝坊しているため、半ば諦めていた。といっても、後で説教するのは確定したが。

 一応今この場にいるメンバーだけでも事足りるわけだが、彼を一人放っておくことは出来なかった。

 そもそも彼も幹部の一人であるので、いてもらわなければ困るのだが、雑用を押しつけた団員もいるので同じく雑用に回すかとも考えていた。

 そこで、彼は閃いた。

 

「ふむ。それじゃあ、ティオナ。彼を起こしてきてくれないか?起きなかったら引きずってきてもいいよ」

 

「へっ?あー、うん!分かった!」

 

 思い付いたのは、彼を好いた少女に頼むというもの。

 にこりと笑みを浮かべ、ティオナを焚き付ける。

 フィンも彼女がトーヤのことを想っているのは知っているので、差し向けたのだ。

 彼女が館の中に向かう途中、すれ違いざまに「なんなら彼と一緒に留守番するかい?」なんて、茶々も入れたり。

 もちろん彼女もそれに反応し頬を赤くしていたが、「帰ってくるからね!?」なんて自分から釘を刺してしまった。

 

「やれやれ。彼女も彼女で素直じゃないな。本当は満更でもないんだろうに」

 

「団長……楽しそうっすねぇ……」

 

「いつも通りね。さすが団長です!」

 

 素直になれないアマゾネス──迎えに行った少女の種族──の妹の方を楽しそうに見つめる。

 それをやや引き笑いで見ているのはラウルで、素敵と目をハートにせんとばかりに笑顔を浮かべているのは姉のティオネだ。

 もはや恒例のことなので、他の団員たちも笑って流している。

 

「さてと。どうしようか、先に向かってもいいし、二人を待ってもいいな」

 

「向かってもいいんじゃないか?トーヤの寝起きは悪いから時間もかかりそうだ」

 

「だな。奴はティオナに任せて我らは向かうとしよう」

 

 どうするかとフィンが近くにいた二人の幹部に話しかける。

 一人は美しい容姿を持ったエルフ、その中でもさらに高貴な身分の王族(ハイエルフ)であるリヴェリア・リヨス・アールヴ。

 もう一人は背が低めで筋骨隆々としたドワーフ、ガレス・ランドロック。

 どちらも古株の中の古株であり、ファミリア創設期から支えてきた古参のメンバーだ。

 長くを共にしている二人から意見をもらい、すぐに結論を出す。

 

「それじゃあ行くとしよう。二人には後から追いかけて貰えばいい」

 

 出発だと団長がいい、団員たちはぞろぞろと目的地であるギルド──ダンジョンの管理をしている組織──や、道具屋武器屋へ向かっていった。

 

 

 

「トーヤぁー!朝だよー!起きてー!」

 

 扉をノックすることなく開け放ち、大声で寝坊人の名を叫ぶ。

 視界に入ったベッドには、人一人分の固まりがこちらに背を向け寝息をたてていた。

 ファミリアの中でもダントツで元気が良い彼女の大声は、基本寝ている者は叩き起こすような声量はあるのだが、彼に限って言えばそれも効果は薄い。

 

「むー。やっぱり起きないや。それじゃあ次はどうするかなー」

 

 何度か団長に頼まれ(というよりかは狙って)彼を起こしに来ている彼女は、彼が中々起きないことを知っており、一回大声で叫ぼうが微動だにしないことは分かっていた。

 それじゃ次は、と彼女は安らかに寝ている彼の背後に近づき、今度は大声に加え彼の身体を揺さぶり起こそうとする。

 

「あーさーだーよー!おーきーてー!」

 

 激しく揺さぶるも、「んがぁ……」と全く起きる様子がない。

 これもまた分かっており、いつも通り眠りが深いなぁと思いつつ揺さぶりを続ける。

 しかしこれといった効果もなく、熟睡を続ける彼に仕方ないと次の作を使う。

 枕元に顔を寄せ、耳のぎりぎりまで口を近づけ、すーっと息を吸い込み、

 

「おーきーてー!あーさーだーよー!」

 

 全力で大声を投げかけた。

 さすがにこれには寝ている彼もぴくりと動き、嫌々耳を塞いで寝返りを打った。

 いつもならこれで彼が飛び起きてティオナもびっくりする、までが一連の流れなのだが、今回はかなり深く寝入っているらしく起きる様子が微塵も感じられなかった。

 これにはティオナもさすがに困ってしまい、あまり得意ではない考え事を始めた。

 頭をぐるぐる回し、これ以上に起こせる方法なんてあるのだろうかと顔を歪める。

 唸りつつ彼の寝顔をちらりと見て、くすりと微笑みを漏らし向かう途中でフィンから言われた言葉を思い出した。

 

『一緒に留守番するかい?』

 

「んぐっ!?いやいや、そんなの無理!絶対無理!」

 

 唐突に一人大騒ぎを始めるが、トーヤは全く反応しない。

 顔を赤らめつつ、どうしたものかと悩む褐色娘だが、ふと悪戯心が働き寝ている彼の隙だらけの脇腹を見た。

 無防備に晒し、防ぐものもないそこを見て、これでもくらえと手を伸ばす。

 行ったのは、子ども遊びのようなくすぐり。

 彼に効くのかは分からないが、どうにも気になりそのまま行動に移してしまった。

 こちょこちょと脇腹を適当にくすぐってみるが、彼の反応はない──わけでもなかった。

 

「んぐっ。うぅ~……」

 

 一瞬ビクッと身体を振るわせ、口元を歪める。身をよじりベッドの上で逃げようとした。

 おや。とティオナも一度手を止める。それに合わせまたすやすやと寝息をたてる。

 そして、再度手を動かすとまたやや唸り始めた。

 

「これなら起きるかも!」

 

 なんて口に出しつつ、若干楽しくなってる自分もいることに気付いていた。

 それでも意中の相手を起こすためとはいえ、こうして触れあえるのは嬉しかったりする。

 

「うぅ~……む。なんだよティオナ……。俺まだ眠いんだけど……」

 

 楽しみながらくすぐりを続けていると、いまにも落ちそうな瞼を堪えて開いた青年が声をかけた。

 ようやく起きた彼に、くすぐりを止めると自身がいた経緯を話し、早く起きろと掛け布団を引っ剥がした。

 ややふてくされた様子で起き上がるトーヤ。大きな欠伸をしつつ一旦部屋を出てどこかへ向かっていった。

 その後を特に追うこともなく彼のベッドに座って待つ少女。

 まだ彼の温もりが残るベッドに手をつき、少し顔を赤くしてその暖かさを感じていた。

 

「暖かい……」

 

「よし目が覚めたっと。んん?ティオナさんや何をしてるんだい?」

 

 意識が集中し始める寸前、彼の声で現実に帰ってくる。

 顔を洗ってきたのかぱっちりと開いた目は、その黒い瞳に少し惚けた少女を映していた。

 反射的に立ち上がり、大きく手を振りなんでもないと作り笑いを浮かべてベッドなら離れる。

 不思議そうな顔で彼も見ていたが、着替えるから外で待ってろと言い少女を押し出し扉を閉めた。

 

「……はぁ~、危なかったぁ」

 

 閉まった扉を見てから少し離れ、そこでようやく息を吐いた。酷く焦っていたので額からは汗が一筋流れた。

 再度一人になり、手に残る先ほどの温かさを何度も振り払い、と思えばやはり思い返して気の抜けた顔を臆面もなく晒し、完全に挙動不審になっていた。

 そんな一人芝居をしている少女を露知らず、着替えを終わらせた青年は窓から外を見ていた。

 それなりに景色が良い部屋をもらっており、町の中心を見て今日も建つバベルに視線を向けていた。

 思い返すは昨日の主神との会話。

 

「どうすっかなぁ」

 

 溜息をついてこぼした言葉を、自身の中でも再度繰り返す。

 未だに鍵となるような人も事柄もない現状では、どうすることも出来なかった。

 

「考えても今は無駄だな。待たせてるし、早く向かうとするか」

 

 思考を切り替え、外で待たせている少女に悪いと思い常に持っている杖と小太刀を手に取り部屋から出る。

 開けた扉からやや離れた位置で、なにやら一人自問自答らしきものを繰り返している少女に近づき、不意打ち気味に声をかける。

 

「待たせて悪いな。なんか考えてるみたいだがどしたよ?」

 

「ふぇっ!?い、いや!?なんでもないよ!うん、なんでもなひ!」

 

 完全に上の空な彼女は、近づいてくる彼に気付くことはなく、いかなりかけられた言葉に素っ頓狂な声をあげて驚いた。

 その上噛むという慌てように、赤面したが彼は気にした様子はない。

 それにほっとしつつも、反面なぜかショックを受けたが、それは心の中にしまっておいた。

 

「とりあえず追うか?今行っても追いつけない気もするけどな」

 

「それじゃあ【ゴブニュ・ファミリア】のところ行ってもいいかな?壊した大双刃(ウルガ)の新しい奴頼みたいからさー」

 

「おー分かった。俺は一人じゃダメだし、ついていくわ」

 

 外に向かいつつどこへ向かうか話し、彼女からの提案を受け【ゴブニュ・ファミリア】がある区画へ行くことにした。

 彼女の言ったそのファミリアは、鍛冶の神が作った派閥でもう一つある同業の派閥には名声などは劣っているがその腕は良く、依頼を受けてから作り始めることもあり多くの冒険者たち御用達であった。

 彼も行きたいとちょうど思っていたので良かったが、彼は一人では外を出歩いてはいけないというルールがあった。

 それを決めたのは彼ではなく、主神のロキなのだが、それには特に反対することもなく彼も従っている。

 彼を想ってそのルールを決めたことを知っているので、当時は良く感謝をしたなと思い返す。

 

「いつも悪いな。ことあるごとについてきてもらってる気がするぜ。今回は別だが」

 

「いつものことだから大丈夫だよー」

 

 彼の言うとおり、彼がどこかへ行く際は高確率でティオナがついている。

 それは単に彼を好いているということ以外にも理由はあった。

 

「【大切断(アマゾン)】だ!」

 

「側には【未来予知(フューチャーフォーキャスト)】もいるぞ!」

 

「俺の未来を見てくれよ!」

 

「私も見て!」

 

『俺たちもだ!』

 

『私たちも!』

 

「……」

 

 寄って集まってくる人々を無愛想に見て無言で溜息をつく。

 彼が一人で外へ出歩いてはいけない理由、それはこうして彼のスキルに食いつき集まる人々を剥がすためだ。

 彼のスキルは既に町中に知られており、その二つ名も相まって、彼を見かけた者はほとんどが未来を視て欲しいと近寄ってくる。

 これを押し返すには、それなりに力があり名の知れた者でないといけなかった。

 また、そのスキルを羨み妬み闇討ちを仕掛けるものや、彼を自派閥に入れようと誘拐を企てる者もいる。それらの襲撃にも対応しなければいけないのだ。

 そのためファミリア内の下級冒険者たちが候補から消える。

 それに加え、上級冒険者たちも手が空いているものは少ない。

 団長であるフィンやリヴェリア、ガレスなどはそう安易に外へは出れない。

 また、ティオネやベートは護衛には向いていない、というか、下手すると逆恨みを買いかねない。主にベートだが。

 他にも上級冒険者に類する者はいるが、護衛する以上彼より強くなければいけない。

 そうすると残るのは、ティオナ、アイズだけとなる。

 アイズに頼まれることもあるのだが、彼女は暇さえあればダンジョンに行ってしまうため消去法でティオナが担当することが多くなるのだ。

 最初の頃はやけに多く回ってくる護衛役にぶうたれることが多かったティオナだが、恋心を知覚してからはむしろ回ってくることを期待し始めていた。

 

「はいはい集まらないでねー。こっちにも予定があるから道を開けてねー」

 

 集ってくる人々をかき分け、目的地に進んでいく彼女の後を黙々とついていくトーヤ。

 彼は毎回こうした役を彼女に押しつけることを申し訳なく思っていた。

 本当は同性のアイズたちと遊びたいのだろうなと思い、常々彼女を気にしていた。

 

「毎度ながら本当にすまんな。こんなスキルがなけりゃ、ティオナにも迷惑かけることはなかったんだが……」

 

「いーのいーの!私は迷惑だと思ってないから気にしないで!さっきも言ったでしょ?大丈夫だってね」

 

 何度目かの謝罪を彼女は笑みを浮かべて流す。

 気にしてないと口にはしていたが、本当は彼に集る人々に内心うんざりもしていた。

 

(図々しいとは言わないけど、毎回断ってるんだからいい加減諦めて欲しいなー)

 

 そう考えながらも、彼のスキルがこうして人を集めるせいかおかげか、彼と一緒に行動出来ている。

 彼の気持ちには申し訳ないと思いつつ、今こうしていれることは嬉しかった。

 そんな浮き足立っている彼女を見ながら、スキルを使い未来を視ているトーヤ。

 特に意味はないが、強いて言うなら彼女になにが起きるか見ていた。

 

(何が起きるかな~っと)

 

 ()()()()()()()()()で未来を視れるそのスキルは、実は視れないことは滅多になかったりする。

 誰を見てもなにか起きている、それこそ小さいことから生死を分けるような大きなことまでいろいろあるのだが、大体は何か見れる。

 むしろ、見れない場合の方が珍しいのだが、例外として超越存在(デウスデア)である神々の未来は見えない。

 彼らの力である神の力(アルカナム)は封印されており、人並み以下の力しかないのだが、その未来。彼には視ることが出来なかった。

 入団初期の頃は幾度か試したのだが、何度やってももやがかかっていたり、視界が真っ暗でなにも見えなかった。

 拒まれているようにも感じた彼は、それ以降視るのをやめたが未だに理由は分からない。

 それ以外にも未来が繋がっていないものは見れない。そもそも視る未来がないのだから当然なのだが、そんな人物にはあったことがなかった。

 だから今視ているティオナの未来ももちろん彼の瞳には映っている。

 

(あいやまぁ。借金するのか。まあ、あの武器金かかりそうだしなぁ)

 

 この先──大方目的地──で借金をする姿が見えた。

 苦笑しつつ今度ダンジョンに潜ることを勧めとくか、と思考の片隅に置き後を追う。

 そんなことを知るわけもない彼女は、ようやく着いた目的地で見覚えのある後ろ姿を発見する。

 

「あっ、アイズー!」

 

「ん、ティオナ……」

 

 ちょうど中に入ろうとしていた同派閥の金髪少女アイズに飛びつく。

 少しよろけながらも彼女を受け止めた後、その後ろに寝坊した青年を見つける。

 

「おはよう。また寝坊したんだね」

 

「その話はやめてくれ……。たぶん後で団長に言われるから……」

 

 毎度のことなのにねー、とティオナが脳天気に言っているのをスルーして溜息をつくトーヤ。

 寝坊するたびに部屋に呼ばれお説教を受けている彼からすれば、実に頭が痛い話だ。

 反目になり顔を歪めながらもアイズを促し中に入る。

 そして、入ってきた三人、主にティオナを見て悲鳴が上がった。

 

「まあ、そんな気もしてたけどな。未来を見たわけじゃないけど」

 

 そう呟きつつ、ごねる集団を避け空いている鍛冶師に、自身も持ってきた小太刀の整備を頼む。

 快く引き受けてくれた鍛冶師に感謝の言葉を送り、終わる様子がないティオナたちを見てしばらくは笑みを浮かべていたが、ややしてから仲裁に入っていった。




筆が乗ってすぐに書いてしまった……。

お気に入りをしてくれた方々ありがとうございます。
ペースは不定ですが今後もよろしくお願いします。

それと、感想にて原作の誤字指摘ありがとうございました。
原作名間違えるってなによ……(頭抱え)
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