その瞳に映る未来を   作:キイカ

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異形の怪物

 

 

 出現した蛇のように見えた花の怪物と対峙するアイズたち。

 一個体が大きく、その体からいくつも伸びる触手にも似た黄緑の突起物。

 数では勝っていても、未知のモンスターとの戦闘は、えてして不測の事態が起こりやすい。

 下手な攻撃をするよりかは、敵の情報を得ることを優先し、距離を取りつつ動きを見極める。

 うねる突起物で五人に襲いかかってくる。

 

「来るわよ!散開して手堅く攻めなさい!」

 

「分かりました!」

 

 すぐさま飛び退き、指示を出すティオネにレフィーヤが代表して応えた。

 アマゾネス姉妹が一匹に取り付き、素早く動きながら隙を作るように翻弄する。

 金髪の女剣士はその手の獲物ですぐに斬りかかり、向かいくる突起物を落としていく。

 そして、魔法主体の二人はというと──

 

「レフィーヤ!詠唱を開始しろ!お前への攻撃は俺が受け流す!」

 

「わ、分かりました!でも、どうする気ですか!?」

 

「知ってたんだから、小太刀を持ってきてる!」

 

 ──左腰から小太刀『月夜』を抜刀するトーヤ。

 全長六十センチ程度、刃の部分四十センチほどのそれは、明らかに未確認モンスターには役不足だったが、彼は切り落とすことが目的ではなかった。

 背後に立つレフィーヤの詠唱を成功させるため、それだけだ。

 トーヤも魔法は使えるが、両者とも詠唱に集中してしまったらなぶり殺しにされかねなかった。

 ならば片方が攻撃を受け止める役をするのは妥当なことだろう。

 レフィーヤはなにも持っていなかったため、持っていても彼女は近接戦闘が得意ではないと知っていたので、請け負うのは必然だった。

 右手に持ち視界の突起物を捉える。

 

「数が多いな。あんまり長くは持たせられなそうだ」

 

「は、はい!【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり】」

 

 急げと言外に言われ、すぐさま詠唱を開始する。短文詠唱という詠唱時間の短い魔法で、高速戦闘にも対応しやすい。

 山吹色の魔法陣(マジックサークル)が足下に展開され、魔力が充填されていく。

 聞こえてくる澄んだ声を背に、向かいくる突起物を切り裂くのではなく、峰を使い弾いていく。

 

「かぁ~、力技は俺向いてないんだがな。まあ、やってやらなきゃ面子がたたんな」

 

 無数に襲いかかるそれらを片手の小太刀一本でいなしていくが、手数が足りていない。

 明らかに逸らすことが出来ない攻撃は、レフィーヤに伝え大きく避ける。

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!トーヤさん!いけます!」

 

「おうよ!いつでも──レフィーヤ!後ろ!」

 

「──え」

 

 二手に分断されたが、無事詠唱を完成させた彼女の声にそちらを見た。

 そして、急激に標的を変えたそれらに気付き、間に入ろうと動くが──遅かった。

 容赦なく伸ばされた突起物がレフィーヤを横腹から殴打する。

 防具も付けていない上、後衛魔導士の彼女は体力の値は低い。

 打ち上げられ、鈍い赤色の液体を吐きながら飛ばされるレフィーヤ。

 

「──あ」

 

「くっそがぁ!」

 

 吹き飛ばされた彼女を受け止め、その場からすぐに離脱する。後には突起物が襲来し、地面を粉砕していた。

 彼の罵声は三人にも届いており、何が起きたかは視界に収められていた。

 

「レフィーヤ!」

 

「ああもう!邪魔ぁ!」

 

 纏わりつく突起物を素手で弾くが、

 

「くぅぅ……」

 

「かったぁい!」

 

 打撃に対して耐性があるらしく、彼女らの高い力による徒手空拳も効果が薄い。

 むしろ殴った二人の方が腕を抑えてしまうほどで、現在いるメンバーの中で特に秀でてる二人が適わないのならば、打撃は得策ではないのが分かる。

 自分を慕う少女が敵の凶撃を受けたのを冷静に受け止め、しかし振るう腕には力が入る。

 レフィーヤを抱え攻撃を避けながら路地裏に移動したトーヤは、すぐには突起物が来ないことを確認し懐から非常時用に持っていた回復薬(ポーション)を取り出し、酷く衰弱した彼女に飲ませる。

 

「高等な奴じゃないが、我慢してくれ!」

 

 瞳には涙が浮かんでおり、口から血とともに飲みきれなかった薬が流れていく。

 多少なり回復はできたのだが、すぐには動けそうにない彼女に苦虫を噛み潰した顔になる。

 

「下手に狙われたら危ない……しかし、なんでいきなりレフィーヤが……」

 

「と……トーヤ、さん」

 

「なん──」

 

『オオオオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

 なんの前兆もなく彼女に群がった突起物を疑問に思い、考えていると負傷したレフィーヤが震える唇で名を呼び、弱々しくあげられた腕が背後を示す。

 一瞬自身の未来を回想し動きが止まったが、それもすぐに聞こえてきたモンスターの咆哮で断ち切られる。

 振り返る頃には──迫る花の怪物。

 醜悪な形相で口を開け、二人を喰らおうと接近してくる。

 ほんの一瞬止まってしまったことが仇となり、振り向いてから小太刀を振ろうにも防ぎきれない。

 そもそも小太刀のサイズでは一緒くたに喰われてしまう。

 完全にタイミングを逃し、どうすることも出来なくなった二人は、少女は目をつぶり、青年は目を見張った。

 少女はいつか見た光景をフラッシュバックさせ、この先また自分は憧憬を遠くするのだろうと涙を落とした。

 そして──

 

「──レフィーヤたちはやらせない」

 

 ──刹那で前に現れたアイズが、咲いた花の先端を斬り裂いた。

 レフィーヤは予想通り助けられ、悔し涙をバレないように流した。

 剣についた血を振り払い、ちらりと後ろを見て怪我がないことを確認するとまた飛び出していく。

 

「このままじゃこっちも危ういか。レフィーヤ動けるか?とりあえずお前さんを安全なところまで連れてくぞ」

 

 頼もしい仲間の後ろ姿を眩しく感じつつ、震えていたレフィーヤに声をかける。

 

「……かはっ。けほっ、はぁはぁ、い、いえ。私も手伝います。私にだって出来ることはあるはずです!」

 

 大きく咳き込み血を吐き出し、息を整えて強い意志を込めた眼差しで見返す。

 思わずその体でか? と言いそうになってしまったが、その瞳が引かないこと告げてきたため、一度息を吐いた。

 

「分かった。もう一度詠唱するなら今度こそ守ってやろう。大丈夫だ、今度はあいつらも来てくれる」

 

「はい。いきましょう!」

 

 路地から出て攻防激しい戦場に戻った二人。

 レフィーヤが帰ってきたことに驚いている姿が見えたが、気にしていない。

 少女は、心のなかに憧憬の存在を浮かべ、力強く詠い出す。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う】!」

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じて草原へと来たれ】」

 

「【繋ぐ絆、楽園の契り。円環を廻し舞い踊れ】」

 

 美しく清らかに紡がれる彼女の詠唱(うた)

 詠い始めてから迫ってくる怪花の攻撃を、トーヤが峰で弾き、しかし弾ききれなかったものは──

 

「行かせるかっての!」

 

「……止める」

 

「私も混ぜてっ!」

 

 ──上から強襲したアイズたちがいなしてくれる。

 目の前で自身を守ってくれる強い仲間に感謝し、それに報いるために詠唱を続ける。

 

「【至れ、妖精の輪】」

 

「【どうか──力を貸してほしい】」

 

 山吹色の魔法陣は強く輝く。

 

「【エルフ・リング】」

 

 魔法の名を告げた瞬間、山吹色は翡翠色に変わる。

 周りのモンスターもその魔力の高まりに気付き、それを止めるために幾度も攻撃を仕掛ける。

 その全てを弾き、いなし、止める四人。

 何度も殴り続けたティオナとティオネの手は赤くなっており、アイズの剣はどこかで折れたのか刀身がない。

 トーヤも力技で押し返しているため息が切れてきている。

 その全てを視界に収め、絶えぬ感謝と、その後ろ姿を追いすがる気持ちで、レフィーヤはさらに紡ぐ。

 

「【──終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

「これは……!」

 

「レフィーヤのじゃないわねっ!」

 

 襲い来る花を殴り飛ばしながら詠唱を聞く。

 それは彼女のものではない魔法。

 

「リヴェリアの……」

 

「さすがだな。やるときはやるのがレフィーヤだ」

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

 折れた剣を巧みに使い弾くアイズと、峰を使い弾くトーヤ。

 表情の変わらない少女は内心頑張れと応援し、青年はやってくれると期待する。

 なんとか詠唱を止めさせようと花の怪物も、立ちはだかる四人をかいくぐりレフィーヤを狙う。

 しかし、彼女の集中は途切れず、詠いながらひらりと回避していく。

 詠唱は終わりへ近付く。高められた魔力は、その時が来るのを待っている。

 

「【吹雪け、三度の厳冬──我が名はアールブ】!打ちます!」

 

「おうよ!全員射線から退避だ!」

 

 詠唱を終わらせた少女からの声にすぐにトーヤが反応し、各自移動を計る。

 背後に大きな魔法陣を出現させ、いつでも発射できるように待機している。

 そして、四人が移動を終えたところで、

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

 ついに時間すら凍らせる三条の吹雪が放たれた。

 回避など叶わなかった花の怪物たちは纏めて氷像に変わり、太陽の光を美しく反射させる。

 物言わぬ彫刻に変わったそれらに止めを刺しにいく。

 

「これで終わりよ!」

 

「いっくよー!」

 

 凍った二体の近くに降り立ち、鏡合わせのように動いて回し蹴りを仕掛ける。

 粉々に砕け散った怪物と氷が二人の周りを落ちていく。

 煌めく氷はまるで一つの絵のようにその場を飾り立てた。

 

「やれやれ。今回はほとんど役に立てなかったな」

 

「そう……?」

 

「そうだよ。未来視えといてレフィーヤに任せっきりだったしな。もっと強くならなきゃなぁ」

 

 巻き込まれて凍っている通りの一部を視界に収め、疲れたような雰囲気を出すトーヤ。

 ティオナたちと同じように氷を斬り砕いてきたアイズは、別の剣を帯刀していた。

 そうなの? と言っているような口振りに、自ら肯定し大口叩いて負傷させた後輩を案じる。

 トーヤのせいではないと言いたかったアイズだが、強さを求める彼の瞳が、酷く悲哀の色を残していることに気付き、黙り込んだ。

 

「今も十分強いと思うよ……?」

 

「ははっ。アイズに言われたらそうかもしれんが、それでもまだ足りない。足りてないから、今日だって、いつかの未来だって……」

 

 なんとか声に出せたのは、現状の彼を肯定する彼女の掛け値なしの言葉。

 それを素直に受け取ったが、彼はどこかを見て小さく呟く。

 最後の一言は、強化された聴覚がなければ聞こえなそうなほど、小さかった。

 彼のそれがいつのことを指しているのか分からないアイズだが、なんとなく雰囲気でそれは良くないものだと察した。

 そこに、周りの者たちも集まってくる。

 

「なーに話してんのっ?」

 

「あら、レフィーヤ。さっきはありがとね」

 

「い、いえ!むしろ守ってくれてありがとうございました!」

 

 後ろからアイズに抱きつきトーヤとの会話に入ろうとするティオナ。

 怪我しているレフィーヤ(武功者)に近付き、肩を貸しながら先の戦いのことを感謝するティオナと、やや赤い顔をで感謝仕返すレフィーヤ。

 女三人寄れば姦しいというが、本当に騒がしくなった。

 

「レフィーヤを除けば他は大丈夫そうだな。ロキに報告するか」

 

「そうだねー。でもどこにいるのかな?」

 

 四人の顔を見てから負傷者が他にいないことを確認し、ロキを探してあたりを見回す。

 ティオナも同じように真似ているが、近くに彼らの主神の気配はなかった。

 

「たぶん、助けた女の子を送り届けてるはず。ギルドに行けばいいと思う」

 

「そっかー!それじゃギルドに向かお!」

 

 自身が持っていた剣を受け取ったときのことを思い浮かべ、そう発言したアイズに、ティオナが賛同して歩き始める。

 別の話をしていたレフィーヤたちも話しは聞こえていたのか歩き始める。

 三人の後を追おうとしたトーヤは、視界にいたはずの三人が消え、代わりにまるで炎のような赤い何かで埋め尽くされるのを視た。

 

「トーヤ……?」

 

 動きの止まった彼を不思議に思ったアイズが声をかけるが、反応はない。

 アイズの声にいち早く気付いたティオナが振り返る。

 どこか遠く、今ではないどこかを見ている彼の姿に、ダンジョンで起きたことを思い出し、不安に駆られる。

 

「どーしたの、アイズ?」

 

「トーヤが、急に止まった」

 

「それって、もしかして……」

 

 アイズの言葉に自身の考えは合っていたことを悟る。

 ということは彼は未来を視ているということにも繋がるが、オンオフは彼に主導権があり、それが強制的に起きるとなれば、後はもう考えなくても分かる。

 

(なにか起きるっ!?でも、なにが?)

 

「ティオナ?」

 

 辺りを見回し始めるティオナに倣ってアイズも確認するが、特に変わった様子は見られない。

 杞憂だったのかと息を吐き、未だに制止しているトーヤに近付く。

 目の前で手を振っても、声をかけても動かない。

 どんな未来を視ているか気になるが、現実に帰ってきてもらわないと話しにならない。

 

「トーヤ?おーい、帰ってきてー」

 

 肩を揺さぶりながら声をかける。

 周りにはいつの間にかティオネたちもおり、不思議そうな目を彼に向けている。

 彼のスキルのことは団のほとんどのメンバーは知っているが、詳しいことを知っているのは限られた者だけだった。

 ティオナは少しだけ彼から聞いてはいるが、具体的なことは知らなかった。

 

「……っ。あー、あぁ。すまん。またぼーっとしてた」

 

「しゃんとしなさいよねー。襲われても知らないわよ?」

 

「そこは助けましょうよ……」

 

 ようやく帰ってきた彼の言葉にティオネが茶化す。

 レフィーヤがおろおろしながらも発言するが、ティオネは知らんぷりして行ってしまった。

 アイズも表情は変わっていないが、安堵したように肩をおろし、行きましょうと近寄ってきたレフィーヤに押されて前に歩き出す。

 唯一ティオナはトーヤの顔をじーっと見て止まっている。

 

「ティオナ?俺の顔になんかついてるか?」

 

「……いや?また未来を視てたのかなって思ってたんだけど」

 

 何も言わずに視線をぶつけてくる彼女に、やや気後れしつつ話しかける。

 彼女も臆することなく自身が考えていたことをぶつけ、そこからまた見つめてくる。

 いつになく真面目な彼女の表情とその言葉は彼を動揺させるのには十分で、一瞬視線が左上にいったのに気付いた。

 それを見逃す彼女ではなかった。

 

「やっぱり。ねえねえ、どんな未来を視たの?」

 

「ぐぅっ。……はぁ。誤魔化せたと思ったんだがな」

 

 見事にバレてしまい諦めたように息を吐いた。

 真っ直ぐな彼女の瞳を一瞬見返し、すぐに空へと逸らす。

 

「この前のミノタウロス狩りのときと同じ感じなんだもん。私でも分かるよ。まあ、あの時は私しかいなかったけどねー」

 

 真面目な顔はすぐに平常通りの笑顔に変わった。

 花が咲いたようなその笑みは、逸らしていた視線も引きつけ、彼が隠していたことすら引き出させてしまう。

 

「あー、そうだなー。朝言っただろ?面倒事に巻き込まれるって」

 

「言ってたねー。それとなにか関係あるの?」

 

「あるというか、まあ、まだ終わりじゃないみたいだ」

 

 ようやく話した視た未来のことに、彼女もそれとなく真面目な雰囲気になる。

 笑顔はそのままだが、瞳からは強い気持ちが感じられた。

 それが彼にはなにか分からなかったが、鈍感だから仕方ないだろう。

 

「てことは、まだモンスターがいるの?」

 

「みたいなんだが、どこか分からなくてな。視えたのは視界を覆う真っ赤な何かと、何かの咆哮だけなんだよな」

 

「うーん、真っ赤だと炎しか思いつかないなー。咆哮はモンスターなんて大体するから分かんないね」

 

 彼の話した情報から考えてみるも、赤い何かが炎だろうとしか分からない。

 不定期でどこまで先かも分からない彼のスキルによる未来視は、あくまで起きる事柄の予知であり、指定できるわけでもないので便利とは程遠かった。

 それでも彼に集る者は絶えないが、それもそのことを知らなければ、いや知っていても仕方ないのかもしれない。

 

「本当に宛にならんスキルだよまったく。なんでこれで集られないといけないんだが」

 

「私でもそのスキルがすごいのは分かるからね。未来なんて、普通の人には分からないところだから」

 

 言外にどうしようもないと告げられたような気がしたトーヤだが、彼女の言葉に裏はないと性格的に分かっているから、溜息をつくことしか出来ない。

 

「未来が視えるからって、良いことだけじゃないのになぁ」

 

 しみじみと呟く彼の言葉に、彼女は同意も同情も出来そうになかった。

 表情こそ変わっていないが、その声色が酷く悲しそうだったから。

 常の彼からは感じられない哀愁漂う物言いに、思わず唖然としてしまう。

 

「っと、湿っぽい話は良くないな。それでまあ、どっかで俺の視た未来が起きるかもしれないから、ちょいと動こうかなと考えてたわけだ」

 

「そ、そっかー。私も手伝おっか?」

 

「そりゃあ助かるが……もしかしたら危ない目に遭うかもしれんぞ?」

 

 何も言えなくなっていたティオナの様子に気がついたのか、すぐに話を変える。

 固まっていた彼女もなんとか返事はしたが、やや詰まっていた。

 手助けの申し出にはありがたそうに頭を下げていたが、予測不能の事態に出くわすかもしれないと問いかける。

 

「大丈夫っ!そんなのぶっ飛ばしてやるんだから!」

 

「ははっ。心強い限りだ」

 

 対する彼女は溌剌とした笑みを浮かべ拳を振り抜いた。

 空気を切る音に苦笑いが漏れるが、頼もしいこと限りないと素直に感謝した。

 ふと声が聞こえ、そちらを向くと先に行ってしまった三人がこちらを見ていた。

 

「おっと。置いてかれたみたいだな」

 

「詳しいことは後にして、追いかけよっ!」

 

 すぐさま走り出した彼女の後を彼が追いかける。

 遠くからティオネとレフィーヤは、それを楽しそうだなと思いながら見ていた。

 

 

 

「報告はそんなもんか。それじゃあ、アイズたんはうちともう少し付き合ってもらうで。レフィーヤは怪我を治し次第ティオネと地下の方、トーヤとティオナは気になることがあるんやったな?それ任せるからちゃんと帰ってきてくれな?」

 

 五人の報告を聞き、各々にこの後の動きを伝えるロキ。

 まだ怪我を治していないレフィーヤには気遣いを、気になることがあるというトーヤたちには元気で帰って来いよ、と言外に伝えた。

 

「りょーかい。とりあえず杖取り帰らないと」

 

「わたしは新しい大双刃(ウルガ)取ってくるね」

 

 主神の心遣いを感謝しつつ二人も今後の動きを打ち合わせする。

 借金返すの大変そうだなと思ってしまったが、今はそれを片隅に置いておく。

 アイズはロキに従い、レフィーヤとティオネはギルドの職員についていく。

 各々片手でハイタッチして解散する。

 それぞれの目的地へ向かうために。

 

 

 

「まったく見つからん。まさか【未来視】が外したのか?」

 

 互いの獲物を取りに行って再合流したトーヤとティオナは、現在手掛かりが見つけられず立ち往生していた。

 彼の言うとおり【未来視】が外れることはほとんどない。

 干渉した結果未来が変われば、それは視た未来とは違うため分かるのだが。今の二人は探索をしたというのに、何一つ先ほど視た未来に繋がるものが見つけられずにいた。

 

「外れることなんてあるの?未来を変えれたんじゃないかなぁ」

 

「それならいいんだが、ただ辺りを探し回っていただけなのに、変わるってのも変な話なんだが……」

 

 未来など知らない誰かの行動や一言で変わるのは分かっているのだが、それにしては()()()()()()()()

 

「あんな未来なら多少なり似たこと起きそうなんだが、なにも起きないぞ?完全に変わったってことなのか?」

 

 未来に干渉した結果、変わるのは有り得ることだ。それは大なり小なり似るのが普通なのだが、それにしては今の状況はおかしいと、彼の警鐘が鳴っていた。

 

「うーん。私には分かんないけどー、何も起きないならいいんじゃないかな?それとも、変えないといけないなにかがあるの?」

 

「……」

 

 大双刃片手に周りを見渡し、何もないことを再三確認する。

 素直に思ったことを彼にぶつけてみると、なぜか反応がなくなった。

 また未来を視ているのかと顔を覗き込んでみたら、驚いてしまった。

 

「と、トーヤ……?」

 

 思わず後ずさり名を呼ぶが、彼の瞳は()()()()()()がありありと浮かんでいた。

 しばらく固まっていたトーヤだが、ようやく我に返ると驚愕の形相のティオナを見て苦笑いを浮かべた。

 

「すまんすまん。ちょっと昔のことがな。気にしないでくれ」

 

「……っ。ねぇ、昔の事ってなに?今の状況に関係するなら教えてよー」

 

 彼が動き出したことでようやく表情を戻し、やや強張った声色だが平常通りを装い問いかける。

 彼女の質問に一度視線をぶつける。

 思わず視線を逸らしそうになってしまったが、ここで逸らしては彼を知れないと思い、真正面から受け止めた。

 暫し絡まる二人の視線。

 先に根をあげたのは──トーヤだった。

 

「……はぁ~。そんなに真面目に聞かれたら濁すことも出来ないじゃねぇか。まったく強気なお嬢さんだ」

 

「だってー、気になるんだから仕方ないじゃん!でも、話したくないことなら別にいいからね?そこまで私も無理させて聞きたいわけじゃないし」

 

 大きく息を吐き、やれやれと手を振りティオナを茶化すが、それも効果はなかったようだ。

 彼女も笑みは浮かべてはいるが、彼の話すことを無理強いさせようとはしていなかった。

 そのことがどこか嬉しく感じたトーヤだが、それがなぜかは分からなかった。

 

「そうだなぁ。俺は小さい時から未来が時々視えてたんだ。もちろん今みたくオンオフとかは出来なかったが」

 

「まあ、視えた未来を誰かに話すことはあったんだが、取り合ってくれる人は少なくてな。まあ、仕方のないことだとは幼い俺でも分かってたんだ」

 

「だからあんまり話さないようにしてたんだが、どうしても気掛かりなことがあってな」

 

 昔あったことを語り始める。

 人の少ない夜の通り、分かれた路地裏に移動した二人は壁に寄りかかり話しを続ける。

 

「俺が視た未来で不幸があると、実際にそれが起きたときに酷く悲しくなるんだ」

 

「なんかこう、罪悪感みたいなものが俺を襲うんだが、それも今だから分かるんだがな」

 

 当時感じた名も知らない感覚を思い出し、小さく体を震わす。

 

「たぶんな、俺は自分が知っていながら変えれなかったことを後悔してたんだと思う。分かっていながらなにも出来なかった自分を責めてたんだ」

 

「きっとそれは力のない者だから仕方がないと、割り切れれば良かったんだ。だけど俺には出来なかった」

 

「未来を知った者の業と言うべきか、責務と言うべきか。変えれる可能性のある未来をみすみす無視するのは、どうにも俺が納得いかない」

 

 杖を持つ左手と反対の手を握り締める。

 強く握られた手は震え、その中に彼の決心が込められているようだった。

 

「だからな?俺は視た未来には干渉して、誰かが傷つくのを止めたいんだ。それが知人ならなおさらだし、知らないやつでも、いつか巡り会うのかもしれないから」

 

「自己満足だし、周りに迷惑をかけることも分かってはいるが、こればっかりは止められない。助けられる可能性を放り投げてしまったら──」

 

 ──それは力を持った責任も放り投げたようなもんだから。

 言外にそうはなりたくないと感じたティオナは、言葉を探して押し黙る。

 そんな彼女に返答を急かすようなことをするわけもなく、ただ無言の時間が過ぎていく。

 空には星が浮かび、真っ暗な空を小さく照らしている。

 

「分かった。ならトーヤが納得するまで探そう」

 

「ティオナ?」

 

「だってそういうことでしょ?後悔したくないなら、動くしかない。そうじゃないの?」

 

「まあ、そうだが……ったく。散々考えてたのがアホらしくなるようなぶった切りようだな」

 

 ようやく動いた彼女の口は同意を示した。

 自身の名を呼ぶ彼にさらに言葉を重ねる。むしろ押し返すように問い返した。

 間違ってはいないことに肯定してしまったが、そこでもう考えるのをやめた。

 彼女の言うとおり気になるなら動けばいい。その結果に納得できるまで。

 実に彼女らしい激励だ。

 

「私は考えるの苦手だからねー。動いた方が楽だから!」

 

「お前らしいこった。まあ、ありがたいがな。それじゃあもう少し付き合ってもらってもいいか?」

 

「もちろん!」

 

 悩みなど吹き飛んだような笑顔を浮かべたトーヤに、それを見ていたティオナは顔を赤くする。

 

(ちょっ、その笑顔は反則!眩しすぎ!)

 

「ん?どした、ティオナさんや」

 

「な、なんでもないっ!」

 

 赤面している彼女に気付き、聞いてみるが、焦ったように言って逃げられてしまう。

 後を追い通りに出るも、内心なぜか分かっていなかった。

 

(ただ笑ってただけなはずなんだけどなぁ)

 

 追いかける彼女の後ろ姿を見て、不思議な気持ちになるのだった。

 

 

 

 結局追いかけっこをしながら街中を探したが、不審なものもなく、何も起きなかった。

 違和感が残るが一応の納得をしたトーヤは、未だに顔の赤いティオナに帰還することを伝えた。

 間もなく頷き、ホームへ向かう。

 

「あれは今日じゃなかったのか。そう考えるべきか、はたまた未来が変わったと見るべきか」

 

「もう少し先だったんだよ!トーヤのスキルは未来を視てるんだから、今日だとは限らないと思う!」

 

「そう言われればその通りだなぁ」

 

 どうにも気になる今日視た未来を思考していた彼に、助け船を出すティオナ。

 納得したトーヤもその件について考えることを止め、大きな欠伸をした。

 

「んー、戻ったらすぐ寝るか。眠いわ、いろいろあったからな」

 

「いろいろあったねー。せっかく祭り楽しんでたのに、大変だったよー」

 

 一日の出来事を想起している彼に彼女も同意する。

 彼女は内心邪魔されたことに憤慨してたりするが、おくびにも出さない。

 そんな感じで雑談しているうちにホームにつく。

 二人揃ってロキの部屋に行き、報告をする。

 

「そうか。特に何もなかったか。まあ、トーヤのそれは仕方ないな。今日はゆっくり休んでくれな」

 

「ほーい。それでは」

 

「おやすみロキー!」

 

 何か考えているような素振りを見せるロキを気にしつつトーヤたちは部屋から出た。

 そのまま塔を降り、お互いの部屋のある階で別れる。

 

「んじゃ、おやすみティオナ」

 

「トーヤもおやすみー!明日も寝坊しちゃダメだよー!」

 

「いやだからしない、ってもういねぇし」

 

 就寝の挨拶をしたと思えば朝の出来事を掘り返してくる彼女に、抗議の言葉を投げようとしたが時すでに遅し。

 その姿はなく、場に残っていたのはトーヤのみ。

 

「早すぎだろ。忍者かあいつは」

 

 ぼやきながら部屋へと向かっていく。

 その後ろ姿を咄嗟に隠れていたティオナは確認し、息を吐く。

 

(はぁ~。今日の出来事振り返ってから顔が熱いよー!なんとか冷まさないと、ティオネに遊ばれる……!)

 

 部屋へ入っていく彼の姿を見届けてからティオナも部屋に向かう。

 赤い顔をどうやって抑えようか悩みながら歩くが、今更どうしたところで姉は感づくだろうと察し諦めた。

 その後部屋についた彼女が姉から弄られ、騒ぎ始めるのは予想通りだっただろう。

 誰のとは言わないが。彼女の様子に気付いていた神だとは言わないでおこう。彼女の沽券に関わる。




微戦闘回です。
小太刀の峰を筋力で使ってたら折れそうな気もしますが、素材が良かったのでしょう。
もう少し戦闘の描写も出来るようになりたいです。

これにてソードオラトリアの小説一巻分が終了です。
次回は誰かさんの幕間的なものを書いてみようかなと。
一人称を予定していますが、不慣れなので文字数は減るかもしれません。
感想指摘評価は自由にどうぞ。
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