その瞳に映る未来を   作:キイカ

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お金稼ぎは大切

 

 

 

 怪物祭(モンスターフィリア)から二日後。相も変わらず朝から騒がしいロキ・ファミリアメンバーは、和気藹々と朝食を取っていた。

 団員たちはほとんど揃っており、後から来たトーヤには分からないが、アイズとティオナとベートが正座して怒られているのが見えた。

 くどくどとガレスに叱られており、ベートは尻尾、ティオナが肘で喧嘩しているのも分かった。

 時折拳骨が落ちているが、それでも止まらない。もはや痴話喧嘩にも見える低レベルな争いである。

 朝食の場の話の種になること間違いなしであった。

 

「朝っぱらからなにやってんだかなぁ、あの二人は」

 

「いつも通りっすね。むしろアイズさんが可愛そうっす」

 

 説教の現場を横目に朝ご飯を食べているトーヤ。綺麗に盛り付けられたらサラダを口に放り込む。

 隣にはラウルとリンもおり、【デメテル・ファミリア】から送られてきた食材を使った料理を食べていた。

 ラウルが言うとおりアイズは関係ないように──雰囲気からして巻き込まれたのだろう──見え、確かに災難だったなと心の中で合掌した。

 遠征明けで各自しばらくは休養のような期間であり、することがないトーヤはなにをしようか考えていた。

 

「今日はなにすっかなー」

 

「遠征明けは自由すぎて堕落しかねないっす」

 

「分かります」

 

 ぼんやりと口から漏れた言葉に、この後の予定を考えているらしいラウルが苦笑いを浮かべて反応する。

 リンも同じように思ったらしく言葉は少ないが同意した。

 湯気が立つスープを喉に流し込みながら、頭の中で予定を組み立てる。

 

(たまには一人でダンジョンに行くか? この前のこともあるし、毎回誰かを頼るのも良くないしな。それか、適当に散歩するってのもいいな。まだよく知らない地区もあるだろう。なにか発見があるかもしれん)

 

 二つの案に絞り、どっちにするか悩んでいた。

 すると、いつの間にか説教を終えたらしいガレスが現れた。

 手に持った料理を食べながら話しかけてくる。

 

「トーヤよ。暇なら飲みに行かんか?酒が飲みたいんだが、フィンが忙しそうでな。他の者ではすぐ酔いつぶれてしまうし、どうだ」

 

「あぁ~、断らせてくださいな。明日を二日酔いに回すのはちょっと……」

 

 酒にはわりと強い方ではあるが、ガレスと飲むと確実に次の日二日酔いで酷いことになるのが常だったからだ。

 なにより金が吹き飛ぶ。とんでも無い量を飲むガレスに合わせていたら、財布が軽くなって風で飛んでしまうかもしれない。

 まだ貯蓄はあるが、無駄遣いはしたくないのでやんわりと拒否を示した。

 残念そう表情を浮かべたガレスは、また今度なと言って気付かぬ内に食べきっていたらしく、どこかへ行ってしまった。

 

「食べるの早くねぇか?」

 

「もうある程度食べてたんじゃないっすか」

 

「かもしれません」

 

 まだ残っている自分たちの朝食を眺めてから、首を傾げた三人だった。

 一方説教から解放され、朝食も取ったティオナたちは、ダンジョン探索──借金返済のための金稼ぎ──をするためにフィンの私室兼執務室に来ていた。

 

「少しダンジョンに潜ろうかなと思ってるみたいなんですが、団長もどうですか?」

 

 部屋にはフィンはもちろんリヴェリアもいた。

 これからのお願いをティオナが話そうとしたところを、頭を掴んで止めてティオネが伝える。

 じたばたしている妹には目もくれず、なぜか輝いている瞳を惜しげもなくぶつけている彼女に、乾いた笑みを浮かべたフィン。

 だが、少し考えてから今度は悪戯を思いついたような子供っぽい笑顔を浮かべた。

 

「そうだね。たまにはいいかもしれない。僕も一緒に行こう。リヴェリアもどうだい?」

 

「そうだな。私も行くとしよう」

 

「やった!」

 

「ただ──」

 

 無事了承を得られたことに歓喜しているティオネだが、その後に続いた言葉で思わず変な顔をしてしまった。

 

「──トーヤも連れてこう」

 

『えっ?』

 

 フィンの言葉に素っ頓狂な声をあげたのは、ティオネだけでなくティオナもだった。

 姉妹揃って声を合わせたことに周りは笑っているが、ティオネはともかくティオナはわけが分からなくなっていた。

 

(えっ、ちょなんでトーヤが出てきたの?今回は誘う気なかったんだけど!?)

 

 動揺が見て取れる彼女の慌てっぷりにティオネは落ち着き、ようやくフィンの意図に気付いた。

 

(さすがですね!)

 

(僕としても焦れったいからね。ティオナと彼は)

 

 口のみを動かして言葉を交わし、互いに楽しそうな笑顔を浮かべた。

 リヴェリアやレフィーヤも気付いたらしく、前者は特に変わった様子はなく──実は内心手助けしようか悩んでいた──、後者はバレないようにガッツポーズしていた。

 唯一アイズのみが取り残されているが、周りに合わせて笑っておくことにした。

 

「それじゃあ彼に話を通してくるよ。まあ、最悪引きずってくるから」

 

「さすがに酷くない!?」

 

 椅子から立ち上がり、完全に巻き込まれたトーヤへ物騒なことを言いながら部屋から出て行った。

 反応が遅れたティオナが空回りして、周りに爆笑されたのは部屋から出たフィンにも届いていた。

 

 

 

「ということなんだが」

 

「いやいや、強引過ぎやしませんか?」

 

 事の始終を説明し、拒否権はないよと暗に脅しをかける。

 一応ダンジョンに行こうとは思っていたトーヤも、良い返事はしたが、なぜか引きずっていくところまで伝えられ、青ざめていた。

 とても良い笑顔をしていたフィンだが、唐突に顔色を悪くする。

 その差に驚いて、心配の声をかけようと口を開く前にフィンがそれを遮った。

 

「なにより、もう一人男がいてくれると()()()に助かる」

 

「あっはい。察しました」

 

 強調された部分で全てを察したトーヤは、胃薬を準備しとこうと内心思った。

 哀れみの目を向けてくる彼を、見事に騙し抜いたフィン。

 心の中で楽しそうな笑顔を浮かべているが、最後に言ったことはあながち間違いでもなかった。

 猛烈にアタックしてくるアマゾネス姉は、基本的に止められない。

 だから嵐が過ぎ去った後の休憩所とし彼を選んだのだ。

 他にも適切な人物はいるにはいるが、ティオナのこともあり彼を選んだのだ。

 

「それじゃ準備が出来たら正午にバベルに行ってくれ。そこで他のメンバーと合流だ」

 

「分かりました。それじゃ」

 

 集合場所を聞いてトーヤは部屋に向かっていった。フィンもしばらく後ろ姿を見ていたが、自身も準備のために部屋に戻った。

 

 

 

 

「んー、とりあえずいつも通り杖と小太刀。それと胃薬に……やべ。精神力回復薬(マジック・ポーション)がねぇや。アミッドのところで買ってこないとな」

 

 部屋についたトーヤは、必要な荷物を小型のバックに入れながら足りてないものを確認していた。

 とりあえず回復薬が足りていなかったので、【ディアンケヒト・ファミリア】へ向かうことにした。

 部屋を出て、廊下を歩いているとミスカとリンに会った。

 

「あ、トーヤさん。ダンジョンですか?今日はついて行かなくても?」

 

「あぁ。今回は団長たちと潜ってくる。だから二人でゆっくりしてくれ」

 

 彼の格好で大体察したミスカが同行するか聞くが、今回の彼は趣味で行くのではないため、労いつつ断った。

 しかし、彼と一緒に向かうメンバーを聞いて興味を持ったようで、食い気味に彼女がついていきたいとねだった。

 

「俺に聞かれてもなぁ。それに、リンはどうする?」

 

「ついて行きますよ。ミスカとトーヤさんがいるならなおさらです」

 

 答えに窮したトーヤがリンに話を逸らしたが、見事な連携プレーで退路を断たれてしまった。

 団長たちが納得してくれるかなと悩みつつ、二人に準備してこいと伝えた。

 しばらく待ってから二人も装備を整えて現れる。

 まずは彼の目的地に着いてきてもらうことにした。

 

 

 

 

「アミッド~、精神力回復薬と、高等回復薬(ハイ・ポーション)を十個ずつくれ」

 

「かしこまりました」

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院につき、受付をしていた白銀の長髪が美しい少女、アミッド・テアサナーレに注文する。

 やや低めの身長のため、高いところに置いてある箱を取るのに上り台がないと届かないようだ──あってもギリギリに見えるが──。

 

「そんな微笑ましそうな目で見ないでください。ティオナさんたちと同じようなことしてます」

 

「それは悪かった。まあ、大変そうだなぁってな」

 

 ようやく取れた箱をカウンターに置きつつ、ジト目で彼を見つめる。

 それを気にした様子もなく受け流し、代金を払う。後ろに控えている後輩二人は、自分たちより年上だがほぼ同じ身長の彼女に労いの言葉を心の中でかけていた。

 なんとなく感じる温かい視線を微妙な顔で受け取る彼女は、後ろの二人から来ていることに気付き溜息をついた。

 

「そういえば。先ほどティオナさんたちも来ましたが、ダンジョンに行くのでしょうか?」

 

 払われた金額を確認し、品物を渡したところで思い出したように質問してくるアミッド。

 先の言葉から自分たちより早くここに来ていたことは分かっていた彼は、その通りだと頷いてみせた。

 

「そうですか。無事に帰ってきてくれることを願いますよ」

 

「おう。ありがとな、アミッド」

 

 柔和な笑顔を浮かべ、形容するなら慈母のようで、とても優しい顔で送り出してくれた。

 こちらも同じく笑顔で挨拶を返し、院を出る。

 トーヤの必要なものは揃い、ミスカとリンもほぼ同じものだったため道具は揃った。

 

「それじゃバベルに向かうとするか」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

 他に補充するものはないので、些か早いが集合場所であるバベルに三人は向かった。

 到着してみると、先にいたのはフィンとティオネを除いた四人。

 現れたトーヤと、後ろからついて来たミスカたちに怪訝な顔をしているリヴェリア。

 

「トーヤ、なぜミスカとリンがいる?呼んだ覚えはないぞ」

 

「リヴェリア様、私たちがトーヤさんにお願いして着いてきたんです。トーヤさんは悪くありません」

 

 やや厳しい口調で問い質すリヴェリアを、ミスカが間に入って理由を説明する。

 口を開きかけていたトーヤは、半目でこちらを見てきた彼女に、苦い顔をして頷いた。

 無言のリンも小さく顔を縦に振っている。

 それらを全て見た上で彼女は眉間を抑えて息を吐いた。

 

「まったく。フィンは気にしないと言うだろうが、多少なり負担は増えるんだ。気をつけろよ?」

 

「はい!リヴェリア様!」

 

 トーヤがしていた顔を今度は彼女が浮かべる。

 許可をもらえたミスカは嬉しそうに声を張り上げ、リンもほっと一息ついていた。

 その様子をアイズたちも見ており、楽しそうに会話に花を咲かせていた。

 

「賑やかになったね」

 

「ですね!ちょっとしたパーティーみたいです!」

 

「珍しいメンバーでもあるねー」

 

 変わらない声色だが、少し楽しそうな雰囲気を感じアイズの言葉に、レフィーヤが興奮した様子で反応する。彼女の場合はアイズといれることが嬉しいから、気分が弾んでいる。

 ティオナは遠征でも見ないような面子に不思議そうな顔をしていた。

 トーヤがいることを知覚しているが、平常通りを心掛けているため、外見では特になにもなさそうに見える。

 

(う~、まだ祭りの日のが抜けてない~)

 

 中身は今だに思い出で真っ赤だったりする。

 内と外で差が激しい状況だが、こうしてみんなで──トーヤ以外も含め──気楽にダンジョンに潜れるのは、とても楽しみだった。

 借金返済の資金集めに何人か巻き込んだだけで、こうも人数が増えるとは思っていなかったわけだが、結果的に楽しくなりそうなら問題ないと思う辺り、彼女は楽観的だ。

 

「そういや、潜るのはいいがなにが目的なんだ? 団長は、とりあえず来てくれ、としか言ってなかったんだが」

 

 なんだか気分が乗ってきたティオナに、リヴェリアたちから離れたトーヤが話しかけた。

 同行許可をもらったミスカはリヴェリアと話しており──リンは二人の話を側で聞いて相槌を打っている──、手持ち無沙汰になった彼はこちらに来たようだ。

 アイズとレフィーヤが相変わらず話している中、いま表情の乏しい金髪少女はさておき、興奮気味のエルフ少女は寄ってきたトーヤを見てにこりと笑みを浮かべた。

 

(よし、ここはまた二人きりにして──)

 

「主に武器のお金を稼ぎに。私とティオナがちょっと、ね」

 

(アイズさぁぁぁぁぁんっ!?)

 

 いらぬ策略を仕掛けようとした彼女は、すっと会話に入っていった天然少女に心の中で絶叫した。

 止める間もなかったため、レフィーヤは諦めてとりあえず会話を聞き入ることにした。

 

「金か。そういやティオナもとんでもない額になってたんだっけか」

 

「そうなんだよねー。ちゃんと払わないとうちに来るなって言われちゃったし」

 

「ちゃんと払わないのが悪い、と思う」

 

 三人とも普通に会話しているが、ティオナがほぼ普通に会話しているのに驚いてしまった。

 そんな彼女は、ティオナが本当は努めて平常心を保っていることなど気付くことはなかった。

 少し呆然としていた彼女も、一人で立ち尽くしているのは寂しくなったため、会話の話に突撃していった。

 そうこうしていると、まだ来ていなかったフィンとティオネが現れた。

 

「おや、僕達が最後みたいだね。それと……ミスカとリンがいるのは、トーヤが連れてきたのかな? 」

 

 視界に収まった人数から二人多いことを確認し、すぐに誰が増えたか気付いたフィンは、ほぼ間違いないだろうという確信を持ってトーヤに問いかけた。

 もちろん間違っていないため彼も首を縦に振る。

 

「ふむ。まあ、人数が増えても問題はないだろう。ただ、人目が集まってきているからもう出発するとしようか」

 

 特にお咎めはなく、にこやかな表情でダンジョンの入り口へ先頭に立って歩いていく。

 各々返事をしつつその後を追いかける。

 大体二人組で話しながら歩いているが、九人いる以上一人余る、もしくは三人組が出来るのだが、

 

「ミスカぁ~、またアイズさんがぁ~」

 

「アイズさんは天然ですから諦めよう。とりあえず今は二人に出来てるから問題無いし」

 

 嘆きながら同胞(ミスカ)に抱きついているレフィーヤ。

 暑苦しいと体を剥がそうとするミスカに、彼女は頑なに離れることを拒んだ。

 抱きついている反対側では、特に気にした様子もなくリンが歩いている。

 

「そうだけどさぁ~。もー、アイズさんの天然っぷりには手を焼かされますよ」

 

「そこが可愛いとかなんとか言ってなかったっけ?ん?」

 

 ようやくひっつき虫(レフィーヤ)を引き剥がしたミスカは、暑そうに手で扇ぎ、彼女の言葉に半目で返す。

 思いもよらぬ所から不意打ちを食らったレフィーヤは、うぐっ、と変な呻き声をあげ黙り込んでしまう。

 その顔が赤いことに気付いているミスカは、意地が悪そうな笑顔を浮かべているが、しばらく話しかけてこなそうな雰囲気を感じ取ったので、無言のリンに視線を向けた。

 

「やれやれ。レフィーヤの苦労は分かるけど、そのたびに私に泣きつくのはやめてほしいわ」

 

「好かれてる証拠だから諦めなよ。まんざらでもないんでしょ?本当は」

 

 なにかをぼそぼそと呟いているレフィーヤを一瞥し、疲れたように手を振った彼女に、エールとも取れない微妙な返答をする。

 彼女の本心が実は嬉しいと思っていることを知っている彼は、流すように事実を告げた。

 さっきはレフィーヤに変な声を出させたが、今度は出す番になってしまったミスカ。

 隣の少女に負けず劣らず顔が赤くなっている彼女を、嘆息しながらリンは横目で見やる。

 

(可愛らしいな、本当に)

 

 口には出来ない本音を内で漏らし、視線を前に向ける。

 その先には真面目な顔をしたトーヤと、それを同じ様な顔で聞いているティオナの姿があった。

 二人は先日の祭りの時に視た未来について話していた。

 

「あれを視てからダンジョンに行ったが、視たような光景には遭わなかった。今日も出来ればなにもないことを願うんだが……」

 

 困ったように眉をひそめて言った彼は、なんとなくだが無事にならないような気がしていた。

 それはスキルを使ったからではなく、冒険者としての勘がそう告げていた。

 ティオナも不安そうな顔をしてしまうが、はっとすると勢いよく頭を振り、笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫だよ!そんな未来変えちゃえばいいんだから!敵なら私がぶっ飛ばしちゃうからね!」

 

「はは。こりゃ力強いな。詠唱の時間を稼いでくれるどころか、そのままお荷物にさせられちまいそうだ」

 

 ふんすっ、と鼻息荒く左手を握る彼女に、肩の力が抜けたように笑顔を浮かべ、そのまま茶化しもいれることが出来た。

 不安そうな彼の雰囲気を吹き飛ばすことに成功し、ティオナは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 お互い良い笑顔を浮かべており、端から見ればデキてるようにも見える。

 が、出来てないから焦れったい。

 後ろを歩くリンは、まだまだ進みそうにない二人の関係に溜息をついて空を見上げた。

 眩しい太陽がこちらを見返しており、憎たらしいほどに光を降らせてくる。

 どうせならその光で二人の仲をもっと暖めてくれよと思うのだった。




 今話から二巻に入ります。
 流れは原作の小説に合わせていく予定です。

 ところで昨日(今日の深夜?)にアニメのソードオラトリアやってましたね。
 アイズやレフィーヤも好きなんですが、やっぱりティオナが可愛い。
 次回が楽しみです。
 それではまた次話で。
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